河村霜柿の短歌集U(1980年〜1989年)
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1980年(昭和55年)・「海流」34号〜35号

1981年(昭和56年)・「海流」36号〜38号

1982年(昭和57年)・「海流」39号〜40号

1983年(昭和58年)・「海流」41号〜43号

1984年(昭和59年)・「海流」43号〜46号

1985年(昭和60年)・「海流」47号〜49号

1986年(昭和61年)・「海流」49号〜51号

1987年(昭和62年)・「海流」51号〜54号

1988年(昭和63年)・「海流」55号〜56号

1989年(平成元年)・「海流」57号〜60号


1980年(昭和55年)

★新年に集いて響く合唱の声凛として身の引き締まる             【「海流34号:S55/7/27】
・長月に集いて最早五ヶ月過ぎ新年を迎え夢語り合う
・初練習のあとに鍋物囲みながら話の弾む発表会のこと
★混声の清く響けよ初練習羽咋ハーモニーズの未来をのせて      【「海流34号:S55/7/27】
★音もなく一瞬の間に白くなるフロントガラスの雪ふんわりと        【「海流34号:S55/7/27】
・一瞬に車を白く包みこむ妻を待つ間の雪の静かや
★上に舞い下に舞いつつ粉雪の地も木も屋根も白くそめゆく       【「海流34号:S55/7/27】
・膝にのせ子どもの髪を洗いをり昔のことの思い浮かばむ
・食い初めの御膳を前に笑み浮かべ両手を動かす子を抱きをり
・何思う小さき掌じっと見つめ開いたり閉じたりする吾子は
★救急車の学校近くで止む音に生徒も我も外に目をやる   【「海流35号:S55/12/1】
・今日はもう引き返そうかと我が心二キロ地点のカラス鳴き出す
・ジョギングの我が目に楽し海の色日々の変化を不思議に思う
★雲なびく宝達山の稜線に冷たき鉄塔並ぶ近頃              【「海流35号:S55/12/1】
★生徒らと三千メートル走る我の二周遅れに声援の湧く      【「海流35号:S55/12/1】
★しっかりと七夕セットを抱えながら笹竹ほしいと手を引きゆく子【「海流35号:S55/12/1】
・草刈りで土手に見つけた野苺の赤々としたそっとほおばる
★雨続く夏の涼しや久々に陽の射す木立よりひぐらしの鳴く  【「海流35号:S55/12/1】
★かなかなとひぐらしの鳴く夕暮れを網手に走る吾子に従う  【「海流35号:S55/12/1】
★友だちと遊ぶ我が子の振る舞いに強き弱きの区別おかしや  【「海流35号:S55/12/1】
・登る人下る人々声掛け合う白山登山道今日も賑わう
・話し声も次第に途絶え黙々と登山道行く呼吸乱れる頃
・立ち止まりふき出す汗を拭いたり登山道に吹く風の涼しや
・植物の説明聞きつつ散策するお花畑の色とりどりに
・ガラガラの石の間に密生するイワツメクサの白花可憐に
・上向きにイワギキョウの花の咲く白山の自然守りゆかねば
・御岳の煙も見える頂上のパノラマ楽し御来光待つ間
・五箇山の里を彩る山深し住む人々の秋は短し
・山あいの里を照らす秋の陽の小さき空を足早に行く
・豆を扱く足踏み忙し老婆住む五箇山の里の冬は間近し

