I miss you ― 4 ―
「うん、今日も素敵だよ?よろしく頼むよ!」
ソフィーとマイケルが荒れ地の花畑から花を摘んで帰ると、ハウルが満足そうに鏡に映る自分に話しかけている。
「あきれたやつだ!」
カルシファーがパチパチと乾いた音をたてて、ハウルに毒づく。
「カルシファー、余計なこと言わないでよ」
「あんたって、本当に見てくればかり気をつかうのね!」
ソフィーも呆れたように両手を腰に置き、溜め息をつく。
「見た目は大事さ。第一印象が悪いと、そこで交渉はつまずいてしまうからね!」
「あんたは、まだそんなことばっかり言ってるのね!」
カルシファーもマイケルも『なんの交渉だよ!』と内心突っ込みたくなるが、すでにソフィーが臨戦態勢に入っているので、
あえて口には出さずに飲み込む。
「おやおや、ソフィー?あんたまた早とちりをしてる!」
ハウルは大げさに驚いて、ソフィーの前にずいっと進み出る。
「ソフィー・ハッター嬢、僕がご婦人に声を掛けて回るとでも言うつもりかい?」
「まあ、ハウエル・ジェンキンス!あなたが見た目を気にする得意の交渉術を他に応用しているとでも?」
ソフィーもぐいっと胸を張って睨み返す。
「残念だね、応用しているのさ!王宮にいるとあちこちの国の大使やら商人とだって交渉するよ?」
ハウルはソフィーの鼻先まで顔を近づける。
「まあ、そんな面倒なことには顔を出さないようにしているけどね。」
ハウルから、かすかにりんごの花のかおりがして、ソフィーは慌てて身を引く。
「・・・・それにしても、心外だな。僕はソフィーにプロポーズしたつもりだったんだけど?こんなにあんたを想ってるのに、
あんたは僕を疑うなんて!!」
哀れっぽく声を張り上げるハウルに、ソフィーはフンと鼻をならす。
「あら、店に来る女性客は、みんなあんたに骨抜きにされて帰るのよ!?女性の扱いに慣れていらっしゃるのね!
それに・・・・・」
カルシファーはやれやれと云う顔で薪の下に潜り込み、マイケルも「準備、準備」と呟きながら桶を引き連れて、
花屋に向かう。ほんと、毎回よくやるよ・・・と呆れながら。
「ソフィー!あんたが嫉妬してくれてるのは嬉しいんだけど!」
ハウルはまぶしい笑顔を見せると不意に口付けてソフィーの言葉を封じる。
「もう、王宮にいかなくちゃいけないんだ!じゃあね、ソフィー。」
ばばばっと真っ赤になるソフィーを残してハウルは扉を閉める。
「・・・もう!!」
ソフィーは口元を押さえて、目を閉じる。
これ以上、他のご婦人の前で魅力的にならなくたって、いいじゃない!
素直になれないソフィーの気持ちを城の住人がみんな知っているとは・・・・ソフィーは気がついていない・・・・。
************
「へんね、今日はお客さんがこないわね?」
ソフィーは鉢植えの手入れをしながら、分厚い魔法薬学の本を開いているマイケルに声を掛ける。
「・・・・そうですね」
ハウルさん・・・・<虫除け>の呪いをかけたんだな・・・。
マイケルは苦笑して・・・・ハウルがソフィーに内緒で施している<虫除けの>呪いの隠し場所をちらりと見る。
入り口に2つ。店内に2つ。
案の定、店の窓にはソフィー目当ての常連客が何度も横切っては覗いていく姿が見える。
店の前まで来ると、立ち止まりたいのに足が勝手に動いて店に入れないのだ。
昨日あんなことがあったばかりですからね・・・・。
でも、よほど強く掛けすぎたのだろう。
開店して店に入って来たのはまだ片手で数えるほどで、マイケルが店番をしている時より少ない。
これじゃあ、ソフィーさんにばれちゃいますって!!
マイケルが表情を硬くしているのを不審に思い、ソフィーは立ち上がりマイケルに近づく。
「・・・・大丈夫?あんた顔色が悪いわよ。今日はお客も少ないし、城に戻って寝たほうがいいわ」
ソフィーが心配そうに覗き込むと、マイケルはふるふると頭を振り「大丈夫ですっ!」と元気に立ち上がり腕を回して見せる。
「偶には、こんな日もありますよ!」
マイケルが慌てて言う姿にソフィーは眉をひそめる。
「・・・・・・・・・・・・・、そういえば・・・・昨日の夜・・・・ハウルが店に来ていたわ。」
ソフィーはぐるりと店内を見回す。
「まさか・・・ハウルが?」
マイケルは魔法薬学の本を両手に抱えると、一歩後ずさる。
「マイケル?何か知ってるの?・・・・おかしいわよね?どう考えても!!」
今やソフィーの癇癪が爆発するのは時間の問題だ。これは退散したほうが身のためとばかり、
「やっぱり、城に戻ります!」と踵を返す。
このまま僕がばらしちゃったら、どちらにも怒られる!!
マイケルが駆け出そうとした、その瞬間ハウルが駆け込んで来て、2人の前を横切り店の外に出る。
「!!!!!」
ハウルは店先で何やら呟き、また中に入るとバツが悪そうに
「・・・・じゅ・【準備中】になっていたよ?」
と明らかに強張った笑顔を見せ、また慌てて城へ戻る。
「な・・・・・!?」
あっと言う間の出来事に、ソフィーとマイケルはただ顔を見合わせる。
しばらく、そのまま立ち尽くしていると、おずおずとお客が顔をだす。
「花が欲しいのですが・・・何故か店に入れなくて・・・」
ソフィーは弾かれたように、客に向き直ると「どれになさいますか?」とにこやかに対応する。
でも、マイケルには聞こえた。
「・・・・・・ハウルが何かしていたのね」
そう呟くソフィーの声が。
ハウルさん、僕・・・・知りませんよーっ!
5へ続く