5月4日。

国民の休日。

ゴールデンウィーク中日。


そして・・・



今日は5月3日。憲法記念日。今年のゴールデンウィークは週末と並んだので5連休。
それなのに、今年とうとう『受験生』という物になってしまった高校3年生に大型連休など関係ない、
とでも言うかのように組まれた外部模試。
それも昨日やっとの事で終えてきたところ。


  だりい・・・。


リビングのソファで目を覚まし、目の前に広がる資料の山に目をやる。



元の姿に戻ってからは、とたんに仕事が入らなくなった探偵殿の代わりに、
警察からの協力依頼が絶えない。


  一年前より多くなってるかもな・・・。


高校に上がってから二年生になるまでの一年間は週に2・3度の依頼だった。
しかし一年前、謎の組織の事件に関わったために姿を消し、再びこの町に戻って来てから、
自分が高校3年生へ何とか進級出来た頃から、依頼は平均週4回になった。


  労働基準法にひっかかってんじゃねえの?俺一応未成年だぜ。
  …まあ、好きでやってる俺も俺だけどな。



工藤新一がこの町に帰ってきて数ヶ月。


昨日は模試が終わると同時に警視庁へ呼び出された。
この数ヶ月のうちに新一が関わった事件の捜査資料と、黒の組織に関わるデータを受け取るために。

どちらも新一が望んで受け取った物だ。それまで自分が解決した事件の資料は取っておきたいし、
黒の組織にはまだ謎も多い。

現在日本警察とFBIが合同調査を行っているが、成果はなかなか上がらない。
少しでも明らかになった事実は手元に置いておきたかった。


  とにかく、この資料の山を何とかしないと連休どころじゃねぇな。
  あいつ、すねてなきゃいいんだけど。


ふと、寂しがり屋の幼なじみ、もとい、数ヶ月まえに“彼女”になったヒトを気に掛ける。

昨日は資料を受けとってからすぐに自宅へ帰り、項目ごとに分類を始めた。
最後に時計を見た時、針は午前3時を指していた気がする。


  あれから3時間ぐらいやってたから寝たのは6時か。今は9時過ぎ。
  3時間も寝りゃじゅうぶんだな。


とにかく何か食べようとキッチンに入りトースターに食パンをセットする。


  コーヒーは面倒だから牛乳でいいか。




今日は5月3日。明日は5月4日。
長い一日が始まる。






 ピンポーン

焼き上がったトーストに手を掛けようとした瞬間、来訪者を知らせるベルが鳴った。
しかし休日の朝から訪ねてくる予定だった者は居ない。
いぶかいげにインターホンをうける。


   「・・・はい?」

   『新一、おはよ』

   「らん?何だよこんな時間から」

   『こんな時間じゃないわよ。もう10時よ!』

   「…まあ、とにかく入れよ」

   『うん』


焼きたてのトーストを一口かじり、玄関に向かう。


  今日、何か約束してたっけ?いや、会えるのはむしろ嬉しいくらいなんだけど。
  なんせリビングがあの状態じゃな…。


何てあれこれ考えながら玄関を開けると笑顔の蘭が待っていた。


   「珍しいね、新一が休日に自分で朝ご飯食べてるなんて。・・・昨日寝てないの?」

   「いや?2・3時間は寝た。まだ昨日の事件の資料片付いて無くてな」

   「そっか。じゃあ、あたし来ない方がはかどったかもね。ごめんね」

   「何言ってんだよ。・・・あがれよ。散らかってっけど」


  こっちは会えて嬉しいんだから変なこと言うんじゃねぇよ。


なんて心の中でふて腐れていると蘭がくすりと笑った・・・気がした。



それから蘭に紅茶を煎れて、資料の始末を再開した。


  少しでも早く終わらせねぇと、せっかくの休日が無駄になっちまう。


ばたばたと、しかし正確に作業を進める。
その間、蘭は何も言わずに本を読んだりコーヒーを煎れたりして待っていた。
しかしなんだか妙に楽しそう。


  やっぱしなんかの日だっけか、今日。
  デートの約束・・・はしてねえし、つか出来なかったし、
  何だっけ?
  そう言えば去年も同じようなことあったかも。


作業を進める手は休めずに、蘭の顔を盗み見る。
相変わらず楽しそうに雑誌のページをめくっている。


  ・・・ま、いいか。あいつの機嫌がいいって事は、何かまずいことでもなさそうだし。



お昼過ぎになってようやくリビングに人が住めるようになった。


  流石に謎だらけとは言ってもスゲエ量だったな。
  組織の分だけで段ボール2箱分かよ・・・。


   「あー、つかれたっ」


ソファに倒れ込むように寝ころんで、しばらく呼吸も止めてみる。


  ・・・かなり眠い。


一昨日も慣れない試験勉強なんてしていたし、
その前の晩も現場から帰ってきたのは明け方近くだった。
二日会わせても睡眠時間は6時間足らず。
いくらなんでも仮眠は必要。