1981年(昭和56年)リストトップにもどる

・豪雪の未だに高く残る庭庭木の周り丸く解けをり
・家々の窓は真白く吹きつけられ小暗き路地を駆け行く人あり
・吹雪の中集団下校の生徒らの髪もコートもバリバリと凍る
・天も地も白一色で区別なし路肩で動けぬ自動車凍てつく
・真っ白に吹きつけられた家々はきらめいている朝日を受けて
・雪原をぬける道路に立ち止まる車の多く吹雪すさまじ
(春の声)
★海鳴りの頓に優しくなりにけり足下の砂サクサク響く  【「海流36号:S56/6/15】
・海鳴りの音の優しく聞こゆれば浜辺の稚貝動き出すかな
・日もうらら波静かなる砂浜を桜貝ゆらゆら揺れる
★海鳥の数羽飛び交う砂浜を朝彷徨えば春の声する       【「海流36号:S56/6/15】
・草青みハーモニーズの夢ふくらむ掌のような木の芽も歌わむ
★暖かき小雨窓打つ日も暮れて響く歌声春を呼ぶらむ   【「海流36号:S56/6/15】
★水温み徐々に土塊押し上げる蛙の動きを吾子と見つめる 【「海流36号:S56/6/15】
★雪解けて水田に映る空青し田起こしの人あちこちに見ゆ 【「海流36号:S56/6/15】
★寄せる波返す波に身を任せ自身の動きを忘れし貝殻   【「海流36号:S56/6/15】
★春一番吹き荒れた日の夕暮れに水しぶきあげ黄砂を流す 【「海流36号:S56/6/15】
・トレパンをはきし僧侶は黙々と流雪溝に雪を投げ込む
・声立てず雪かく修行僧の傍らを声高に過ぐ見学者らは
・豪雪に倒れし杉の裂け目光る山肌をぬい永平寺へ向かう
・吹き抜ける風の冷たき回廊を素足で回る僧に聞き入る
・いたずらに腹を立て居る我が性を疎ましと思う一人部屋にいて
・雨上がりの校庭流れる雲の影朝日を遮り素早く駆ける
★陽を遮る雲の影の素早くも校庭流れる雨あがりの朝   【「海流37号:S56/12/15】
★掌をまぁるく照らす蛍見て「電気!電気!」と吾子が叫びし 【「海流37号:S56/12/15】
★久々に蛍の飛び交う様を見てしばし足止め美しと思う  【「海流37号:S56/12/15】
★長年忘却せしものを見つけたような気持ちする蛍見た夜は【「海流37号:S56/12/15】
★点滅する蛍の光に浮かびくる団扇片手に畦行きしあの頃 【「海流37号:S56/12/15】
★突き刺さる鋼の如し子を抱く鬼子母の髪は空に冷たく  【「海流37号:S56/12/15】
★朱衣まとい湖水に佇み子を抱く手の太くして温かみのある【「海流37号:S56/12/15】
・緩やかに蛇行し流れる漢江を雲間より見る旅の始まり
・発つ鳥の如き甍の美しく景福宮の色彩鮮やか
・十三層の石塔大空貫くごと立てる後の岩山木々の少なし
・寝返りをうちし吾子の枕辺で我に似し姿を驚きて見る
・五箇山の里に歌声響きゆく夏の夜の知らず更けゆく
・しとど降る雨音やさし合掌の旅の宿にて君をぞ想わむ
・荒縄も梁も煤けて黒光りする二階に寝ねて雨音を聞く
・「おばけだぞ〜」と子らと戯けてもぐり込む布団の散らばる部屋に陽の射す
・赤トンボ空舞う下にござを敷き我が子のみ追う初運動会
・ワンテンポ遅れ手を振る足を出す園児の遊戯に人々微笑む
・白玉を無心に拾い投げる子の輝く顔をカメラに収める
・他の子の動作気にして走り出す吾子を応援する初運動会
・「風に乗り旅をしたい」と歌響く熱き願い広がる綿帽子コンサート
・一望のすすき野原の白光り絨毯のごと広がり揺れる
・風わたるすすき野原を背景に親子旅行の写真とりたり
・すすき野の秋陽に白く光りたり風わたる時さわさわ揺れる
・一時間話しこみたり夕暮れの街に灯ともる喫茶店の外
・寂しさは愛を求めむか久々に語らいたあと心の傾く
・「ただいま」に「ただいま」と答え走り寄る小さき掌前に出しつつ
・ストアーの音楽に合わせ足を踏み手を振りながら母待つ幼子
★枝々は各々の距離を保ちいて風はさわぎつつ葉を落としゆく 【「海流38号:S57/7/30】
★落葉せし銀杏の枝の網目より白く小さな家一つ見ゆ           【「海流38号:S57/7/30】
★日の暮れた師走の街の人混みに肩触るるとも空間広し         【「海流38号:S57/7/30】
★それぞれの空間を持つうつし身より離れゆきたし魂のごと     【「海流38号:S57/7/30】
★空間を気ままに飛翔する粉雪の一瞬の輝きにして消滅せむか   【「海流38号:S57/7/30】
・様々な顔顔顔の錯綜する雑踏の中に間隙多し
★音もなく雪の結晶崩れゆくこの性消さむ冬の陽受けて          【「海流38号:S57/7/30】


1982年(昭和57年)リストトップにもどる

★思いもかけぬ君の賀状を手にとりて幾度も読み返す新しき年に
★寿ぎの言葉を幾度も読み返す心の中に広がりゆく君           【「海流38号:S57/7/30】
★天地の変わらざるごと比ぶれば我が空間に何を悩みしか
★照りかえる水たまりにて雀らの順に並びて水浴びをする       【「海流39号:S57/11/17】
(1982年6月3日〜5日 大島旅行)
★白波の寄せる黒い砂浜と松の緑が織りなす大島               【「海流39号:S57/11/17】
★霧雨に煙る入り江の波浮港白く小さな舟の連なる             【「海流39号:S57/11/17】

