二次創作小説

都合により文章内容を変更・改正する場合がございます。
13      由来 ― slavery ―
草原に、一本の道があった。
 
森と草原がきれいに分かれていて、草原には黄緑色の草が満遍なく生い茂っている。
濃い青に染まった空に浮かんでいる雲が、日差しを柔らかくしてくれている。
 
その道は、森の中から西に向かって草原の中をのびている。土で固めただけの道だったが、しっかりと固められているためなめらかで、そしてとても広かった。
 
道を一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す。)が走っていた。
「あれだね、キノ」
キノと呼ばれた運転手は、微笑みながら答える。
「あぁ、そうだよ、エルメス」
エルメスと呼ばれたモトラドは少し楽しそうにこう言った。
「やっと虫のいないところで寝られるね、キノ」
「そうだね。入国したら、すぐにホテルを探そう」
 
「ようこそ、“ケラ”へ!」
そう言って、入国審査官はキノ達を笑顔で出迎えた。
「こちらの書類に必要事項をお書きください。すぐに終わりますので」
キノは言われたとおりに書類にいろいろと書き込み、入国審査所をあとにした。
 
国内はきれいに区画整理されていて、シンプルな家が建ち並んでいた。
「さて、ホテルホテル」
キノは街を歩いている人に、安くてシャワー付きのホテルはないかと尋ねた。
「あぁ、それならここを少し行った、町の中心部にあるよ」
その人にお礼を言って、キノはすぐにそのホテルへと向かった。
 
ホテルは豪華そうなビルだった。30階はありそうだった。
エルメスを押しながら、キノはフロントへ向かった。
「ここ、お値段は?」
いきなりそう聞いたキノにエルメスはビクッとしていた。
値段を聞いたキノは、驚きながらすぐにチェックインした。
 
「意外と安いものだね、エルメス」
部屋についたキノは、微笑みながらそう言った。
「よかったね、キノ」
エルメスはまだあきれているようだった。
 
シャワーを浴びたキノは、そのままホテル内のレストランへと向かった。
 
夕食後、ホテルのロビーの高級ソファーでゆったりとしているキノに、エルメスがいきなり話しかけた。
「ねぇ、キノ。ケラっていうこの国の名前、変わってるよね」
その質問に、キノは少し考えてから答えた。
「まぁ、そうだね。短くて、なんか少しくだけたような名前だ」
その会話が斜め前のソファーに座っている男に聞こえたようで、その男はこちらを振り向いた。
「旅人さん。この国の名前に、興味があるんですか?」
いきなりそう言われて、驚きながらキノはこう答えた。
「えぇ。なんか不思議だなぁと思いまして。普通だったら、もっとかっこいい名前をつけようとか、きれいな名前にしようとするんじゃないかなぁと」
「そうでしたか。では、この名前の“由来”をお話しいたしましょう。この国の歴史と共に」
 
「この国の南に、私の生まれた国があります。その国では昔、周りの国を侵略し、奴隷をつくって国家を成り立たせていました。
そして、そんな王制時代が終わりました。
王制が終わるときに王は、奴隷達を解放することを決めました。
しかし、奴隷達全員を元の国に戻すことはとても大変で、不可能に近かったのです。
なので、この地に奴隷達を集め、この国を創りました。この国の名前を決めたのは、その王です。
王は自分の体制が崩れていくことで、自暴自棄になっていました。名前は、そんなときに決められました。
王の最後のあがきだったのでしょう。この国の名前の由来は“虫ケラ”です。虫がついていては、あきらかに国の名前ではなくなってしまうので、“ケラ”にしたそうです。
ちなみに、この国の人々は、名前の由来を知りません」
男がそう言い終わったときに見たキノの顔は、真剣だった。
「そうだったんですか。お話、ありがとうございました。この国の歴史もわかり、とても参考になりました。それでは、もうボクは、寝るので。おやすみなさい」
「じゃあね。結構おもしろかった」
キノはエルメスを押して、エレベーターへと向かった。その背中に男はこう言った。
「おやすみ、旅人さん」
 
部屋に戻ったキノは、窓から街の夜景を見ながらエルメスに話しかけた。
「ねぇ、エルメス」
「何、キノ?」
「ひどい人はいるものだね」
「そうだね。ひどい話だ」
「こんなことってあるんだね」
「そうだね。可哀想だ」
「あの人、今頃どうしてるのかなぁ」
「さぁ。それはいくら考えたって分からないよ、キノ」
「そうだね。おやすみ、エルメス」
キノは静かにベッドの中に入った。
「おなすみ、キノ」
 
街の夜景は、変わることなく光り続けていた。
更新日時:
2005/09/24
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Last updated: 2006/9/13

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