「鉄道写真」とは、いうまでもなく鉄道を対象とした写真のことです。 鉄道は、通学・通勤・仕事・旅行などの移動手段として人々に親しまれていて、鉄道には皆そ れぞれに感情移入があるがあるのではないでしょうか。加えて、比較的大きな屋外の被写体で あり写しやすいこと、動いているものを写し止めることの興味などから鉄道車両や鉄道のある 風景を撮る人は結構多いものです。 鉄道は常時、改良・発達が進められているだけに、何年、何十年という時間を経て見ますと驚 くほどの変化が起こっています。その過程でさまざまな車両が生まれてバリエーションが豊富 になってきましたし、駅や線路も作り変えられてきました。中には、他の運輸手段との関係で使 命を終えた鉄道もあります。そうした移り変わりを記録に残すことも興味ある作業です。 鉄道写真の撮り方を別けますと、主に次のような 3つの行き方があると思います。
@ 形式写真…車両そのものの姿かたちを客観的に記録した写真
A 列車写真…列車として編成され運用されている状況を写した写真
B 創作写真…何らかの形で鉄道車両や鉄道施設を取りいれながら、
芸術性・叙述性を訴える写真
1. 形式写真
形式写真はいわばカタログ写真のようなもので、その形式・その号車の、その時点の構造、形 態、色彩などを、車両本位で撮影した写真です。同じ形式の車両でも、製造時期による違いが あり、時を経ると改造・塗色変更・部品変更などがありますので、たとえ形式が同じでも、何号 車で、いつの撮影かに意味があります。 形式写真としてよく見られるのは新車落成時の写真で、製造所または運行事業者が記録とし て撮ったものですが、部外者であっても、その後の変化を含めて長年にわたり撮り溜めていくこ とは大いに意味があります。 (1) 形式写真には三面図的な取り方もありますが、一般的には 1枚でその車両全体が把握で きるように、横側 やや斜め前から、画面いっぱいに撮ります。 「斜め前」といっても “前勝ち”に撮るか “横勝ち”に撮るかという問題がありますが、この種の 写真では足回りや扉・窓の配置をしっかり見せる必要があります。したがって、“横勝ち”に撮る ほうが望ましいと思います。とはいえ、せっかくのチャンスなら なるべくいくつかの方向や距離 から撮っておくことです。
どして “全面ピント”を狙います。 背景はなるべく単純なほうがよろしい。 被写体に建物や架線柱の影がかからないこと、手前に邪魔物がないことが肝心です。 前部または側面のナンバーは確実に写し込む必要があります。 床下の構造物が車体の陰になって不明瞭になっては困るので、撮るのは光がよく回る条件 のときが好適です。
側線や車庫で車両が“寝ている”状態(例えば電車なら、パンタグラフが畳んである状態)は 好ましくなく、いつでも動き出せるような「運転整備状態」がベストとされます。 他方、原則として 運転士を含め、人物は写し込まないようにします。 カメラの位置(高さ)は、軌道面上 1.0〜1.3 mが正統的です。これは都市間電車の床面高さ またはプラットホーム(電車用)の高さと同じ程度です。路盤の高さからですと 1.5 m 前後で、 これは大人が立って写す状態に相当します。中形三脚を使用する場合は、エレベーター軸をい っぱいに上げる必要があるでしょう。 プラットホームから写す場合は、立ったままですと位置が高すぎます。低くかがんで写しましょ う。 (2) 標準ないし短焦点レンズでは、近い部分が大きくデフォルメされて写ります。迫力のある写 真にはなりますが、形式写真では あまりデフォルメされないほうがよいので、形式写真にはや や長い焦点距離のレンズがお勧めです。ただし、長焦点レンズの場合はそれ相応に離れて 撮影しなければなりません。撮影場所の関係で “引き”が取れない場所では あまり長焦点が 使えない場合もあり、どこかで妥協せざるを得ないでしょう。 (3) カメラの光軸は水平にします。こうすることで垂直のものが縦に平行に揃って写ります。 その場合、被写体が必ずしも画面の真ん中で捉えられませんが、不必要な部分はあとでトリミ ングすればよいのです。 もしも、カメラの光軸をやや上向きにして少々見上げる角度で撮影しますと、垂直のものが上 方にすぼまった形に写ります。逆に高い位置からやや見下ろして撮影しますと、下方にすぼま った形に写ります。こういうことを避けるために、カメラの光軸を必ず水平にするのです(ライズ やシフトができるカメラなら申し分ないのですが、一般的ではありませんので 考えないことにし ます)。
