景勝の地・新井川線のルートが決まるまで

白井 昭

 1981(昭和56)年に今の長島ダム地点に多目的ダムの建設が具体化し、ダムが完成すると井川線の現長島ダム駅〜接阻峡駅の間は水没することになり、井川線の付け替えが検討されました。
 付け替え新線はダムのできる所まで、今までより約90m高く上る必要があり、そのために次の3つの案が検討されました。

  1. 元の線に沿ったまま、ずっと手前から高架などで山腹を勾配で登る。
  2. アプト式鉄道にして特別な急勾配でダムの下から一気に登る。
  3. 山の中をループトンネルで2周して登る。

 検討の結果、アプト式鉄道が有利と分かりました。アプト式は碓氷峠で長年使われてきましたが、この時点では科学的分析が不十分でした。
 そこで研究委員会を設けて、スイスのアプト式鉄道を含め科学的な研究を進め、安全性を確認した上で新線の建設を始めました。
 アプト式とした場合、新線のうちアプト式の区間は約1.5kmと短く、ダムより上の区間は殆ど平坦なので普通の鉄道で作るよう計画されました。しかし当初の計画では線路は殆どが暗闇のトンネルを走るルートであったため、みんなで協議の上、ルートを少しだけずらしてS字形の大井川を渡る現在の湖上橋のルートに変更しました。
 その結果、ダム湖を眺める景観や、ユニークな湖上駅、鉄橋のサイドを歩くウオーキングコースなどが生まれ、多くの皆さんに親しまれています。
 この新しいコースを行く鉄道は平成2年秋に開通して、今年は12年目を迎えます。
 我が国唯一のアプト式区間では、アプト式の電気機関車が運転されていますが、急坂を登るときよりも降りるときの安全確保が大切となります。そのため停電でも有効な協力で安全な発電ブレーキを常用するほか、あらゆる安全対策を施しています。
 アプト区間の両端駅でのアプト式機関車の付け替えは、この線の一つの名物として大勢の観光客が列車を降りて楽しんでいます。
 井川線に新ルートが生まれた結果、この線はいっそう皆さんに親しまれる、楽しい鉄道となりました。

2002年10月16日


白井 昭:
大井川鐵道株式会社顧問,産業考古学会会員,中部産業遺産研究会会員,鉄道友の会参与,海外鉄道研究会会員,日本ナショナルトラスト会員.


[ 白井昭電子博物館トップへ | 中部産業遺産研究会ホームページ | メールでのご意見・お問い合わせ ]

Copyright 2002 SHIRAI Akira, All rights reserved.