秘湯紀行  (岩手県西和賀町・見立温泉)

最近のTV番組と来たら、食べているか、クイズをやってるか、温泉に入っているかのどれかですね。これに影響されたわけではないのですが、秘湯と呼ぶにふさわしい温泉にご案内しましょう。

自宅のある横手から、国道107号線を東に向かって1時間。和賀町の錦秋湖に架かっている天ガ瀬橋を渡る。湯田錦秋湖駅前を通り過ぎると、道は秋田自動車道の下をくぐり抜ける。そのまま行くと、草井沢集落にさしかかる。ここで道は大きく左にカーブしている。とちゅうに、「蓄音機の家」と書かれた看板が目についた。家全体が蓄音機で出来ているのかのかは不明である。機会があったら立ち寄ってみたいと思う。

カーブを曲がると道は程なく南本内川を橋で越える。渡りきったところが本屋敷という所である。ここは、卯根倉鉱山跡への入り口の集落である。集落を通り過ぎると、まもなく道は二手に分かれる。

分かれ道

ここからは左に進路をとる。直進するとAbout10Km位林道を走り、南本内岳の登山口へと続く。
左折しても道は林道とは言うもののりっぱに舗装されていた。ここは、夏油湯田線と言う林道なのだが、この先は行き止まりとなっているはずだ。

行き止まり先には鷲合森鉱山跡がある。昭和47年に閉山した銅や銀などを産した山奥の鉱山である。

左折して暫くは舗装道路なのだが、3Kmほど進むと唐突に舗装は終わりジャリ道となる。

この林道は、夏油温泉と湯田町とを繋ぐ目的
で造られたのだが、完成することなく廃道とな
っている。道の両側は、右の写真の通り物凄
い植物達が道幅を狭めていた。

舗装が切れてからと言うもの、 車の両側から
は太古の植物のごとく巨大化したイタドリ達が
我が愛車の両側から攻め立て、ガサガサ、シ
ー・シーという擦っている音が絶え間なく運転
席まで聞こえてくる。いくら10年近く乗ってい
るポンコツ車といえども 、あまり気持ちによい
音ではない。

凸凹道を1Kmくら走ると、いきなり真新しい看板が目に入った。

      見立の湯

象形文字風に書かれた看板であったが、最近ではあまり目にすることが無くなった温泉マークが、やけに懐かしかった。変な意味ではないですよ!

看板はあったが、付近には温泉らしき雰囲気はない。山奥のまっただなかである。しかし、これだけ目立つ看板があると言うことは、絶対この側に温泉があるはずだ。
しかし、ここまでくる途中には一台の車とも行き会わなかったのが不思議だった。考えるに、それだけ山奥なのだろう。鳥のさえずり以外は何も聞こえない。
ふと、看板の後ろを見ると何やら踏み跡らしき道がある。まるで獣道と言ったほうがぴったりである。何となく入っていくのに抵抗があったが、せっかくここまで来て温泉に入らないのでは意味がない。
まずは愛車を路肩の少し広くなっている所に止めた。
そして、身支度をする。なにせ、今は真夏である。
サンダル履きに短パン、ノースリーブのシャツで来て
しまった。これでは、虫に刺されてくれと言わんばか
りの出で立ちである。
では、着替えましょう。まず、農作業ブーツ(長靴とも
言います)、長袖シャツ、長ズボンに着替える。
それと、これが最も重要なアイテムだが、電子ホイッ
スルを忘れてはいけない。クマ公が出てこないように
人間様の存在をアピ^ルするアイテムだ。
では、いざ出陣!

歩き始めてすぐに道は二手に分かれ、まっすぐ行く道は、真っ逆さまに沢へと続き、もう一方は少しの登りで巨大なブナ林を進んでいく。
五分ほどのアップダウンを繰り返すと眼下に湯船と思わしきものが見えた。

あった〜〜〜温泉だ〜〜

上から見る温泉場は、まさに秘湯と呼ぶに相応しく、山奥の渓流沿いの広場に、湯船が二つたたずんでいた。人類は自分以外には誰もいない。さっそく下へと降りてみた。

そこは、平坦な広場だが地面は湿気でジメジメしていて、何となく陰気な妖気さえ漂っている。それもそのはず時間は午後四時を回ろうとしていた。周りを山で囲まれているせいか、薄暗くなるのが町より早そうである。

湯船は二つあり、片方はお湯が入っておらず落ち葉
などが溜まっていた。もう片方には満々とお湯が満た
されていて、湯船の側にはプラスチックの桶まであっ
た。すごく綺麗で誰かが管理しているかとも思われた。

では、入浴シーンです。裸になるには少し躊躇いもあ
ったが、付近には誰もいないからと言い聞かせて

   ザブ〜〜ン!!

お湯は無職透明で臭いも全くしない。ただ、少し温め
である。春先や秋に入れば、きっと風邪を引くと思われる。

入浴中もここの周囲には気を配る。もしかしたら野獣が襲ってくるかも・・・・・・・・。なにしろ、入浴中は完全フル○○無防備なのですから。

後で聞いた話ですが、ここの温泉はもともと建物の中にあったそうで、その建物を取り壊すときに湯船だけはそのままの状態にしておいたのだそうです。建物は、この奥にあった鷲合森鉱山の事務所だったらしいのです。それで、湯船がタイル張りの訳が分かりました。

夕暮れと、周りの静けさにおののきながら、あたふたと湯船から上がった。入浴中、誰かに見られているような気がしたのは何故だろう。

風呂から上がり、体を拭くのも早々に帰途についた。車をおいたところまで帰ってきたとき、看板の裏には

  山あいに 忘れられし湯  見立あり

平成19年7月吉日と書かれていた。きっと地元の有志の人だろうと思った。

ひょんなことからここの温泉の話を聞き、実際に訪ねてみたわけだが話の通り秘湯だった。言い換えると秘境にある秘湯とでもいいましょうか。
でも、一人で行くのはちと怖いような・・・・・・・。

ここから先はジャリ道

林道脇に駐車して・・・

あれって、温泉ですか?

正真正銘の露天風呂です