河村霜柿の短歌集T
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1969年(昭和44年)・「海流」 4号〜 5号

1970年(昭和45年)・「海流」 6号〜 9号

1971年(昭和46年)・「海流」10号〜12号

1972年(昭和47年)・「海流」13号〜14号

1973年(昭和48年)・「海流」14号〜17号

1974年(昭和49年)・「海流」17号〜20号

1975年(昭和50年)・「海流」20号〜23号

1976年(昭和51年)・「海流」23号〜25号

1977年(昭和52年)・「海流」26号〜28号

1978年(昭和53年)・「海流」29号〜31号

1979年(昭和54年)・「海流」32号〜34号


「海流」より

・観察舎の壁に大きな穴のあり
       キツツキ類の仕業と聞く

・残雪のきらめく崖にうずくまる
       ニホンカモシカ岩の如くに

・母と子のニホンカモシカゆっくりと
       残雪の崖を移動し始める

・イヌワシを求めて二時間空仰ぐ
       クマタカの勇姿でよしとしようぞ

・稜線を糸引く如く滑空する
       クマタカの勇姿尾根に消えゆく

・風に揺れる松林の中カシラダカ
       木洩れ陽うけて餌をついばみぬ

・ウグイスのさえずりを乗せ風そよぐ
       桜花散る下にたたずむ

・冬枯れの木々を飛び交う四十雀
       足下の落ち葉ふっくらとして

・行く道に落ち葉積もりし冬枯れの
       梢をつつくコゲラせわしく

・彩りのあざやかな落ち葉目に優し
       コゲラの動きを追いし後に
・仰向けにブリの頭を丸飲みする
       アオサギ一羽小寒の朝

・餌台は賑やかなりし
       雀らはヒヨドリの隙をうかがっており

・曇天を切り裂く如く飛び交わす
       イワツバメ追う双眼鏡で

・壊れ残る砂山に立つウミネコの
       一声鳴きぬ湯野浜の早朝

・小雪やみ屋根瓦の上メジロ四羽
       上になり下になりして日溜まりに遊ぶ

・小雪降る庭を訪うヒヨドリの
       寒椿の花の蜜を吸いをり

・生徒らの行き交う合間に餌を運ぶ
       渡り廊下に巣作るハクセキレイ

・親鳥の声を聞きつけ巣穴より
       大きな口の四つのぞけり

・懸命にさえずり餌をねだる雛
       赤い喉の左右に揺れし

・足指で水底を掻くダイサギの
       細首がのび蛙とりおり

・オオヨシキリの行々子行々子と高なりぬ
       休耕田のまた一枚増え
      
空間

・枝々は各々の距離を保ちいる
                 風は騒ぎつつ葉を落とし行く

・落葉せし銀杏の枝の網目より
       白く小さな家一つ見ゆ

・日の暮れた師走の街の人混みに
       肩触れるとも空間広し

・それぞれの空間を持つうつし身より
       離れゆきたし魂のごと

・様々な顔顔顔の錯綜する
       雑踏の中間隙走る

・一時間話し込みたり
       夕暮れの街に灯ともる喫茶店の外

・寂しさは愛を求めむ
       久々に語らいたあと心の傾く

・空間を気ままに飛翔する粉雪の
       一瞬の輝きにして消滅せむか

・音もなく雪の結晶崩れゆく
       この性消さむ冬の陽受けて
初探鳥会

・黄帯の鮮やかな翼翻し
       群飛ぶカワラヒワ初探鳥会

・翻る黄色の残像鮮やかに
       カワラヒワの視界より去る

・大木のてっぺんに立つアオサギの
       天を仰ぎて身じろぎもせず

・川土手にゆったりくつろぐゴイサギの
       親子が言葉交わし合いつつ

・ホシハジロをとらえしスコープのぞき見る
       吾子の世界の広がらんかな

・木杭上に止まりて首をかしげいる
       ジョウビタキの橙あざやか

・葦原にゆらゆらゆれしオオジュリン
       飛び立ってはまた葦に止まりし

    ★:「海流」に掲載

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・一二三指をさしだし数える子の目に映る星の輝き
・百八つを聞きし心は悔いに満ちまた繰り返す新年の誓い
・六畳の部屋に射し込む秋の夕陽に照らされ坐る姿寂し
★行く末は不安の中のまっただ中舵握りしめ我が道を行く   【「海流」4号:S44/12/20】
・海流の行方定まらぬその旅にも我が道を行く心楽し
・陽を浴びて寝ころび語る学生の下に生きる緑布の広がり
・街中にふと目を留めた土筆の顔わびしくやせた生命のあり
・柔らかな木の芽を包む我が手にも静かに訪なう春の兆し
・柔らかな木の葉を洩れる光にも土にも花にも春訪れる
★秋近し心の隅に移りゆく故郷の夏の楽しき思いで     【「海流」4号:S44/12/20】
★勉学の道にいそしむ君を想い我奮い立つ夜寒の部屋に   【「海流」4号:S44/12/20】
・気まずさが部屋に張りつめお互いに視線の行方を気にする夕食
★ごろ寝する兄を横目に黙々と炊事する心不満のかたまり  【「海流」4号:S44/12/20】
★嫌々で作れる飯も出来上がりうまいの一言に思わず微笑む 【「海流」4号:S44/12/20】
★リーディングせねばならぬが沈黙の壁を破れぬこの恐ろしさ【「海流」4号:S44/12/20】
★体制に不満の声の高まりて授業放棄の第一日目                【「海流」4号:S44/12/20】
・気にかかるエスカレーション我が心数十日後の紛争の朝
・不満の種さほど自分に関係なく投げやりになる心うらめし
