図1 メッシュ別出現回数(2003.11〜2004.07)

図2 メッシュ別出現回数(1999.07〜2002.03)

図3 植生調査図

図4 森林簿よる森林状況図

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Investigation and Protective Action of Golden Eagle in the Mountain

District of Miyazaki Prefecture

Southernmost population of golden eagle in Japan is found in Miyazaki Prefecture.  To design a protective control for this population, I examined the relation between the behavior of the eagle and the vegetation of the area by group monitoring and vegetation survey. 

The survey was conducted from November 2003 to July 2004 for a total of 16 days (84 man-days).  The gross survey area was approximately 63 km2 which included 252 of the 4th-meshes, the map code defined by the Ministry of the Environment.  Eight monitoring points were located within this range.  The survey revealed that only one golden eagle inhabits the area.  Its flight was confirmed in 44 mesh areas.  The entire home range was estimated to be approximately 25 m2, and the core area 7 km2

The habitat environment of the golden eagle was examined using the vegetation map assembled from the data obtained by directly visiting the area and the forest survey report of Miyazaki Regional Forest Office.  The core area, where more than 5 flights per mesh was observed, consisted more of planted coniferous forests of over 15 years old trees (35.4%), while the rest of the home range, where 1 to 2 flight per mesh was observed, consisted of less planted coniferous forests (20.6%) and more natural forest (54.7%) of over 15 years old trees.

Protective actions such as assigning a special preserve under "The Law Concerning Wildlife Protection and Appropriate Hunting" are necessary.

 謝 辞

  この調査は、PRO NATURA FUNDの助成を受けて実施したものです。イヌワシの生態に関する貴重なデーターを得ることができました。調査を実施するにあたり、日本イヌワシ研究会の山崎亨氏から適切なご指導を賜りました。また 、現地調査においては、宮崎クマタカ生態研究会メンバーの岩切康二、落合修一、尾林紀子、小城義文、児玉純一、竹下完、中島義人、長谷勝之、吉野保一の各氏に全面的に協力をいただきました。
 植物の専門家として河野耕三氏には植生調査をお願いしました。これらの方々に深く感謝の意を表する次第です。

 7 今後の課題 

 (1)生態学的な問題点

  ア.単独個体しか生息してないので、この個体の寿命がきたら、宮崎県内では絶滅種になる可能性が大きいです。

  イ.この個体の雌雄が不明です。当該個体の羽を収集し、DNA分析等で雌雄を判定する必要があります。

  ウ.塒と営巣場所が特定されていません。

  エ.行動圏の推定において、当該行動圏の北側と東側は、地形的条件から調査地点を配置するのが難しく、調査対象地域にしていないので、行動圏の範囲は多少広くなると思われます。

 (2)イヌワシ保護施策の問題点

  ア.当該地域でのイヌワシ生息の確認は、5年前でありますが、何時から当該地域に生息しているのかは不明です。当該地域に生息している要因として、採餌に有利な条件が揃っていることが第一なのは当然ですが、当該地域の林道は、入り口が施錠されており自由に入山出来ないので、人為的圧力が少なくなっているのも大きな生息要因になっているといえます。

  イ.当該地域の保護施策としては、現在、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」による「鳥獣保護区」と「休猟区」に指定されているのみです。イヌワシの恒久的な保護対策を検討する場合、法令等による保護対策が基本と考えられます。ついては、次のような保護対策を検討する必要があると思います。

   ・鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の規制の格上げ。特別保護地区の指定
    ・自然公園法に基づく国定公園の指定
    ・自然環境保全法に基づく自然環境保全地域の指定
    ・絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に基づく生息地保護区の指定

 参考文献

 日本イヌワシ研究会 2000 イヌワシ行動圏の高頻度利用域における植生調査(予報)
 財団法人日本鳥獣保護連盟 2004.  稀少猛禽類調査報告書(イヌワシ編)
 宮崎県 2002 猛禽類調査(イヌワシ生息調査)報告書
 宮崎クマタカ生態研究会 2002 全国稀少猛禽類調査 クマタカ分布調査(平成13年度宮崎県現地調査)報告書
 財団法人ダム水源地環境整備センター 2001 イヌワシ・クマタカ調査方法

