粉塵爆発のメカニズムを探る
2 粉塵爆発装置の製作
“粉塵爆発”というと、炭鉱での炭塵爆発が有名だが、化学実験書によると、砂糖を使って簡単に爆発を起こすことができると書かれている。砂糖が爆発するという、この興味深い現象について、さまざまな実験を通して、粉塵爆発の起こる条件とメカニズムを探ることにした。
安全性を考えて、小型で毎回同じ条件で簡単に爆発を起ことのできる下のような装置を製作した。ヒノキ材で骨組みを作り、中心に直径10pの穴をあけたベニヤ板を取り付けた。ベニヤ板の穴にロートを取り付け、そのすぐ横にロウソク立てとして釘を立てた。装置全体に透明ゴミ袋(30 L用、700×500×0.03mm)を被せることにより、装置内の空間の体積は約20 Lとなった。
エアーステップポンプを3回続けて踏むことにより、約500mlの空気を装置の中に送り込んで、ロート内に入れた砂糖を舞い上がらせ、この舞い上がった砂糖にロウソクの火がつき、全体に燃え広がり爆発する。
3 粒子の大きさによる爆発の違い
粒子の大きさによる爆発の違いを調べるため、グラニュー糖を乳鉢ですりつぶし粉砂糖にしたものを篩によって分けた4種類の粒子を、それぞれ30mlはかり取って装置に入れ、空気を送り込み爆発するか調べた。実験に使った4種類の粒子をそれぞれ顕微鏡で観察し、対物マイクロメーターを用いて大きさを測った。結果は次の表の通りである。
粒子の大きさが10〜100μmと一番小さい4は、つまんで見たときの感触が非常に滑らかであった。爆発実験の際も、ほとんどの粒子が空気中を漂っており、すぐに落下してしまう粒子は見られなかった。そして、3の時とは比べものにならないほどの激しい爆発が起こり、炎は天井まで到達した。下はその様子の連続写真である。以上のことから、砂糖の粉塵爆発では、粒子の大きさが100μm以下になってはじめて激しい爆発が起こることがわかった。
4 砂糖の分量による爆発の違い
砂糖の分量の違いによって、爆発の規模がどう変化するのかを調べることにした。前の実験から、一番爆発を起こしやすいbSの粒子を使い、1gから25gまでの爆発の様子を調べた。結果は次の表の通りである。
砂糖の分量の違いによって、爆発の規模がどう変化するのかを調べることにした。前の実験から、一番爆発を起こしやすいbSの粒子を使い、1gから25gまでの爆発の様子を調べた。結果は次の表の通りである。
爆発が起こったのは2gのときからだった。2gから5gまでは、量を増やすごとに炎が次第に大きくなっていった。しかし、5gを越すと炎の大きさはほとんど変わらなくなり、爆発しきれずに残ってしまう粒子が増えた。これは、装置内に全ての砂糖を燃焼させるだけの酸素がなかったと考えられる。計算してみると、装置内の酸素は5gの粉砂糖を燃焼させるだけしかないことがわかった。
5 物質の種類による爆発の違い
物質の種類による爆発の様子の違いを調べた。先の実験で使った砂糖の他に、アルミニウム・鉄・銅・亜鉛・硫黄・活性炭・竹炭・小麦粉・片栗粉を使用し、それぞれ2g・5g・8g・10gの爆発を観察した。また、燃焼した際に危険な気体を出す物質は、屋外で実験をした。結果は次の表の通りである。
アルミニウムは、激しく爆発して酸化アルミニウムの白煙を生じた。アルミニウムの場合は、その量が増えるごとに、確実に爆発の激しさを増していった。下は5gを使って爆発実験をしたときの連続写真である。
しかし、同じ金属である亜鉛・鉄・銅は、爆発が起こらなかった。
硫黄は、着火はするものの炎が広がらなかったため、爆発にはいたらず、単に燃焼しているだけであった。また、硫黄の粉末はとても細かい粒子なのだが、すぐに塊になってしまい、装置の中で漂う様子が見られなかった。