★肌寒い風が心を吹き抜ける空しいストの終局の朝             【「海流」4号:S44/12/20】
・燃え上がる炎の中の反戦日真の平和の心はいづこに
・卓上のこけし懐かし故郷の勉強部屋を思い起こせし
・首とれたこけしにこもる思い出は修学旅行の宮崎の灯か
・問い薬かけれど冷たくあしらわれ解けぬ心を哀れに思う
★同朋の顔は知らねど歌を詠みわれ酔いしれる秋の夜長を     【「海流」4号:S44/12/20】
★まだ来ない異国の友の便り待ち郵便受けを毎日のぞく        【「海流」4号:S44/12/20】
★典麗な儀式の後の二人の背に未来の夢が強くはばたく        【「海流」4号:S44/12/20】
・教会の鐘の音響き賛美歌につつまれ寄り添う若い二人
★送り出し家路をたどる両親の後ろ姿に残る寂しさ             【「海流」4号:S44/12/20】
・晴れの日に泣くに泣かれぬ親心微笑む顔に涙きらめき
・誰ぞ知る病に悩む床の中明日への希望を如何に持とうぞ
★肉体的苦痛はないがこの胸の鋭く痛む未明の寝床    【「海流」5号:S45/3/25】
★年経るに従いつのる苦しみは母を除いて知る人ぞ誰        【「海流」5号:S45/3/25】
★今年また誕生の日の近づけば心にかかる二十歳の重み      【「海流」5号:S45/3/25】
・床に伏し病に悩む我が心二十歳の日を間近にひかえ
・年経るに従い心を悩ませる二十年の苦しき戦い
・生を得てもはや過ぎし二十年長くも思え短くも思える
・あと二倍生きれるにしても四十年長く思うが死の恐怖を感ず
・二十代の仲間に入るうれしさに十代を去る寂しさもある
・我如何に後の日々を過ごそうとも希望の心を失うなかれ
・故郷の野山を駆けた幼き頃二十歳の今は心の思い出
・大都会緑のない子の楽しみは我が懐かしき思い出と異なる
・二十年七千回以上も迎えた夜不安なくして何度眠れた
・深沈と午前零時を針が指す机に向かいて二十歳を迎える
・二十歳になり何か心に変わりあれど求めど探せどいつもと変わらず
・二十歳いつもと変わらぬ日だけれど浮き世の性は否定できぬ
・なぜかしら会う人ごとに話したい今日でちょうど二十歳になることを
・あれほどに心にかかった二十歳の日を三日過ぎていつもと変わらず
★銀杏送ると母の便りにひらひらと眼前を舞う黄色の扇    【「海流」5号:S45/3/25】
★幼な日の我が傷跡を刻みつつ幾年耐えし桜老木            【「海流」5号:S45/3/25】
・もの言わず寒さに震えバスを待つ隣の笑いは遠いものなり
・誰とでも話をしたいこの気持ちバス待つそばの人は知らず
・懐かしき友と語った登下校都会のバスは何と味気なき
・おとなしく坐った子犬を抱きかかえ得意そうに母の顔見る子
・得意げに鎖を引っ張りよちよちと子犬と歩く幼き子
・夢中にて蛙をつつき遊ぶ子よかわいがっているのか殺すのか
★寒い昼母に呼ばれて幼な子は共に遊んだ犬を置き去り    【「海流」5号:S45/3/25】
★幾度となく窓のくもりを拭きながらふるさとの景色目でたしかめる【「海流」5号:S45/3/25】
・たちのぼる湯気の香りが懐かしい自家製の味噌母の味
・ぼんやりと灯る電球に照らされて蜜柑の皮剥く寝台列車で
・今はもう弟のものとなりし部屋模様替えにも面影残す
・針はまだ午前二時を指している心はすでに故郷の地へ
・目を覚まし窓を拭いて外を見る真白き雪に身震いをする
・午前五時金沢まではあと十分身支度をする寝台車の朝
 兄の結婚
・あわただしく結婚式の朝を迎え兄の気持ちを如何にはかろう
・のんびりと炬燵にあたる兄だけど目はせわしなく午後二時を待つ
・忙しく立ち回る人をぼんやりと見る目は何か恥じらいを持つ
・モーニング身につけ車に乗る兄のあとに続く我も緊張する
・絢爛たる花嫁衣装に身を包み幸せな未来を心に誓う
・なぜかしら物足りない感じがするお色直しに立った花嫁の席
・宴席の中に一段光る席お色直しをすませた花嫁
★粉雪がちらつく寒い式の朝兄の気持ちと共にふわふわ          【「海流」5号:S45/3/25】
★おめでたき兄の幸せ祈りつつさらに嬉しもよき姉を得て        【「海流」5号:S45/3/25】
★目に涙浮かべてじっとうつむいて喜びあふれる角隠しの下     【「海流」5号:S45/3/25】
★旅行に発つ二人にしきりと話す義母背に降りかかる冷たい粉雪【「海流」5号:S45/3/25】
・一同の祝福を浴び夜に発つ二人を乗せて車は走る
・二人は発ちみんな家に集まって一つずつ思い起こす式の様子を
★夜も更けて幾度となく繰り返し式の話に花さく家族        【「海流」5号:S45/3/25】
★よかったとしきりに母は繰り返し言葉に隠すその寂しさを  【「海流」5号:S45/3/25】
・粉雪よ夜のとばりの何処から音もなく降りてくるのか
・雪よなぜ汚い下界に降りてくる踏まれることを知らないのか
・寒月に照らされ光る青白く風と共に舞う粉雪よ
★する事無く何ともなしにいらいらし母に八つ当たりしごろ寝する私【「海流」5号:S45/3/25】
★蒸籠の湯気に曇る窓ガラス赤く照らされ薪くべる父        【「海流」5号:S45/3/25】
★四十年俵を背負ったその身体父が手に持つ杵も軽やか      【「海流」5号:S45/3/25】
★リズミカルに餅つく音がこだまする雪の降る夜は例年のごと【「海流」5号:S45/3/25】
★杵ふるう我が両腕に力入る臼とる母と調子を合わせ        【「海流」5号:S45/3/25】
★つきたての餅を口にほおばって火加減を見る五十路の父よ  【「海流」5号:S45/3/25】
・つきたいと駄々をこねた小さい頃途中で疲れ父と交代
・細腕をふるって餅をつく父の丸い背中に苦労の跡


