brother?「あ、もしもしウィンリィです。はい、ラッシュバレーの。すいません、急に。 …いえ、あの明日…はいハロウィンの…その、仮装のことなんですけど……」 10月31日はハロウィン。一年のうちでクリスマスと誕生日とお正月の次に大切な日。 子供達は夜になると仮装した姿で家々を回り、大人達にお菓子をねだる。 今日この日にだけ使うことが許された、特別な魔法で。 「Trick or treat!」 バラの花をあしらった華やかな看板の下をくぐり、店の奥にある扉を開けた瞬間、幼馴染みの高い声が耳に突き刺さった。 金属と油の街・ラッシュバレーで、こんな声を出す人間は他に思い当たらない。 「ぶわっ!?何だ急に!」 「それはこっちの台詞よ!あんたたち、来る時は連絡寄越せって何度言ったら分かるわけ!? まだ試着中だってのに、失礼しちゃう!」 「試着?」 「ウィンリィ…どうしたの、その格好…」 目の前に仁王立ちする幼馴染みは、いつものシンプルな作業着とは対照的な、鮮やかなオレンジ色に包まれていた。 丸くふくらんだパフスリーブに、ボリュームのあるスカートが揺れる。膝よりもずいぶん高い位置にある裾からは、健康的な二本の足が伸び、しかしその足下はいつもと変わらぬサンダル履きであった。 日常的に目にすることはないその形状と色合いに、エドワードとアルフォンスは目を丸める。 「可愛いでしょ!ガーフィールさんが作ってくれたんだよ。ハロウィン用に」 「ハロウィン?」 「ああ、もう30日だもんね」 「そ!…ねぇ、あんたたち明日まで居るでしょ?」 「うん。その予定だよ。ね、兄さん」 「あ?」 「よっし、じゃあ一緒に仮装しよう!あたしが衣装作ってあげるからね」 「ほんと?わぁ、ハロウィンなんて何年ぶりだろう!」 「ねぇ、エドは何着たい?」 「それ以前に俺を巻き込むな!」 お化けの仮装、夜の街、カボチャのランプにお菓子の山。 久しく忘れていた、こんなわくわくする感覚。 抵抗する口調とは裏腹に、エドワードの表情もまた、ウィンリィのそれと変わらなかった。 今日は10月31日。時刻は午後5時30分。 空が暗くなり、少しずつだが冷たい風も吹き始める。 暗闇に隠れた屋根の上のバラは、日の光でもガス灯でもないほのかな灯りに、その影を深くする。 オレンジがかったランプの明かりが3つ、ぼんやりと灯った。 「うん、ぴったり!」 「昨日測ってたのはこれだったんだね。首にちょうど合うよ」 2mを越える巨体を包む赤いマントに 弟、アルフォンス・エルリック本日のテーマは『カボチャ大王』。ハロウィンの日にやってくるカボチャの国の王様、とのこと。 いつもの鎧の頭部をカボチャのランプに付け替えれば、アルフォンスはあっという間にカボチャの民に変身した。 名も体も大きな大王の隣で、頭の異物をしきりに気にする兄、エドワードの仮装テーマは『狼男』。ふわふわの毛皮を模した茶色い耳がカチューシャで留められている。服装は一般的な礼装だが、後ろ姿には、耳と同じファーで作られた大きな尻尾が揺れていた。 そして二人の目の前に、昨日と同じオレンジ色に身を包んだ、ネズミの国のカボチャ姫。 (なんでミミ…) ティアラの両サイドから伸びる黒く丸い物体に疑問の視線を送っていると、ウィンリィはそれに気が付いたらしい。 エドワードの頭部を見て満足げに微笑んだ。 「エドもアルも、あたしとおそろい!」 「は?」 ワケが分からないと小首をかしげる兄弟の背後から、近所の子供達の楽しそうな声が響いた。 『Trick or treat!』 「あっ、始まったみたい!ほら、行こ」 アルフォンスの手を握り、エドワードの背を押してウィンリィが駆けだした。 ウィンリィの持つアルお手製の 「どうしたの、兄さん?」 動こうとしない兄を振り返り、弟が声を掛けた。 