 がばっ。

どうせ寝るならいい環境で寝たい。
突然起き上がり蘭の方を見る。


  やべ、ちょっとくらくらする。


自分の隣を指差すと、訳がわからないと言った顔をした蘭がこっちにきた。


  いつまでも素直なのは良いことだよ。


思わず笑みがこぼれてしまったが気にしない。
そのまま了承も得ずに隣に座った蘭の膝に倒れ込んだ。


   「一時間かしてね」

   「・・・!!」


真っ赤になった蘭の顔を見るのは楽しい。
いい気分のまま目を閉じる。

ホントにこいつはいつまでも変わらないリアクションを見せる。
二人が“こういう仲”になってからもう3ヶ月たとうっていうのに。
キスだって唇同士が触れるだけでも頭が沸騰するんじゃないかってくらい赤くなるから
怖くて先に進めないし。
ほんとに、〈こわれ物注意〉状態。


  いいかげん、我慢するのも辛いんだよな。


ほんとは一緒に過ごしてる時だって
もっと蘭の身体に触れたい、とか思いっきり抱き締めたい、って思うし、
キスする時だって、このまま舌入れてぇ、とか思うんだけど。


 R・・・RRRRR

 びくんっ


突然、蘭の身体が跳ねてこっちも跳ね上がる。


  なんだよ、まだ何もしてねえぞ!?


   「し…新一、でんわっ。電話っ」

   「ああ?」


  何だよ、電話か。


のそりと起きあがり、テーブルの上に転がっていた子機を手に取る。


   「もしもし?・・・あ、目暮警部」


  警部?ってことは依頼?


案の定、電話口で警部の申し訳なさそうな声が響く。


  ちくしょう、せっかく良いところだったのに。


少し、泣きたい。

電話を終えて振り返ると「しょうがないね」って顔した蘭が座っていた。

理解してもらえるというのは有り難い。


   「ゴメン、蘭。行って来る」

   「うん、いってらしゃい」


今回ばかりは警部を恨もう、何て思いながらジャケットを羽織る。


   「あ、新一、新一が帰ってくるまで待ってていい?」

   「え?でもいつになるかわかんねえぜ」

   「うん。いいよ。晩ご飯作って待ってる。・・・日付が変わる前に帰ってきてね」

   「おう。わかった」


  何かこの会話、結婚間近のカップルみてえじゃねぇ?


何て浮かれ気分で現場に向かう。
今日はさっさと切り上げて帰って来よう。






   「ただいまっっ」


チャイムも鳴らせずに飛び込んだから、豆鉄砲喰らったような顔した蘭がリビングで出迎えてくれた。


   「おかえり・・・。はやかったね?まだ11時前だし。日付変わる前にって言ったんだから
    もっとゆっくりでも良かったんだよ?」

   「そんなに遅くまでおめえを待たせるわけにはいかねぇよ。事件もそんなに厄介なモンじゃ
    なかったから速攻カタつけてきた」

   「じゃあ、ご飯にしよっか!今日はビーフシチュー作ったの」

   「やりい。ちょうど食いたかったんだ」


着ていた上着をリビングのソファに掛けて、ダイニングに入る。

今日の食卓はいつもと様子が違う。
ダイニングテーブルには真っ白な食器が二組、それから花瓶にバラの花。


   「なんか食器とか妙に豪勢じゃねぇ?」

   「だっておばさまのコレクションたまには使わないと勿体ないでしょう?時間もあったし、
    ちょっと凝ってみたの」

   「へえ・・・」



食後。
蘭がシチューの食器を下げながら声を掛けてきた。


   「レモンパイ焼いてみたんだけど、食べられる?」

   「んー…、食う」

   「はーい」


何だよ、今日はやたら待遇がいいじゃねぇか。
良すぎて怖いくらいだ。何か裏があるんじゃないだろうか。
ありすぎる心当たりを思って、思わず緩んだ頬を慌てて締めた。


キッチンに目をやると、パイを切る後ろ姿が目にはいる。
一人何もしないで居るのが申し訳なくなった。


   「お茶、煎れるよ」

   「え?・・・でも」


しばしの間。

なんだよ、俺に茶なんて入れて欲しくないって?
やっぱり何か怒ってんのかよ。
俺が一体何したって言うんだ。


   「じゃあ、お願いしよっかな」


  あれ?


