それが破滅への序章だとしても
寝返りを打って、今まで曲げていた右手を伸ばすと、冷たく硬い・・・大理石のようなものに触れた。
あたしはその冷たさを確かめるように、指を滑らせた。
「くすぐったいよ、ベラ。それとも誘ってるの?」
耳元で甘くくすぐるような声が響く。
瞳を開けてその声の主を(間違えようもないけれど)確かめようと思うんだけど、あまりに心地よいベルベットの声に引き寄せられるように、冷たい肌に擦り寄って頬を押し付けた。
「寝ぼけてるのかな?それともぼくを試してるの?」
きっと、今目を開けたら、その瞳は魅惑的な金色に輝いている。
・・・それとも、深く濃い闇を湛えているのだろうか?
・・・もしかしたら、激しい渇きを感じているかもしれない。そうであって欲しいと思う。
首筋に指先が触れ、あたしはびくっと体を跳ね上がらせる。
呼吸を止めて、エドワードが首筋に唇を寄せるのを感じた。
あと1cm。
きっと試してるんだ。でも、あたしはそれこそを待ち望んでいるんだから。
エドワードは深く息を吸い込んで、あたしの頭を抱いていた右腕に力を(多分ほんの少し)入れて、ぎゅっと抱きしめた。
「――あたしの首に・・・噛み付くのかと思ったのに。」
あたしは言いながらエドワードの首筋に両手を伸ばし、思い切り抱きついて少しの隙間もつくらないように体をくっつけた。
眠たさと愛しさの心地よい誘惑から、なんとか目を開けて・・・そして、がっかりして彼を見つめた。
喉の奥で威嚇するような唸り声をさせて、エドワードは首を振ると、あたしの大好きなあの複雑な表情で「そんなこと、しない」と呟いた。
「わかってる。今は、ね。でも、あたしはあなたといつでも同じでいたいと思っているのよ。眠っているあたしを毎晩抱きしめていて、急に心変わりしてくれたって、あたしはちっとも構わない。」
あたしがあたしの持てる精一杯の力で抱きついたけど、エドワードは難なくあたしの指をほどいて両手を握り締めると、瞳を閉じて溜め息をつき、綺麗に整った唇にあたしの指を押し当てて、静かに呟いた。
「『恋の翼をかりてこの壁を飛び越えてきた。石の壁なんかに恋を閉め出す力はない。
――恋は、やってやれるものならすべてをやろうとするもの。』」
そう言ってゆっくりと開いた瞳に、あたしは呼吸の仕方を忘れてしまい、頭がぼうっとして何も考えられなくなっていく気がした。
あたしはそれが悔しいのか嬉しいのかわからずに、ただ押し当てられたエドワードの唇から漏れる息に痺れるような感覚に捕らわれていく。
「壁を作っているのは、あなたでしょう?」
麻痺していく感覚の中で、それでも悲しみが込み上げ、なんとかそれだけ告げると、エドワードは口端を少しあげて笑い「ぼくは『やってやれるものなら、すべてをやろうとする』さ。」と再び呟いた。
「あたしも同じ気持ちよ。」
目的は違うかもしれないけど。
「石の壁なんて、あたしが打ち壊してやるから。」
息苦しさから逃れるように、あたしはエドワードの頬を両手で挟むと、思い切って唇を重ねた。
『恋は、やってやれるものならすべてをやろうとするもの。』
あたしは絶対にあきらめない・・・。
(「ロミオとジュリエット」より)
2007.1.11
1月だったんですね、ログを探していてびっくりしました・・・
ようやくアップ(苦笑)