1970年(昭和45年)リストトップにもどる

★雪かぶる遠島山の老松から突如飛び立つ白鷺一羽          【「海流」5号:S45/3/25】
・寒空にいつもと変わらず星光る新しき年の鐘の鳴る夜
・襟を立て除夜の鐘を聞きながら足取り軽く初詣の道
・例年より数の少ない釜の餅三人で迎える新年の朝
 合宿
★終点で降りる人は僕たちだけ春を控えた山里の駅            【「海流」6号:S45/6/30】
★ちらちらと粉雪混じる風に揺れ裸木の並ぶロープウェイ下  【「海流」6号:S45/6/30】
★峡谷のふちに建ちたる家々の桜の木々を眼下に見下ろす    【「海流」6号:S45/6/30】
★残雪で寒さに震える吉野山如意輪寺へ続く坂の細道         【「海流」6号:S45/6/30】
★ひっそりと男の姿見えず尋ねたら返りし答え出稼ぎという  【「海流」6号:S45/6/30】
★人波が押し寄せるだろう花見頃今は寂しい冬の山里         【「海流」6号:S45/6/30】
★吹きすさぶ谷風受けて幹太く衣におおわれ木々の芽青く    【「海流」6号:S45/6/30】
★石段を登る人も無い如意輪寺枯葉舞い上がり山門に散る    【「海流」6号:S45/6/30】
★飲んでみてくださいと分けてくれた桜花漬心温もる四月の香り【「海流」6号:S45/6/30】
★湯飲み持つ手に伝わってくる温かさゆらりと桜花湯の中に浮く【「海流」6号:S45/6/30】
★桜花漬静かにそそぎ音もなくほのかにせまる春の匂いの        【「海流」6号:S45/6/30】
・吉野山季節はずれの山奥にイングリッシュキャンプの声が響く
・ほかほかと豆炭あんかの冬の床幼き頃の母の温もり
・銀盤に無限に続く野うさぎの足跡がつくる幾何学模様
・華やかに火ぶた切られる万国博進歩の影の犠牲は何処
・パビリオン国威を競い連なるが参加する人世界の調和
・水温み日も長びいた今日この頃辛い洗濯も少しは楽に
・春めいた千里の丘に林立する巨大な建築人は見えぬ
★陽を浴びて寝ころび語る学生の下に生きる緑布の広がり      【「海流」6号:S45/6/30】
★早朝に四分咲き桜若くしてピンクに映える雨あがりの空      【「海流」6号:S45/6/30】
★筍は陽気に誘われ顔を出すかすかに洩れる光を受けて         【「海流」6号:S45/6/30】
・六十余個の石に砕けし岩石は日々の講義も何かまとまらぬ
・何故のクラス編成だろう個々の石は無言に生きる
★青々と水面に映る木々の枝流れに合わせゆらゆら揺れる       【「海流」7号:S45/9/25】
★五月晴れ心なごみて明治の森にバーベキュー囲み笑い絶えず  【「海流」7号:S45/9/25】
★勢いよく飛び回る蠅も我が手により畳に転がる空虚な死骸     【「海流」7号:S45/9/25】
★塩鮭や急ぎ開いた小包より海の匂いと母の真心                  【「海流」7号:S45/9/25】
・山に入り若葉の青い匂いする車は走る春陽を受けて
・さらさらと澄んだ小川のせせらぎにおもわずすくう水の冷たさ
・石清水流れ落ちる縁にかけ足をあらう冷たくさわやか
 Summer Camp
★瀬戸内の海の静けさ梅雨明けの太陽きらめく白い航跡        【「海流」7号:S45/9/25】
★瀬戸内の水の青さに白い雲スクリュー強く水切り進む        【「海流」7号:S45/9/25】
★青々しい芳香漂うオリーブ園黄白色の小さい花咲く          【「海流」7号:S45/9/25】
★友の声頼りに砂浜右往左往西瓜めがけて棒きれを振る        【「海流」7号:S45/9/25】
★砕かれし西瓜手に手にかぶりつく流れる滴砂にしみこみ     【「海流」7号:S45/9/25】
★飛び出して宙を舞い下りる裸体の蜂花中深く潮煙と共に     【「海流」7号:S45/9/25】
★思いがけず吾に似た一面彼女に見て親しみ感じる車座の中   【「海流」7号:S45/9/25】
・白く見える島影の面きらめく波に涼しき姿朧に霞む
・潮風の匂いを受けて夏の海をすべりおりる白帆二つ三つ
・黒髪を風になびかす少女たち制服の白さ目にさわやか
・もの悲しい余韻を残し船出する次第に目にいる港のカーブ
・暗緑の打ち続く波の鬼ごっこぶつかり砕け白く消えゆく
・街中を歩く人影目に入らず潮風冷たく酒気を取り去る
 あばれ祭り
★近づくに心も打ち鳴る祭囃子訛あふれるローカル線で       【「海流」7号:S45/9/25】
★荷物持つ手にも拍子をとりながら太鼓の音する宇出津の駅   【「海流」7号:S45/9/25】
★往来を吾こそ勇ましと練り歩く子どもキリコの後追う母親   【「海流」7号:S45/9/25】
★燃えさかる松明を舞うキリコの群熱さ忘れて担ぐ人々       【「海流」7号:S45/9/25】
★海に映るキリコの燈明港の海かけ声響き姿ゆらめく         【「海流」7号:S45/9/25】
★うち連れる五十余台に先んじて川に飛び込むあばれ神輿よ   【「海流」7号:S45/9/25】
★赤々と照らし出される人の顔黒く浮き出る城山静か         【「海流」7号:S45/9/25】
★あめ玉を与えて泣く子をなだめすかし法被姿を写す母親     【「海流」7号:S45/9/25】
・街角に鳴り渡る囃子夜更けまで小さな町の夏祭りの夜長し
・車座で旧友と語る近況を酌み交わす酒楽しみ多く
 淀川祭り
★暗闇に描き出される光の花現れては消え現れては消え       【「海流」7号:S45/9/25】
★淀川を真っ赤にうめる灯籠の遠くに浮かぶ天上への道       【「海流」7号:S45/9/25】
★三萬個の灯に導かれ精霊は緩やかに今淀川下る               【「海流」7号:S45/9/25】
★一人減り二人減りして淀川を彩る花火も終わりに近づく     【「海流」7号:S45/9/25】
・夏空を轟音と共に幾重にも彩り飾るスタマイン
・ひょろひょろと夜空をのぼる火の玉の円を描いて五色に広がる
・突然に黒布にもえる真紅の点流れ落ちる色彩の星
★空しさが追い迫り来る秋の夜今日も見つめる無限の壁を     【「海流」8号:S45/12/20】
★日々疎く塞ぐ心に風冷たく焼き払われし土手の雑草          【「海流」8号:S45/12/20】
★草焼きの燻る土手の焦げ茶色秋風冷たく匂いを運ぶ          【「海流」8号:S45/12/20】
★燃え尽きた土手に醜いガラクタの山が残る濁流激しく       【「海流」8号:S45/12/20】
★打ち轟くドラムとエレキの渦の中揺れ動く影奇妙に寂しい    【「海流」8号:S45/12/20】
★めまぐるしく壁がまわる光の渦に過ぎゆくは何故の人生なのか【「海流」8号:S45/12/20】
★広がりし絨毯に散る赤や黄の多彩を醸す西芳寺かな          【「海流」8号:S45/12/20】
★稜角の折り重なりし石組みの苔むす肌に年月の跡             【「海流」8号:S45/12/20】
★庭園の一角をなす湘南亭夢窓国師も獅子おどし聞く          【「海流」8号:S45/12/20】
★白壁に緑織りなす苔寺の土塀に続く中門小さく               【「海流」8号:S45/12/20】
・鳴く虫の声バスチーユでも響くだろう来る秋の日々マネットの心
・色づきし木の葉茂れる苔寺の緑の湿りの柔らかなこと
・川淀に留まる木の葉秋の色早瀬に戻り彼方に消える
★休日の淀川に立つ黒い影身動きもせず釣り糸垂らす            【「海流」9号:S46/3/25】
★あたり待ち静かに見つめる浮きの様広漠と続く川原に夕闇が  【「海流」9号:S46/3/25】
★何気なく上げた竿に手応えあり宙に飛び出す鮒の一匹          【「海流」9号:S46/3/25】
★沈黙の圧迫に巣つくる鳥の今日もまた羽を休める               【「海流」9号:S46/3/25】
★小心のむしばむところ声も出ず過ぎた流れに後悔渦巻く       【「海流」9号:S46/3/25】
・六年の隔たれし共に住む今この隙間を如何に埋めよう
・老松の潮風受ける遠島山立山の見える日は海荒れるという
・白砂に埋もれし悲恋恋路の里波は静かに玄武岩を洗う
★海面に映る姿は揺れもせずあやなす入り江九十九の湾よ      【「海流」9号:S46/3/25】
★内浦の真白きベールに包まれて魚貝類の底青くすむ           【「海流」9号:S46/3/25】
★外浦の荒れ狂う海禄剛崎寒風を突き光を放つ                 【「海流」9号:S46/3/25】
★波しかも絶え間なく打つ岩肌のごつごつした道に雪降りしきる【「海流」9号:S46/3/25】
★荒波の音に耐えかね山裾に移り時忠余生を送る              【「海流」9号:S46/3/25】
★波の花岩肌に散る冬の海まがきに包まれ静まる漁村          【「海流」9号:S46/3/25】
★降りしきる雪に浮かべる時国家時忠が想い奥能登に埋もる    【「海流」9号:S46/3/25】
★京を去り雪降りしきる奥能登に羽を休める揚羽蝶の群        【「海流」9号:S46/3/25】