★郭公の声澄み渡る空梅雨の今朝の空も青く広がる             【「海流39号:S57/11/17】
★日に繁く飼育箱をのぞき見る吾子にともらいしカブト虫のつがい【「海流39号:S57/11/17】
・変化なしかと飽かずながむるカブト虫幼き頃と今も変わらず
★朝夕に世話せしつがいのカブト虫卵を残し死んでゆきたり     【「海流39号:S57/11/17】
★様々に果てゆくものの多かれどあとに続かむ命のありぬ       【「海流39号:S57/11/17】

(1982年8月23日〜26日 東北旅行)
★みちのくの雨中を走る夜行バス朝日の洩れる田沢湖に着く     【「海流40号:S58/3/20】
★雨の降る発荷峠に立ちて見る夏の終わりの十和田湖畔を        【「海流40号:S58/3/20】
★深緑の木々に抱かる奥入瀬の渓流を行く夏の終わりに          【「海流40号:S58/3/20】
★朝靄の緩くたなびく米代川橋のたもとに釣りする人あり        【「海流40号:S58/3/20】
・いつ来るかわからぬ恐怖を抱きながら幾度も目覚めぬ旅先の夜

★「行ってらっしゃい」を二人で競い連発する兄、弟の共に泣き出す【「海流40号:S58/3/20】
★保育園で習い覚えし折り紙を幾つも作る子は五歳になり        【「海流40号:S58/3/20】
★「奴だよ」と高くかざして走り寄り帰りし我にあげるという吾子【「海流40号:S58/3/20】


1983年(昭和58年)リストトップにもどる

★得意げに人差し指だし我に言う「ババぬきする者この指とまれ」と
★あどけなき子らは積み木を分け合えり雪降る夜の部屋あかあかと
・雪の中を子犬の如く駆け回る子らの歓声響く日曜
★弟の頼みに応じ雪だるまを懸命に作る兄の手小さし
★それぞれの性現れる雪遊び幼子二人我見守れり
★鉛色の雲晴れ浮かぶ宝達山の雪化粧して起伏鮮やか
★早朝の冷たき空気を伝わり来る雪かきの音耳にし起きむ
★防寒具に包まれた身は汗ばみし雪かき終えて一日の始まる
★雪かきを終えて汗ばむ身を拭う出勤前の日課となりぬ
★降り止まぬ雪美しと思うのは炬燵にあたり庭を眺めるとき
★寒波去り眩く輝く家々の屋根より雪のどどどと落ちだす
・風邪癒えて久々に出る練習日さわやかに歌う仲間と共に
・水槽の中央に浮かび首伸ばすあかみみ亀の冬眠をせず
★四十雀の死骸を庭の石に置く生き返るよと吾子は言いつつ
★自らを大切にせよと注意せし生徒の睨む目の虚ろなり

(昭和58年3月25日〜28日 海流総会 若狭小浜)
★紺碧の若狭の海の波高く船に揺られて蘇洞門を巡る       【「海流41号:S58/7/20】
★春浅く訪う人もまばらなる萬徳寺の如来静かに座す       【「海流41号:S58/7/20】
★兄弟の二人並びて恥ずかしげに股のぞきする天橋立       【「海流41号:S58/7/20】
★山陰路を走りようやくたどり着く鳥取砂丘に陽の沈む頃   【「海流41号:S58/7/20】
★歓声をあげて駆け出す子らの影鳥取砂丘に長々のびる     【「海流41号:S58/7/20】


・青空と山の緑に埋もれるごと天領庄屋の中谷家あり
・朱と黒の輪島塗り蔵しっとりと二百年経て鈍く輝く
★軒下につるした巣箱に雀らのいつ入るかと子ら繁く見る 【「海流」42号:S58/11/30】
・梅雨空にたなびく日もあり真っ直ぐにのぼる日もある焼却場の煙
★仲良しが自転車に乗る姿見て補助輪とろうと吾子と言い合う  【「海流」42号:S58/11/30】
★幾度も転びながらも自転車に乗る子見守る梅雨の晴れ間に 【「海流」42号:S58/11/30】
★明日こそ乗られるよねと言う吾子は笑顔浮かべて自転車押せり 【「海流」42号:S58/11/30】
★雨止みて練習しようと言いに来る吾子の熱意に我起きあがり  【「海流」42号:S58/11/30】
★真剣に前を見つめて自転車をこぐ子のあとを追いかけていく  【「海流」42号:S58/11/30】
★スイスイと乗れたんだよと話する子は箸を手にして乗るまねをする
                             【「海流」42号:S58/11/30】
★荒磯で名高き曽々木の海静か夕日に染まりイワツバメ舞う   【「海流」43号:S59/4/20】
★フナムシの我が気配にぞ驚かむ群れ走りたり夏の岩場を       【「海流」43号:S59/4/20】
★一匹でも違う動きをせぬものかとフナムシの群れに小石投げたり【「海流」43号:S59/4/20】
・君背負い荒磯の道歩きたり潮の匂いと君の香りする
★天井よりつるしたポトスの長々と伸びたる葉先に水滴光る      【「海流」43号:S59/4/20】
・満月の空に冷たく冴える夜は寂しさの増し君に電話する
・ほがらかにいつも振る舞う君なれど涙して漏らす心の中を


