草原があった。
広大な平原に青々とした草が生い茂っていた。
その中には少し小さめの川もあった。
草原の中に一本の道があった。
土で固められただけの道だったが、車が三台は余裕で通れるほど広かった。
その道は広い平原を綺麗に二つに分けていた。
草原の中には木々がまばらにあった。
均一に散らばるその木々の中の一本の下に、一人の人間とモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)がいた。
旅人は木の幹に背中を寄り掛かって座っている。モトラドは旅荷物を満載していて、センタースタンドで旅人の右側に立っていた。
「キノ、なんだった?」
モトラドが言った。
キノと呼ばれたその旅人はこう答える。
「鏡だった」
キノの手には円形状の鏡があった。
それは、木枠の中に鏡がはめ込まれていて、木枠には綺麗な彫刻が施されていた。木枠の裏には、立てて使うためのスタンドがついている。
「鏡?そんなもの使うの?」
「さぁね。でも、持っていて損はないよ、エルメス」
「ふぅん」
エルメスと呼ばれたモトラドは普通に答えた。
「まぁ、あの国のお土産としては、なんとなく分かる気がするよ。鏡なら」
そう言って、キノは午前中に降りてきたばかりの山を見た。その山は少し遠くにそびえ立っている。
「さぁ、もうそろそろ行こう」
言いながらキノは立ち上がった。
「そうだね、キノ」
そしてキノは、山の方を見ずに、エルメスのエンジンをかけ、休憩を終えた。
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