1971年(昭和46年)リストトップにもどる

・淡雪の地に落ち消える立春の大阪の街犬も震える
・片隅に置かれた花瓶色褪せし菊の花びらいつより落ちし
・赤土に刻まれし跡幾枝にも弱き心に悪の芽生えん
・濡れ光る黒瓦の屋根連なるはトランジスターの鳴るガラスの世界
★離れ難く我が手で育てたこの土地を守ろうとする農民の気概  【「海流」10号:S46/6/30】
★雨の中はためく幟身に冷たくただ傍観すテレビの画面を       【「海流」10号:S46/6/30】
★この土地は誰がためにあろうぞ人間のためそれとも飛行機のため【「海流」10号:S46/6/30】
★小さき火の今消えようとする成田の地の後に来るのは疎外と公害【「海流」10号:S46/6/30】
★小さくとも我が主張ついに知らしめんせぬよりはましすべを捜して【「海流」10号:S46/6/30】
★ヤドカリの住まい求めて磯の旅狭き心はこの身に合わず        【「海流」10号:S46/6/30】
★時よお前は真夜中にのみ姿を現す休もうとする耳に響くな      【「海流」10号:S46/6/30】
★広々と咲きこぼれた菫の花紫のかげより蛙飛び出す            【「海流」10号:S46/6/30】
★さわやかなすみれ草に顔を埋め眼を閉じ聞こえる大地の鼓動   【「海流」10号:S46/6/30】
・月よその光の色は何色ぞ人の心をかくも映すか
・まだ冷たく風の吹き抜けるビアガーデン空席の目立つ五月の終わり
★現象の世界に生きるこの空しさ愛のイデアに形求めて        【「海流」11号:S46/9/30】
★石垣のコンクリートの割れ目より逞しく咲くフリージアの花   【「海流」11号:S46/9/30】
★アスファルトになじんだ足は土の上生気に満ちてどんどん進む【「海流」11号:S46/9/30】
・閑散とした職員室に初蝉の声の届く蒸し暑い昼
 教育実習にて
★実習の第一日目教壇に立ち心の弾む不安を抱き             【「海流」11号:S46/9/30】
★延々と続く黒い坂道の上に学舎の白く輝く                 【「海流」11号:S46/9/30】
★懐かしい恩師の笑い高らかに机並べて思い出語る           【「海流」11号:S46/9/30】
★青々とした空を切り舞う紋白蝶そよ風に乗り職員室を訪う   【「海流」11号:S46/9/30】
★我が身にも覚えのあること叱らねばならぬ教師の立場に苦笑する【「海流」11号:S46/9/30】
★子ども等の鋭い視線にハッとする思いがけない我の態度か      【「海流」11号:S46/9/30】
★なんと多くの影響を与えることだろう子ども等とともに過ごす日【「海流」11号:S46/9/30】
★子ども等の気持ちを書いた一片の紙に現る教師の重み          【「海流」11号:S46/9/30】
・すべてのものが生き生きしている大きく呼吸しているこれが自然だ
・無心に追う絶対無二のこの一球を汗を流してラケットを振る
・青々とした芝生を背に空をみる雲一つなく陽の照り輝く
・びろうどの波打つ稲の柔らかな入道雲のわきたつ下で
・さらさらと風に吹かれて稲の走る蛙の声の静かに聞こえる
・人生とは如何なるものぞ朦朧とした目の前に何かを見いださん
・緊張で張りつめた巣から逃れたい無翼鳥の哀れな願い
・断絶はすでに軌道上を進んでいる沈黙でポイントは来ない
・弁護する心は弱く悔しさににじみ出てくる涙を拭う
★このやり場のない気持ちをどうしよう目的もなく人ごみ歩く 【「海流」12号:S46/12/25】
★寂しいかな行くあてもなく家を出て喫茶店に入り啄木を読む  【「海流」12号:S46/12/25】
★何故にこうも腹立たしいのだろういらいらする今日が悲しい  【「海流」12号:S46/12/25】
★ぶり返す夏の暑さに白波の砕け飛び散るあの日の思い出      【「海流」12号:S46/12/25】
★母が来て大掃除をする六畳間残暑厳しく汗を流して          【「海流」12号:S46/12/25】
★店頭の数尾の鰯食となり憂いを帯びたその眼まどろむ        【「海流」12号:S46/12/25】
★自由に大海原を遊泳していた鰯も今はジュッとこの網の上    【「海流」12号:S46/12/25】
★吹きすさむ秋の風受け受話機を手に遅しと待つ君の出るのを  【「海流」12号:S46/12/25】
★秋晴れの空に燃える楓の葉さやかな風がかさこそ通る        【「海流」12号:S46/12/25】
★色づきし比叡の山に咲くリンドウ訪れる人の目には止まらず  【「海流」12号:S46/12/25】
★眼前の霞に煙る琵琶湖には湖面を走るヨット小さく          【「海流」12号:S46/12/25】
★晩秋の残光浴びる琵琶湖畔静けさの中に霞んで見える        【「海流」12号:S46/12/25】
★寒々と澄み渡る空雲一つ果て無き旅に出でて消えゆく        【「海流」12号:S46/12/25】
★雲海に消えゆく雁の寂しさよ荒波躍る日本海色濃く          【「海流」12号:S46/12/25】
★晩秋の見知らぬ街の茶店にて飲むコーヒーに淋しさの増す    【「海流」12号:S46/12/25】
★青空に太く厚く浮かぶ雲音を残してジェット機消え去る      【「海流」12号:S46/12/25】
★凝縮された沈黙の重くのしかかり張りつめた声帯は動かず    【「海流」12号:S46/12/25】
★逡巡の空白のうちに青春の恋は過ぎゆく泡の如くに          【「海流」12号:S46/12/25】
・晩秋の哀れさ潜む黄昏の比叡山の空の色かな
・真っ青な空気を吸って山道を歩く心はすがすがしく歌う
・晩秋の残光浴びる琵琶湖畔静けさの中に霞んで見える
・名は知らぬ垣根を越えて顔を出す一輪の花の香漂う
・雲の切れ目より一条の光射す彼方に何があるかを想う
・青空を漂う想い陽を浴びて紅葉の森に鳥の囀る
・酌み交わすシャンペンの味甘酸っぱく恋する人の目もと赤く
・寒風の吹きすさむ頃枯れ果てた芝生に潜む明春の生命
・腐りきった我青春の四年間来る未来に希望を託す
・押し込めし自己を思い切り伸ばしてみたい新しい門出を前に
・晩秋の空に浮かぶ富士山の雪の冠鮮やかに見ゆ
・眼前を悠々と走る富士の山頂の雪白く輝く
・立ちのぼる煙草の煙もうろうと茶店に広がり人影おぼろ
・青空に太く厚く浮かぶ雲音を残してジェット機消え去る
・稲刈りの終わった田圃に秋の暮れ野球をする子どもの姿
・葉の落ちて哀れさの増す柿の枝ぽつんと一つ赤い実のなる
・寒そうに四方にのびた柿の木の黒く細く冬を迎える
・腐った眼がビニール袋から睨んでいる寒い薄暗い台所で       