1984年(昭和59年)リストトップにもどる

★限りなく降る雪止みてすがすがし煩わしき街も白に染まりて  【「海流」43号:S59/4/20】
★吹雪止み静まり返る天空の凍てつきし夜気に星の輝く         【「海流」43号:S59/4/20】
★何もかも透き通るような冷たさの夜気の中にしばし佇む        【「海流」43号:S59/4/20】
・真っ白な運動場をかけていく吾子の持つ凧青空のぼる
・雪かむる桜の枝に次々と雀降り立ちすぐ飛び去りぬ
・白銀の空舞うトビの電線におりたちてしばし身動きをせず
・地吹雪のうなりすさまじ巻き上げて天も地もない暗闇のごと
・地吹雪を透かして光るヘッドライト冷たく照らしのろのろ動く
・鉛色の一隅より久々に射し込む陽ざし白銀にはね
・子浦川の水温む頃飛翔する白サギのごと君ら羽ばたけ
★二度三度振り向きながら駆けていくランドセル背負い一年生の子は
                             【「海流」44号:S59/8/26】
★兄弟の土筆手に手に駆け寄りて大きさのこと競いて言い合う    【「海流」44号:S59/8/26】
★一週間遅れて田植え始まりぬ今日の寒さに不安もちつも        【「海流」44号:S59/8/26】
★蛙らの鳴き声せわし夕暮れの空にようやく雲出でにけり        【「海流」44号:S59/8/26】
★今日もまた雨ふらんかいねと挨拶を交わしつつ老婆ら畑へ出て行く
                             【「海流」44号:S59/8/26】
★指を立てじっと待つ子のとまったと叫びし声にトンボ飛び立つ  【「海流」44号:S59/8/26】
★飛び違うトンボの中にしゃがみ居る幼子の頭上に銀翼光る      【「海流」44号:S59/8/26】
★一冬を無事生きぬきし幼虫の蛹になったと子の駆けてくる      【「海流」45号:S59/12/25】
★卵より育てしカブトは小柄でも立派な角をふりふり動く       【「海流」45号:S59/12/25】
★虫の音を愛でつつ松林を通り抜け一人月夜の海岸に出る       【「海流」45号:S59/12/25】
・烏賊釣りの漁り火連なる沖合を砂浜に座し一人眺め居る
★沖合の漁り火瞳に揺れ動く談笑の輪離れ砂浜に座し          【「海流」45号:S59/12/25】
・傍らの君の寝顔の安らかなりテントの中にてしばし見守る
・ファイヤーの炎ようやくおさまりて心静かに歌を歌いぬ
・ファイヤーの炎静かにおとろえぬ和声の響き浜に広がる
★和やかに和声の響き広がりぬファイヤーの焔静かに燃え行く   【「海流」45号:S59/12/25】
★満月の明かりに誘われ出で立てば羊雲の怪しく映えぬ        【「海流」45号:S59/12/25】
・満月の明かりに誘われ出で立てば月映えの羊雲不思議に浮かびぬ
★捨て台詞残して立ち去るツッパリら煙草の煙あとに漂う      【「海流」46号:S60/4/20】
★募る怒り抑えて穏やかに語りかけ彼らの気持ちを静めんとする  【「海流」46号:S60/4/20】
★無惨にも砕けしガラス粉々に散る教室に寒風吹き込む          【「海流」46号:S60/4/20】
★一時の楽しさのみに拘泥するツッパリの心に潜むは何か       【「海流」46号:S60/4/20】
★注意すれどボール蹴りあうツッパリは目先の楽しさに何を紛らす【「海流」46号:S60/4/20】
・雷神等落書き目立つ校舎の内巡視のなくなる日はいつのことか
★年末の第九の歌に我も立ち歓喜の中に声ふりしぼる           【「海流」46号:S60/4/20】
★身動きせずオーケストラの後に待つ四楽章の今始まりぬ       【「海流」46号:S60/4/20】
・オーケストラの響きの中に感激の声ふるわせる二百余名と共に
・我も立つ二百余名の合唱にホールに響け歓喜の歌よ


