I miss you ― 6 ―
ソフィーはバケツに水をはり、デッキブラシを片手に腕まくりをする。
「なんだよ、どうしちゃったんだよ?」
カルシファーは、ソフィーの周りをふわふわと飛びながら・・・・どこか疑わしげな目で尋ねる。
ソフィーは床をごしごしと擦りながら、カルシファーに困ったような笑顔を向ける。
「・・・・・・。ハウルが・・・・」
ソフィーは頬を紅く染め、床を磨く手を止める。
「ハウルがなんだよ?」
カルシファーはますます不思議そうに、ソフィーを見つめる。
「ハウルが・・・・『見ためは大事』って言っていたでしょう?」
ソフィーは、再びブラシで床を擦りながら答える。
「この城、見た目は恐ろしいけど・・・それはそう思わせるためでしょう?」
「まあね、ハウルがそうしたがったからな」
「でも、この城の中は・・・・みんな快適に生活して・・・幸せを感じる場所にしたいじゃない?」
後姿からも・・・・火の悪魔でさえも、ソフィーが嬉しそうに掃除しているのを感じる。
「そのためには・・・やっぱり、ハウルの言う通り・・・見た目も大事だと思ったの」
カルシファーは、やれやれとと呟くと鏡の前に飛んで行き、そこからソフィーの様子を眺める。
ソフィーはまるで掃除することが・・・みんなの為に掃除することが幸せで仕方ない様子だ。
「あんた今にやけてるだろ?」
「えっ?」
一生懸命、床を磨いていたソフィーはカルシファーを見つめる。
「いや、こっちの話。さあ、続けてくれよ」
カルシファーは慌てて暖炉に戻ると、薪を抱え込み勢いよく炎を上げた。
ソフィーは床を磨き終えると、作業台の上を片付け、棚の上を拭いたりする。
ハウルやマイケルが使う魔法の薬の入った妖しげな瓶や、不思議な箱を慎重に片付ける。
なるべく判り易いように。使いやすいように。
「また勝手に触ったって言われちゃうかしら。」
カルシファーに尋ねると、ちらりと鏡を見て「大丈夫だろ」と目を瞑る。
ソフィーは立ち上がると新しい布を手にして、その鏡を拭く。
「・・・・・さあ、あんたはとびきり綺麗にしてあげるわ!あんたは、あたしの・・・大好きな人を上機嫌にしてくれるのよ。
これ以上魅力的になっても困っちゃうんだけど・・・・」
話しかけながら、心をこめて拭く。
「ハウルは美しい自分が好きだから・・・・どうか、とびきり素敵に映してあげてちょうだいね?」
ソフィーはそう言うと、ちゅっと鏡に口付ける。
「よろしくね?」
ソフィーは、それはそれは可愛らしい笑顔を鏡に向けた。
「・・・・・!!!!!」
王宮の、王室付き魔法使いに宛がわれた一室で・・・・ハウルは顔を真っ赤にして俯いた。
「うあぁ・・・・、ソフィーこれって反則・・・・・」
口元を手で覆い・・・・・・小さな鏡を見つめる。
その鏡には・・・・・・・・・・・・・・・・真っ赤になって鏡を拭く愛しい人。
その向こうには、呆れたように鏡を・・・・鏡の向こうのハウルを見る火の悪魔。
『ソフィー・・・・、もうそのくらいにしとけよ!バカが喜んじまうから!!』
心臓が口から飛び出してきそうな勢いで、激しく打ちつける。
ああ、もう、なんで、こんなにカワイイんだっ!!
僕の前では、あんなに憎まれ口なのに!
まあ、そんなソフィーも大好きなんだけどさ
ハウルがデレデレと鏡の中のソフィーを見つめていると、とんとん、と誰かに肩を叩かれる。
「ハウル、何してるんだ?」
声の主は・・・・
「!!!!!サ・サリマン!いや、何でもない」
ハウルは慌てて鏡を伏せると、くるりと振り返り同僚を見上げる。
鏡の魔法をこの頭の固い同僚に知られたら・・・・・・大変な事になる。
きっと、ソフィーにも知られてしまう!それは、まずい!
怪訝そうな顔でハウルを見下ろす、年上の魔法使いは溜め息をつく。
「また、ソフィー嬢のことでも考えていたのか?・・・・王がお呼びだ。きっと2、3日帰れなくなるぞ?」
「えぇーっ!!そりゃないよ!何てことだ!」
今すぐ城に飛んで帰って、愛しいソフィーにキスしたいのに!
ハウルが城に戻れたのは・・・・・ソフィーがベットカバーを仕上げた2日後の話。
そこから先は・・・・また別の話。
end・・・?
挿絵・・・ハイネさん