時をかける少女
Spend time same as me
真琴が、俺を避けだした。
最初は、気のせいかな、とか、腹でもいてーのかな、とか、そんな風に思ってたけど。
「真琴!」
呼んでも、聞こえないフリをしたり。
「おい、真琴!」
廊下の向こう側からちらっと見えただけで、踵を返したり。
それでも、あんまし時間の残されてねー俺は、真琴を探し回ったりして。
嫌われてんのか?
俺、何かしちまった?
考えながら、
でも。
「わけわかんねー」
中庭の木に寄りかかって校舎を見上げた。
思い当たることがなくて、でも、もともとあいつらに秘密にしてることが多すぎて、真琴が何か気づいてしまったのか?とも思い、焦った。
「そりゃ、ねーだろ・・・?」
あいつ、馬鹿だし
(いい意味だけど)
(馬鹿にいい意味もねーか)
だいたい、誰がこんな作り話みてーなこと信じんだよ?
俺はリストバンドをずらして、カウンターをちらりと見た。
もう、約束した時間は、とうに過ぎている。
あの絵が見たくて、もう少し、もう少しと先延ばしした。
だけど、本当に、あの絵を見たいから?
自問自答。
ホントにそれだけ?
――答えは「NO」
いつの間にか、あいつらと居ることが「当たり前」になって。
毎日3人で馬鹿みたいな「日常」ってやつを。
まるで永遠にここに存在できるような気持ちで。
功介と、真琴と。
体が勝手に動き出すような、わくわくする気持ち。
どうーしようもない、なんてことない会話。
なのに、腹抱えて笑うような日常。
時間の流れとか、生き物の匂いとか、「人」と心を通わすことの喜びとか。
そんなこと、きっとただ「タイムリープ」したから感じられたんじゃなくて。
きっと功介と出会って、真琴に出会って、それで手に入れたんだって、わかってる。
そして。
――真琴が、笑うと嬉しくて。
真琴が怒ると可愛くて。
体全部で「生きてる!」って表現してる真琴が愛しくて。
一緒に居ると時間を忘れた。
触れてみたい、とか、一応、健全な青少年らしく思ったりもしたけど、それを表に出すほど俺も馬鹿じゃない。
真琴が、今の関係を純粋に楽しんでいることは、わかってる。
だから、俺、せめて今を思い切り楽しんでたはずだった。
だけど、真琴は、今、俺を避けてる。
「なんだよ、くっそ!」
こんなイラつく気持ちは久々だ。
しばらく忘れていた感覚。
ここにたどり着くまでは、いつも持ち合わせていた感覚。
「真琴」
木に寄りかかって、俯いた。
もしかして・・・
真琴が避けてるのは、俺の気持ちを知ったから?
でも、どうやって?
・・・アレを真琴が使っていたら?
ポケットに手を突っ込んで、脆くなっているソレを取り出して空にかざした。
理科準備室でようやく見つけたクルミ。
失くしたと気づいてから、内心めちゃくちゃ怖かった。
見つけて、安堵したのも束の間。
チャージできるはずだったこの装置は、すでにその役目を終えていて。
それは誰かが『タイムリープ』の力を手入れたということを意味していた。
「まだ、真琴だって確証は、ない、だろ」
ホントなら、そっちのが重要事項だってーのに。
俺、なんかしたのか?
真琴が避けるようなこと?
「あーっ、もう、なんなんだよっ!!」
頭を掻きむしって、立ち上がった。
一度にいろんなことは考えられねー。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、なんも思いつかなくなる。
こんなのガラじゃねー。
こういう事に、俺は慣れてねーんだよ。
「真琴ーーー!隠れてねーで、俺と勝負しろっ!」
―― Spend time same as me
もう、俺には時間があんま、ねーんだよ・・・。
2007,8,3
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