『SSのお部屋』

One Day Afternoon



「よお! 久しぶり」
 聴きなれたはずの声だが、なんとなく懐かしい。
 声のする方向を向くと、
「結構、ご無沙汰ってヤツだからな。1年……位か? 孝之」
「……う〜ん、そんなところか? 俺もあんま自信ねぇけどさ」
 うん? 孝之の足元……誰だ?
「どした? ああ、彼方、ほぉらパパのお友達だぞ〜。はい、ごあいさつは?」
 孝之の後ろに隠れるようにして、上目遣いにこちらをうかがっていたが、父親に背を 押されては前に出るしかない、というように俺の前まで来た。
「こ、こんにちは。たいらのおじちゃん」
 ……おじちゃん。孝之め、せめて「お兄さん」と教えろよ。
 文句は後にして、彼方くんの前にしゃがみ、頭をなでながら笑顔で応える。
「はぁい、こんにちは。えらいね、ちゃんとあいさつできたね。いくつになったのかな?」
「……みっつ」
 人見知り風の警戒したような顔が少しぎこちなく綻び、小さな指を3本立てて答える。
「どうだ、1年くらいしか会ってなかったとは思えないだろ? 子供なんてあっという間に 大きくなるもんだからな。今じゃ、抱っこだって一苦労だぜ」
 しょ、と声を上げながら彼方くんを抱き上げる孝之。……そうか、もう3才になるんだ。
「そう言えば、悠ちゃんは? 遙さんのトコか?」
 孝之と涼宮に双子が誕生したのは3年前。男の子と女の子の双子だったので、 考えた名前がムダにならなかったよ、と笑っていたっけ。
「ああ、なんとなぁく彼方は俺、悠は遙みたくなっていてな。そっちだって似たようなもの じゃないのか?」
「ん? 葉月のコトか? まあ、確かにそんなフシもなくはないがな」
「お互い辛いな、男同士さ。こんな日も男同士、女同士で固まっちまうし」
 こんな日。そう、今日は白陵の同窓会。卒業から10年近く経っていて、それぞれ結婚 とかもしている連中も多い(俺や孝之だってそうだ)のに、かつての仲間の顔を見ると、 あのときと同じ「友達」に戻るものらしい。

「よぉ! 悪友コンビ。そんなところで何、黄昏てんだ」
 声の方を振り向くと、室田と川崎さんだった。3年のときのクラス委員だった室田重光と 川崎有希さんは、当時からお似合いと言われていたっけ。それにしてはゴールインまで6年 と結構ロングランだったよな。
「悪友とはごあいさつだな、慎二と一緒にすんなよな」
「それは俺のセリフだ。……ん、子供、生まれたのか」
 川崎さん(本当は室田さんと言わなければならないけど、どうにも学生時分のクセは簡単には 抜けそうにないものらしい)の胸に抱かれている子供を見ながら尋ねる。
「そっか、初めてだよねってか、私たちずいぶんご無沙汰だもんね。平くんトコと同じだと 思ったけれど……違ったかな?」
 その女の子(希美[のぞみ]ちゃんという名だそうだ)の頭を優しくなでながら、もうすぐ2才になる んだよと、教えてくれた。そうか、なら葉月といっしょくらいだよな。

