大井川鐵道で千頭駅転車台の図面を保存へ

2005年6月10日

白井 昭(中部産業遺産研究会・名古屋レールアーカイブス)

 この程、大井川鐵道にて千頭駅の50フィート転車台(1897年・英Ransoms & RapireCo.製)の図面が入手できたため、保存することとなりました。ただし、桁の図だけで、肝心の心皿(中央支承部)の構造などが分かりませんが、サインだけでも貴重です。

メーカー Ransomes & Rapire Co.
図面名 50'.0" Engine Turntable(桁のみ)
日付 Jan 10th 1899
サイン H DE BEER

本図の転車台は、イギリスの植民地であったラゴス向けの転車台のものでしたが、同一設計で当時の日本鉄道株式会社(現在のJR東日本・東北本線)向けに大量に輸出されました。

図面寄贈:今井寛氏(新潟産業考古学会)

【注記】
図面は、今井寛氏所蔵のものであることから、大橋周治氏(故人)が英国RANSOMES&RAPIER社から1977年〜83年に入手されたものであると考えられます。今回、正式にその写しが大井川鐵道に保存されることになりました。
この図は大井川鐵道にもあったはずなのですが、何らかの理由で失われていたようです。
(橋本英樹)

【大井川鐵道千頭駅転車台概略】(ご参考)
以下の文章は白井昭・橋本英樹の共著で「産業遺産研究10号」への投稿用として書かかれたものですが、実際には「産業遺産研究10号」の転車台の千頭駅転車台についての調査研究報告に含めました。

■概略
 日本に現存する転車台としては最古クラス。横から見ると底がすり鉢状になっている。
 バランスト型と呼ばれる構造の上路式転車台で回転中は転車台桁とSLの荷重は中央支承のみで支える。桁端車輪が円形レールに接しない状態で回す。そのため人間2人が手で押して約70トン のSLを積載した状態で回すことができる。
 これまでの調査は産業考古学会、新潟産業考古学会の会員諸氏により調査が行われ、その詳細は参考文献1〜3に記載されている。

■略歴
 1897(明治30)年 英国RANSOMES&RAPIER社製。同一設計のものが15基が輸入され旧日本鉄道株式会社(現在の東日本旅客鉄道株式会社の東北本線・常磐線)に納入された。本転車台はそのうちの1基。
 旧日本鉄道では1890年代前半まで1800形や2100形など低速のタンク機関車を使っていたが、1894(明治27)年に5500形(イギリス・Beyer Peacock社製)、1897(明治30)年に9700形(アメリカ・Baldwin社製)などのテンダ機関車を多数輸入して輸送の改善を図った。
 この転車台は輸入時期から考えてこれらのテンダ機関車やその後の機関車の大型化への対応を見越して輸入されたものと考えられる。輸入当時、どこに設置されたかなどは不明。

1941(昭和16)年頃 新潟県の赤谷鉱山開発に伴う赤谷線敷設の際に東赤谷駅に移設
1977(昭和52)年8月27日 産業考古学会の今井寛氏により調査
1977(昭和52)年9月25日 潟産業考古学会の大橋周治氏、瀬古龍雄氏、伊藤武夫氏により調査
1978(昭和53)年3月10日 「産業考古学 No.5」に本転車台のことが瀬古龍雄氏により紹介される
1978(昭和53)年4月 大橋周治氏が渡欧の際にRANSOMES&RAPIER社とコンタクトをとり、その後、大橋氏が同社から転車台の図面の提供を受ける
1979(昭和54)年頃 白井昭(当時、大井川鉄道常務取締役)から瀬古龍雄氏を通じて新潟鉄道管理局(当時)に転車台の大井川鐵道への払い下げへ向けての働きかけ
1980(昭和55)年7月 赤谷線から大井川鐵道へ向けて移設
1980(昭和55)年11月 大井川鐵道にて運用開始(回し初めは同年11月12日)
1981(昭和56)年1月 RANSOMES&RAPIER社の社内報に本転車台の記事が掲載される
1983(昭和58)年9月20日 「産業考古学 No.29」に大井川鐵道への移設までの経緯が今井寛氏により報告される
1999(平成11)年 産業考古学会の推薦産業遺産に指定(指定番号は50)
2001(平成13)年8月28日 文化庁から文化財保護法第56条の2第1項の規定により文化財登録原簿に登録される(登録番号第22-0075号)
登録証は2001(平成13)年9月14日に遠山敦子文部科学大臣より交付
登録名は「大井川鐵道車両用転車台 一基」

■主な仕様
全長     50ft(約15,240mm)
自重     17トン
積載荷重   最大95トン
所在地    静岡県榛原郡本川根町千頭
所有者    大井川鐵道株式会社

■参考文献
1)瀬古龍雄,「赤谷鉱山専用鉄道と飯豊川橋梁等」,産業考古学5,pp11-12,産業考古学会,1978年年3月10日
2)今井寛,「1897年製英国製の転車台−大井川鉄道で動態保存」,産業考古学29,pp2-5,産業考古学会,1983年9月20日
3)中川浩一,「蒸気機関車転向の立役者−ターンテーブルの機構と来歴−」,鉄道ピクトリアルNo.631,pp35-40, 鉄道図書刊行会,1997年1月


白井 昭:
名古屋レールアーカイブス会員、産業考古学会会員,中部産業遺産研究会会員,鉄道友の会参与,海外鉄道研究会会員,日本ナショナルトラスト会員.


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