四文字熟語行政書士物語 VOL.09

格物致知

 その日は朝から予定が無く電話営業の
石部金吉所長であった。
 二十数本目の電話の先から、直ぐ来てほしいとの内容の様である。
「今十時なので、十時三十三分までには伺えると思いますが、近くに何か大きな建物、目印になるようなも
のは御座いますか?それでは直ぐに向かいます、石部と申します、失礼しますゥ」ごくノーマルな電話営業
の結果である。

 
石部金吉はこの器用貧乏法令オフィス行政書士事務所を開業して13年になる、札幌行政書士会には平
成18年11月1日現在671人の行政書士が所属し、大半の事務所は一人でやっているところが多い、又
逆に80人の補助者を雇用している事務所も有る。その中で7名の補助者が居る事務所は健闘しているほ
うではないだろうか!と内心満足している。

 ちなみに、資格者の人数は次の通り(人数の多い順)
税理士      北海道、1976人  札幌市、1337人
 行政書士     北海道、1469人  札幌市、 671人
社会保険労務士  北海道、 950人  札幌市、 189人
土地家屋調査士  北海道、 950人  札幌市、 326人
司法書士     北海道、 582人  札幌市、 374人
弁護士      北海道、 490人  札幌市、 387人
公認会計士    北海道、 220人  札幌市、 192人
公証人      北海道、  25人  札幌市、  10人
弁理士      北海道、  18人  札幌市、  17人
 となる。意外に弁護士は多いんだナ〜。

 
千里(一望千里)は3年目のアシスタントチーフ(補助者)であるが、午後に金吉が訪問予定の顧客の資
料を持ってきた「午後に訪問する(有)
しまおくそく、(有)きくじゅんじょう、の書類持って来ましタ」いつも明る
く大きな声である。「オッゥ、(有)
揣摩臆測、(有)規矩準縄の書類ね、有難う」

「しまおくそく、の方は先月役員借入金が35万円、五日に発生しましたが、二十五日に20万円役員に返済
して合計15万円の役員借入金が先月発生してます。きくじゅんじょう、は先月、先先月500万円程の完成
工事売上高を計上していますが、今回の分は320万円になってます、顧客連絡ノートにも記入しましたけど
確認おねがいしますぅ」

「解かったョ」金吉の解かったはほとんどいいかげんである為、顧客連絡ノートをアシスタントから各社分、出
かけるときは渡される。

 そこに、
満帆順風満帆)が住宅地図のコピーを持ってきた。
「これから伺う(有)がっしょうれんこう、の場所の地図ですが、地図には(株)時代錯誤になってますので最近
成立したのか?変更か?でしょうか?」

「そうか(有)
合従連衡は載ってないんだナー、(あなたは感動するドラマを今日も演じられますか?)行って
きます!」

 補助者全員起立「行ってらっしゃいませ!」
 所長である
金吉が出かける、帰って来る、お客様が来る、帰る時の器用貧乏法令オフィスの風景である。

 十時二十五分、客宅到着(看板も無く、個人の表札、切磋と紙に書かれて貼られてあった)。
 はたして、交換した名刺に目を向けるとー
合従連衡建設 代表 切磋琢磨―と書かれてあった。
 これから法人にして色々やるにあたってどのようにすれば良いのか?の相談である。
 資本金はいくらか?どのような仕事を行ないたいのか?決算期は?挨拶もそこのけに次々と質問する

を遮り、鷹揚な顔立ちの切磋琢磨は話し出した。

「会社を作りたいけどその辺の事は皆目わからないので来て戴きました、お前こんなことも知らないのって言
う所から教えてください。」

「ああ、これは失礼しました。会社にはー株式会社、有限会社、合資会社等資本金によって替わります、40
0〜500万円で建設業を考えておられるんでしたら、資本金500万円の有限会社はどうでしょうか?…・、
危ない!(ととと、ここで、従来の癖でつい言ってしまったが、平成18年5月に新会社法・  最近の社会経済
情勢の変化への対応等の観点から,最低資本金制度,機関設計,合併等の組織再編行為等,会社に係る
各種の制度の在り方について,体系的かつ抜本的な見直しを行っています。
・  商法第2編,有限会社法,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律等の各規定を現代的
な表記に改めた上で分かりやすく再編成し,新たな法典(会社法)を創設しています

