正假名遣ひ習得法
●獨協大學の中村粲教授が正假名遣ひを用ゐる理由を正論2658(平成10)年4月號で述べてゐましたので引用させて貰ひます。

 假名は音標文字ではなく,假名遣ひは撥音表記ではない。假名遣ひは飽くまで假名の遣ひ方であり,歴史的假名遣ひとは歴史的に確立されてきた假名遣ひの定まりなのである。云ひ換へればそれは日本の國語文化そのものであり,理論理屈ではない。
 例へば,「こひ」と書いて「戀(恋)」と讀ませるのは理屈ではなく定まりなのだ。「戀」は「こい」と撥音するのだから「こい」と書くべきだとするのは淺薄な合理主義であり,斯樣な撥音主義に立つならば「東京へ行く」は「東京え行く」と書くべきだし,「東京」の假名表記は「とうきょう」でなく「とおきょお」或いは「とーきょー」等と書き表す方がより合理的な筈である。
 だが,それが實際に行はれてゐないのは,現代假名遣ひが實は完全に合理的でも撥音尊重主義でもなく,中途半端な代物でしかないことを立証してゐよう。
 假名遣ひは撥音にでなく「語に隨(したが)ふ」といふことは福田恆存の名著『私の國語教室』の繰返し説く所である。「戀」は「こい」と書くより「こひ」と書く方が美しい。「こひ」と書いて「戀(こい)」と讀ませるといふ牀(床)しい定まりが歴史的假名遣ひなのであり,私はその美しく牀しい日本の國語文化を守り,傳へることに聊かでも努力したいと願ふ氣持ちで歴史的假名遣ひを使つてゐるのです。

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