(4) 車両の向きですが、蒸気機関車の場合は一部を除いて前後がはっきりしていますから誰 でも分かります。電気機関車・ディーゼル機関車・電車・気動車・客車・貨車などの場合は、先 頭・後尾専用車を除いて前後がほぼ対称形をしていますのでどちら向きでもよいようなもので すが、とくに機関車の場合は、[1]エンドと [2]エンドとがあるので、[1]エンドを前とみなして撮る のが正統的です。車体の端のほうに、四角で囲んで [1]または [2]のマークが書いてあります。 蒸気機関車では あの大きな動輪と主連棒・連結棒が重要なポイントです。形式写真ではクラ ンクピン・主連棒・連結棒が真下に来た状態で撮影します(走行中の列車写真でも、できれば そういうタイミングでシャッターを切ります)。 クランクピンが真下にない場合、機関車を少し動かしてもらえるといいのですが、部外者が勝 手な注文をつけるわけにはいきませんから、機関区や駅をたびたび訪れてはチャンスを狙うこ とです。 (5) 車両が汚れていては、惜しい写真になります。したがって、新製直後か、全検整備直後の きれいな状態のときが 形式写真には絶好のチャンスです。 形式写真は原則として車両の左側から撮ります。しかし、ついでに右側も、正面も、斜め後ろ からも撮っておくとよいでしょう。 さらに、特徴のある各部分もアップで撮っておくと、後々よい参考資料になります。 形式写真は克明であることが第一です。大判カメラですとリベットの一本一本まで克明に写 ったすばらしい写真ができます。しかし、35ミリ判などの小型カメラを使用しても、レンズやフィル ムを吟味してディーテールまでしっかり写しとりたいものです。
2. 列車写真(編成写真)
列車写真とは、ズバリ「列車」の写真です。 「車両」と「列車」の違いはすでにご存知と思いますが、車両は車そのもののことで、列車は車 両が運行する状態のことだといえばよいでしょう。一口でいえば、車両が仕事をしているときが 列車です。たった 1両であっても、目的を持って運行しているときは立派な列車です。路面電車 なんかはたいてい 1両で走っていますよね。 (1) 列車を撮るのは 走行中でも、駅などに停車中でもかまいません。列車写真ではどんな車 両が、どんな順序につながっているかをしっかり捉えることです。 直線区間では、どうしても後部の車両が小さくなってよく分かりませんから、曲線から直線に 移ったところの曲線内方で撮ると、後部までよく見える写真になります。 列車が風景の一部として小さく写っているものは車両がよく分かりませんし、また最後尾まで 写っていない“尻切れトンボ”では困ります。 電化区間では架線柱が邪魔になるものですが、駅などの、柱のスパンが開いているところが 好適です。架線柱が門形ではなく 片持ち式のところがあれば最適で、柱のない側から撮れば よいわけです。 いずれの場合も、柱や梁、またはその陰が、少なくとも最前部には掛からないようにシャッ ターチャンスを選びます。 (2) ピントは、列車の顔である最前部に合わせるのが鉄則です。 ただ列車を画面いっぱいに撮ろうとすると、最前部が画面の横のほうに寄りますので、画面中 央部で合焦させるオートフォーカス(AF)カメラではうまく最前部に合いません。走っている列車 の場合は、合焦遅れがあるためなおさらです。