 以上の目的で会社法が施行になり、資本金はいくらでも良くなった。又、類似照合についても同じ住所でな
ければ使用できることを思い出した。)

「あぁ〜、すいません、会社法ができてからは、資本金は1円以上で特に制限がなくなったのと、株式会社で
の設立になります。」数度の勉強会の受け売りも交え、話を続ける
金吉だった。

「しかし、建設業許可申請には、資本金を500万円で設立し、目的には、建設工事の設計・施工・・・・・などを
要れて、決算期については、消費税も考え・・・仕事上入金の多い月・・・さらに・」ここで切磋琢磨は口を開い
た。
「大先生、目的と言うのは書いてしまったら、絶対やらないとだめですたか?」

「そのようなことは無いですよ、将来やりたいこととか、考えている事などを皆さん要れています、た
だ、会社の登記簿(履歴事項全部証明書)は顧客、元請、銀行などが見るものですから、何をして
いるか明確の方がいいと思いますが・・・」

「実は妻が、介護の資格を持っているので介護関係のことを1つ入れてほしいのさ。」
「了解です、それも要れておきましょう、後は取締役になる社長と奥様の印鑑証明書を用意して下さい。」
「そうすっと、取締役は自分と妻の2人で自分が代表取締役、資本金は建設業絡みなので500万円、決算期は
10月31日、商号は先生の方でも考えて貰える。」一つ一つ確かめながら話す琢磨だった。

雲蒸竜変

 事務所に戻った
金吉は、担当者を決めるべくミーティングに入った。
「・・・な事でこの件を受任したけど、誰が担当する?」
「はい、丁度担当していた案件が一段落したので、私が担当したいと思いますが。」
天下泰平が手を上げた。
「つきましては、商号ですが、元請、取引先の関係もありますので、株式会社
合従連衡建設がよいと思います、
余り違和感なくすみます、個人のときの屋号には色々な拘りも有りますから。定款の作成に入っても宜しいです
か?」
 ミーティングを終え、所長室に一人残った
石部金吉切磋琢磨から電話が入った。
「あっ、先生、妻の印鑑証明が取れないんですたヨ!」困惑した様子が感じられるのを、落ち着かせて良く話しを
聞くと今現在まで印鑑登録する機会がなく、いまだ登録されてなかったとの事、すぐ登録したいものの運転免許
証もなくてそのまま区役所から帰ってきたとの事である。
「それじゃ、健康保険証と自分宛の郵便物などをもっていくしか・・・何か写真付きのものでも有れば・・・・。」
「写真つきのもの?!そう言えば妻は昨年、友達とハワイに行ったのでパスポートを持ってますが、そんなの使
えますか?」

「グゥートゥ、大丈夫です、それ持ってすぐ登録してください。」
 公証役場に於いて無事に定款の認証を終えホットしたのも束の間、又問題が発生した。今度は資本金の問題
である、資本金の500万円に70万円の不足金額がでてしまった。数日の持越しである。
 3日程した頃、元気の良い声の
切磋琢磨の電話が鳴った。

「あっ、先生!お陰様で手数料まで待って頂き感謝してます、元請に話をしたら(何でもっと早く来な
いんだ!)と怒られまして、その場で借用でき、無事に揃いました!」

 弾む声を聞き、結構元請にかわいがられているのが確認された。
 後は、銀行通帳のほうへ自分名義で振込、事務所に届けてもらい一件落着。(お前こんなことも知らないの、て
言う所から教えて下さい)

 
石部金吉切磋琢磨に始めてあった時に言われた言葉だが、なかなか味なことを言うナ〜、金吉メモにイン
プットされた。
 応接室には誰か来客のようなので、金吉が入っていくと
曖昧模糊が接客していた、名刺交換をして席に着き名
刺を見ると株式会社
時代錯誤、代表取締役となっていた、手短に模糊が経緯等説明し、本題に入った。

「実は、2年前に会社を引っ越したのと4年前に取締役が亡くなったが法務局の届出をしないまま居たところ、こ
の度書類が送られてきたのです。」

「そうですね〜、これは株式会社の定款において取締役の任期を変更しない限り、従前の定款が有効であり、都
合6年、3回の変更登記をしていないことに也、懈怠料が課せられたと言う書類です。」
「こうゆうのは、こちらの事務所と顧問契約すれば、都度連絡して貰えるのでしょうか?」
「勿論、連絡もさせて頂きますが、其の他手続き上の疑問、質問にも対処させて頂いております。」
「会社の事ではないのですが、自分の母が痴呆少し入ったみたいなのですが?」
「成年後見人の制度があります、後日ゆっくりとその辺の話もさせて頂きたいと思っていますが・・。
私はこの後出かけなければなりませんので、失礼します。」
曖昧模糊に案件を戻し席を立った。

