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とぺと音を立てて沖田さんの唇から蠍座を思わすほどに恐ろしく綺麗な赤が溢れて地に墜ちた。桃とも朱とも違う鮮やかな何かが混じったそれを、あああれは血なのだと頭ん中で認識する前に、果てなく対照的というかあまりに不釣り合いだというか、否そうであることが寧ろ自然というかそう思われるくらいに青い白い、否顔の色を失った土方さんが土に還り逝く沖田さんの真っ赤な殻を包みこんだ。その一挙手一動作俺の目にスローモーションのように映っては残像を網膜に留めては目ん玉の裏っ側にこびりついて、どんなどんなに目を擦っても離れなかった。ただ土方さんの黒の隊服に動かぬ蝉がちょこん留まっているのが見えて、ああ何となくあれが沖田さんなのかもしれないと思った。線香臭くなった隊服に厭きるまで酒を浴びた。膝元くらいまで酒の海に浸かる幻覚を見たところで体内を循環する全ての動きが逆流した。酒だったらしきものと一緒に血を吐いた。蝉も吐いた気がしたけどそれは幻覚だった。蝉はまだ網膜の土方さんの残像にまるで寄り添うように留まっている。いつに成ったら消えるのかななんて思ったけど直ぐにきっとしばらく消えないんだろうなと思い直した。蝉だと思ってたそれは殻だった。飛び立った後の殻だったと気付いた。俺の口許は自然に歪んだ。床に散らばる赤い俺の血を見つけても土方さんは何とも思わないんだろうとか否土方さんも沖田さんと一緒に飛んで行っちゃったのかなとか一体沖田さんと土方さんは俺の何だったんだろうとかそんな事が頭ん中をぐるぐる回ってまた少し吐いた。吐き出される何もかもが黒かった。何時しか隊服は吐瀉物の臭いに塗れて、俺の空っぽな残骸が音も無く畳の上に崩れ墜ちた。支える手など有る筈も無く、何処かで蝉が喧しく鳴いては止んだ。 夏じゃない何かが終わった。 (ああ俺何だか馬鹿みたい。) 戻る |