壁に据え付けられている洋服掛けは
      特別ホックもついていなければ
      とりたてて
      そのための機能をはたす器具もない。
      それはただの細長い木片で
      限りなく白に近いベージュ色をしている。
      
      木片の上部にハンガーの先をひっかけて
      服を吊るす。
      
      多く使用したばあい
      まるで首吊り屍体が
      何体も壁に下がっているようにも見える。

      だいたいその屍体は
      黒がもっぱらなのだが(冬なので)
      ときには白いパンツやブルーのジーンズを履いていたり
      ひどいのになると二色に塗りわけられた屍体
      布一枚が綺麗に折り曲げられた残酷なものなど
      多種多様に認知される。
      背景の壁は何年たっても真っ白なのに…
      ただこれも当たり前で
      毎年、アパートの管理人が大騒ぎして純白な壁紙に貼り替え
      ボクらから、しこたま管理費を巻き上げる。
      
      ときにさまざまな屍体は
      その型に適わせて、すべて異なった悶絶の仕方をしているのに反して
      背景はじつに爽やかなのだ。
      抜殻だから、死そのものでいいはずなのに
      生きていたときよりも、真実を語る。
      そのうえちょっとかっこいい。
      さらに、ほとんどのものがこちらを見ていない。
      どこを見ているのだろうか?
      かれらは、メタファーになりきっているので
      まちがいなく〈現実〉の方へ向かず
      どこか静謐とした世界へ釘付けになっている。
      だが、後ろの白≠ヘ現実も屍体世界も見ていない。

      ― 「こっち」でもなければ「あっち」でもない―
      ある日、ほんとうに服の持ち主が死んだ。
      いま言った秩序は現実になる。
      一気に『意味』をもちはじめる。
      
      でも、実は、それは誤りで
      ほんとうは、あの屍体たちを釘付けにしていた〈世界〉が
      突如、現実に炙り出されてくるのだ。
      そしてこちら側がひたすらあの背景の白≠ノなってしまう。

      ―「こっち」でもなければ「あっち」でもない―
      
      だから、人が死ぬ一瞬
      ボクらは少し宇宙を経験するんだ。






















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