「あー」 「今更なに恥ずかしがってんのよ」 「ちげぇよ。なんつーかさ、俺ももう社会人っつーか…収入あるわだし、いつまでも貰う側なのもどうかと思ってさ」 「はぁ。…じゃあなに、あたしが『Trick or treat』って言ったらあんた何かくれるワケ?」 「……おう」 かさり。 そう言って仏頂面のまま差し出されたのは小さなクッキー詰め合わせ。 オレンジ色のリボンで結われた袋がハロウィン仕様になっている。 ウィンリィとしては、まさか同い年のエドワードからお菓子をもらえるとは思っていなかったのだけど。 袋を見つめて、エドワードを見上げて、それからもう一度手の上の袋に視線を落して。ようやく出てきた言葉はたった一言。 「…あっ、ありがとう!」 「おう」 「カボチャ大王だ!」 エドワードが視線を逸らすのとほぼ同時に、道を挟んだ向こうから男の子の声がした。 振り返るとシーツのお化けや魔女達が駆け寄ってくる。 小さなお化け達に囲まれて、大きなカボチャの王様はたちまち人気者になった。 お隣の小さな獣がフワフワ揺らす尻尾も、もちろんすぐに注目の的。 「イヌ?ねぇこれイヌ!?」 「もこもこー」 「わんわんのしっぽー!」 「お お か み だっ!とって喰うぞこのやろー!」 わざと歯を出すように唸ってみせると、子供達はきゃーきゃーとはしゃいで飛び退いた。 もちろん、一定の距離を保って近くにいるのだけれど。 「ほら、お前ら何か言うことないか?」 そう意地悪げに問いかけると、子供達もまた、イタズラっぽく笑い返す。 この日こう問われて答えるのはただ一言。 『Trick or treat!!』 エドワードは満足げに頷くと、ポケットから手を出し、キャンディーの雨を降らせた。 エドワードの周りでは、飛び散るキャンディーを受け止めようと、子供達が楽しげに駆け回る。 色とりどりの紙に包まれたキャンディーがぱらぱらと空に舞う様子を少し離れた場所で見ながら、ウィンリィは何か切ないような、嬉しいような、不思議な感覚を覚えた。 「…あいつって昔から、アルとあたしの“お兄ちゃん”だったのよね」 「うん」 自分と同じ感覚を覚えているのだろうか。 しかし自分より少しだけ嬉しそうなアルフォンスの同意の声を聞いて、思わず笑顔が溢れた。 どんどん大人になっていく“兄”に、 置いていかれるような寂しさと、先を守ってくれるような心強さを感じて。 「あいつら30日になって突然帰ってくるから何にも用意してなくて…。勢いで衣装用意する約束しちゃったけど、実際何が出来るのか考えるとなかなか。…ええ。あれなら耳作るくらいで何とかなるかと思って」 機械整備なら自信があるのだけれど、裁縫となると話は変わる。 針の傷でぼろぼろになった指で回したダイヤルは、セントラルの軍司令部。 故郷の祖母にでもよかったのだが、何となく、自分より一歩大人の彼女の声が聞きたかった。 「…それで、今作ってるんです。狼の格好―」 どんな衣装が作れるだろう。どんな衣装が似合うだろう。自分の仮装と並んだら…。 いつもと違う姿なら、当たり前のことも新鮮に感じるんじゃないだろうか。 どんな事にも胸が躍る。そう、それはハロウィンの魔法。 少しずつ大人になっていく自分たちに、あと何度この感覚を楽しむことが出来るのか。 忘れていってしまうなら、子供で居られる今のうちに目一杯楽しみたい。 電話線の向こう、遠いセントラルにもこの楽しさが届きますように。 「あっ、リザさん!! えっと……ハッピーハロウィン!」 はやる気持ちを抑えながら、そっと受話器を置いた。 サイト10000HIT御礼・ハロウィン企画でのフリー小説。 配布期間は終了しております。 ありがとうございました! ちなみに三人、こういう格好です。◆
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