「それにしても、幹事役ご苦労さん。こういうのってやっぱ委員長やったヤツに回ってきやすい んだよな。……ところで、何人くらい来てるんだ?」
「ああ、とりあえずC組の連中は……と、16人か。まあ、10年も経ってるしそうそう みなの都合がつくとは思えない。上出来じゃないか? それに来る連中には他のクラスだった ダチとかも連れてきてもいいって言ってあるし、結構にぎやかになると思うぜ」
 かなわねぇよ、こういう役はって顔をしつつ、取り出した手帳を見ながら話す。
「ま、そうだな。他のクラスって、考えてみれば孝之と涼宮だってそうだもんな」
 横にいる孝之の方を向いて話を振る。涼宮はB組だったよな。
「涼宮と鳴海のことか。そういや、3年の夏休み前に急に出来上がったカップルがいたって、 結構話題になってたからな。こりゃ多分、休み中に……ってウワサになってたっけ。 まあ、あんなコトになっちまったけどな・・・って、悪い! 思い出さしちまったか」
 俺のさりげない制止に気付いた室田が、慌てて孝之に謝る。
「いや、構わねぇよ。そりゃ遙の事故は絶対、忘れることはできない。でも、俺たちは今、 一緒に暮らすまでになれたし、子供にまで恵まれてる。……それにな、こう言っちゃ変だけど、 あの事故とその後の経験があったからこそ、今の自分があるとも思えるんだよ、慎二もな。 まあ、結果論には違いないけどな」
 孝之が静かに話す。
 ……今の自分、確かにそうだろうな。涼宮の事故は孝之だけではなく、あのころ友人として 付き合っていた俺にも、孝之に涼宮のことを紹介した水月にも、立ち直れないほどの衝撃だった。 そしてそれからの涼宮が眠り続けていた3年間で、俺たちは本当に「人と人のつながりと、他人を 思いやること」を間違いを犯しつつも学んでいけたように思う。
 あの事故がなかったら、なんて考えるのは間違いだろうと思う。SFの世界では俺たちは無限の 可能性の中の一つを進んでいて、それと平行していわゆる「もしも」の世界の自分も存在している らしいが、これは現実だ。俺たちは俺たちだけでしかない。
 ……後戻りの許されない、たった一度の人生しか歩むことを許されない「人間」だ。これは、 孝之から聞いた、香月先生の受け売り話だけど、まったく、そうだよな。
   ふと気付くと、目の前に……。
 ……ん? 彼方くん、だっけ。何だ? 上目遣いにこっちを見てるけど。
「あれ? どうしたのかな? 彼方くん」
「なにしてるの? たいらのおじちゃん」
 だから、おじちゃんはやめてくれって……あれ? みんなは?
「おお〜い、彼方。ぼ〜っとしてるおじちゃんなんて、ほっといて行くぞ!」
 少し離れたところからの孝之の声に、彼方くんが駆け寄って行く。見ると室田も笑ってやがる。
 あんにゃろ〜、俺を置いてけぼりにしやがったなぁ!
 父親に駆け寄る彼方くんを追いかけるように、みなのところに急ぐ。
「お前なぁ〜、行くんなら一言くらいあってもいいだろ?」
 追いついたところで孝之に文句を言う。まったく、物思いに耽ってた俺も悪いとはいえ、 そんな俺だけを残して行くだなんて。しかも、それを遠目に見てやがったな、コイツら。
「いやいや、『考える人』を邪魔しちゃ悪いと思ってな」
 むぅ、こいつのひねくれぶりは全然、変わってないな。
「あのなぁ〜……」

「おやおや、ずいぶんとにぎやかだこと。へぇ〜、クラス委員と手のかかる悪ガキコンビか。 なかなか、オツな取り合わせですこと」
 俺の抗議を遮るように聞こえた声のする方向を見ると、え? 夕呼先生がどうして?
「どうも、ご無沙汰してます。その節はいろいろお世話になりまして」
 孝之がガラでもない礼節口調で、夕呼先生の隣にいた香月先生に話しかける。
「お久しぶり、鳴海君。彼方ちゃんも。みっつになったんだっけ? 早いわねぇ」
「ええ、先日。ほら彼方、パパとママがお世話になった先生だぞ。はい、ごあいさつしよか?」  顔を真っ赤にしながら、しどろもどろであいさつ(らしきもの?)をする彼方くん。
 そうか、欅町総合病院で二人を出産したって言ってたっけ。もっとも産婦人科の担当だから、 外科の香月先生とは直接関係ないだろうが、そこはかつてお世話になった先生だ。いろいろ 話とかもしてたんだろうな。
「悪ガキコンビとはひどいですね。『悪』はコイツだけでしょ?」
「……コイツ〜?って、オイ!」
   何か言いたげな孝之を無視して話を続ける。
「それにしても夕呼先生がどうしてここに? それに香月先生も」
「やぁねぇ、私がきちゃいけないの? クラス担任はしてないけど、一応、あなたたちの恩師の つもりでいるんだけどな。ま、姉さんに誘われたってのがホントだけど」
 恩師、ね。そういうことを何の臆面もなく言いのけてしまうのが、この先生らしい。
 事情を聞くとこういうことだ。今回の同窓会、もちろん孝之には連絡が行ってるわけだから、 涼宮も当然知っている。で、そのことを3才時検診で病院を訪れたときに、香月先生に話したら 久しぶりに私も会ってみたいと言い出し、ムリを言って休みを取った。そしてそこに妹である 夕呼先生もくっついてきた、というわけだ。
「さて、そろそろ行きますか? 先に行ってる連中をあまり待たせてもいけないし」
 横で見ていた室田が幹事らしく場を仕切り、みなを先導しだす。

