正直に言えば、どうして自分がこんなに怒られているのかが理解できなかった。



一体自分が何をした?
万事屋の差し入れに洋菓子を持っていこうとして、玄関の戸を叩いても応答がなくて、鍵が開いていたので躊躇いながらも中に入って、洋菓子を冷蔵庫に入れて、ちょっと休もうとソファに腰掛けて――いつの間にか、柔らかい心地に身体を委ねて眠っていた。そうして今、目が覚めた。


目を開けるとすぐ前に彼が居た。
開口一番に怒鳴られた。
目を吊り上げて声を荒げる、彼のそんな顔を見たことは未だかつて無かった。
父上には叱られたことはあったけれど怒られたことは一度としてなかった。だから、生まれてはじめて、男の人に全力で怒られた。


けれど、私はほんとうに、どうして自分がこんなに怒られているのかが理解できなかった。
呆然とする私に背を向けて、彼は和室の奥に消えていった。
去り際に聞こえた呟きが、やけに耳の奥にこびりついた。



「お前寝息立ててたんだぞ 何が結婚まで貞操守るだよ ふざけんな」



強烈な音を立てて、居間と和室を隔てる襖が閉められる。
その時私は、この居心地の良い四人の空間の中にも男と女と言う区別があって、そうして自分はその中の女と言うカテゴリに含まれているのだということを、悟った。
そうして彼は私とは違う、男という生きものだったのだ。



私は知らなかった。彼に女として見られていたということを。
私は知らなかった。これほど露骨に過敏に反応する、私の中の女を。



あの襖から再び銀色の髪が覗いた時、私はどんな顔をしたらいいのだろう。











戻る