相棒サイトの1万HIT祝い用。またお祝いらしからぬもので・・・。
しかもかなり遅くなってしまいました。・・・ごめん、相棒。
さらに・・・私の中ではサリマンはハウルと同じ時代のウェールズ人ではないというのが・・・。
あの悲しい事件が起きた後に相棒と話していて考えたお話です。
あくまで、妄想ですから・・・ね・・・?
ハウルとサリマン話です。
ルーツ
「しばらく来ない間に・・・随分きな臭いことに・・・」
よれよれのTシャツにジーンズ。
金色の髪はここでは珍しくもなく、こうまで『普通』な若者であれば彼が不思議な力を宿しているとは、誰も考えないだろう。
憂い顔の碧眼が悲しそうに揺れて、美しい顔に映える。
「知り合いは巻き込まれてなかったのか?」
一方、スーツをかちっと着こなす赤髪の大男は、どこかしっくりこない古風な出で立ちであったのだが、伝統が息づくこの国では、同じくたいして気に留めるものはいなかった。
眉間に皺を寄せて駅の構内を見やり、横に並んだ。
どこかちぐはぐなこの男2人は、かなり目立ってはいたのだが。
今はそれどころではないのだ。
この国は。
「幸いにもね。あんたは・・・って、あんたの知り合いは今の時代にはもう生存してる人・・・少ないか。」
知ってか知らずか。
ハウルの呟きにサリマンは一瞬目を見開く。
そんなサリマンを振り仰いで、ハウルは珍しく申し訳なさそうに瞳を曇らせる。
「あんたぼくが心配でついてきたんだろう?なんだか悪いね。」
離れていても、こちら側で何が起きたかすぐにわかる。
悲しいことに、こちら側からはみ出して・・・そして拒絶されたぼくら。
「どこに行っても、結局戦いだらけってこと・・・か。」
駅の近くで人が遠巻きに警察官や消防隊を眺めている。
受け入れられざる者の断末魔が漂い、どうしようもない憎しみの連鎖がここでも始まるのをハウルは感じてニュースペーパーを握った。
「ベンジャミン、あんたがここに居た頃は・・・もっとましだった?」
国全体が暗く重く、言いようのない悲しみと静かな怒りに包まれている。
見えない敵を恐れ、憎み、嫌悪する空気。
そう、弾かれる前のぼくらが感じていたあのコンプレックスに似たマイナスの感情。
サリマンは諦めたような顔で苦笑すると、ハウルの質問に答える。
「・・・もっと酷かったよ。表に出ないだけで・・・もっと醜い争いが続いていた。紛争という名の悲しい時代だ。」
「なんで、自分と異質な者を・・・判ろうとしないのだろう?同じ人間、同じ時代を生きている者同士なのに。」
上だけが吹き飛ばされた鉄の塊にも嗚咽が込み上げる。
「この一人一人に家族がいて、傷付いたり失ったりしたら悲しむ者がいるとは考えられないのかな?やった者を追い込んだのは・・・紛れもないこの社会だろうし。」
思わず子供ような思いに捕らわれ、呟いてしまう。
周囲にいた警察官がいぶかしむ様に視線を向ける。
自分たちと同じ意見でなければ・・・受け入れないというわけだ。
今のこの状況で、混乱したこの状況で。
それは警報のように頭の中で鳴り響く。
ハウルは不敵に瞳を細め、にじり寄る警察官に挑みかかるかのような表情になる。
「ハウエル!やめろ。刺激するな。打たれるぞ。」
サリマンがハウルの腕を引っ張り、警察官とハウルの間に壁のように立ち、互いの不信感を遮断する。
「どうしようもない事態に飲み込まれるな。私たちはそんなことの為に出向いてきたわけじゃないだろう?私たちはインガリーの人間だ。そうだろう?向こうで待つ愛しい人を忘れちゃ居ないか?」
サリマンとて、この重苦しい空気や悲しみに包まれ、だれかれとなく憎しみの対象を探す人心に辟易していたが、それ以上に古傷をえぐられるような感覚に眩暈がしていた。
それでも、ここに来てしまったハウルの気持ちも痛いほどわかる。
インガリーが帰るべき場所だと言い聞かせても、私たちはこちら側の人間なんだ。
居場所がなくても。
「ぼくらの故郷は無事だけど・・・。」
サリマンの背後で、ハウルは酷く落ち込んだ声で呟いた。
「ぼくらが同じようなことを・・・逃げ込んだインガリーでしてることに間違いはないんだよね。」
「ハウル?」
「願わくば・・・」
「?」
「憎しみの連鎖を断ち切る魔法を・・・手に入れたいよ」
くぐもった声が背後から聞こえる。
警察官は近づき、サリマンの背後を覗いて急に瞳から剣呑さが消える。
傷付いたうさぎのように、ふるふると震える姿に胸が痛んだのだろう。
何事もなかったように戻る姿を見送り、ぽんとハウルの肩を叩く。
「さあ、もういいだろう・・・。私たちはここに長居しないほうがいい。」
「・・・そうだね。」
ハウルは何事か呟くと、人々が呼び出した周囲を取り囲んでいるどす黒い陰に向かって、光りの矢を放つ。
何本も何本も。
「闇の精霊にはとりあえずお帰りいただくよ。これ以上、悲しみと怒りに憑りつかれる人間がでないように。」
まるで霧のように2人は消える。
恨んでなんかいない。
ぼくらを受け入れなかった世界。
それでも、ぼくらのルーツは・・・憎しみと悲しみに溢れた・・・ここにあるんだ。
end
対になっいているのが「隠し味は?」です。傷付いた旦那たちを待っているのは、愛しい妻の笑顔と温かで美味しい食事・・・であってほしい。