|
5月4日。 国民の休日。 ゴールデンウィーク中日。 そして・・・ 今日は5月3日。憲法記念日。今年のゴールデンウィークは週末と並んだので5連休。 それなのに、今年とうとう『受験生』という物になってしまった高校3年生に大型連休など関係ない、 とでも言うかのように組まれた外部模試。 それも昨日やっとの事で終えてきたところ。 今日からお休みで良かった・・・ 自宅のベッドで目を覚まし、これからの計画をぼんやりと考える。 あいつはまだ寝てるだろうから、もう少ししてから起こしに行こう。 昨日もテストの後呼び出されてたし、きっと帰りも遅かったんだろうな。 工藤新一がこの町に帰ってきて数ヶ月。 一年前の今頃、5月4日を迎える前に、突然姿を消してしまった幼なじみ。 あれからの一年は本当にいろんな事がありすぎて あっと言う間に過ぎてしまった。 だけど、長かった。 今どこにいるのかも解らない幼なじみをただ待ち続けた時間は いつまでも終わらないような気がして、長かった。 思い出すだけで涙があふれてくる。 わたし、あいつのことでしか泣いてない気がする。 頬を伝い枕にしみる涙を少しだけ鬱陶しく感じながら小さく溜息をついた。 今日は5月3日。明日は5月4日。 長い一日が始まる。 ピンポーン いつものようにチャイムを鳴らすとインターホンから新一の寝ぼけた声が帰ってきた。 『・・・・はい?』 「新一、おはよ」 『らん?何だよこんな時間から』 「こんな時間じゃないわよ。もう10時よ!」 『…まあ、とにかく入れよ』 「うん」 玄関にはいると、寝ぼけまなこで食べかけのトーストを持った新一が迎えてくれた。 「珍しいね、新一が休日に自分で朝ご飯食べてるなんて。・・・昨日寝てないの?」 「いや?2・3時間は寝た。まだ昨日の事件の資料片付いて無くてな」 「そっか。じゃあ、あたし来ない方がはかどったかもね。ごめんね」 「何言ってんだよ。・・・あがれよ。散らかってっけど」 今一瞬凄く不機嫌な顔になったかも。そんな新一は子供みたいで可愛い。 それから新一は紅茶を煎れてくれて、リビングに散乱している事件の資料をまとめ始めた。 あんなにバサバサ重ねるだけじゃ折れたり曲がったりしちゃうのに。 でも何も言わないし、手も出さない。 新一って何かしてる時に周りから何か言われるの嫌がるし、下手に手を出すと後で どこに何があるのか解らなくなったって文句言われるだけだし。 そう言えばこの前、園子にこの話をした時 「何年も連れ添った夫婦みたいな言いぐさね」 って言われちゃったんだっけ。 ・・・だって幼なじみなんだもん。夫婦じゃないけど、一緒にいる時間は他の誰より長いし。 ただ、それだけ。 今は“それだけ”じゃないけど。 今年は“幼なじみ”を卒業して初めての5月4日。 でも、今までとあんまり変わってないかも。 当の本人は相変わらず明日が何の日なのか忘れてるし。 なんで迷宮無しの名探偵の頭にはたった一つの日付も入る隙間がないんだろう。 明日は5月4日。 新一の、誕生日。 お昼過ぎになってようやくリビングに人が住めるようになった。 一体どれだけの資料を溜め込んでたんだろう・・・。 「あー、つかれたっ。」 ソファに倒れ込むように寝ころんだ新一は、 しばらく息をしているのかも解らないくらい動かなかった。 ちょっと、不安。 がばっ。 「!?」 突然起きあがった新一に面食らっていると、仏頂面の新一が こっちに来い って手で示した。 「・・・?」 訳もわからず新一の隣に座ると、新一がにやりと笑って(ここで席を離れておけば良かったかも) 突然私の膝の上に寝転がった。 「一時間かしてね。」 「・・・!!」 真っ赤になってる私なんて気にもとめず新一は寝息を立て始める。 ・・・うそ。 しばしの間。 こんな状況じゃ動けない。 このまま一時間? 人の頭ってスイカと同じ重さだって言うよね。 