河村霜柿の短歌集V(1980年〜1999年)

霜柿作品集T(1969年〜1979年)はこちらです

霜柿作品集U(1980年〜1989年)はこちらです


表示する年代・作品を選んでください。

1990年(平成2年)・「海流」61号

1991年(平成3年)・「海流」62号〜64号

1992年(平成4年)・「海流」64号〜67号

1993年(平成5年)・「海流」67号〜69号

1994年(平成6年)・「海流」69号〜70号



1990年(平成2年)リストトップにもどる


・子浦川の水の流れは緩やかなり巣立ちし君らの平和なるかな
・春風に尾羽なびかせカモメらは巣立ちし君らを並びて送れり
・子浦川の流れ緩やか巣立ちゆく君ら進まんそれぞれの道を
★玄関から庭へ車庫へと移動して手を振る吾子の一日始まる  【「海流」61号:H2/12/20】
★右を見て左を見てと仕草する吾子は保育園の一日話す      【「海流」61号:H2/12/20】
★生徒らの行き交う合間に餌を運ぶ渡り廊下に巣作るハクセキレイ【「海流」61号:H2/12/20】
★親鳥の声を聞きつけ巣穴より大きな口の四つのぞけり       【「海流」61号:H2/12/20】
★懸命にさえずり餌をねだる雛赤い喉の左右に揺れし         【「海流」61号:H2/12/20】
★足指で水底をかくダイサギの細首がのび蛙とりおり         【「海流」61号:H2/12/20】
・荒れ果てし田のまた一枚増えているオオヨシキリの行々子と鳴く
・行々子と鳴くオオヨシキリのにぎやかなり減反の田のアシ原の中
★オオヨシキリの行々子行々子と高なりぬ休耕田のまた一枚増え【「海流」61号:H2/12/20】



1991年(平成3年)リストトップにもどる

★湾岸のニュースに見入る我が家族赤々と燃えるストーブ囲み  【「海流」62号:H3/5/31】
★空爆のシーン鮮やかに流れゆく現地の惨状を知ることもなく  【「海流」62号:H3/5/31】
★平和への暴力を防ぐ暴力は許さるものか戦場は遠く          【「海流」62号:H3/5/31】
★小雪やみ屋根瓦の上メジロ四羽上になり下になりして日溜まりに遊ぶ【「海流」62号:H3/5/31】
★小雪降る庭を訪なうヒヨドリの寒椿の花の蜜を吸いをり     【「海流」62号:H3/5/31】
★水温む川に降り立ちカラス貝をたもにてとらむ吾子は得意げに【「海流」62号:H3/5/31】
★まだ暗くなっていないから散歩にと帰りし我の手を引く吾子は【「海流」62号:H3/5/31】
★燃えさかる松明の中乱舞する奉灯 を担ぎ酔いしれる若者    【「海流」63号:H3/9/30】
・玉汗を額に浮かべ奉灯を担ぐ若者らの掛け声勇まし
★円陣を組んで一気と飲み交わす若者は今故郷に在りて       【「海流」63号:H3/9/30】
・何もかも忘れて火の粉浴びながら奉灯を担ぐ若者の群
・忘れるほど夢中になることあるものか己を見つめる冷たき目なきか

7月27日〜28日 志雄中学校職員研修旅行 出羽三山、最上川下り
★濡れ光る塩俵石の黒々と鼠ヶ関に波高く寄せ            【「海流」63号:H3/9/30】
★明け渡る渚をそぞろ歩みいる浴衣姿の点々とあり         【「海流」63号:H3/9/30】
★壊れ残る砂山に立つウミネコの一声鳴きぬ湯野浜の早朝   【「海流」63号:H3/9/30】
・ウミネコの一声鳴きて飛び立てり消波ブロックに波しぶき飛ぶ
・潮煙る湯野浜の早朝波高し消波ブロックのウミネコら鳴く
・海の幸砂丘メロンを山積みにリヤカーひきゆくおばさんの声
★やわらかな緑広がる庄内の彼方の山の影うっすらと       【「海流」63号:H3/9/30】
★下りゆく最上の岸は青々し薄紅花の合歓木の点在り      【「海流」63号:H3/9/30】
・ホオジロの声聞こえくる最上川抱石の瀬の流れに揺られ