浅学非才

 
金吉は、車の中で(つくづく一つの会社でもいろいろな問題を抱えて、経営する代表取締役を見るにつけ、孤独
だな〜)と感じていた。
 より一層のフルサポートできるよう研鑽しなければならないと深く心に刻んだ場面だった。
「大先生、これから伺う顧客はどんな人でしょうね?私の意見は少しいい加減に感じましたけど?とにかく先生と一
緒に来てほしい・・」
天下泰平は不安そうに話した。
「うーン、俺に合いたいのは、値引き交渉が入るパターンが多いのだが・・」
又は、全然話に成らないパターンなのか?結構この瞬間はワクワクしていた。客宅を確認した二人は少し早い昼
食を取る事にした。
「そばでも,たぐる?」

「えっ、たぐる?、蕎麦を食べる粋な言い方ですか?、大先生は、そのボキャブラリーどこで仕入れているんですか
ね〜手繰りまくってもいいですか?」
「ハハハ、好きなだけ食べてもいいよ」天下泰平は、なにげに会話していたが食べている最中ずっと

金吉
のウンチクを聞くはめになるとは思っていなかった。

漬物サ、必ず二切れなんだよ。人切れ(一切れ)身切れ(三切れ)につながるから、二切れなんだ・・。先約優先て
あるべ、事務所で考えるなら、断然、後約優先だな!指示が出たら後の方を優先しないとだめだべな…。他譲自
得は俺が考えた言葉で、他人に譲ると自分が得をする事なんだけども、テーブルにすごい豪華な料理が並び目の
前に長〜い箸がセットされているそうだ、地獄では自分で食べられないので、皆、痩せこけているが、なんと天国で
は、箸を自分のために使わず、他人に食べさせるのに使うから、皆、太ってたんだってよ。

部下、上司をうまく使えば自分が得をするからなぁ〜、
曖昧模糊一望千里大器晩成に正確に教えるのは、自
分の仕事をこなして欲しいからで、自分しか出来ない仕事に専念したいからさ。金吉は、エンジン全開である。

「働くと言うのは、人が動くって書くけど、本当の働くは、傍楽って書くんだ、傍迷惑の傍と同じで周りの
人を楽にしてあげないと・・。オアシス語は、おはようございます、ありがとうございます、しつれいします、すみませ
ん、・・。

報連相の報告は(指示された人に返答すること)連絡は(情報の共有)であり相談は(決済を受けること)AかBどち
らがよろしいでしょうか?私はBが良いと思いますが・・。企業と言うのは、良い人を止める業が有る組織で・・」
長い、この手の話をする
金吉は自己満足に酔い止らない。続きを話そうとするところを遮り天下泰平は「あい、とぅい
まてぇん。大先生時間です。」天下泰平は伝票を渡し、運転席へ滑り込んだ。
客宅に着き、話し始めた
石部金吉の耳に飛び込んできたのは、
「大先生、俺頭悪いから、お前こんなことも知らないのって言う所から・・」
 うっ!、最近流行ってるの??

 株式会社
合従連衡建設―代表取締役切磋琢磨の名刺が10日後の法務局から履歴事項全部証明書と印鑑証明
書が取得できる日に出来あがった、電話連絡を入れた後一升瓶を片手に訪問した時には、入り口に=株式会社 

合従連衡
建設=の真新しい看板が目に眩しかった。


  格物致知(かくぶつちち) 物の道理を究めて、学問・知識を習得すること。

揣摩臆測(しまおくそく)根拠も無く推し量り想像すること。当て推量。

  規矩準縄(きくじゅんじょう)物事の基準。手本。規則。

  合従連衡(がっしょうれんこう)外交政策、強敵に対抗するための戦略。
雲蒸竜変(うんじょうりゅうへん)英雄や豪傑が時機をとらえて世に出ることのたとえ

  時代錯誤(じだいさくご)      切磋琢磨(せっさたくま) 
  浅学非才(せんがくひさい)