1985年(昭和60年)リストトップにもどる

・降る雪も一休みかな陽の照りて赤き顔出す寒椿三つ
・一メートル余りの雪に埋もれし庭先の寒椿の赤陽に解け流るる
(香港、マカオの旅)
★広東語の会話なにやらわからねどどろぼう市場の夜生き生きと 【「海流」47号:S60/8/11】
★香港の夜景冷たく輝けり貧しき人の家々は闇に               【「海流」47号:S60/8/11】
★バラックの小屋を遠見に原色の彩り派手なタイガーバームガーデン
                             【「海流」47号:S60/8/11】
★蠢く人紫煙のこもるカジノ場外は明るく大きく息する          【「海流」47号:S60/8/11】

★浜風の涼しげに吹く朝市にも観光みやげの多く並びし          【「海流」47号:S60/8/11】
★賑わいをよそに静かに座り居る老婆の野菜の土は新し          【「海流」47号:S60/8/11】
★雪冠す立山連峰はるか見ゆ外浦の海久しく凪ぎて             【「海流」47号:S60/8/11】
 (ヨーロッパの旅)
★轟音とともに飛び立つ大阪の夜の明かりも秋の気配す         【「海流」48号:S60/12/20】
★アラスカの澄みきった朝すがすがし8時間の飛行の後で      【「海流」48号:S60/12/20】
・緩やかに波打ち広がる麦畑幾何学模様の彼方へと続く
★刈り入れの終わりし麦畑緩やかに波打ち広がる地平線まで    【「海流」48号:S60/12/20】
★歓迎の一輪の花愛らしく差し出すチェコの子と握手する       【「海流」48号:S60/12/20】
★緊張がほぐれて歓声わき上がる業後の生徒ら何処も同じ       【「海流」48号:S60/12/20】
・お互いに自国の言葉交わしあう笑顔が互いの心を通わす
・未明よりバスも人も動き出すチェコの一日早く始まりぬ
・ゆるやかなドナウの流れ雲白く小高き丘に城の佇む
★風涼しドナウの川の豊かなり遊覧船の夕陽に向かう            【「海流」48号:S60/12/20】
★絢爛なるシェーンブルンの宮殿に疲れて目をやる庭も美し     【「海流」48号:S60/12/20】
・重々しい雲におおわるロンドンにビッグベンの鐘鳴り響く

・登るにつれ赤や黄色の鮮やかなスーパー林道車連なり
★さらさらと輝き舞い散るもみじ葉のあきつの如く青空を飛ぶ  【「海流」49号:S61/4/5】
・鮮やかな葉もみな落ちて雪光る三方岩の峠付近は
★中腹の錦の賑わい薄れゆく山頂付近は雪化粧して           【「海流」49号:S61/4/5】


1986年(昭和61年)リストトップにもどる

・久々に冬陽きらめく庭先で椋鳥三羽木の芽啄む
★雪深き山より訪なうウソ鳥の見え隠れする庭木の間に     【「海流」49号:S61/4/5】
★軒下の干し柿求め群れ集う椋鳥の声騒がしき朝           【「海流」49号:S61/4/5】
★せわしなく首を左右に動かせり軒の干し柿をついばむ前に 【「海流」49号:S61/4/5】
★毛を立てて体ふくらませ身震いする椋鳥一羽小枝に揺れる 【「海流」49号:S61/4/5】
★青空の広がりし朝冷えこみて真白き邑知平野に霧立ちのぼる【「海流」49号:S61/4/5】
・久々に青空広がる邑知平野真白き田より霧立ちのぼる
★音も無く雨降る朝の庭青し鶯の声しみわたりゆく         【「海流」50号:S61/10/10】
★三男の誕生の日に一着になりし親子初オリエンテーリング 【「海流」50号:S61/10/10】
★地図を手に宝達山麓駆け巡り吾子と共に一位になりぬ     【「海流」50号:S61/10/10】
★入賞以来オリエンテーリングに魅せられて今日も野山を親子で歩く
                                                       【「海流」50号:S61/10/10】
★蜘蛛の巣をかき分け林を抜けるとき弟をかばう兄の声する 【「海流」50号:S61/10/10】
★郭公の声こだまする眉丈山ポイントをさがしつのんびり歩く【「海流」50号:S61/10/10】
・蝉の声郭公の声楽しみつつ眉丈山中を親子で歩く
★ツバメらの白線に沿い滑空する早朝のグラウンドにハードル並びて
                                                       【「海流」50号:S61/10/10】
・蝉しぐる有馬の出湯早朝の風心地よき湯上がりの肌に
★酔いざめの身を夕風にさらしつつ屋台ラーメンを欄干にて食う【「海流」51号:S62/1/23】
★ふと見上げし庭の柿の実色づきぬ青空広がる日曜の朝        【「海流」51号:S62/1/23】
★さえずりに目覚めて窓を全開する朝の冷気に二度くしゃみをする【「海流」51号:S62/1/23】
★手折りたる枝より柿を懸命にもぎ取る吾子の手の動き見ゆ     【「海流」51号:S62/1/23】
★自らも柿の実とらんとよじ登る吾子の手がっしり枝をつかみて  【「海流」51号:S62/1/23】
★両足をつかみおしりを高々とあげる幼子六ヶ月になり          【「海流」51号:S62/1/23】
★眠りたる妻に抱かれし幼子は乳をのまんと手を伸ばしたり      【「海流」51号:S62/1/23】