そんなに長時間スイカが膝の上にあったら足がしびれちゃうじゃない……。 ただでさえ新一の頭って詰まり過ぎてて重いんだから。 ・・・って、そんなこと考えてる場合じゃないのよ!! だってこれって・・・膝枕。 あらためて赤面。 どうしよう。 硬直していると突然の音が凍り付いた空気を壊した。 R・・・RRRRR びくんっ 緊張していたせいで過剰に反応してしまう。 電話は、そんな様子などどうでもいいと、電子音を鳴らし続ける。 「し…新一、でんわっ。電話っ」 「ああ?」 うわ・・・超不機嫌。 面倒くさそうに起きあがるとテーブルの上に転がっていた子機を手に取った。 「もしもし?・・・あ、目暮警部。・・・・・」 警部?ってことは・・・ 電話を終えた新一が申し訳なさそうに(物足りなさそうに?)振り向いた。 「ゴメン、蘭。行って来る」 「うん、いってらしゃい」 私を見る新一の目がまるで子犬のようで・・・かわいい。 「あ、新一、新一が帰ってくるまで待ってていい?」 「え?でもいつになるかわかんねえぜ」 「うん。いいよ。晩ご飯作って待ってる。・・・日付が変わる前に帰ってきてね」 「おう。わかった」 新一はそう言って急いで出かけていった。 さて、ここまでは計画通り。休日に新一が事件にも呼び出されないで一日中うちにいるなんて ありえないもんね。 時計を見上げると、時刻は午後2時ちょっと前。 これから買い物に行って・・・10時前には終わるかな。 現在午後10時13分。ダイニングテーブルには食器を二組、それから花瓶にバラの花。 今年の二人のラッキーカラーはピンクだったからかわいらしい小ぶりのピンク。 キッチンにはじっくり煮込んだシチューとレモンパイがスタンバイ。 今回も我ながら美味しく出来たと思う。 あとは、主役のご帰還を待つばかり。 さあ、いつでも帰っていらっしゃい!!! 午後10時48分。テレビを見ながら待っているとチャイムも鳴らさずに新一が駆け込んできた。 「ただいまっっ」 「おかえり・・・。はやかったね?まだ11時前だし。日付変わる前にって言ったんだから もっとゆっくりでも良かったんだよ?」 「そんなに遅くまでおめえを待たせるわけにはいかねぇよ。事件もそんなに厄介なモンじゃ なかったから速攻カタつけてきた」 「じゃあ、ご飯にしよっか!今日はビーフシチュー作ったの」 「やりい。ちょうど食いたかったんだ」 着ていた上着をリビングのソファに掛けて、ダイニングに入ってくる。 「なんか食器とか妙に豪勢じゃねぇ?」 「だっておばさまのコレクションたまには使わないと勿体ないでしょう?時間もあったし、 ちょっと凝ってみたの」 「へえ・・・」 やっぱり何にも気付いてない。そろそろ何かに感づいても良い頃なのになぁ。 新一に気付かれないように小さく溜息をついた。 食後。 シチューの食器を下げながら声を掛ける。 「レモンパイ焼いてみたんだけど、食べられる?」 「んー…、食う」 「はーい」 素っ気ない言い方でもちょっと嬉しそうに頬をゆるめたことに気が付かないはずがない。 何でこんな事でいちいち意地はるのかな。可愛くないの。 キッチンでパイを切っていると新一が入ってきた。 「お茶、煎れるよ」 「え?・・・でも」 ここで主役に紅茶煎れて貰うのってなんか変?一応バースデーケーキだし。 でも・・・新一の煎れてくれる紅茶、好きなのよね。 私は計画の完璧さより美味しい紅茶を取った。 「じゃあ、お願いしよっかな」 「緑茶が良い?それともほうじ茶?」 「はあ?」 「冗談」 くくく…。と声を殺して笑う姿が妙に悔しくて 「じゃあ、新一はパイじゃなくて羊羹にしようか?。日本茶に洋菓子は合わないもんね」 なんて言い返してしまった。 「悪かったよっ。紅茶、煎れるから。・・・あ、俺その一番でかく切れてるやつが良いな」 「はいはい」 なんだかこうしてると小学生と話してるみたいでちょっと、おかしい。 