古事記(こじき)について

今からおよそ1300年前に書かれた「古事記(こじき 又は ふることぶみ)」という書物があります。これは、日本の国が作られるはるか昔の神様についてのたくさんの物語が書かれています。日本だけではなく、世界中の国にそれぞれ同じような神様について語られた神話があります。ヨーロッパのギリシア神話は特に有名です。現代のように科学技術が発達している世の中に育ったみなさんにとっては、神話というと現実にはなかった空想(くうそう)の話ではないかと思われるかもしれません。たしかにその通りです。しかし、神話の中の神様は、その国の民族の数千年前もの先祖(せんぞ)の人たち(その時は、もちろん現代のように、電気も電話もテレビも車も飛行機もコンピュータもインターネットもない時代のことです。その頃は、地球が円いことも、世界がどんな形をしているのかも分からなかった時代です。ですが、まさしく現代に生きる私たちと必ず血のつながっているご先祖様が生きていた時代なのです。)が、様々な自然現象(それは、時には、地震や雷、干ばつや台風など人間を苦しめるものです。)を神の仕業(しわざ)と考え、恐れました。古代の人々は、豊かな想像力を働かせて、この目には見えない人間よりもはるかに超越した偉大な力を「神」として、奉る(たてまつり=)ことになったのです。

古事記は、古代の日本人の先祖が、文字のない時代から口承(こうしょう)、つまり人から人へ語り継いで、頭の中に記憶してきた日本の神様たちの物語です。その豊かで大らかな想像力と日本人とはどういう民族が集まってできたのか(最初から、日本列島に日本という国があったわけではありません。)、また日本語という言葉や、現代まで伝えられている礼儀作法や生活習慣、宗教や道徳観などの日本人の伝統文化のルーツについての多くを知ることができます。

古事記には、神話の時代の物語の他に、神武天皇(じんむてんのう=日本最初の天皇)から推古天皇(すいこてんのう)までの古代の天皇の歴史についても記録されています。日本列島には、古代には、多くの豪族(ごうぞく)たちが、勢力争いをしていました。日本は、ひとつの国ではまだなかったのです。さまざまな地域で威勢をふるっていた豪族たちを征服し、従えて、ひとつの国として統一しようとする古代の天皇の活躍についての物語です。しかし、この中には、現実にはありえないような話も含まれているので、これをもって、古事記は正しい歴史を記録したもではない、従って古代の天皇は存在しなかったという人もいます。しかし、古事記が書かれた時代というのは、現代のように科学が発達していない時代です。神話の世界と現実の区別などはほとんどなかったのであり、現代人の考え方で判断するのは間違いだと思っています。

このサイトで紹介する「ヤマトタケル」も実在していたかを疑う説もあるようですが、私は、古事記の中で他の天皇に比べても、特に多くのページをさいて語られていることから考えて、この英雄は実在したか、少なくともそのモデルとなった皇子(おうじ=天皇の子)がいたと思います。まあ、そのあたりの判定は、いずれ専門家の方たちにしていただくことができるでしょう。仮にこの英雄伝が作り話であったとしても、この中には「ヤマトタケル」が詠んだとされる古代の最初(?)の日本語による詩(短歌)も収められおり、第一級の(世界的にも貴重な)文学作品として楽しんでみていただいてよいのでしょうか。この物語は、「ヤマトタケル」が多くの敵を滅ぼしていく武勇伝(ぶゆうでん)を中心に語られています。義経もびっくりする日本初のスーパーヒーロー(もちろん、人間の)です!しかし、私が思うにこの物語の主題(テーマ)は、「愛」と「勇気」だと思っています。スーパーヒーローの「ヤマトタケル」も人間的な弱さを見せ、ほろほろと泣いたり、自分を助けるために死んだ愛する妻への追悼の詩を詠むのです。「愛」と「勇気」!何事にも無関心、無感動になってしまった現代の日本人は、この言葉を聞くと赤面してしまうかもしれません。しかし、そういうあなたにこう問いたいと思います。あなたは、「愛」と「勇気」のどちらか一つでもお持ちですか?