1987年(昭和62年)リストトップにもどる

・雲間より射し込む朝日を浴びながら真白き屋根を跳ねとぶ雀ら
★縄跳びに興じる子らの足下の土黒々と春の陽受けて 【「海流」52号:S62/6/1】
・暖かき陽ざしを浴びて縄跳びに興じる子らは汗ばみてをり
・道端の雪塊は薄汚れまだ風寒し通学路を行く
・土塊と混ざりて黒き雪塊残りし道のまだ風寒し
★薄汚れし雪の塊残りたる通学路に吹く風まだ寒し【「海流」52号:S62/6/1】
★立ち上がり見てくれよとぞ声あげる知輝は今十ヶ月になり 【「海流」52号:S62/6/1】
・立ち上がり見てくれよとぞ声あげて皆を呼ぶ吾子は十ヶ月になり
★両足を大きく開き立ち上がる吾子は足指に力を入れて  【「海流」52号:S62/6/1】
★ゆらゆらと揺れしも吾子は踏ん張りてしばし立ちたり声あげながら【「海流」52号:S62/6/1】
★振れながら足指に力入れて立つ吾子もついにはお尻より落つ 【「海流」52号:S62/6/1】
・安らかな寝息を立てて眠る子に春の陽そそぐ小鳥囀る中
★両の手を小さく握り眠る子の寝息安らか春の陽の中 【「海流」52号:S62/6/1】
・昨秋の山歩きの折り持ち帰りし石楠花庭に忘られて咲く
★薄紅の花の秘かに庭に咲く昨秋山より持ちし石楠花 【「海流」53号:S62/12/25】
★風に揺れる藤の花房重なりて春日大社の朱門の見える【「海流」53号:S62/12/25】
★風立ちて藤の花房揺れる中春日大社を生徒と詣でる   【「海流」53号:S62/12/25】
★弾む声セーラー服の一隊の通りし後も藤の花揺れる   【「海流」53号:S62/12/25】
・板壁の隙間に巣づくる親雀気配りながら餌を繁く運ぶ
★餌をせがむ雛の声する板壁で吾子としゃがみて親雀待つ  【「海流」53号:S62/12/25】
★電線に止まりてあたりに気を配る親雀近づき雛の声高まる 【「海流」53号:S62/12/25】
・織機の音自動車の音鳥の声テスト監督の耳に聞こえる
・声あげて時折吾をふり仰ぐ知輝の笑顔夕焼けに染む
・知輝との日課となりぬ夕方の散歩仕事の疲れもとれる
★足下まで伸びし稲苗帰り道蛙の声聞き吾子の立ちたり  【「海流」53号:S62/12/25】
・訳の分からぬ言葉を発し話しかける知輝との散歩日課となりぬ
・「かめさん」の歌を歌えば両の手をたたいて喜ぶ散歩の帰り
・緑帯び乳白色の湯釜に映る白根山の岩肌流れる
・霧雨の煙る草津の湯の祭り屋台と硫黄のにおい漂う
・湯畑の仮説ステージ浮かぶ夜踊りの広がる草津湯祭り