そういう場合は、いわゆる「振りピン」または「置 きピン」のテクニックを使います。 「振りピン」とは、AFカメラを使用するときのテクニックで、合焦させたい最全部を画面の中央 に持ってきてシャッターを半押ししたのち、そのままカメラを振って構図が決まったところで本押 しをします。停車している列車の場合に有効です。 また「置きピン」とは、主にマニュアルフォーカシング(MF)カメラの場合に、列車がここまで来 たら写そうという位置にあらかじめピントを合わせておいて、その位置に列車が来るのを待って シャッターを切るテクニックです。長焦点レンズの場合はとくに有効です。 AFカメラの場合も、目印にする電柱などを利用してシャッターを半押しし、そのままカメラを振 って構図を決め、列車が来るのを待ってシャッターを本押しすることで、「置きピン」と同じことが できます。 (3) 走行中の列車では被写体ブレが避けられません。しかし、前頭部のブレた写真は致命的 ですから、できるだけ速いシャッターを切る必要があります。ところが、前部から後部までよくピ ントが合うようにしたいわけですから(パンフォーカスという)、絞りをある程度絞らなければなり ません。そうするとシャッターが長くなってブレてしまいます。絞りの効果を利かせるには、やは り停車中か、停車直前・発車直後などの低速時を狙ったほうがよいといえます。 なお、35ミリ判カメラ、APSカメラ、デジタルカメラのような小型カメラでは、いくら高性能レンズ であっても絞りすぎると却って解像度が低下するものです(これは、絞り孔がごく小さくなると、 孔の縁で生じる光の回折の影響が顕著になるからです)。 35ミリ判カメラでは F 8、コンパクトデジタルカメラでは F 5.6 が限度ではないかと 私は思って います。 (4) 列車写真の場合も形式写真の場合と同様、カメラの位置は路盤から 1.5 m 前後の高さと し、光軸を水平に構えると歪の少ない写真が撮れます。しかし、カメラアングルについてはこれ にあまりこだわらなくてもよろしい。 足回りが陰にならないよう、トップライトの状態よりも太陽の位置がやや低い季節や時間帯が 好ましいと思います。下の左の写真はトップライトの状態にも拘らず足回りまでよく写っていま す。線路の砂利が比較的新しくて、それによる散乱光が効いているようです。右の写真は、列 車が屋根のあるホームにさし掛かったため光の回りが悪く、足回りが暗くなってしまい、あまり よくありません。
(5) 列車写真では、線区・行き先・列車種別・日時・場所などが重要な情報ですから、それら をしっかり書きとめておくことが大切です。鉄道趣味誌に投稿する場合は、これらの情報がな いとだめです。 線区・行き先・編成・列車種別などチャンスが違うと、それぞれに“運用の記録”として意味が ありますから、たとえ前に撮ってある車両だと思ってもときどき撮っておくことをお勧めします。
3. 創作写真
形式写真や列車写真が、純粋・中立的に車両や列車を撮影しようとするのにたいし、ここでい う創作写真とは、何らかの形で車両や鉄道施設を取りいれながらも、写真として鑑賞に値する 創作性を求めて撮影するものです。鉄道趣味誌のコンテストでは、この種の作品がよく取り上 げられているようです。 鉄道に関心のある者が見て「なるほど」と思わせる写真もありますし、広く一般の人にアピー ルする作品もあります。 車両の迫力なり、スピード感なり、旅の楽しさなり、鉄道マンの苦労なり、鉄道のある風景美な りと、何かを訴える「作品」を作ろうとするものです。ですから、カメラの位置とか、アングルとか、 人が写っているとかいないとかなどは一切問いません。 撮影者の感性を発揮していかようにでも撮ればいいわけで、一般の写真作品と明確な境界を 引くことはできません。ただ、鉄道を題材にしたものかそうでないかの違いだけです。
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