それは永禄三年の出来事だった
 
東海道のルート中で最大にして最も知れ渡っている戦争が永禄三年に勃発した。
川越の夜戦、厳島の戦と並び日本三大奇襲戦と言われているが本当なのか。
「東海道分間絵図」には現地を今川義元の墓とだけ紹介していて古戦場とは書いていない。当時はそれだけこの戦いに関心がなかったということか。
もっともこの戦いは明治になって軍部の意向もあり脚光を浴び始めた。
太田牛一の評価も人によってまちまちなので本当の対戦の姿がよくわからない。
今まで幾度となく現地を歩き、改めてこの旅でも当時の戦場を検証した。


 

沓掛城

永禄三年五月十九日(旧暦)駿遠三から徴発された大軍がこの城を出発する。
兵力は2万(信長公記では4万5千)とされているがこの三国の石高は合計70万石(慶長三年)、1万石で約250人を抱えられる計算なので1.75万人。
全勢力よりも多く尾張だけに向けられたとは到底思えない。のっけから通史に疑義が残る。

沓掛城址


 

沓掛城址に建つお城並みの家

実際数回ここに来ているがこの少しばかり小高くなっている場所に万単位の人間が収まりきるようなものではない。
しかも周りは平坦なので千人居ただけで何事かと大騒ぎになるくらいどこから見ても筒抜けだ。
一面水田なのでおそらく当時も田か沼地であっただろう、これは全軍緊張していたはずだ。

沓掛城址


 

大高城

もとは水野忠氏が依っていたが鳴海城主山口左馬之助の手引きで落とされ今川家臣鵜殿氏がこもっていた。
世に言う松平元康兵糧入れが行われるが緒川には水野信元がいるわけで今川方としてはビクビクもんだったのではないか。
以上のことから今川軍が油断して進軍していたとは到底考えられない。

大高城址


 

鷲津砦

そんな状況の中、鷲津丸根の両砦に今川方から攻撃が開始される。尾張勢の後詰が来ないと見切っての先制攻撃だ。
後詰が来ないとの認識は間違っていたが、結局尾張勢は落城に間に合っていないので結果オーライだったのだ。これらの砦は目の上のたんこぶだったので今川方にとって状況はかなり好転したといえる。

鷲津砦址


 

那古野城

そもそもは今川方の城であった那古野城を奪還したかったのではないか。那古野を奪った織田弾正忠家に恨みを抱いたとさえ思える。
ちなみに現代では那古野と書くと「なごの」と呼ぶ。
(名古屋城を撮ったことがないので近所の犬山で代用)

那古野


 

熱田神宮

天白川以南の状況が今川方に傾きつつあった頃、織田軍はようやく出撃するが実際手遅れだ。優秀だった佐久間盛重らは戦死している。
熱田神宮で白鷺を使った派手なパフォーマンスを演じて気合いを入れたのちに丹下砦までひた走る。士気は上がっていく。

熱田神宮


 

丹下砦

鳴海城包囲の一角、熱田さんから向かえば最初の織田方の陣地だ。
鳴海の岡部元信に対抗するならここから攻めるはずだが、ただちに善照寺砦に移動する。
おそらくは織田本隊をこんなところで消耗したくなかったのだはないか。確かに三つの砦が有効なら鳴海城から元信は動けない。

丹下砦


 

鳴海城

今川の勇将、岡部元信が籠っていたが丹下、善照寺の付城に動きを封じられていた。善照寺砦と比べるとこちらのほうが使いづらく狭くも感じる。しかも敵国深く入り込んでいるため迂闊に動けない。
しかし鷲津・丸根が落ちているので鳴海城に後詰の可能性が生まれた。ここに至って信長はなんとしても今川本隊と大高を叩く必要に迫られた。

善照寺砦址


 

善照寺砦

この位置からは眼下に中島砦やその先がほとんど見渡せる。ただそれは鳴海城とて同じこと。この場所に入った織田方が鳴海城を本気で攻めなかったのがこの合戦最大のポイントと見た。筆者の足で5分とかからない位置関係にもかかわらずだ。
この時点で織田軍のターゲットは定まっていた。

善照寺砦址


 

中島砦

それまで高台だった砦と異なり台地を降りきった場所にある砦。川が交錯し天然の要害になっているものの今川方の猛攻に耐え切れそうにはない。そもそもこの砦も鳴海城包囲のためのもので今川本隊の来襲に備えたものではない。こんなところに籠もっているよりさっさと出撃したのであろうか。

中島砦址


 

義元本陣へ

厳重な警戒を敷いていた義元の陣を信長の手勢が襲う。おそらく義元がいることを想定していなかった気配がする。ともかく兵力差がほとんどなかったため一進一退となったであろう。そんな中偶然にも大将を捕捉した。

中島砦址


 

まさかの大将死亡

織田方もびっくりの義元討死。本陣まで攻められ潰走を始めれば今川勢は東に向かって逃げるしかない。古戦場とされているこの場所では戦闘というよりは織田方の追撃にあった今川勢が討たれた場所だと思われる。

中島砦址
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