立山バス旅行、 和子、知輝の三人で
★行く手みな濃霧におおわれバスの中膨らみし菓子袋に喜ぶ吾子は【「海流」64号:H4/1/31】
★降り濡つ雨も黄色く染めるほど日光黄菅の凛として咲く【「海流」64号:H4/1/31】
・霧の中岳樺林を縫う如く立山バスの室堂めざし
★曇天を切り裂く如く飛び交わすイワツバメ追う双眼鏡で 【「海流」64号:H4/1/31】

  8月17日〜19日 富士サファリパーク、ディズニーランド、石和温泉の家族旅行
・ミッキーのぬいぐるみに抱かれてにっこりと笑う吾子を写真に撮る
・裸にて飛び回る子ら湯気を立て月明かりの中石和の温浴す
・猛獣のゾーンを巡るバスの中吾子は立ち上がり右左見る
・熱風の吹き荒れし夜も明けくれぬ静まる街の乾ききりし
・ガラス戸を揺るがす台風は砂を巻き木の葉を散らし明け方に去る
・台風去り掃除に人の動き出す熱風すさまじ木々の葉も枯れ
・国体を間近に控え歓迎のサルビアの花も枯れて散りをり
★新聞に吾子のうつりし写真あり田舎の母にすぐ電話する    【「海流」64号:H4/1/31】
・国体の開会式のテレビ見る吾子の姿のうつらないかと
★整然と鼓笛隊の進みゆく吾子のトランペット雨に光りて    【「海流」64号:H4/1/31】
★次男からの小鳥の置物手にとりて鳴かせて楽しむ誕生の日に【「海流」64号:H4/1/31】
★三男の母を呼び寄せひそひそとボクも贈るとお金をせがむ  【「海流」64号:H4/1/31】
・嫁ぐ日の小雨の降りて花嫁の出立つ面の悲しげに見ゆ
・家事すべて切り盛りをせし娘の嫁ぐ父と妹の祝福を受け


1992年(平成4年)リストトップにもどる

★昏睡する義父の枕辺に集まりて一割の望みに無言で祈る 【「海流」64号:H4/1/31】
・晦日の夜倒れし義父の枕辺にみな言葉無く祈りて見守る    
★手や足を動かす義父に呼びかける妻の声も大きくなりぬ   【「海流」65号:H4/5/31】
★呼びかける声に何やら答える義父新しき年を迎えし朝に   【「海流」65号:H4/4/31】
★一人ひとり孫の名前を確認し奇跡を喜ぶ正月の三が日    【「海流」65号:H4/4/31】
・病室に夫婦二人で枕を並べ看病疲れで義母も入院する
・闘病の生活もはや三月になり夕餉を終えて今日も病院へ
★闘病も早や三月となり今日もまた看病に行く妻夕餉を終えて【「海流」65号:H4/4/31】
★仰向けにぶりの頭を丸飲みするアオサギ一羽小寒の朝      【「海流」65号:H4/4/31】
★餌台は賑やかなりし雀らはヒヨドリの隙をうかがっており  【「海流」65号:H4/4/31】
・絢爛なる衣装や光の交錯するスーパー歌舞伎オグリの世界に
・眩いほど朝日あふれる食卓につばくろの影さっと横切る
★義父に続き義母もくも膜下で入院と妻の言葉の重く聞こえる【「海流」66号:H4/10/31】
・発見の遅れしことを悔やむ妻若き医師の謙虚なれという
★六時間のオペの無事に終えし義母安らかなる寝顔にホッとしており【「海流」66号:H4/10/31】
★帰りたき一念なりか義母は夜歩き回りて妻は疲れぬ        【「海流」66号:H4/10/31】
★孫のことしきりに口にする義母は今言動も元に戻りて       【「海流」66号:H4/10/31】
★六キロもやせたと笑顔で言う妻は父母の病の一段落して     【「海流」66号:H4/10/31】
・いつの間に巣立ちしムクドリ軒下は静かになりて糞を洗い流す
・胸を張り尾羽をあげて威嚇するカッコウの声も耳にさわやか
・ほのぼのと明るくなりぬ朝空をカッコウの声心地よく伝わる
・カッコウの声に目覚めて窓開く清き冷気の部屋に流れ来る
★くも膜下もほぼ回復し台所をせわしく動く苦労性の義母     【「海流」66号:H4/10/31】
★記憶には残っていない義母の言動ひどかったよと皆で笑えり【「海流」66号:H4/10/31】
★秋澄む朝欄干に立つアオサギの傍らをそっと車を進める     【「海流」67号:H5/3/20】
★閉ざされしエレベーターの人々の目はみな階の表示を追えり【「海流」67号:H5/3/20】
★それぞれの空間に立つエレベーター扉の開きて人動き出す  【「海流」67号:H5/3/20】
★訪れし病院内は人多し健康の幸をあらためて知る          【「海流」67号:H5/3/20】
★冬枯れの木々を飛び交うシジュウカラ足下の落ち葉ふっくらとして【「海流」67号:H5/3/20】
★行く道に落ち葉積もりし冬枯れの梢をつつくコゲラせわしく【「海流」67号:H5/3/20】