1972年(昭和47年)リストトップにもどる

・三月過ぎ一縷の望みも断ち切れてまだ踏み出さぬ社会人への一歩
・雨音が心に重く眠れぬ夜暗闇の中職定まらず
・閃光と轟音が夜空をよぎる犬の遠吠え怯えて聞こえる
・天を裂く稲妻青く轟音の鋭く轟く眼と耳深く
・振り袖の小さな子等が山車をひく音頭高らか春の街行く
・かわいがっていたジュウシマツが死んでいた朝死んでいた巣の中で
・線香の匂い寂しく穴を掘り骸を埋めて瓦をのせる
・ジュウシマツの骸優しく眼を閉じて土塊を一気にかける
★早朝の雨滴に揺れる杜若一輪一輪黄色あざやか    〈「海流」13号:S47/12/30〉
・杜若折れ曲がった葉に沿って滑り落ちる雨滴きらめく
★倦怠と焦燥の日々が続くあの夢の鳥はいつ巣立つのだろうか  〈「海流」13号:S47/12/30〉
・静寂の机に向かい月光の窓より照らす竹里館の想い
・「人間の壁」を読みふける白みかけた空に鳥の囀り走る
・胎生の儀式の時より運命の糸は定まる悲しき現実
★気も晴れて緑風かおる遠島山今吊り橋の中央に立つ  〈「海流」13号:S47/12/30〉
・緑林の谷間に架かる白鷺橋赤い欄干一直線に
・緑風の足下より吹く白鷺橋段をなす水田眼下に見下ろす
・照り返す夕日の森の彼方より雉の鳴く声赤く聞こえる
・白鷺橋四五歩進んで耳にする鶯の谷渡りの声
・橋桁に小さく見える遊ぶ子等回転遊具のくるくると
・校庭の無数の足跡まだ乾かず水たまりに太陽のきらめく
・眼を閉じれば子どもの叫ぶ声がする初出勤の夜は更けゆく
・七十四の視線を身体に受け止めて笑顔を作る心は震えて
・水紋の無数に重なる睡蓮に見え隠れする鯉悠々と
・中庭で水遊びする教え子の噴水にかかる未来の虹よ
・遠山の空にくっきり虹浮かぶ豪雨の後の西日をうけて
・二ヶ月の楽しき日々を教え子の面影に見て祈り去りゆく
・二学期に子どもたちと会えないこの身ガランとした教室に立つ
・シーンとした教室で一人つぶやく怒鳴るのも今日が最後だったと
★眼球を黄色く染める満月に想いも深く仕事を終えて  〈「海流」13号:S47/12/30〉
・月はぼんやり照らす我が道を急がず走らずのんびりと行く
・創世の海の深さよ青々と真夏の広がる神秘の世界
・今日もまた机に向かう昼下がり扇風機のうなり高く
・人は何故に働くのか何故に生きるのか死が来るというのに
・砕け散る飛沫に霞む防波堤立山のくっきりと浮かぶ
・お盆間近し今年もまた無花果のはしりがなっている老木に
・無花果の実は大きく口をあけカラスに啄まれとる人もなく
・無花果の実のなる頃に思い出す兄に追われて木に登り泣く
・ぶり返す夏の暑さに蝉の声一際高く重く響く
★朝もやに霞み連なる稲はさよ農民の稲金色に輝く   〈「海流」13号:S47/12/30〉
★玉汗を流して作る稲はさを通してそよぐ風の涼しさ  〈「海流」13号:S47/12/30〉
・上と下はさ木に架ける稲束を軽々と上げ呼吸ぴったり
・秋山にさやかに響く子どもの声散歩の時間足どり軽く
★切れ目より永劫の光り金色に流浪の海に一筋の道  〈「海流」13号:S47/12/30〉
・汗光る農夫の額拭う手に稲束の重みずっしりとくる
・いがぐりを見て喜ぶは都会の子ら山道を行く足軽やかに

 1972年(昭和47年)10月 愛知県東加茂郡浅野中学校に講師として赴任
・赴任する小渡の里の灯のまばら不安な心暗闇に包まれ
・山道を急カーブするバスの中ライトに浮かぶ山肌不気味
・子ども等の呼ぶ声のする秋の朝通学途中の微笑む顔々
★寂しさのつのる異郷よ日曜は川原に寝そべり陽を浴びながら  〈「海流」13号:S47/12/30〉
★冷え冷えと流れる川よ小渡の里夕闇迫り灯の一つ三つ  〈「海流」13号:S47/12/30〉
・凍てついた朝もやの中せせらぎの聞こえる道を学校へ急ぐ
・青空にちりばめられし柿の実の目にしむ赤さ揺れもせず
・鈴なりの柿をあおぎみ歩く道足下にてかさこそ響く
・身にしみる風の冷たさよ柿の実のポツンと一つ凍てついた朝
  明治村遠足
★吐く息の白さを競う生徒たちバス待つ間も楽しさあふれる  〈「海流」14号:S48/4/20〉
★凍てついた朝もやの中バスが行く熱気あふれる生徒の歌声  〈「海流」14号:S48/4/20〉
・秋の陽のまぶしいほどに照り輝く荘重なヨハネ堂より出で
★山並みの水面に映る入鹿湖の湖畔に漂う明治の面影   〈「海流」14号:S48/4/20〉
・梁の太い東松家の薄暗さ戸外のまぶしさに昭和にかえる
・霜がかったもみじの落ち葉掃き集める和尚の姿吐く息白い
・早朝の冷気の迫る香積寺静かな姿ほんのひととき
・赴任してもはや二ヶ月寂しさのつのるこの頃初雪が降る
・初雪や朝日に輝く谷間の村薄化粧に目新しさを感じる
・ふと見上げた空に満天の星が煌めく冷え冷えとした冬の妖しさ
・あらたまる年を間近に教室の一隅にて想いを綴る
・さわやかな緑風そよぐ浅野中発つ子の未来黄金花咲け(卒業生に送る)
・河村の静かな流れ内浦の栄田に出で黄金に実る(兄、久米彦の結婚を祝って)

  小豆島の旅
・城ヶ島海の青さにとけもせずハイビスカスの潮風に揺れ
・木の葉舟銚子の滝に姿消す清水の冷たく岩肌を打つ
・見下ろせば苔むす岩肌寒霞渓ロープウェイの奇異なる姿
・雨上がり霧に霞む峠道谷間の家より煙のたなびく