 中国(北京、南京、蘇州、上海)の旅 1987年8月22日〜27日

・中国の歴史の鼓動伝えくる天安門の前に立ちたり
・広大なる広場座する天安門赤白黄映える宮殿のごと
★青空に黄の瑠璃瓦屋根波打てる故宮の歴史に耳傾ける   【「海流」54号:S63/4/25】
★おびただしく自転車走る並木道人民服の人は少なし     【「海流」54号:S63/4/25】
★空調設備など無くて自然に戯れる北京動物園のパンダたちは  【「海流」54号:S63/4/25】
・三層の白大理石の清々し圜丘に立ちて天を仰ぐ
・頤和園のけばけばしさの眼に痛し西太后に泣かされし庶民は
・東華路の夜店の電球煌々と通る人々の安らぎ照らし
・昆明湖に長々続く長廊の極彩色の絵のきらびやかなり
★米人を囲みて会話の勉強する中国青年ら王府井にて    【「海流」54号:S63/4/25】
★終業のベルとともに人の退く東風市場の店員も客も    【「海流」54号:S63/4/25】
・甲高い売り子の声に誘われて羊の串焼き一本ほおばる
・彼方まで延々続く長城は崩れて草の茂るところあり
★山々を縫うごと連なる長城を中国人民にまじりて登る  【「海流」54号:S63/4/25】
★二千年の歴史を見守る長城の八達嶺は観光地と化し    【「海流」54号:S63/4/25】
・水郷の都蘇州はうだるがごと暑さに住民も道に夕涼む
・ホテルより一歩出でればサウナの如し蘇州の人は洗濯をしてをり
・朝靄にかすむ水路におりたちて洗濯をする蘇州の女は
・鐘楼に登りて撞きし寒山寺の小さな鐘は菩薩の上にあり
・千年もの歴史をながめし煉瓦造りの虎丘の斜塔は青空に浮かびて
・生きるごと上下に針はさされゆく工員の手より猫の現れる
・白い壁黒い屋根の並び居る蘇州にたどりて心落ち着く
・白玉の滑らかな肌輝けり微笑み優し玉仏寺の座像
・何事も許すがごとく微笑める玉仏寺の座像の肌滑らかなり
・出勤前の我に抱っこと泣く吾子を二度三度抱く時間気にしつつ


1988年(昭和63年)リストトップにもどる

・格別の信心無けれど今年また気多に詣でて新年祝う
・青空に真白き月の浮かぶ朝気多の大社の人混みにまじる
★蓮池の水抜かれゆき逃げまどう鯉のきらめく汚泥の中より  【「海流」55号:S63/8/30】
★岩山に吹く風寒し那谷寺の岩窟本堂の蝋燭温し            【「海流」55号:S63/8/30】
・キラキラと朝日のそそぐ那谷寺の桜蕾もふるえる風の寒さや
・白山のいただく雪の眼に白し浄身の峰に立ちて合掌す
・伝統の文化にふれし檀風苑春の一日満ち足りて過ぐ
★赤白の幾何学模様の広がりゆく梨と桃の棚なだらかに      【「海流」55号:S63/8/30】
・今年また雀の巣作る軒下を見上げる吾子はもう二輪車に乗り
・昨年の巣立ちし雛が巣作りしか今年また吾子としゃがみて見守る
・唇を真っ赤に染めし吾子たちの畝間を走る苺狩りに来て
★苺狩り畝間を走る吾子たちの唇はみな真っ赤に染まりて     【「海流」55号:S63/8/30】
・原爆の洗礼受けし跨虹橋水面に映る姿美し
・梅雨の降る縮景園の緑濃き銀杏は生きし四十二年経て
★悲惨なる原爆資料の数々を声もなくただじっと見つめる     【「海流」55号:S63/8/30】
★己が弱さを端々に語る被爆者の生き様の中に強さを感じし   【「海流」55号:S63/8/30】
★熱っぽく語る口調に苦しみを背負いて生きし平和を求めて   【「海流」55号:S63/8/30】
★谷間より虹そそり立つ一里野の山々の峰雨に霞みて         【「海流」56号:S63/12/20】
・雲間より一条の光さしこみて刻々と現る虹を登らん
・一条の光さしこむ谷間より虹ののびゆく峰をかすめて

 1988年(昭和63年)9月3日父死す 享年72歳

★真夜中に宇出津に向けて突っ走る信じがたき父の訃報を受けて【「海流」56号:S63/12/20】
・父死すと兄の電話に我はただ「本当かい」と繰り返すのみ
・好きな湯につかりて逝きし父の顔安らかなりし眠るがごとく
★七日前吾子の忘れし靴届ける父の姿が最後の別れに         【「海流」56号:S63/12/20】
・信じられぬまま高速道路をひた走るヘッドライトの先は暗闇
★荼毘に付す読経のうちに今はじめて我が目頭の熱くなりたる【「海流」56号:S63/12/20】

・星空の観察を吾子につきあいて無数の星のあるを確かめり
★吾子のつきあい秋の星空を観察する無数の輝きを見るは久しい【「海流」56号:S63/12/20】
★アルタイル等吾子の説明を聞きながら瞬く星見てゆったりと見る【「海流」56号:S63/12/20】
★星空を見るゆとりなく過ごす日の多かりし我が生活を思う  【「海流」56号:S63/12/20】
・長いねと母に抱かれて切った後吾子はぬいぐるみの爪切る仕草する