活性炭や竹炭は、ロウソクの炎の近くで火の粉がちらつくだけで、爆発はしなかった。炭鉱での粉塵爆発については100年以上も前から言われてきたので、この結果は意外であった。
有機物の中では、粉砂糖が最も着火性に優れ、次いで小麦粉が爆発しやすかった。同じデンプン質である片栗粉は、粒子が細かいにもかかわらず爆発は起きなかった。これはおそらくその製法から、水分を多く含むためと考えられる。そこで、片栗粉を電子レンジで5分間処理をして乾燥させたところ、小麦粉以上に激しく爆発した。これにより、粉塵爆発には、粉塵に含まれる水分の影響が大きいことがわかった。また、粉砂糖の中でもケーキ用のシュガーパウダーは最も着火性に優れていた。
実験で使用した物質の密度・融点・沸点・燃焼熱を調べてみると次の表のようになった。
鉄・銅・炭素が爆発しなかったのは、融点が高いため着火しにくく、燃焼熱が小さく炎が燃え広がりにくいためと考えられる。そして、亜鉛・鉄・銅は密度が大きいため空気中を漂わず、粉塵爆発には適さないと考えられる。アルミニウムは、他の金属よりも融点が低く、燃焼熱も大きいため、粉塵爆発しやすい物質といえる。
硫黄は密度も小さく、融点も低いため着火はしやすいが、燃焼熱が小さいため着火しても炎が広がりにくいと考えられる。活性炭および竹炭は、密度が小さく、燃焼熱もまずまず大きいが、融点が他の物質に比べて2倍近くも高かったため、ロウソクの炎では着火しにくいと考えられる。
スクロースは密度が小さく、融点も非常に低い。そして燃焼熱が比較的大きいことから、粉塵爆発を最もしやすい物質であることがわかった。
粉砂糖の粉塵爆発の詳しい様子を調べるために、ポリ袋を被せない状態で爆発させて、デジタルビデオカメラで撮影した。撮影したビデオを1/30秒のコマ送りでスロー再生をして、着火の瞬間や炎の広がり方を観察した。下の写真は着火する様子の連続写真である。
一連の実験を通して、粉塵爆発が起こる条件には以下のことがあげられる。
@ 粉状態である(100μm以下)
A 融点が低く、着火性に優れている
B 燃焼熱が大きい
C 水分を含まず乾燥している
それではなぜ、融点も高く、燃焼熱もさほど大きくない炭素が原因で、過去に多くの炭鉱で炭塵爆発が起こったのだろうか。
炭鉱での炭塵爆発の原因となったのは、石炭の微粉末である。火力発電所で使われている石炭(瀝青炭)を分けていただくことができた。その石炭を鉄製の乳鉢で粉末(粒子の大きさ20〜50μm)にして爆発実験をしたところ、爆発が起こった。下はその連続写真である。
石炭の爆発は、砂糖の爆発に比べて、ススが多く発生するため炎が明るく、また、煙の色も大きく違った。
実験に使った石炭の成分を調べてみると、炭素72%、酸素14%、水素6%、窒素2%、硫黄1%、その他5%と、活性炭や竹炭と違い炭素以外の成分が多く含まれていることがわかった。このため石炭を加熱すると、不純物を含む気体が放出される。それが粉塵爆発の原因であると考えられる。
はじめ、私たちは舞い上げられた微粉末が直接燃焼し、爆発に至っていると考えていた。しかし、数々の爆発実験の様子から考えると、次のようなメカニズムで粉塵爆発は起こっていると考えられる。
@粒子が加熱されると可燃性のガスが発生し、これに引火する。
A粒子が燃焼し、その燃焼熱によって、他の粒子のガスの発生が促進され、反応が爆発的に進行する。
「たのしくわかる化学実験事典」 左巻 健男 編著 東京書籍
「フォトサイエンス化学図録」 数研出版編集部 編著 数研出版
「粉塵爆破についての研究」 http:// www.geocities.co.jp/Technopolis/2754/hunjin.htm
6 爆発のメカニズム
7 粉塵爆発の条件