二次創作小説

都合により文章内容を変更・改正する場合がございます。
11      知りたくない話 ― a silly story ―
私の名前は陸、犬だ。
白くて長い、ふさふさの毛を持っている。いつも楽しくて笑っているような顔をしているが、別にいつも楽しくて笑っている訳ではない。生まれつきだ。
シズ様が、私のご主人様だ。いつも緑のセーターを着た青年で、複雑な経緯で故郷を失い、バギーで旅をしている。
そして私は、シズ様と共にある。
 
ある時、私とシズ様はある国にたどり着いた。何の変哲もない、ごく普通の国だった。
ちょうどその国に着いたときに、バギーの燃料が少なくなっていた。このままでは半日ほどしか走れないという量だった。
そこで街の給油所に向かったところ、燃料の入荷が遅れているため、明後日の朝までは給油ができないということだった。
「遅れているのではしょうがない。燃料のないままこの国を出て、途中で旅が中止になったら困るな」
そしてシズ様は明後日の朝まで待ち、燃料を給油した後にすぐこの国を出ることにした。
 
しかし、ここで困った問題が発生した。
シズ様がこの国の人に尋ねると、“ない”という答えが返ってきた。もともとこの国は旅人や商人があまり訪れないので、“ない”とのことだった。
そこでシズ様が代わりになる場所はないかと聞いたところ、学校なら大丈夫かもしれないから訪ねてみるといいと言われた。
 
その後、言われたとおりシズ様は学校へと向かった。
その学校長にあいさつをし、例の件について聞いてみると、
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。歓迎いたします」
という回答がかえってきた。
「よかった」
そう素直にシズ様が言った。
 
その後、学校長からこの学校の説明があった。
この学校は中学校で、30年ほど前に建てられたこと。現在は530人前後の生徒が通っていること。部活動は10種類ほどあることなど。
「それでは今回旅人さんにお使いになっていただく部屋へ案内いたします」
そう言って学校長は廊下を歩き始めた。静かにシズ様もついていく。もちろん私もだ。
途中、廊下の右側の壁に掛かっている絵画についてシズ様が聞くと、
「あぁ、それは我が校の美術部員の作品です」
と言われ、シズ様は小さく頷きながらその絵の前を通り過ぎた。
2階へ上がり、右側に曲がっていくと“生徒会室”というプレートが上についている部屋があり、その前で学校長が、
「こちらです」
といってシズ様を部屋に招き入れた。部屋の中には机がいくつか正方形型に並べられている。会議をするためだろう。
学校長はそれらの机をずらし、ある程度のスペースをつくった。そしてどこかから布団と毛布を持ってくる。
「あまりいいおもてなしはできませんが、どうかごゆっくりとしていってください。また、朝食と夕食は無理ですが、昼食は学校の給食があります。どうなさいますか?」
そう聞かれたシズ様は、
「給食というのは食べたことがありません。ですので是非、食べたいです」
そう答えた。
「かしこまりました」
そう言って学校長は部屋を出ていった。
 
その後、日が暮れるまでシズ様は窓から外を見ていた。夕焼けの中、生徒達が帰っていくのを静かに見ていた。
日が暮れて暗くなると、シズ様は部屋の電気をつけ、携帯食を食べた。そしてすぐに寝た。
 
次の日。
シズ様はいつも通りの時刻に起きて、すぐに携帯食をとった。そして窓の外から太陽の光が射し込んでくる。
その後シズ様は何も言わずにただ外を見る。やがて外から生徒達の声が聞こえてきた。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「学校長です。旅人さん、ちょっとよろしいですか?」
その質問にシズ様は、
「どうぞ」
と一言で答えた。
 
部屋に入ってきた学校長は、今日の授業を是非見学して欲しいとの用件をシズ様に伝えた。
シズ様はそれを快諾し、その時間になるまでお茶でも飲みましょうと言って、学校長はお茶を運んできた。私は水だった。
 
そして9時頃になった。学校長に案内され、シズ様はある教室に向かった。もちろん私もいっしょだ。
そこは普通の教室で、生徒達が先に座っていて、先生だと思われる人が教卓と黒板の間に立っていた。
教室の後ろのドアを開け、シズ様が入っていく。生徒はみんなシズ様の方を向いた。
教員からあらかじめ説明があったのだろう。それほど生徒達は騒がなかった。
 
その後1時間、あまりおもしろくない授業をシズ様は静かに教室の後ろの壁に寄り掛かりながら見ていた。
 
授業終了の“チャイム”と呼ばれるものがなった。誰かの号令で授業が終了した。休み時間、一番窓際の一番後ろの席に一人の生徒が座っていて、その机の前にもう一人生徒が立っている。その二人の話し声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、さっき帰ってきたテスト、何点だった?」
その質問をされた人がはっきりと答える。
「言いたくない」
「え〜、教えろよ」
「いや、ホントに悪かったから言えない」
「え〜、俺だって悪かったよ。89だぜ」
「…………」
「ちなみに国語は92、数学は86、社会は94だった」
「…………」
「いや〜、難しいね」
「…………」
「今までは全教科が90以上だったのに」
「…………」
「いやぁ、それにしても腕痛い」
「あ、そう」
「朝から頭も痛いし、もう疲れた」
「…………」
「あぁ、だるい」
そんなやりとりを静かにシズ様は見ていた。
その後、シズ様は生徒会室に戻り、再び外を見ていた。そして、昼頃に給食を食べた。
 
夕方、いきなりシズ様が話しかけてきた。
「なぁ、陸」
「はい、なんでしょう?」
「陸はどう思う?休み時間のあの会話」
「わかりません。話をしていた彼が賢いのか、それともその彼が愚かなのか」
「そうだな」
そう言ってシズ様は何も食べずに眠った。
 
次の日。
いつものように起き、いつものように携帯食をとったシズ様は学校長へのお礼の手紙を職員室に置き、学校を出た。
給油所で給油をし、その頃にちょうど開きだした店で携帯食料などを買い、バギーで城門へと急ぐ。
出国手続きを済ませ、城門をくぐる。
 
空には雲がまばらに見える。どの雲も白い。
走りながらいきなりシズ様が言った。
「なぁ、陸」
「はい、なんでしょう?」
普通の表情のシズ様が言った。
「今度はホテルのある国がいいな。豪華ではなくていいから」
「そうですね」
更新日時:
2005/04/29
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Last updated: 2006/9/13

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