結晶成長を観る 〜尿素の花のしくみを探る〜
1 はじめに
自然科学部では文化祭の発表のひとつに「尿素の花」を作って展示した。尿素の飽和溶液を作ってビーカーに入れ、洗剤と洗濯のりを加えて放置すると、1,2日で樹枝状のきれいな「尿素の花」ができる。これは、インターネットのいくつかのホームページにも紹介されている実験であるが、その仕組みについてあまり記載されていなかったため、その仕組みについて詳しく探った。この「尿素の花」がなぜできるのか、洗剤と洗濯のりはどのような効果があるのかを調べた。
2 実験
(1)実験1
洗剤と洗濯のりの配合割合によって、尿素の花のできかたがどのように変わるかを確かめた。25℃で水1lに尿素1kgとかした溶液をつくり、25個の100mlビーカーに50mlずつ入れ、洗剤と洗濯のり(PVA:ポリビニールアルコール)を左下の図のような割合で加えて、2日間放置したところ右下の写真のようになった。
洗剤が1滴から10滴で、洗濯のりが2mlのときに尿素の花の成長がみられ、洗濯のりが多くなると、結晶は細かくなるが成長がみられないことがわかった。
(2)実験2
5個のシャーレに尿素の飽和溶液25mlと洗剤1滴を入れ、左から洗濯のりを0ml、1ml、5ml、10ml、15ml入れ、ろ紙を円柱にしたものを芯として立てて1日間放置した。その結果が次の写真である。
洗濯のりが1mlのときに尿素の花がきれいに成長し、他は成長がみられなかった。芯を立てることで、水分の蒸発がおきやすくなり、尿素の花ができやすくなる。しかし、洗濯のりが多くなると、尿素の濃度が薄くなるとともに、洗濯のりの保水性のため水分の蒸発が起こりにくくなるためと考えられる。
(3)実験3
100mlビーカーに尿素の飽和溶液50mlを入れ、洗剤1滴と洗濯のり2mlを加え、尿素の花が成長する様子を24時間にわたってデジタルビデオカメラで撮影しDVDレコーダーに内蔵されたHDDに録画した。その様子を連続写真にしたものが次の写真である。
始めビーカーの壁に細かな結晶が生成し、毛細管現象によって溶液が吸い上げられて、結晶が上に伸びてゆく。ビーカーの縁までくるとさらに蒸発しやすくなり、成長が速くなり樹枝状の尿素の花が成長する様子がわる。
6時間後 10時間後 14時間後 22時間後
(4)実験4
スライドガラスに飽和尿素溶液のみ、洗剤1滴を添加した溶液、のり1ml添加した溶液、洗剤1滴と のり1ml添加した溶液をそれぞれ1滴ずつとり、顕微鏡で観察したところ次の写真のような様子を観察することができた。
飽和尿素溶液 洗剤1滴添加 のり1ml添加 洗剤1滴+のり1ml添加
尿素溶液のみのときは、針状結晶が内側に向かって成長していった。洗剤1滴を添加したときは、針状結晶が内側だけでなく外側にも成長した。のり1mlを添加したときは、非常に細い針状結晶が急速に内側に向かって成長していった。洗剤1滴と のり1ml添加したときは、樹枝状の結晶が外側に爆発的に成長する様子が観察できた。
3 考察
尿素は水に対する溶解度が大きく再結晶させやすく、その結晶は針状結晶である。洗剤と洗濯のりを加えると樹枝状の花のように成長するのは、
洗濯のりを加えることで結晶が細い繊維状になる。
洗剤を入れることで表面張力が小さくなってしみこみやすくなり、溶液が吸い上げられて上方で水分が蒸発して結晶が生成する。
と考えられる。
4 参考文献
(1)コップに花を咲かせましょう http://www.sci-museum.jp/news/text/2001/c010923(1).html
(2)尿素の結晶を作ろう http://www.eyeladream.com/exp/ex-200212.html
(3)結晶の成長を顕微鏡で観察しよう http://www.kagaku.info/crystal9909/crystal2.htm