どっちにする?-ジブリsaid-



ある日の出来事。

ハウルの秘密の花園。点在する泉ののほとり、インガリー一の魔法使いとその妻が長閑な時間を過ごしていた。
魔法使いは新妻の膝枕に頭を預け、幸せそうに目を瞑る。
妻の方は・・・正反対で、何とも恥ずかしそうに落ち着かない様子だ。

「ねえ、ハウル・・・?あたし、まだ掃除の途中なんだけど」
妻は膝の上にある夫に優しく話す。
「ソフィー、僕とこうしているのはイヤ?」
夫はおずおずと顔を上げると、妻の顔を覗き込む。
その表情が、切なそうで可愛らしくて、妻は胸が高鳴る。

この人って本当に27歳なんだろうか?

陽だまりの中、妻の心地よい感触を独り占めして、夫はようやくほっとしていた。

こうでもしないと、僕は愛しのソフィーを独占できないんだから。

「・・・だけどね?ハウル。もう1時間もこうしてるわ。マルクルが探しているかもしれないし、おばあちゃんも心配してるかも・・・」
「ソフィー、今は僕のことだけ考えてよ」
妻は、こうして膝枕をして過ごすのをちっとも苦痛に思わなかったが、家族がお腹を空かせる頃だと思うと落ち着かない。
「それに、今日は王子が・・・遊びに来るの。さっきも言ったでしょう?」
それこそが、妻を花園へ連れ出した理由。
まったく聞くつもりのない夫は知らん顔をきめる。
「ハウル?聞こえてるんでしょう?もう・・・どうして王子が来る日は、いつもこうなの?」
妻は、少し声を荒げて夫に尋ねる。
「どうしてだって?じゃあ、どうしてソフィーはそんなに嬉しそうにしてるの!?そんなに王子が来るのが嬉しいの?」
そう思わず口に出してしまったものだから・・・・
「ハウルなんて、もうしらないっ」
妻は思い切り、夫の体を突き飛ばした。
「うあっ!!」
-ばしゃん!!
あまりに水際だったため、夫はそのまま泉に転がり落ちた。
「きゃー!!ハウル!」
妻は慌てて泉を覗き込んだ。







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「ハウル!ハウル!大丈夫?」
・・・揺れる水面に、ぶくぶくと気泡があがる。返事はない。
「やだ、ハウル!!私ったら、どうしよう!?」
ソフィーは立ち上がり、ハウルを助ける為、泉に入ろうと一歩踏み出す。

すると、水面が金色に輝き盛り上がる。
「・・・!?」
ソフィーは口に手をあて突然の出来事に言葉を失う。

輝く水面に美しい・・・女性が立っている。
その女性は鈴を鳴らすような美しい声でソフィーに話しかける。
「どうしましたか?可愛らしい人。-私はこの泉に棲む精霊・・・。何かお困りかしら?」
きらきらと水を滴らせ、艶然と微笑む。
ソフィーはその美しさに見惚れていたが、弾かれるように精霊に告げる。
「あたしの夫が、ハウルがこの泉に落ちてしまったのです。どうか助けてくださいませんか?」
ソフィーは泉の中に入らんばかりの勢いで、精霊に懇願する。
精霊はふわりと微笑み、両手を天秤のように掲げる。
「あなたの落とした夫はどっち?」
「えっ・・・?」

再び水面が揺れ、精霊の周りに・・・・静かに3人のハウルが現れた。
-一人は金髪の・・・もう一人は黒髪の・・・・もう一人は・・・・黒い羽を纏ったハウル。
すべてソフィーの大事な愛しいハウルだ。

「あなたのハウルはどぉれ?」

・・・・・・・・・・・!

ソフィーは口の端をきゅっと結ぶ。
「それとも、あなたはハウル何て、もういらないかしら?だったら、私にいただけるかしら?」
「そんな!!いいえ!!」
「あら、欲張りね。さあ、あなたの愛すべきものはこの中にいる?」

ソフィーはエプロンドレスを握り締め、息を大きく吸い込んでゆっくりと答える。
「全部・・・、全部ハウルです。私の夫です・・・大切な!!お願いします、返してください!!」
ソフィーは精霊の瞳をじっと見つめる。涙がぽろぽろ溢れてくる。
「あなたは、ハウルを愛している?」
「はい、どんなハウルでも・・・かけがえのない・・・たった一人の人だわ・・・!」

ぱあっと辺りが光に包まれ、3人のハウルが精霊の中吸い込まれ・・・・黒髪の・・・先程までソフィーの膝で寝転んでいた
愛しいハウルが浮かび上がる。
「ソフィー・・・・・」
ハウルが青い双眸をゆっくり開き、ソフィーに腕を伸ばす。
「ハウル!!」
ソフィーはそこに泉があることを忘れ、ハウルに向かって駆け出そうとする。
ハウルは優雅に水面を蹴って、ソフィーを抱き上げ空へ上昇する。
「ソフィーありがとう。」
ソフィーの瞳から溢れた涙にキスを落とし、ハウルは微笑む。
「僕もどんなソフィーも、愛しているよ!」







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魔法使いは空中で、妻を抱き寄せキスをする。
この様子を地上から眺めていた、隣の国の王子に不敵な笑みを浮かべて。
「ソフィー、城へ帰ろう?僕たちふたりともびしょ濡れだ!一緒にお風呂に入らなくちゃ」
そう耳元で呟くと妻は耳まで赤く染める。
「ごめんね?ソフィー」
何のことかわからない妻は、夫の悪戯っぽく笑う瞳に?を浮かべていた。
計算高く・ヤキモチ焼きの夫。
隣の国の王子は、とても悔しがった。


-ジブリハウル・・・かなり・・・・・;







end