1973年(昭和48年) リストトップにもどる

★残した子がちょっぴりのぞかす意欲見て嬉しく思う土曜日の午後〈「海流」14号:S48/4/20〉
・言い直す真由美の顔の真剣さ 笑いを制す声に力入る
・日曜日神社の下で子ども等と遊び疲れる今日は楽しや
・きびしくしようと思うがすぐに微笑み浮かぶ教卓の前で
★恐怖の空が重く頭上に覆い被さるとき口は閉ざされている  〈「海流」14号:S48/4/20〉
★月は冴え眠った屋根に落ちている凍りついた桶の上にも  〈「海流」14号:S48/4/20〉
・枯れ木野をわがもの顔に飛ぶ雀朝の囀り快く聞く
★負うた苦しみは誰にも語れず陽がまた昇る悩みをよそに  〈「海流」14号:S48/4/20〉
★教卓に一輪置かれた白梅の春の香りを胸一杯吸う     〈「海流」14号:S48/4/20〉
・あゝいい匂いだなあ誰が持ってきたのだろうこの梅の花を
・若々しい朝日の如く夢を持ち生きて行きたい情熱的に
・降り続く雨も今日は快し雨水も過ぎて白梅匂う
・陽も落ちて砂塵舞い立つ校庭をとぼとぼ歩く痩せた犬一匹
・予餞会の騒ぎも終わり一人想う寒々とした部屋で
・霧晴れて恵那の山々虹の空啓蟄も過ぎ君たち旅行く
★初めての送る立場の卒業式涙浮かべる子ども等見つめ  〈「海流」14号:S48/4/20〉
・卒業の歌声響く式場で肩ふるわせて泣く君等愛おし
・今去る生徒に自分の無力を詫びながら心からの幸せ願う
★思うように進まぬ日々の多いこと三十八の心つかめず  〈「海流」15号:S48/4/20〉
★思いっきりさらけ出したい我が弱さ返ってくる反応怖ろしけれど〈「海流」15号:S48/4/20〉
★雲流る青空高く郭公の鳴き声のみが静けさを呼ぶ  〈「海流」15号:S48/4/20〉
★教室のグラジオラスの鮮やかさ赤々として夏の陽に燃ゆ  〈「海流」15号:S48/4/20〉
★水田の彼方に浮かぶ宝達山夏の陽をうけ白く霞みて   〈「海流」15号:S48/4/20〉
★終業日自己の弱さを見つめてみる教室の中戦いの跡    〈「海流」15号:S48/4/20〉
★蒸し暑い夜ペンを取れども寝返りうち眼を閉じてみるペンは進まず〈「海流」15号:S48/4/20〉
★地球は止むこともなくいつも愛を求めて回転し続ける  〈「海流」15号:S48/4/20〉
★暗黒の水平線より押し寄せる白波の音不気味に響く  〈「海流」16号:S48/12/20〉
★千里浜の夜空を染める極彩色涼風求め砂浜を歩く      〈「海流」16号:S48/12/20〉
★漁火の遠くに揺れる千里浜に打ち寄せる波寂しく聞こえ 〈「海流」16号:S48/12/20〉
★ハサ木立ち秋の気配が忍び寄る浴びる日差しはまだ厳しくも 〈「海流」16号:S48/12/20〉
・初出勤の青い田んぼは黄金色二学期が近づく今は
★帰れども寒々とした部屋だけが物言わず私を待っている 〈「海流」16号:S48/12/20〉
★大声を張り上げ歌う登山道宝達山頂青空の中  〈「海流」16号:S48/12/20〉
★黙々と一人で歩く子に声かけてみるつながり求めて 〈「海流」16号:S48/12/20〉
★英語で語りかけた子に快く答える我は無上の幸せ  〈「海流」16号:S48/12/20〉
★励ましのつもりの言葉に泣く少女為すすべ知らずそっとしておく〈「海流」16号:S48/12/20〉
・好きな子は誰かと尋ね最後には教えてくれる君恥ずかしそうに
・夜の明けぬ港に立ちて船を待つ沖縄旅行の冷たき幕開け
★早春の風さわやかな沖縄で朝日を拝み新年迎える 〈「海流」17号:S49/06/30〉
★熱帯魚珊瑚礁のくり広がるインブビーチの海底絵巻 〈「海流」17号:S49/06/30〉


1974年(昭和49年)リストトップにもどる

★七色を呈する海は今も変わらず摩文仁丘の悲しい戦跡  〈「海流」17号:S49/06/30〉
★晴れやかな顔したる子らも涙する蛍の光流れる頃は  〈「海流」17号:S49/06/30〉
★読み上げる子どもの名前だんだんと声高になる我抑え得ず 〈「海流」17号:S49/06/30〉
★想い出を綴った文集開く我今日はこれで三度目である 〈「海流」17号:S49/06/30〉
★発表を見に来た僕に声かける合格した子の顔晴れ晴れと 〈「海流」17号:S49/06/30〉
★心地よく我が身に感ず疲れのあと山の空気のひんやりとして 〈「海流」18号:S49/10/20〉
★鼻をつく硫黄の臭い地獄谷湧き出るお湯に手をひたしてみる 〈「海流」18号:S49/10/20〉
★点在する雪渓踏みしめ頂上を目指して歩くただ黙々と 〈「海流」18号:S49/10/20〉
★青々と水を湛えるみくりが池静かに連なる立山を背に 〈「海流」18号:S49/10/20〉
★名も知らぬ高山植物愛でながら山の冷気に心を洗う 〈「海流」18号:S49/10/20〉
★音もなく君への想い流れゆく電灯の下亀に餌をやり 〈「海流」18号:S49/10/20〉
★手に入れた一匹の亀いつまでも畳に放し一人ながめる 〈「海流」18号:S49/10/20〉
★帰れども待つ人はなく名月を一人ながめる電灯消して 〈「海流」19号:S49/12/30〉
★むなしさが迫りくる夜街に出であてどもなくさまよい歩く 〈「海流」19号:S49/12/30〉
★君のこと将来のこと思えども心定まらずため息ばかり 〈「海流」19号:S49/12/30〉
★会わぬまま二ヶ月経ちて秋の夜に思いめぐらす君のことを 〈「海流」19号:S49/12/30〉
★ため息も大きく響く独り居の部屋に広がる秋気冷たし 〈「海流」19号:S49/12/30〉
★迷いに迷いもう一度電話をしてみるが留守にて君とは縁はなしかな〈「海流」19号:S49/12/30〉
★フルートの優しい調べに耳を寄せ君の面影心に浮かぶ 〈「海流」19号:S49/12/30〉
・日が経ちて悲しみもやや薄れゆくフルートの音の心に残る
★ほんのりと残る温もりかみしめて静かに更けゆく眠れぬ夜が〈「海流」20号:S50/5/15〉


1975年(昭和50年)リストトップにもどる

★折り重なる山肌白き宝達山雲より洩れる陽は暖かい 〈「海流」20号:S50/5/15〉
★雪解けてすそ野に広がる放牧場春を待つ声牛舎より響く   〈「海流」20号:S50/5/15〉
★閉ざされし心の奥に春の陽を何処の人ぞ照らしてくれるや 〈「海流」20号:S50/5/15〉
★スケートに興ずる子らの朗らかさ共に滑りてしばし楽しむ 〈「海流」20号:S50/5/15〉
★心より笑えぬ我が身悲しみていらだつ日々の多かりしこと 〈「海流」20号:S50/5/15〉
★とけ込めぬ酒宴の席に一人われ拍子打つ手もむなしく感ず 〈「海流」20号:S50/5/15〉
 (国立能登青年レクリエーション研修に参加して)
★眉丈台青空の下若人の集いの朝に響く歌声    【「海流21号:S50/8/13】
★研修を終えて別れる百余人肩組み歌う若人の歌  【「海流21号:S50/8/13】
★地図をみて眉丈台地を駆けめぐるオリエンテーリング汗を流して【「海流21号:S50/8/13】
★重なりてレインボーウェイを快走する眼下に三方五湖は霞みて【「海流21号:S50/8/13】
★長々と海に伸びゆく松林天橋立股のぞきする 【「海流21号:S50/8/13】
★夏近し琵琶湖湖畔を駆けめぐるパークウェイをそよ風に乗り 【「海流21号:S50/8/13】
・太陽がまぶしく目に入る海の音茫漠として波間に浮かぶ
★ひたひたと水音かろく夕暮れに釣り糸たれて煙草くゆらす 【「海流22号:S50/12/10】
★夕陽影次第に薄れる防波堤連れ立ち帰る蛸さすりの子ら  【「海流22号:S50/12/10】
★麦藁に蛸をつるして帰る子ら誇らしげな顔に夕陽が映えて 【「海流22号:S50/12/10】
★君想う夕べの窓にそよぐ風一番星に願いを託す      【「海流22号:S50/12/10】
★言葉無く雨上がりの道歩いていく二人の背に秋の陽射しが 【「海流22号:S50/12/10】
★君知りて三月の日々の速きこと永久に続かん二人の歩み    【「海流23号:S51/6/5】


