todoさんからの頂き物です^^




闇夜の果て



珍しくよく晴れ渡り、星の瞬く夜空の一角を、黒い影が音もなくよぎった。
それは3階建ての細長い建物を臨む葉の生い茂った古木に、静かに舞い降りる。

大きなよく光る目をした梟だった。
梟が視線を向けた先に、小さな光がぽつんと灯る。
梟は、僅かに羽毛を逆立てたまま、じっとそれを見つめていた。

月のない夜。
星たちがその輝きを競い合う。
静かな静かな夜は、ゆっくりと更けていく。


* *


ぼくたちの寝室の扉を開くと、煌々と月の光が降り注ぐ窓が、一番最初に目に入った。
つい今しがたまでいたウェールズの月の光。
あの夜とはまるで違う。
その差し込む光を切り取るように、ぼくたちのベッドが置いてある。
そこに掛けられている上掛けは、僅かにふくらんでいる。
ぼくはそっと上掛けを持ち上げ、そのふくらみの隣に身を滑り込ませた。
途端、ソフィーの低い声がした。
「いったいどこへ行ってたの?こんな遅くまで。」
見下ろせばあががねいろに縁取られた白い顔の中の瞳が揺れている。

ああ、あんたに心配をかけるつもりはなかったんだけど。

その額にキスをして、ぼくはできるだけなんでもない口調で言った。
「――ああ、ちょっと、落ちてしまいそうな穴を埋めにね。」

ソフィーはじっとぼくを見つめてから、小さく溜め息をついた。

もしかして、あんたは気付いてるの?
ぼくがあんたより早く目が覚めた日の夜、ぼくがどこに行って、何をしているのかを。
そんなはずはないと思いながら、
でもそう思ってしまうんだ。
あんたが自分からこんなふうにぼくの胸に顔を埋めるのは、決まってこんな夜だから。

ぼくはソフィーを抱きしめてその髪に顔を埋めながら呟く。
「あったかいね。ソフィー。」


梟だったぼくの目が捉えたあの夜のぼくは、空を見上げながら星を見ていなかった。
手には、ペンステモン先生からもらった魔法書。
暗闇の中であがく、十年前のぼく。

臆病なぼくは、『今』が変わってしまうのが怖いから、決して手出しはできないけれど。
本当は、あの時のぼくに言ってやりたい。
あんたのやっていることは間違いじゃない、と。
眠れない夜も、一人で丸くなる冷たいベッドも、
それはたぶん、今こうしてここにいるために必要だったこと。

だからぼくは、悪い夢で早く目覚めた日は必ず、遠い過ぎ去った、でもそのままでそこにある過去に飛ぶ。
またふとした瞬間に落ち込みそうな穴の場所を確かめて、心に刻んで、そしてそれを、手に入れたあかがね色の輝きで埋めるために。

「あんたが冷たすぎるのよ、こんなになるまで何してたんだか。」
そう言ってソフィーがぼくの指に、そっとその指を絡めた。


重く暗い静寂の果てに、ぼくが得たぬくもり。
ぼくはその隣でそっと瞳を閉じる。
今はもう、決して夜は長くはないから。





end





todoさんから素敵文章をいただいて、これは攫わなければ・・・!と交渉^^
ついにいただいてしまいました。

私の捏造にお話をつけてくださったんですようTT嬉しい〜!