1993年(平成5年)リストトップにもどる

★彩りのあざやかな落ち葉目にやさしコゲラの動きを追いし後に【「海流」67号:H5/3/20】
★引き抜かれ踏みつぶされても道端にオオバコの花茎すくっと伸びぬ【「海流」68号:H5/11/10】
★宝達の雪解けとともに巣立ちゆく君らの未来の川面きらめく【「海流」68号:H5/11/10】
★車庫までを一緒に行こうと身支度を急ぐ末子も一年生になり【「海流」68号:H5/11/10】
★ランドセルカタコトいわせ玄関を駆けだしていき我に手を振る【「海流」68号:H5/11/10】
・生活科で初めて作った草だんごヨモギを摘みに行こうとせがむ
★角家の外灯に浮かぶ桜花塀の上より静かに咲きをり        【「海流」68号:H5/11/10】
★夜桜の豪華に浮かぶ兼六園雑踏の中手を引きて行く         【「海流」68号:H5/11/10】
・照明うけ豪華に浮かぶ桜花兼六園は人に埋もれて
★ウグイスのさえずりをのせ風そよぐ桜花散る下に佇む       【「海流」68号:H5/11/10】
・桜花舞い散る下に聞こえてくるウグイスの声風に乗りて
★ずぶぬれでバケツ片手に帰る子はアメリカザリガニいっぱいとって【「海流」69号:H6/5/5】
★見送るなと言われてもなおのぞく祖母学校へと孫駆けだしていく【「海流」69号:H6/5/5】


1994年(平成6年)リストトップにもどる

 筑波英語研修(2月7日〜3月8日)
・押し黙り大きな荷物傍らに背広姿の人ら集まる
・土浦の駅に降り立つあの人らも研修生か大荷物持ち
・あきらめと不安の混じりし顔並ぶ筑波プリズンへ向かうバス内
★筑波山彼方に見える研修室英語漬けの一日始まる      【「海流」69号:H6/5/5】
・空青く長期研修始まりぬ筑波おろしの風は冷たし
・思いがけぬ大雪になり陽を浴びて粉雪きらめく電車通過後
★風に揺れる松林の中カシラダカ木洩れ日受けて餌をついばみぬ【「海流」69号:H6/5/5】
★それぞれのお国訛りの飛び交いて談話室は今夜も賑わう【「海流」69号:H6/5/5】
・今日もまた変わりはなくとも電話するこれが一日の日課となりぬ
★驚きの多い教育現場話洗濯しながら情報交わす        【「海流」69号:H6/5/5】
・一ヶ月の英語研修も無事終わり明日の帰りの支度を急ぐ
★十台の洗濯機うなる夕暮れ時アイロンがけの手つきあやうし【「海流」69号:H6/5/5】
・早朝より荷物をまとめる音のする長期研修も今日で終わりぬ

★観察舎の壁に大きな穴のありキツツキ類のしわざと聞く  【「海流」70号:H7/3/31】
・一点の岩の如くにうずくまるニホンカモシカを望遠鏡で探す
★残雪のきらめく崖にうずくまるニホンカモシカ岩の如くに【「海流」70号:H7/3/31】
★母と子のニホンカモシカゆっくりと残雪の崖を移動し始める【「海流」70号:H7/3/31】
★イヌワシを求めて二時間空あおぐクマタカの勇姿でよしとしようぞ【「海流」70号:H7/3/31】
★稜線を糸引く如く滑空するクマタカの勇姿尾根に消えゆく【「海流」70号:H7/3/31】
★前ぶれもなく義父逝きし前日に家族はみんな顔を見せれど【「海流」70号:H7/3/31】
★二年余の闘病後逝く今年は満州家族の五十回忌なり      【「海流」70号:H7/3/31】


1995年(平成7年)〜1999年(平成11年)リストトップにもどる







霜柿作品集T(1969年〜1979年)

霜柿作品集U(1980年〜1989年)

霜柿作品
  2000年(平成12年)

河村霜柿の短歌集V