向けられたのは可愛い笑顔。
何だ、別に何かを怒ってるワケじゃなかったのか。


   「緑茶が良い?それともほうじ茶?」

   「はあ?」

   「冗談。」


安心するとついからかってしまうのは俺の屈折した性格と反応する蘭の可愛さのせい。


   「じゃあ、新一はパイじゃなくて羊羹にしようか?。日本茶に洋菓子は合わないもんね」


これじゃあガキのケンカだ。


   「悪かったよっ。紅茶、煎れるから。・・・あ、俺その一番でかく切れてるやつが良いな」

   「はいはい。」


作業をしていると、会話もとぎれる。
黙々とカップの準備をしていると蘭が口を開いた。


   「ねえ、新一」

   「んー?」

   「きょう泊まっていっても良い?」


 がっしゃん。

並べられたカップの上に洒落たデザインの缶と散乱した葉。


  片付け面倒だな、こりゃ。


・・・いや、問題はそこではなく、
今の爆弾発言。
一度頭の中を整理してから本人に確認する。


   「と・・・泊まり?」

   「うん。この連休お父さん仕事で九州行ってていないの」

   「だからって、あの、とまりって・・・」

   「こんな時間に一人で家に帰れって言うの?あたしが恐がりなこと知ってるくせに」

   「それでも、お前・・・」

   「あ、一応いっとくけど変なコトしたら殴るからね」

   「あ・・・そ」


そんなこったろうと思った。
ああ、いつになったら幼なじみから抜け出せるんだろう。
動揺した分の体力がむなしくて、力が抜ける。


   「んじゃ、客間使えよ。あとでシーツ出すから」

   「ありがと」


先は、長い。



パイはリビングでゆっくりしながら食べようって事になった。


   「ん。うまい」

   「そ?」

   「去年先輩と一緒に作ったのも美味かったけど、今回は見た目も綺麗だし、前よりうめえよ」

   「うん、前回何であんなに変になったのかわかんないから今度は自己流でやってみたの」

   「すげえよ、それ。おめえ、ほんとに料理上手いよな」

   「小さい頃から有希子おばさまに教えて貰ってたからね」

   「まあ、蘭の母さんの味はなんつーか、・・・独特だったからな」

   「わたしお母さんの手料理好きよ?」

   「そーか・・・」


そんな他愛のない話をしていると、突然蘭の顔色が変わった。


   「新一っ、今何時何分?」

   「へ?・・・11時59分だけど」

   「良かったぁ」

   「何がだよ・・・って、おい!」


訳が分からないまま、いきなり腕を取られた。


  何だよっ!!!


蘭の視線は俺の手首・・・にある腕時計。


   「シッ!!………9…8…7…」

   「???」

   「6…5…4…3…2…1…」


 リンゴーン♪

二階にある大きな柱時計が日付の変わった瞬間を伝える。


   「おい、何のカウントダウ…」

   「ハッピーバースデー、新一」

   「・・・へ?」

   「また今年も忘れてるんだもん。やっぱりあたしが思い出させてあげないと駄目ね」


軽く笑う表情はいつもより軟らかい。


   「18歳、おめでとう、新一」


時計を見るのに握っていた左手を引き寄せて口付ける。


   「・・・それから、17歳の新一に」


いきなり蘭の顔が近づいた。


蘭から貰う初めてのKISS・・・



自分の顔が赤くなっているのがわかる。
いつもは俺からしかしてねえから、抗体がないんだ。


あたふたしていると蘭がいきなり吹き出した。
恥ずかしいのと悔しいのと嬉しいのとごちゃごちゃした気持ちで振り返る。


   「・・・ごめん。だって新一、金魚…」

   「何だと!?」


誰のせいでこんなに動揺してると思ってんだ!
この天下の工藤新一様が!!!
おめえが突然慣れないコトしたせいじゃねぇか!!!


  完敗だよ、お前には。


でもここでおとなしく負けを認めるのもしゃくだから、最後の抵抗。
負け惜しみ・・・とも言う。


   「お前だっていっつも真っ赤になってんじゃねえか!」

   「だって新一は赤くならないじゃない。ふふふっ」

   「笑うなっつーのに!」


じゃれ合ううちに、蘭の本当の目的を思い出した。
せっかくこんなに手間暇掛けて誕生日を祝ってくれたんだ。
お礼を言わないといけない。

急に黙った俺の顔を覗き込んで蘭が不安げに首を傾げる。


   「しん…い、ち?」


だああ、その顔が可愛いんだってば!!
人がせっかく真面目にキメようとしてるんだから、これ以上俺の脈を上げないでくれ!!

崩壊しそうな理性と戦いつつ、まっすぐ蘭を見つめる。


   「・・・さんきゅ。すげぇ嬉しい」


瞼にKISSを一つ。


   「…うん」


蘭は満足げに微笑んだ。



可愛い彼女の懸命な計画が見事成功して、人生最高の誕生日を迎えた。
ただ一言の「さんきゅ」ではとうてい伝えきれない感謝の気持ち。
抱き締めるぬくもりを感じながら、
この気持ちをどうやって伝えたらいいのか思案する。

これから、二人どうやって過ごそうか。





《Fin》










わたわたしている新一氏を書きたいが為に書いた新一さいど。
キャラつかめてません。彼は一体…



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その後。



  「17の俺の方がいいもん貰うのは気にくわないなあ。」

  「え?」

  「18の俺には何くれんの?」

  「え?え?え?あっ、あの、プレゼントならカバンの中に・・・。」

  「俺が言ってんのがそうイミじゃないって、わかってんだろ?」

  「ひいぃぃぃぃぃ・・・/////( ▽ ;」



なんて、迫られたかどうかは定かでは………無い。(やりそうで仕方がない)