 会場となるホテルの宴会場では、先に到着していた連中が三々五々と集まっては談笑していた。 やはりここでも、かつての友達意識が優先するのか、男同士、女同士で集まって話をしている。
「遙は、どこ行ったかな?っと、いたいた。おお〜い、遙ぁ」
 孝之が涼宮の姿を見つけて呼ぶと、悠ちゃんを抱いた涼宮がこちらを向く。
「あ、孝之くん。どうしたの? 遅かったみたい……あ、先生!」
「お久しぶり、涼宮さん。といっても1ヶ月くらいかしらね」
 話に花が咲いているようだ。涼宮にとっては香月先生こそ、恩師そのものだろうしな。
「慎二! おっそ〜い!」
「うわたたっ! お、驚かすなよ、水月」
 いきなり耳元で怒鳴るなよ、まったく。
「もう、何してたのよ。ほぉ〜ら、困ったパパでちゅねぇ〜」
 コイツめ……葉月を味方につけやがったな。
「おやおや慎二君、見事に尻に敷かれとりますな」
「孝之!」
 茶化した孝之が水月の一喝に大げさに飛びのき、涼宮の後ろに子供のように隠れる。
 思わず吹き出しそうになるのを、必死にこらえる。

 ……ここでも変わってないな。
 10年前の夏、学校裏のあの丘に集まって「仲間」を確認しあった俺たち4人。
 あれから、本当にいろいろなことがあった。
 涼宮の事故。
 絶望に沈んだ孝之と、それを励ました水月。
 事故から3年後、奇跡的に目覚めた涼宮。
 その涼宮とともに歩むことを選択した、孝之。
 それを受け止め、自分を見つめなおしたいと言い残し、一度は俺たちのもとを去った水月。
 いつかきっとまた会える、と信じつつも俺は……。

 どこへ行くかも告げずに去った水月だったが、縁は異なもの味なもの。
 涼宮の妹、茜ちゃんの競泳大会をきっかけに、とある高校の水泳コーチをしていた水月と再会。 その後、再び俺たちのもとを去ろうとした水月を、一人にしてはおけない、と追いかけたんだ。
 そこで、孝之のことを忘れられない、それでもいいの? と訴える水月。
 それを、俺は……受け入れたんだ。
 ……今は、それでもいい。いつか、時間が解決してくれるさ、と。

「さぁ〜て! 皆さん集まられたようですし、始めますか!」
 壇上から室田の声が宴会場に響いた。
 ……よっ! 委員長!
 ……お熱いね、お二人さん!
 乱れ飛ぶヤジを制しながら、室田の演説が続く。さすが元委員長、そして現市会議員。 よく口が回るものだ。
 やがて演説が終わったのか、ざわめきが増す。みな思い思いに場を楽しんでいるようだ。

「こぉら、慎二! ほら飲みなさい」
 横から差し出された水割りのグラスを受け取る。
「しっかし、10年も経つと変わるものは変わるよな。同窓会はそれを確認する場だって ホント思うよ。これだから、人生、面白いんだけどな」
 ……人生が、面白い。
 孝之が口にした言葉は、かつて香月先生から贈られたそれだった。
 そう言って笑える日が、必ず訪れる、と。
「孝之ぃ〜、ガラにもなく、何オヤジくさいこと言ってんのよ」
 すかさず水月のツッコミが入る。
「ガラにもなく、とは失礼だな。おい、遙も何か言ってやれよ」
 案の定、涼宮は横で笑っているだけ。
  そういうことを涼宮に期待するな、っていつだったか誰かに言われなかったか?
 ……………
 それにしても、こうやってお互いの「幸せ」を確認しあえるのが、嬉しいよな。


 ……穏やかな、昼下がり。
 あたえられた「時間」の中で、俺たちは……
 今日も、俺たちにとっての「幸せ」を模索してゆく……。


〜Fin〜


≪あとがき≫

 本当に「同窓会」を書きたかった、というだけの理由で書いたものですので、単なる日常描写 だけで物語性も起伏もありません。
 現在これをベースに、この「同窓会」で描いた?シチュがどのようにして成立??したのか、を 遙エンド後の総括SSとブチ上げて書き進めております。遙聖誕祭までには仕上げたいと思っています。
 なので、今回のページ編集で唯一と言ってよい、「手を加えていないSS」となっております。

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