6 考察

  以上の本調査結果から本調査対象範囲におけるイヌワシの生態についてまとめると次のようなことがいえます。

 (1)現在、生息している個体数は1羽です。

 (2)イヌワシの生活圏は、河川支流上流を中心とする右岸の北斜面から稜線と左岸の南斜面から稜線までの範囲で、その行動圏は約25qと推定できます。

 (3)確認回数の多いコア行動圏は、約7qと推定できます。 

 (4)希少猛禽類調査報告書(イヌワシ編)によると、岩手県に生息しているペアの行動圏が77〜108q、長野県のペアの行動圏が99〜105q、滋賀県ペアが52〜82qと報告されています。これに比べると当該個体は単独個体であり、行動範囲も約25qと非常に狭くなっています。この理由として、当該地域は、照葉樹林帯で餌も豊富であり、単独個体であるため行動範囲が狭くても生息できるものと推定できます。
 今回の調査では、クマタカも多数確認されております。当該地域のクマタカの生息範囲は、全国稀少猛禽類調査(クマタカ分布調査)によると約20qと言われております。

 (5)コア行動圏は、長野県ペアが13〜14q、滋賀県ペアが10〜12qと報告されています。当該個体は、約7qほぼ半分の面積となっています。このコア行動圏はハンティングエリアとして利用しており、今回の調査でもこのコア行動圏内で小型の哺乳類を捕獲した事例を観察しました。

 (6)今回の調査は、イヌワシの行動範囲を確認するため、調査地点を稜線の南斜面に配置して観察しましたが、2月にST5とST6で飛行を確認しただけで、稜線を超えて河川本流域を利用するケースは非常に小さいと推定できます。

 (7)約25qの行動圏の西部と南部にはまとまった天然林が立地していますが、表4イヌワシ確認回数と植生区分から判断すると、人工林の少ないこの地域は、現在利用していないものと推定できます。しかし、ペアで生息する場合は、行動圏が拡大される可能性があると推察できます。

5 イヌワシ行動圏と植生

イヌワシの行動圏及びコア行動圏と植生分布との関連を考察すると、表4イヌワシ確認回数と植生区分に示すように、確認回数5回以上のコア行動圏は、樹齢15年以上の人工林が35.4%を占めているのに対して、確認回数1〜2回のコア行動圏以外の行動圏では人工林が20.6%と低くなっており、樹齢15年以上の天然林が54.7%になっています。

表4  イヌワシ確認回数と植生区分(%)

確認回数

メッシュ

伐採跡地

天然林

人工林

5〜12

13

23.8

40.8

35.4

3〜4

11

24.5

43.6

31.8

1〜2

17

24.7

54.7

20.6

   (注)メッシュ:イヌワシの確認したメッシの数
   伐採跡地は、林齢15年未満の天然林、人工林と天然林は林齢15年以上のもの

4 植生調査結果

植生調査は次の2種類の方法で実施しました。

(1)専門家による植生図の作成

 前項で推定しましたイヌワシの行動圏を中心に植生の専門家が現地踏査をおこない、図3の植生図を作成しました。

(2)
森林調査簿による森林状況図の作成

 森林管理署の森林調査簿に基づき、調査対象範囲内の図4の森林簿による森林状況図を作成しました。

3 本調査結果

1)調査対象地域の概況

 調査対象地域は、宮崎県中部に位置する九州山地の東側の山岳地帯にあります。
調査対象範囲は、図1に示すように環境庁メッシュコードの4次メッシュで252メッシュ(約63q)を調査対象範囲としました。

2)調査地点の配置

 既調査で観察されなかった範囲を観察するため、調査地点を7地点設置しました。図1に示すように、河川の支流の渓谷沿いに上流からST1〜ST3を設置しました。この支流の南側に河川本流が流れており、支流と本流の間の尾根線の南斜面を観察するため、ST4〜ST6を設置しました。ST6は本流沿いで、ST7は本流の右岸を観察するために設置しました。ST4-2はST3の下流域を観察するために追加しました。

3)調査日数と調査人員

 当調査に要した日数と調査人員は、表1月別調査日数と調査人員に示すように、調査日数が延べ16日、調査人員が延べ84人、調査地点は6〜8地点で調査を実施しました。

1  月別調査日数と調査人員

11

12

1

2

3

4

5

6

7

日数

1

2

2

2

2

3

2

0

2

16

人員

7

8

10

14

7

14

12

0

12

84

地点

7

6

8

8

6

8

7

0

6

56

(注)6月は降雨のため調査を中止しました。

4)イヌワシ確認状況

 本調査で確認されたイヌワシは、1羽のみでした。
 月別にイヌワシの確認したメッシュは、表2月別イヌワシの確認状況に示すように延べ16日の観察で、延べ132メッシュでイヌワシを確認しました。又、延べ28地点の観察地点で確認しています。

