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「センちゃんって難しいわ」 「オレはジャスミンが難しいよ」 デカベースのデスクに、いつものように座った茉莉花が宙を見上げて呟くと、 給湯室から顔を出した仙一は柔らかく笑ってそう言った。 3日前の夜、中心街に出没したアリエナイザーを確保するため、 昨日の夜はメンバーのほとんどが睡眠時間を割いていた。 事件を無事解決した午後5時現在、 地球署のこの一室には明日が非番の仙一と、今日が遅番のジャスミンだけが残り 他のメンバーはそれぞれ仮眠を取るため自宅に戻っている。 書きかけの報告書を端に寄せると、 仙一からマグカップを受け取り、立ち上る香りに目を細めた。 「…ジャスミンティー」 「疲れた時にはいい香りのお茶が一番、でしょ?」 「あたしは緑茶でも癒されるわ」 「オレはこっちの方が好きなんだ」 「…そう」 一口、また一口とまだ熱いお茶を傾ける。 口の中、喉から身体全体が暖まり、さりげなく差し出されたクッキーをひとつ頬張った。 仙一もまた、クッキーをサクリとくわえる。 「…何でオレ怒られてんのかな?」 「さぁ」 「ぁ、やっぱり怒ってるんだ」 「そうかも」 ひとつひとつの質問に、そっけなくかつ確実に返答していく。 元々口数の少ない彼女ではあるが、その声には感情が無かった。 「何かした?」 「どうざんしょ」 「何か言った?」 「わからないわ」 「わかんないよ」 「逆立ちでもしてみたら?」 「それもテだね」 「…?」 淡々と繰り広げられた問答が、ふと途切れる。 きょとんと見上げる茉莉花の顔を仙一はいつものように笑顔で受け止めた。 デスクに湯飲みを置くと、隣に座る右手を握る。 グローブの感触が手に冷たい。 「なに?」 「ジャスミンのまね」 そう、笑顔のまま答え、開いているのか分からない細い目を更に細める。 まるで、意識をこの手に集中しているかのように。 「…何か読めた?」 「全然」 「でしょうね」 「やっぱりオレはこっちの方がいいのかな」 一般人が手を握ったくらいで人の心を読めるのでは、 自分の能力の意味がない。 茉莉花がそう呟く先で、仙一は壁際へと移動した。 「よっと」 慣れた様子で壁に足をつけ逆立ちをする。 『これはセンのシンキングポーズである。』 そのまま、目を閉じた。 暗い視界の先でもう一つの気配が隣に並ぶ。 「ほっ」 「…ジャスミン?」 「心配すること無かれ。スパッツはいてるから大丈ブイ」 「いや、そうじゃなくて」 見当違いのフォローに思わず苦笑が溢れる。 視線を向ければ茉莉花が長い髪を地につけて難しい顔をしていた。 「センちゃんとね」 「うん」 「同じ視線になってみたかった」 「うん」 「まっすぐ立ってたんじゃセンちゃんの身長に敵わないけど こうして逆立ちしてれば同じ視線になれるでしょう」 「そうだね」 「同じ物が見たかったの」 「それで怒ってたの?」 「怒ってた…訳じゃないけど、困ってた。 センちゃん何考えてるか分からないから」 「それはオレも同じだよ。ジャスミンの考えてる事はオレには分からない」 「でも、優しいわ」 「そう?」 「他の人にはもちろんいつでも優しいし、あたしにだって一番欲しい時に優しい」 「それは凄い褒め言葉だね」 「なのにあたしはセンちゃんがいつ苦しくていつ淋しいのか、わからないんだもの。 …悔しい」 軽やかに足を伸ばし、地に足をつける。 相変わらず逆立ちのままの仙一には、茉莉花の足下しか見えなくなった。 「ジャ…」 「やっぱりセンちゃんは難しいわ」 「うん?」 「センちゃんみたいに上手に優しい人になるのはやめとく」 「ジャスミンは優しいよ」 「そうね」 「そんで難しい」 にこにこと逆立ちをやめ、地に足をつけると、目の前に立つジャスミンの頭に 大きな手のひらをのせた。 「床、汚い」 「たまには意地悪したくなるから」 「優しくない」 「なんで、あんな事考えたの?」 「……」 「さっきの事件の時からだよね」 「どうだったかな」 「現場で…」 「……」 「オレが若い女の人を助けているところをジャスミンは目撃している」 「それが君のお勤め」 「だけど?」 「ちょっと磯辺焼きを焼いたかも知れない」 「わかりにくいなぁ」 「チーズを挟むのが好き」 「でも、わかりやすい」 「だからセンちゃんって難しいの」 窓から差し込む夕日に目を細め、二人で向き合ってそっと笑った。 意味不明…!!なんじゃこりゃ。 とりあえず緑黄ですたい |