二次創作小説

都合により文章内容を変更・改正する場合がございます。
5      独裁者の国 ― complicated ―
「はぁ、はぁ」
キノはとても息が荒いまま、立っていた。右手には『カノン』を、そして左手には『森の人』を持ちながら。
「キノ、危なかったね」
「あぁ、危なかった。でも、これで――――」
「そうだね、キノ。これでよかったのかもね」
 
その日の昼過ぎ、キノ達はこの国に入国した。
ちょうど、冬が終わろうとしている頃だった。
 
入国手続を済ませたキノが城門をくぐると、そこに一人の男が立っていた。
「お待ちしておりました、旅人さん。お話ししたいことがございますので、どうぞこちらへ」
キノはエルメスを押しながら、警戒しながらも男についていった。
町並みは荒れていて、今にも飢え死にしてしまいそうな人もかなりいた。
 
「どうぞ、こちらです。なるべく、気配を隠してくださいますか?」
「はぁ、分かりました」
男に案内されたその建物は、王宮のようでとてつもなく立派だった。
町の様子とは比べものにならないくらい豪華だった。
キノ達は男と共に、その建物の裏ドアから入った。やはり建物の中も豪華だった。
 
「この部屋です。お入りください」
そう勧められた部屋へとキノは入った。
「それで?話って何さ?」
「旅人さんはこの国に来られる前、谷の向こうの国には行きましたよね」
「はい、行きました」
「そこで、男の人に会いましたでしょう。連絡が入っております」
「はい、そうです」
「その人から話を聞いていると思います。私はその人の友人で、この国の王子です」
王子と名乗った男はキノにイスを勧め、自分もイスに座った。
「あなたのことはあの人からの手紙に書いてありました。何かでお困りだと」
「そうなんです。そのことで、旅人さんに頼みがあるんです。――――私の父親、この国の王を殺してください!」
真剣に言った王子に、キノは普通に聞いた。
「それは何故ですか?」
「あの人が、とても非道い人だからです。旅人さんが立ち寄ったことがあるかは分かりませんが、この国より遙か東に父は国を創ったんです。それも“存在しない国”を。
その国は、父が機械で空間に立体映像を映しだして遊ぶために創った国でした。しかし父は操作をするのが面倒になったからといってその機械に人工頭脳を埋め込み、放置しておいたんです。壊れるところが見たいからと言って。そして、三ヶ月程前、その機械が壊れてしまったんです。一生懸命生きている人々が、存在すると信じていた人たちが消えていくのを、隠しカメラであの人は笑いながら見ていたんです!」
それを聞いたとたん、キノの表情も真剣になった。
「えぇ、その国には立ち寄ったことがあります。国の人々が消えていくときにその場所にいましたから」
「そうですか。あなたが。では、尚更殺してください!あの人はカメラに写っていた旅人さんが秘密を知ったしまったから殺すと言っていました。このままでは………」
「キノ、どうするの?殺されちゃうよ?」
「ボクはまだ生きていたいよ、エルメス。だから―――――」
「だから?」
「その時は、その時さ」
「そっか」
「旅人さん、これからどうなさいますか?」
「まず、王様に会わせてください」
「分かりました。準備はよろしいですか?王は旅人さんが入国したことも知っていますし、あの国の映像でも旅人さんを見ているはずです」
「大丈夫です」
そう言って、キノは『カノン』と『森の人』の安全装置をはずし、数回抜き打ちの訓練をした。
「さぁ、行きましょう。エルメスはどうする?」
「キノがどうするのかを見たいから」
「分かった。じゃぁ、一緒に行こう」
キノはエルメスを押しながら、王子と共に王のいる大広間の奥、王座の間へと向かった。
 
「よくぞ来られました、旅人さん。心より歓迎を申し上げる。さぁ、どうぞゆっくりしていってください」
キノ達が王座の間に行くと、王座に座っていた王が立ち上がり、満面の笑みで迎えた。
「歓迎、ありがとうございます。ボクはキノ、こちらは相棒のエルメスです」
「どうも」
エルメスはいつものような声は出さなかった。
「父さん、話があるんだ」
「なんだ。わしは今、旅人さんと話がしたいんだ。少し黙っとれ!」
「……………」
「さぁ、旅人さん。わしは旅人というものに憧れていてのぉ。そこで、今まで立ち寄った国の話を聞かせてくれんかのぉ?」
「分かりました。三ヶ月程前に立ち寄った国の話をしましょう。その国は機械技術に力を入れていて、その頃はシュミレーション用の機械が出来たと言って喜んでいました」
キノのその話を聞く王の目はどこを、そして何を見ているのかよく分からなかった。
「そして、より詳しいその国の歴史を知るためにある老人の家に行ったんです。そして、全てを聞きました」
そこまで言うと、キノは浅いため息をついた。
「そういうことだよ、父さ――――」
王子がそう言い終わる前に、王子の命が終わってしまった。
王は自らパースエイダーを手にしていた。
「どこまでもうるさいヤツめ。余計なことばかりしおって」
王がそう言うと、部屋のあちこちから黒いサングラスをかけた、いかにも怪しい人たちが8人程出てきた。
「旅人さん、お話ありがとう。とても楽しかったよ。お礼をしなくては。―――さよなら」
王がそう言い終えた瞬間、怪しい人たちがキノに襲いかかってきた。
キノは瞬時に右手で『カノン』を、そして左手で『森の人』を抜き、体を素早くひねりながら立て続けに撃った。
王はそれを見て恐くなったらしく、パースエイダーを強く握ったまま、腕がカタカタと震えていた。
そして、怪しい人たちを全員撃ち殺したキノは次の瞬間に『カノン』で王の首を撃った。
その瞬間、王が最後に言った“さよなら”は王が考えていた“さよなら”とは別の意味になった。
王の頭は後ろに飛び、王座の上にのった。
胴体は前に倒れ、そこにあった怪しい人の死体が握っていて上を向いていたパースエイダーが胴体の心臓の部分に当たった。
その振動でパースエイダーの引き金を怪しい人の死体が引き、王の胴体の心臓の部分を破壊した。上に血の噴水が上がった。
 