1976年(昭和51年)リストトップにもどる

★風花の舞い散る道を二人して歩む思いは熱く通いし    【「海流23号:S51/6/5】
★降り立ちし君の姿に手をあげて顔火照りきてストーブに寄る【「海流23号:S51/6/5】
★青空に迎えられゆく新年に君の着物の青さも映える        【「海流23号:S51/6/5】
★降る雪の庭に優しく積もりたり我妹とみるこたつの中で    【「海流23号:S51/6/5】
 (3月28日結婚)
★金権とコネの力に阻まれては世渡りの術とは認めがたくも 【「海流23号:S51/6/5】
★寿と底に輝く金の文字かための盃静かに飲みほす          【「海流24号:S51/9/23】
★祝福のウェディングマーチ高らかに遙かな道を共に歩もう  【「海流24号:S51/9/23】
★共に持つナイフに誓った二人の愛助け合って生きて行きます【「海流24号:S51/9/23】
★波静か夫婦岩を背に受けて二人の傘に降る細い雨          【「海流24号:S51/9/23】
★岸辺立つ君の姿の清らかさ五十鈴の川のこいを想わせ      【「海流24号:S51/9/23】
★教え子の声の便りを耳にして思い浮かべる顔のなつかし    【「海流24号:S51/9/23】
★教え子の朗らかな声受話器より積もる話に時も忘れる      【「海流24号:S51/9/23】
★生徒らと弁当ひろげ語り合う碁石が峰に秋の陽射しが      【「海流25号:S51/12/23】
★大池の水面に映る秋の山色づき満ちてゆらゆら揺れる      【「海流25号:S51/12/23】
・恥ずかしくフォークダンスの手をとらぬ心内とは異なる生徒ら
・宙を見る子目をつむる子と様々なり思い出そうと真剣になる
★休みなく答案用紙の手は走る中間テスト教室の静もり      【「海流25号:S51/12/23】
★夕暮れに遊び疲れて帰る子の頭上に飛び交う赤トンボの群  【「海流25号:S51/12/23】
・ばたばたと飛ぶ赤トンボ力無く暮れゆく秋の寒さきびしや
★弓なりに打ち続く浜人影なく松の梢は海風に鳴く          【「海流25号:S51/12/23】
★闇深く煌めく星を見上げつつ一人佇む膚の冷たさ          【「海流25号:S51/12/23】
★青白く光を放つ星一つ無限の闇に恐れをなさず            【「海流25号:S51/12/23】


1977年(昭和52年)リストトップにもどる

★しおれ枝に柿の実ぽつんと取り残され綿帽子かむる冬の朝かな【「海流26号:S52/6/5】
★降りしきる雪に霞んだ街中は人影もなく静まり返る        【「海流26号:S52/6/5】
★しんとして雪降る街を眺めいる物音もなく心休まる        【「海流26号:S52/6/5】
★天空に枝を伸ばせる裸木にも屋根にも家にも雪降り積もる  【「海流26号:S52/6/5】
★雲流れくっきり浮かぶ富士の山大涌谷の風冷たくも        【「海流26号:S52/6/5】
★大小の石のころがる大谷川せせらぎもなく橋のさびしや    【「海流26号:S52/6/5】
★雪かむる男体山を右左イロハ坂に眠気も覚める            【「海流26号:S52/6/5】
★牛舎より跳びはね出ずる乳牛の顔いっぱいに春の訪れ      【「海流27号:S52/9/30】
★朝露に足下濡らし蕨とる妻と我との休日にして            【「海流27号:S52/9/30】
★ジョリジョリと若草を食む乳牛に蕨とる手をしばし休める  【「海流27号:S52/9/30】
・蕨持つ手を振り上げて合図する妻の姿を若草に見ゆ
 (みちのく小旅行)
★六月の緑あふれる最上川四十八滝涸れてほそぼそ          【「海流27号:S52/9/30】
・川岸の青葉茂れる最上川松と見ゆるは土湯杉なり
★閑かなり石段のぼる立石寺蝉の声にはまだ早かりし        【「海流27号:S52/9/30】
★青深く蔵王の山の重なりて冷気たちこむ高原を行く        【「海流27号:S52/9/30】
★霧流れお釜の湖水深緑しばしの姿眼前に見ゆ              【「海流27号:S52/9/30】
★動いてる動いているとの妻の声急いでおなかにそっと手を置く【「海流28号:S52/12/25】
★胎動の喜びを知り妻の顔母への期待に輝いており          【「海流28号:S52/12/25】
・つきたてし竹の背を越えどこへ行くへちまの蔓は旋回をする
・朝夕に水をやるたび眺めいるへちまの蔓ののびは遅くも
・柔らかな花弁の色の鮮やかな昼のみ息づく松葉ぼたんは
・人生の歩み遙かに遠けれど教える子の夢大きくふくらめ
・雪洞の灯は赤々と連なりて盆踊りの輪次第にふくらむ
★病室で文字を追えども心あらず夕闇の中に我を見つける    【「海流28号:S52/12/25】
・世に出でて第一声の響くとき六時間半の心配も消え
★廊下にてまだかまだかと産声を待つ我は今耳澄ましいる    【「海流28号:S52/12/25】
★川の字に我が子の顔を眺めいる更けゆく夜の幸せの時      【「海流28号:S52/12/25】
・窓外の公孫樹並木も雨に濡れ色づきし葉の鮮やかに見ゆ
・空を走る電線の上黒々と雀小さくうずくまりけり
★乳くわえ寝入る我が子のふくよかな安らかな顔じっと眺める【「海流28号:S52/12/25】
・幼子が父の呼ぶ声に振りむきて笑う仕草を二度三度する
・うつぶせると新たな世界を見るように眼大きく顔を上げる
・あどけなく微笑み返す愛し子のちっちゃな手のひら上下に動く