1989年(平成元年)リストトップにもどる
 
★高熱で目もうつろなる我が耳に平成平成とテレビ伝えり   【「海流」57号:H1/3/31】
・一日の長々しこと天皇と平成ばかりのテレビを見て臥す
★風邪に臥しテレビを見れば天皇と平成ばかりの日の長々しこと【「海流」57号:H1/3/31】
・会ったこともない人の死で我が生活如何に変わるぞ平成の世とて
・世の中に平等でない人もいると教えしマスコミに辟易とする
★兄のすることすべてまねては喧嘩になり言葉足りない幼子がわめく【「海流」57号:H1/3/31】
★ようやくに言葉の出でし幼子の激しく言いて何伝えるや
★ランドセルかついで部屋を行き来する幼子のあと兄追いかけており【「海流」57号:H1/3/31】
★久々に寒気の寄せて山あいの焼却場の煙真白く登りぬ    【「海流」57号:H1/3/31】
・粉塵を舞いあげ音のけたたまし薄汚れて芽吹くふきのとう見ゆ
★陽ざし浴び橋の欄干に並びたるカモメらのみな南をむきて【「海流」57号:H1/3/31】

2月27日〜3月1日 県外研修 京都、奈良
★陰陽の模様織りなす苔寺の木立は静かに息をしており   【「海流」58号:H1/8/31】
・仁和寺のしだれ桜も早や咲きて玉砂利の音心地よく響く
★三折の三百九十九段を登るは一人如月の長谷寺        【「海流」58号:H1/8/31】
★急坂の石段の先に室生寺の舞台造りの奥の院見ゆ      【「海流」58号:H1/8/31】
・陽の落ちて桜の花の浮き立てる窓に涼あり宴席を離れて
・ふっくらと桜の花の浮き立てる窓辺にそっと寄り添いて見る
★根がかりかと勢いつけて竿あげる子の眼前にアイナメの舞う【「海流」58号:H1/8/31】
・ぐるぐるとバケツの中を泳ぎ回るアイナメ時にピチャッとはね
・赤々と夕日の映る海面に糸を垂れつつ身動きもせず
★一匹も釣れぬ弟は竿をおき夕日に向かって石投げしており【「海流」58号:H1/8/31】
★三年目にようやく小鳥の巣づくりし巣箱をみなで遠巻きに見る【「海流」58号:H1/8/31】
★図鑑手に鳥の特徴言いあいてシジュウカラとやっとわかれり【「海流」58号:H1/8/31】
・日溜まりに腰掛けながら交代で双眼鏡をのんびりのぞく

7月3日〜5日 人間ドックに入る
★三十代最後の記念と言い聞かせドックの一日読書に耽る 【「海流」59号:H1/12/25】
★理科室の模型と似たる大腸のレントゲン写真に影一つあり【「海流」59号:H1/12/25】
★午後からの検査気になり二日目は本を読めどもあまり進まず【「海流」59号:H1/12/25】
★後悔の気持ちも薄れ三日目はポリープ発見を運良しと思う【「海流」59号:H1/12/25】
★あれこれと食事をするにも考える人間ドック後の我の生活【「海流」59号:H1/12/25】

8月11日入院 大腸ポリープ切除
★体内に生き物の如く入り込み我が肉塊を切除してくる    【「海流」59号:H1/12/25】
★ピンク色の肉塊怪しく輝きぬ大腸ポリープ皿に載せられ  【「海流」59号:H1/12/25】
・電話にて良性ポリープと知らされて心の奥の不安解け去り
・雲間より陽の差す静かな校庭にハクセキレイの水浴びをする
・校庭の水たまりに遊ぶハクセキレイ始業のあとの静けさのなか
★翻る黄色の残像鮮やかにカワラヒワの視界より去る      【「海流」60号:H2/5/20】
★大木のてっぺんに立つアオサギの天を仰ぎて身じろぎもせず【「海流」60号:H2/5/20】
★川土手にゆったりくつろぐゴイサギの親子が言葉を交わしあいつつ【「海流」60号:H2/5/20】
★黄帯の鮮やかな翼翻し群れ飛ぶカワラヒワ初探鳥会      【「海流」60号:H2/5/20】
★ホシハジロをとらえしスコープのぞき見る吾子の世界の広がらんかな【「海流」60号:H2/5/20】
・カルガモに混じりて水面をすべりゆくマガモが一羽普正寺の池を
★木杭上に止まりて首をかしげいるジョウビタキの橙鮮やか【「海流」60号:H2/5/20】
・せわしなく木から木へと移りゆくコゲラを追うは普正寺の森で
・寒風に頭毛なびかせオジロワシの眼光鋭く松より見下ろす
・マガモらは水音高く飛びたてりオジロワシの勇姿旋回す
★葦原にゆらゆらゆれしオオジュリン飛び立ってはまた葦に止まりし【「海流」60号:H2/5/20】
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霜柿作品集T(1960年〜1979年)

霜柿作品集V(1990年〜)

河村霜柿の短歌集U