「おう。」

「・・・・・・・。」

「なんだよ。」


『バン!!』


「何だコラ、ウィンリィ!?」

「こっちの台詞よ、バカエド!!!今何時だと思って・・・それより何であんたがここにいるの!!?」



現在深夜25時。






___夜はお静かに___








この日、急ぎの仕事をあげたのは日付も変わろうかっていう時間だった。

作業台から立ち上がって、何時間かぶりに体を伸ばすと骨がなる。

窓の外にはまんまるの月。

庭に立つ大きな木に重なってるけど、空の白さがその大きさを教えてくれる。


  「いい天気。」


きっと明日は晴れるだろう。


 天気が良ければ、“あいつら”の捜し物もはかどるかな。


一瞬で浮かんだ幼馴染みの顔を慌ててかき消す。

・・・思い出すと急に寂しくなるから。

こんな月の綺麗な夜なんて特にそう。

空が暗いくせに明るくて、

不思議と遠い昔の記憶を引っ張り出してくる。


  「大きなお世話。」


窓に向かって思いっきりあかんべをして、あたしは浴室に向かった。

明日も仕事は入ってるし、さっさと寝ないと。



冷めかけたお風呂に入り、髪を乾かすのもほどほどに部屋に戻った。

ドアを開けると、そこは青い部屋。

差し込む月の光が綺麗で、電気もつけずに中へ入る。


  「綺麗すぎてしゃくなのよ。」


そう、悔しくてぼやいたとき


  『こつん』


反対側の窓に何かが当たる音がした。


  「・・・?」


風でも出てきたかな。

そう思って振り返ったとき、あたしは目をひんむくしかなかった。


いるはずのない、金髪のおさげ髪。

窓を叩いて『あけろ』って言ってる。

状況を判断するまでの思考も働かず、

ただ立ちつくすだけのあたしにかまわず、奴はせわしなく窓を叩く。

うるさいし、しょうがないから

錠をあげて窓を開けてやると、

冷たい風が吹き込んできた。

欠伸をかみ殺した目をこすっても、目の前にあるその姿は消えなくて、

“本物”であることは認めざるを得ない。

  「おう。」

  「・・・・・・・。」

  「なんだよ。」


  『バン!!』


考えることも放棄して、思わず窓を閉めてしまった。


  「何だコラ、ウィンリィ!?」


 ああ、やっぱり怒ってるし・・・。

 ごめんなさい。こんな時間にこんな所から幼馴染みが顔を出すなんて思いも寄らなくて、
 つい現実逃避してしまいました。

 ていうか、今深夜1時ですよ。
 服はネグリジェだし、髪は乾かしかけでぼさぼさだし、寝不足の目は腫れぼったいし、
 今まさに寝ようとしていたその時なんですよ。
 ホントもう勘弁してください。
 あたしが一体何をしたって言うの!?
 全部こいつが悪いんじゃない、この非常識!!


そんな思いが一瞬で頭の中を駆け抜けて、

もの凄い勢いで窓を開けた。


  「こっちの台詞よ、バカエド!!!今何時だと思って・・・それより何であんたがここにいるの!!?」

  「ばっ・・・、オマエ声でけぇよ!ばっちゃん寝てんだろ!?」

  「こんな時間に女の子の部屋覗いてる常識知らずに言われたくないわよ!でもごめん。」

  「何が女の子だ。あ、いやいやいやいや、嘘、冗談。窓は閉めないで。ていうか、中入れて。」

  「あぁ!?」

  「いくら何でもこの時間に外いんのは寒ぃよ。俺、長旅で疲れてるし。な?」

  「・・・ったくもう、アホでしょ、あんた。」


あたしはそう言って、ベランダに続くドアの鍵を開ける。

相変わらず、甘いのよ。それは分かってるんだけどね。


  「アルは?」

  「セントラルで留守番。上司(うえ)に押しつけられた仕事やっといてくれるって言うからな。」

  「酷い兄ね。」

  「しょうがねぇだろ。俺は俺で東(こっち)に用があったんだから。」


  『ばたん』


  「ふうん・・・。で?」

  「何が?」

  「こんな時間に何しに来たの?」

  「宿代浮かしに。」

  「・・・さいてー。」

  「何とでも言え。」

  「懐かしい幼馴染みの顔が見たくなったとか言えるならまだ可愛げあるのになぁ。」

  「お前、俺に可愛げを求めるのか。」

  「いらない。」

  「このやろ。」


何だかんだいいながら、ベッドに並んで腰掛けた。

やっぱり電気はつけないままで。


静まりかえった深夜の部屋に、

二人の声が妙に響く気がした。


  「えいっ。」

  『ばさ』

  「うお!?」


二人を覆う、白い布。


  「ばっちゃん起こしちゃ悪いでしょ。」

  「・・・狭い。」

  「ね、こうしてるとちっちゃい頃にお泊まりしたの思い出すね。」


声がこもる狭い空間に丸まっていると、何だか楽しくなってくる。


  「3人で朝までお話ししてようってシーツかぶって。」

  「アルが一番に寝ちまうんだけど、結局俺らもいつの間にか寝てるんだよな。」

  「朝起きるとシーツ全部エドが引っ張っちゃってて、寒かったの。」

  「それで俺ばっちゃんに殴られたんだぜ?寝てるときのことまで知るかよ。」



一枚のシーツ、二人で被って

電気もつけずにひそひそ話。

たまに大きな声だして

慌てて二人で『しーっ!』なんて

人差し指を立てあうと、

またおかしくて笑えてくる。



小さい頃を思い出しながら

確かに今ここにいる存在そのものを感じて。

不安は二人の笑い声にかき消される。




夜はお静かに。










2004.12.6(MON)


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