トビラのムコウ ― 魔女の呪い・ハウルsaid ―
挿絵・・・海が好きさん
ガレージの中。愛車の後部座席に無理矢理体をねじ込み、ハウルは本を手にする。
手にしたものの・・・目からの情報は遮断され、想いは・・・
「また、どこかに行くの?」
僕の背中越しに、ソフィーが尋ねる。
そんな、そんな可愛い声で・・・寂しそうな声で・・・僕を引き止めないで。
この数日、あんたを抱き締められないことがどれほどツライか、ソフィー、あんたにはわからないだろう?
ようやく取り戻した心臓が、悲鳴を上げてる。
忘却は罪。
僕達はまだ結婚したばかりなのに。
君に触れることもキスすることも、できやしない。
あんたのことだもの。パニックして、何を思い込んでまじないにするか、わかったもんじゃない。
呪いは、思い。
強く念じる思いが呪いにかわる。
シンプルな構図。
荒れ地の魔女が仕掛けた呪いはそれに何重もの呪いがかけられていたけど、ほとんどは発動されなかった。
今、ソフィーにかかっている呪いは、・・・一番わかりやすいもの。
大切な人を・・・その人への想いを封じ込める呪い。
記憶は「奪われた」のでなく・・・実は奥深くに封印されてるだけ。
その呪いを解く1つの方法。
解<こたえ>を導きだしてしまった自分を憎らしくなる。
無理矢理想いを取り戻そうとすれば、ソフィーに跳ね返る呪いは強くなる。今日のソフィーのように。
だけど
身体の奥深くに残る、眠る、鍵。
身体に刻みこまれたもの。
身体が覚えていること・・・
でも、それは最終手段。
ソフィーが記憶を封じ込められ、目覚めたあの日。すでに解はでていたんだ。
―カルシファーも気が付いたみたいだけど―
その答えを・・・理由にしてしまいそうで、僕はこうして、車の中で夜を明かす。
昼間ですら、自分をコントロールするのがキツクなってきてるのに。
・・・少しづつ、またこうして積み上げていくのもいいさ。
たとえ、僕への想いを封じ込められても。
結局、あんたは僕を好きになる。
新しく芽生える気持ちまでは、呪いで縛れないだろう?
これが二つ目の解。君になるべくツライ想いをさせずにすむ方法だ。
もう一度僕を選んでくれる?ねえ、ソフィー?
「すっごく切ないのは、僕だけ」
自嘲的。
まあ、僕だけでもないかもね。去りぎわのソフイーの声は・・・。
恋は切ないものって、今更ながらにわかったよ。
「・・・ ハウル、ハウル!」
愛しい人が名を呼ぶ。空耳まで聞こえるなんて、かなり重傷。
――あたしハウルを想い出したい!
・・・流れ込む気持ち?
空耳なんかじゃない!ソフイーが僕を呼んでいる。
また、魔女の呪いとたたかってるんだ!無茶するなって言ったのに。
ぼくは慌てて車から転がりでた。
まったく、僕の心臓をゆっくりさせてくれない!
結局、あんたが僕の心臓を握ってるんだ。
8へ続く