「王子様、死んじゃったね」
「あぁ、そうだね」
キノとエルメスがそんな会話をしていると銃声を聞きつけた城で働く人たちがやってきた。
「何事だ!」
「何かあったの?」
「旅人さん、これはどういう事ですか?」
キノはその人達に事情を説明した。
「そうだったんですか」
「キノさん、ここは我々に任せてください。全て片づけておきますから」
「そうですよキノさん。あとはゆっくりと観光やお買いものを楽しんでいてください」
その人達はキノに向かって笑顔でそう言った。
「ご迷惑をお掛けして、誠に申し訳ありませんでした。それと、ありがとうございました。いつかこうなるとは思っていましたが。まさか、旅人さんを巻き込んでしまうなんて」
「あの人は独裁者だったんです。国民から多額の税金を取り、自分は豊に暮らす。そういう人だったんです」
「さぁ、旅人さん。私たちに任せて、観光や休養をお楽しみください」
「分かりました。よろしくお願いします」
そう言って、キノ達は城を後にした。
 
それからホテルを探し、食事を取り、シャワーを浴びて、そして寝た。
 
次の日は買い物をし、のんびりとした一日を過ごした。
 
次の日。つまりキノが入国してから三日目の朝。
パースエイダーの整備と訓練を終えたキノはエルメスをたたき起こした。
「もう出発?少し早いんじゃない?」
「この国に長くいても意味がないよ。あまり楽しい国じゃない」
「そうだね」
それからキノ達は西の城門へと向かった。
 
西の城門がもう少しのところで、キノ達は老婆に呼び止められた。
「旅人さ〜ん。お待ちください!」
「なんでしょう?」
キノは老婆を少し通り過ぎたところでエルメスを止めた。
「少しお話をしたいんですが」
「分かりました。ただ、長くは話せません」
「えぇ、結構です。どうぞこちらへ」
 
老婆の家はすぐ近くにあり、それはとても豪華だった。王宮と同じぐらいの豪華さを持っているその家は、どう見ても周りの家から浮いていた。
そして、キノ達はその家に入っていった。
 
キノはリビングのソファーを勧められ、それを受け入れた。エルメスは横にセンタースタンドで立てた。
「それで、お話というのは?」
「旅人さんはこの国に来られる前に谷の向こうの国に行ったんですよね?」
「はい、そうですが」
「そして神殿にも行かれて、この国の王子にもお会いしたと」
「えぇ、そうです。どうして王子に会ったことまで?」
「先日ニュースで見ました。王と王子がなくなられたと。王が亡くなったおかげでこの国の人たちは、大変喜んでいると。そして、王を殺めたのが旅人さんであるということも」
「そうですか」
「あぁ、誤解しないでくださいよ。ニュースでは、旅人さんは英雄扱いですから。この国の人は旅人さんのことを悪くは思っていません」
「やったね、キノ。人気が上がった」
そうちゃかしたエルメスのタンクをキノが蹴った。
「王子にも会われたということは、あの神殿にあった死体の真相もお知りなんでしょう?」
「えぇ、知っています」
「実は私が彼を殺したんです」
「あなたが、ですか?」
「そうです。あの人は王の下で研究者として働いていました。主に機械を専門として。そして、あの人は王の命令である機械を創りました。それは、おそらく旅人さんも知っている立体映像を空気中に映すことができる機械です。そして、その機械で王は―――――」
「…………」
「…………」
「私はあの人がそんな非道いことに、ましてやそれを創ってしまうなんて。このままでは、もっと恐ろしいものを創ってしまうと思った私はあの人が気に入っていたあの神殿であの人を殺しました。この世界の未来のために」
「…………」
「…………」
「旅人さん、これだけは知っておいてほしいんです。保険金殺人ではないと。未来のためにあの人を殺めたと」
「そうだったんですか。分かりました。お話、ありがとうございました。ボクたちはこれで」
「じゃぁね〜」
「お気をつけて。旅と無事を祈っております」
それからキノ達は出国した。
 
しばらく走り、国が見えなくなった頃にエルメスが言った。
「ねえキノ」
「なんだい、エルメス?」
「人間ってのもいろいろあるね」
「そうだね。ありすぎて困るけどね」
 
それからキノは一度さっきまでいた国の方向を振り返り、見えなくなったことを確認してから、再び前を向いてそのままどこまでも走っていった。
更新日時:
2005/10/03
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Last updated: 2006/9/13

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