1978年(昭和53年)リストトップにもどる

★受話器より「先生誰かわかりますか」と明るく響く教え子の声【「海流29号:S53/6/11】
★五十号遂に出したる通信の印刷のにおい心にしみる        【「海流29号:S53/6/11】
★製本終え学級通信「あゆみ」手にこの一年の格闘をみる   【「海流29号:S53/6/11】
★巣立ち行く三十五の雛大空に学びしことよ力とならん         【「海流29号:S53/6/11】
★静まりて答辞の声のしみわたる体育館に立つ我は今           【「海流29号:S53/6/11】
★式すみて廊下に涙す生徒らの後ろ姿を黙し見守る             【「海流29号:S53/6/11】
★あふれくる職員室の卒業生手に手に色紙を持ちて立ちいる     【「海流29号:S53/6/11】
・入試日に雪降り来たり駅に待つ生徒らきびしさに身を震わせつ
・布団より顔を出したる小さな手を我が手に包みそっと温める
★にじり出る汗を拭きつつ登り行き水筒の水にのどを潤す   【「海流30号:S53/12/10】
★暗闇にぼんやり浮かぶ山中湖点在する灯に形をなして        【「海流30号:S53/12/10】
★赤々と生命のもゆる御来光富士山頂に今立ちている           【「海流30号:S53/12/10】
★雲海を下に眺めて深呼吸山の冷気に心洗われる               【「海流30号:S53/12/10】
★真夏日の寄せては返す波の下白く輝く稚貝うごめく           【「海流30号:S53/12/10】
★リズミカルに田圃の中を走りゆく列車の中に稲の香漂う       【「海流30号:S53/12/10】
★汗ばんだ肌に涼しき風通るまだ強い陽射しの交差点に立つ    【「海流30号:S53/12/10】
・松本城の柱に残るちょうなの跡天守に立ちていにしえ思う
・幼子のはみ出したる手冷たくて寝息を聞きつつそっと温める
・物言いて笑う仕草をする吾子に口を合わせて笑い返せり
★木枯らしの音すさまじや耐えて立つ裸木の如く吾子も耐えたし【「海流31号:S54/6/5】
★赤き血が管をそめゆく採血に泣き叫ぶ吾子の足を押さえる    【「海流31号:S54/6/5】
★穏やかな寝顔したまま手術着にかえられて消ゆエレベーターの中【「海流31号:S54/6/5】
★五分ごと進むが如き時計の針窓外の裸木にまた目をもどす    【「海流31号:S54/6/5】
★ようやくに時計の針は十時指すオペ開始より一時間経ち      【「海流31号:S54/6/5】
・目に痛し管をそめゆく赤き血が泣き叫ぶ吾子の足を押さえる
・リンゲルの音もなく落つオペ終えて母に抱かれ眠り込む吾子
★朝明けの海黒々と荒れ狂えど西空白し暗雲去りぬ            【「海流31号:S54/6/5】
・木枯らしもおさまりて射す陽を受けるにせあかしやの背伸びするごと
★鉛色の海より出ずる虹一つ冬空の中に立ちて消えゆく        【「海流31号:S54/6/5】
【湖の伝説_三橋節子】
・突き刺さる鋼の如し子を抱く鬼子母の髪は空に冷たく
・横たわる鴨は静かに葦の陰飛び立つ雁は夕陽の空へ
・朱衣まとい湖水に佇み子を抱く手の太くして温かみのある


1979年(昭和54年)リストトップにもどる

★複雑に根は絡まりてその上に静かに咲くはヒヤシンスの花  【「海流32号:S54/12/5】
・水栽のヒヤシンスの香漂いたり雪の白さと競いて咲くらむ
・球根の小さく萎んだヒアシンス小さな花を上に咲かせて
★まろやかな甘さ漂う教室にヒヤシンスの花赤々ともえる    【「海流32号:S54/12/5】
★昼休み受験生らも駆け回る小春日和の校庭狭しと          【「海流32号:S54/12/5】
・我を張りて歩み寄らずに口走る心なきこと気まずくなりぬ
・巡りくる悩みの中に火は燃えて口は重く開かざるべし
★看護婦の道を選ぶと教え子の力強き文を繰り返し読む      【「海流32号:S54/12/5】
★新聞の合格者欄に目を通す日課となりぬ教え子をさがし    【「海流32号:S54/12/5】
・銀色の蕾ふくらむ水楊宝達山の雪消えにけり
・あられ降る四月の朝に驚きてチューリップの花小さくふるえる
・雲低く宝達山にたれ込める冷たき雨が足下にはね
・雨に煙る宝達山のうっすらと教室の中に人影はなし
・倶利伽羅の谷間を渡る鶯の声も若葉の風に吹かれて
・山あいの不動明王の経の声が倶利伽羅古戦場を駆け巡りくる
・源平の戦偲ばす跡はなし倶利伽羅不動の経の声する
・仰ぎ見る山桜花くっきりと青い絨毯に浮かんで見える
・真っ青な空を舞い散る山桜寝ころんでいる傍らに落つ
★我があとをまねて歌う子の首を振ふりふり調子をとって    【「海流32号:S54/12/5】
★月、月と指さし見上げる子を抱き顔の温もり我に伝わる    【「海流32号:S54/12/5】
・気づかずいた通勤途上の宵待草黄色い花の両端に続く
・近く見ゆる宝達山の深緑雨のあがりて陽射し柔らか
・雲低く宝達山にたれ込める冷たき雨が足下にはね
(北海道旅行 8/19〜8/26)
★零時発日本海三号闇を行き平行線の北へとのびる            【「海流33号:S55/3/10】
★軽快な列車のリズム数えながらいつしか夢の旅路へと発つ    【「海流33号:S55/3/10】
★朝日受け敬礼をする駅長の姿過ぎゆく見知らぬ駅で          【「海流33号:S55/3/10】
★真っ黒に日焼けした顔坑夫らは列車の過ぎるを立ちて待ちいる【「海流33号:S55/3/10】
・登りゆく函館山の木立から突如と広がる灯りの海が
・キラキラと無数に瞬く函館の灯り冷たく頂きに立つ
・暗闇の沖に瞬く烏賊釣りの漁火の点々として陸に連なる
・潮薫る函館山の真下には連絡船の航跡光る
・岩肌を不気味に彩る硫黄塊昭和新山煙をはいて
★足裏より地熱伝わる新山をバスの中よりかえりみて見る       【「海流33号:S55/3/10】
・煙はく昭和新山夕暮れにカラスの鳴きて寂しさの増す
・頂を雲に隠した羊蹄山洞爺湖畔の朝を歩かん
・静かなる深緑色の洞爺湖の湖水きらめく朝の訪れ
・果てしなく左右に広がる石狩の平野に波打つトウキビの畑
★肌寒く冷気身にしむ層雲峡銀河の滝の音もなく落つ            【「海流33号:S55/3/10】
・両岸に大峭壁のおしせまる岩肌をぬう石狩川かな
・砂丘に広がる原生花園盛りすぎオホーツクの波寂しく寄せる
・盛りすぎた原生花園のハマナスの実のゆらゆらと寂しく揺れる
・風強し美幌峠に立ちて見る屈斜路湖水青味を帯びる
・山肌を黄色くそめる硫黄山硫気噴き出す音たてながら
★藍色の水の変化にゆれながらカムイッシュ浮かぶ摩周湖の面      【「海流33号:S55/3/10】
★旅立ちて秋晴れの中汽車はゆくうれしさの声車内に満つる       【「海流34号:S55/7/27】
★秋晴れに浮かぶ富士山雪はなく観測所の屋根かすかに白く      【「海流34号:S55/7/27】
★闇おおう駅に降り立つ生徒らを出迎える父母の傘の並びて      【「海流34号:S55/7/27】
・まだ暗き窓打つ雨の冷たき音暗い耳底に刺激を与える
・稲妻の閃光走る冬の夜炬燵にもぐり独りテレビを見る
・「てれこれ」と獅子をふる児の勇ましき得意満面笑みを浮かべて
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霜柿作品集U(1980年〜1989年)はこちらです

霜柿作品集V(1990年〜1999年)はこちらです

河村霜柿の短歌集T