2  月別イヌワシの確認状況

11

12

1

2

3

4

5

6

7

日数

1

2

2

2

2

3

2

0

2

16

確認

5

0

24

28

10

15

14

0

36

132

地点

1

0

6

6

3

4

3

0

5

28

(注)日数:観察日数
   確認:イヌワシを確認した延べメッシュ数
   地点:イヌワシを確認した調査地点の延べ数

5)観察地点別イヌワシ確認状況

 観察地点別イヌワシ確認状況は、表3に示すように、イヌワシの確認の殆どが、支流沿いに設置した調査地点ST1、ST2及びST3で確認されました。本流左岸の斜面で確認されたのは、2月にST5及びST6のみ確認されました。

表3  地点別調査日数とイヌワシ確認日数

地点

1

2

3

4

4-2

5

6

7

日数

14

14

10

12

3

12

11

7

83

確認

13

9

3

0

1

1

1

0

28

(注)日数:観察日数
   確認:イヌワシを確認した日数

6)イヌワシの行動範囲

 イヌワシの行動範囲は、図1メッシュ別確認回数(2003.11〜2004.7)に示すように44メッシュで飛行が確認されました。このメッシュのうち一番確認率の高いメッシュは、ST1の対岸のメッシュで12回確認しています。次ぎにST1のメッシュで10回確認し、次ぎに多いのが支流の左岸の山塊のピークから伸びている南斜面で9回確認しています。
 一方、既調査において収集したデーターから図2メッシュ別確認回数(1999.7〜2002.3)を示します。
 図1及び図2のメッシュ別確認回数から当該個体の行動圏を推定しますと、約25qと推定できます。5回以上の確認があった範囲をコア行動圏としますと、約7qの範囲が高頻度利用圏として位置づけできます。

2 活動の内容 

(1)調査及び保護活動のポイント
・調査対象範囲を既調査の約18qから約63qに拡大しました。
調査地点を7地点設定しました。
・植生調査を実施し、イヌワシの生活行動と地域の植生構造との関連を検討しました。
・これらの結果を踏まえ、科学的な根拠に基づく保護対策を検討しました。

(2)調査期間

  2003年10月から2004年09月までの1年間

(3)モニタリング調査日数および時間

  毎月1日 年間12日
  1日の調査時間 09:00〜16:00

(4)調査方法

・モニタリング調査
 8地点の調査地点には無線機を配置し、調査員どうしが連絡を取りながら、双眼鏡、望遠鏡、カメラ等、記録用紙と地図を使い、イヌワシの行動を追跡し、観察結果を詳細に記録しました。
 
・植生調査は、モニタリング調査(以下「本調査」という。)の結果イヌワシの重要な行動圏と思われる範囲について、植生の専門家が現地踏査をおこない、植生図を作成しました。

・一方、森林管理署の森林調査簿に基づき、調査対象範囲内の森林状況図を作成しました。
・保護対策の検討は、イヌワシの行動観察結果と植生構造との関連を検討し、科学的に根拠のある保護対策を検討しました。


Investigation and Protective Action of Golden Eagle in the Mountain
District of Miyazaki Prefecture
Nonprofit Organization
Himuka Satoyama Nature School

Shigeto Iwakiri 

1 目的

1999年6月24日付け宮崎日々新聞で、宮崎県内で初めてイヌワシの生息が確認されたという報道がありました。この報道を受け、宮崎県によって、1999年10月から2002年3月までイヌワシの生息状況確認のための調査(以下「既調査」という。)が実施されました。その結果、1羽のみの生息が確認されました。しかし、その後イヌワシの生息状況確認の組織的な調査は実施されていません。1羽のイヌワシのみでは今後の繁殖の可能性がなく、営巣場所も確認されていません。
 今後、日本での南限といわれるこのイヌワシを保護するためには、継続的で組織的なモニタリング調査が必要です。並びに、イヌワシの生息南限地域における生息環境条件を把握し、イヌワシの生活行動と地域の植生構造との関連を解明し、当該地域にイヌワシが生息していけるための保護対策を確立する必要があります。
 モニタリング調査を継続するとともに、科学的な根拠に基づく保護対策の基礎資料を提案することを目的としています。

宮崎県内におけるイヌワシ調査と保護活動
NPO法人ひむか里山自然塾 岩切重人