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摩耶だより(各集巻頭句) 
四月号    岡部 榮一 

 冬の波寄せる酒場のギムレット    鈴 子

 

 定型で読めば「冬の波/寄せる酒場の/ギムレット」である。なんとなく違和感が残るのは意味の切れ目と形の切れ目がずれているからである。意味の上からの切れは「冬の波寄せる/酒場のギムレット」であろう。しかし、終止形と連体形が同じ形である「寄せる」を強引に読めば、パーティーか何かの後片付けで、あちこちに置かれているギムレットのグラスを一か所に寄せ集めていると読めなくもない、切れが弱いと思わせるのはそんなところである。この句がそんな危ういとは思わないが、句作で一番悩ましいのは句中の動詞であろう。
 夕暮れの海辺のホテルである。暮色に沈んだ冬の波頭と淡いライム色のギムレット。酒場の隅で独りギムレットを舐めているのも絵になりそうである。



 自転車の小雪をはらふ五・十日かな  辰 男

                            
 「ごとおび」または「ごとび」と読む。関西で生まれた言葉で五日、十日、十五日、二十日、二十五日、月末を指す。商習慣で給与や決済日とする日の事である。集金や支払のため車が混んだり、金融機関が混むのもこの日が多い。最近は振り込み決済がほとんどで車が渋滞することも少なくなった。知る限りでは昭和四十年代の淡路島の瓦屋では盆と暮の年二回の決済であった。信用が商売の第一であった時代である。京都では今もそんな習慣が一部に残っていそうである。古都京都は道が狭く普段でも渋滞がひどい街である。自転車はなるほどと思う。

 
 

 手毬唄八坂の塔へ抜ける路地      久美子

                          
 京都市東山区祇園町北側の八坂神社である。祇園祭が特に名高い神社である。京都で手毬唄あるいは童歌と言えば「丸竹夷」の歌いだしから始まる通り名の唄である。京都は道が碁盤の目のようになっており、京の子供はこの歌で道筋を覚えたようである。室町後期に作られて伝承してきたものである。京都人ではないが特に記憶に鮮明なのは「姉三六角蛸錦」のフレーズではなかろうか。初詣に人混みを避けた八坂の路地道でふと思いだしたのであろう。



 人の日のミートソースを焦がしけり   宣 子

                            
 一月七日。中国漢代に、六日まで獣を占い、七日に人を占ったことから人の日すなわち人日の名が付いたとされている。この日は七種粥を食べて万病の祓いをする日でもある。そんな人日の日にスパゲティーのミートソースを作っているのである。ミートソースなどは多く作って保存しておくのも主婦の知恵である。食べ盛りがいる家庭では何かと重宝するソースである。さて、熟れたトマトが安く手に入る夏場ではないのである。今晩のためのミートソース作りであろう。弱火で煮込んでいたもののつい油断したのである。そんなことからふと人日を思ったのである。素直に詠んで佳。



 冬銀河ミュロンの像の大臀筋    道 夫          

          
 ミュロンは古代ギリシャのブロンズ像の彫刻家である。生没年は未詳であるが紀元前四百八〇年〜四百五〇年ごろに活躍した人と言われている。もっとも有名な「ディスコボロス(円盤投げ)」の彫像もローマ時代の大理石の模刻とされる。その模刻も何種類かあり、どの像がオリジナルに近いのかよくわかっていないようである。しかし、激しい運動による肉体の緊張に満ちた一瞬の静止状態を巧みに表現した芸術性は驚くばかりである。その像の大臀筋の力強さと躍動感はまさに冬銀河の凄烈さに通じるようである。




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