こんなにすぐふてくされたり慌てたりする私の幼なじみが天下の名探偵だなんてね。 隣にいる新一は慣れた手つきでポットを暖めたりリーフの量を量ったりしている。 新一の紅茶を煎れる手つき、いつ見ても、すき。 ちょっとだけ赤くなった顔に気が付いて、ごまかすように時計を見た。 11時52分。ちょうど良いくらいね。 「ねぇ、新一」 「んー?」 返事はしても紅茶を煎れる手は休めない。 「きょう泊まっていっても良い?」 がっしゃん。 突然大きな音がしたから慌てて隣を見ると、新一が真っ赤な顔で固まっていた。 新一の手元には紅茶の缶が倒れている。 あーあ、葉っぱもったいないなあ。 「と・・・泊まり?」 「うん。この連休お父さん仕事で九州行ってていないの」 それに、泊まらないと明日一番におめでとうが言えないでしょう? でもそれはまだ秘密。 「だからって、あの、とまりって・・・」 「こんな時間に一人で家に帰れって言うの?あたしが恐がりなこと知ってるくせに」 「それでも、お前・・・」 「あ、一応いっとくけど変なコトしたら殴るからね」 「あ・・・そ」 なんだかがっかりしたように見えるのは気のせいかしら。 「んじゃ、客間使えよ。あとでシーツ出すから」 「ありがと」 パイはリビングでゆっくりしながら食べようって事になった。 「ん。うまい」 「そ?」 「去年先輩と一緒に作ったのも美味かったけど、今回は見た目も綺麗だし、前よりうめえよ」 「うん、前回何であんなに変になったのかわかんないから今度は自己流でやってみたの」 「すげえよ、それ。おめえ、ほんとに料理上手いよな」 「小さい頃から有希子おばさまに教えて貰ってたからね」 「まあ、蘭の母さんの味はなんつーか、・・・独特だったからな」 「わたしお母さんの手料理好きよ?」 「そーか・・・」 そんな他愛のない話をしていてはっと気が付いた。 「新一っ、今何時何分?」 「へ?・・・11時59分だけど」 「良かったぁ」 「何がだよ・・・って、おい!」 いきなり腕を取られた新一が慌てた声を出した。 ごめんね。 私の視線は彼の手首・・・にある腕時計。 「シッ!!………9…8…7…」 「???」 「6…5…4…3…2…1…」 リンゴーン♪ 二階にある大きな柱時計が日付の変わった瞬間を伝える。 「おい、何のカウントダウ…」 「ハッピーバースデー、新一」 「・・・へ?」 「また今年も忘れてるんだもん。やっぱりあたしが思い出させてあげないと駄目ね」 さっきの仕返し、と軽く笑う。 「18歳、おめでとう、新一」 時計を見るのに握っていた左手を引き寄せて口付ける。 「・・・それから、17歳の新一に」 ちょうど一年前の今日、あなたは私の隣にいてくれなかったから、言えなかった分。 私からの初めてのKISS・・・ いつもは新一からしかしてもらっていないから、少しだけ、勇気を出してみたの。 真っ赤な顔をした新一が口をパクパクさせて固まっている。 ・・・金魚みたい。 可笑しくなって吹き出してしまった。 子供みたいにぶすっとした新一が振り返る。 「・・・ごめん。だって新一、金魚…」 「何だと!?」 怒った新一がふざけて襲ってくるけど、笑ってしまって言葉が続かない。 「お前だっていっつも真っ赤になってんじゃねえか!」 「だって新一は赤くならないじゃない。ふふふっ」 「笑うなっつーのに!」 じゃれ合っていたら急に新一が真面目な顔をしたので、一瞬どきりとした。 「しん…い、ち?」 「・・・さんきゅ。すげぇ嬉しい」 瞼に落とされるくちびる。 「…うん」 私も、新一が喜んでくれたなら嬉しい。 毎年、自分の誕生日すら覚えていられない名探偵さん。 私がこうして毎年思い出させてあげるから 来年も、再来年も、ずっとずっとその後も、 こうして隣でお祝いさせてね。 《Fin》 戻る さいど-S |