キノとエルメスはレストランにいた。
テーブルにキノが座っていて、その隣にエルメスがサイドスタンドで立っていた。
そしてキノの向かいに男が座っていた。
キノはたった今飲み終えたお茶をテーブルに置き、
「分かりました。お話、どうもありがとうございました」
そう言ってキノは立ち上がった。
「それでは僕らはもう出発しますので」
その言葉を聞いた男が、
「さよなら、旅人さん」
キノは、エルメスのスタンドを外し、押しながらレストランを出た。
その日の朝、キノとエルメスはその国に入国した。
キノは入国してすぐにホテルに行き、荷物を下ろした。その後、昼食のためにレストランへ向かった。
レストランで食事をしていると、男が話しかけてきた。
「あの、旅人さん?ですよね」
隣にサイドスタンドで立っているエルメスとキノを交互に見ながらそう言った。
「はい、そうですけど」
「どうだい、この国は楽しいかい?」
「えぇ、楽しい国だと思います」
「へぇ、旅人さんから見ればこの国は楽しいのかぁ」
そう言いながら男は、なれなれしくキノの前の席に座った。
「俺にとってはつまらない普通の国だからね」
「どこの国の人もそう言います」
その言葉を聞いた男は苦笑いをして、
「まぁ、同じところに住んでいるんだからしょうがないけどね」
と答えた。
「でもね、他の国に旅行程度の旅でなら行ったことがあるんだよ」
「そうなんですか。その旅は楽しかったですか?」
その質問を聞いた男は少し考え込んでこう答えた。
「う〜ん、まぁまぁってところかな。ちょっと変わった国だったからね」
「変わった国、ですか?」
「あぁ、そうさ。変わっていると言うより、おかしい国って言った方がいいかな」
「どんなところがおかしかったんですか?」
「そうだね、例えば――――――――」
レストランを出たキノは小さくため息をついた。
「どう、キノ?さっきの話、面白かった?」
その質問にキノは苦笑いをしながら、
「まぁまぁかな。ずっと同じ国にいるとああなることもあるんだね」
「うん。そうだね」
「だって、ベッドの上で横になって眠るのは普通のことだし、ピアノを指で弾くのだって普通のことだしね」
「そうだよね。変わっているのはこの国の方だ。立ったまま寝る、ピアノはスプーンで弾くなんてねぇ」
「まぁ、それがこの国では普通なんだろうけどね」
「まぁね。それにしても………」
「あぁ、それにしてもこれは、なんなんだろうね」
キノとエルメスは街を眺めながらそう言った。
全面がピンク色の道路、ありとあらゆる建物の外の壁が国王の顔で埋め尽くされていた。
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