四文字熟語行政書士物語 VOL.08

拈華微笑

 (株)
拈華微笑社長一心同体が奥さんである一心不乱を伴って器用貧乏法令オフィスを訪れた。

 大先生不在のおり「すいません、
ねんげみしょう の 一心ですが?」不安げに入ってきた、
白川夜船がちょうど接客にあたった。

「いらっしゃいませ、どうぞ此方へ」応接に通し、すぐ金吉に電話を入れる。20分程で戻るの
で繋ぎを指示された夜船は自分の名刺を持ち応接に向かった。

 器用貧乏法令オフィス アシスタントマネージャー 
白川夜船、の名刺を差し出し笑顔で交換
した後。「只今、大先生は外出していますが30分で戻りますので、私がお伺いしたいのですが
宜しいですか?」

「あッ、大先生は出かけられているのですか、(なぜか?顧客は事務所の人間の言う通り言う)
それでは建設業許可申請をお願いしたいのと会社の役員変更をお願いしたいのですが?」パリッ
としたスーツにつつまれた一心同体が、マリンブルーのパッケージ・パーラメントに火を着けた。

「それでしたら、私
白川は司法書士を持ってますので、役員変更を担当致しますが、建設業許可
申請の担当者と一緒にお聞きしたいので少しお待ちくださいませ。」
夜船はすぐに順風満帆と連
れ立ち応接に入り、顧客の話に耳を傾けた。

 内容的には会社を15年やっていて、社長である
一心同体が2級土木施工管理技士を持っている
、しかし役員の変更を4年間忘れていた事例だ。

 金吉が戻り応接に入ると粗話は終わっていたが、着手金のことで
夜船金吉にサインを出しな
がら「本来なら総金額の半分を着手金として戴かなければなりませんが今、お手持ちが5万円し
かないと言う事なので宜しいですか
?」

「あッ、大変申し訳ありません、結構ですよ。住民票その他取得するのにすぐにお金掛かるもの
ですから…、着手金の残金は明日で宜しいですか?」

「いえ、今日帰りましたらすぐ用意します」
一心不乱がはじめて口を開いた。

「そうですか、じゃ夕方の4時に会社の方へ伺います」(器用貧乏法令オフィスの集金ルールで、
依頼を受任した時点で半金、終了時に半金が原則であり、その場で幾らかの金銭の授受をするよう
に決めている)。

 (株)
拈華微笑の会社は何か独特の雰囲気があった。
 その応接室は壁沿いに熱帯魚が悠々と泳ぎまわっていた「どうもどうも、先ほどは有難う御座い
ます」
ねんげみしょう取締役専務の名刺をだし一心不乱が先に入ってきた。

「いえ、先ほどは失礼致しました、なにか気になることがおありですか?」
「はい、実は主人が昔ずいぶん遊んでいまして…・」この手の話は、何度か経験していた金吉だが、
このような時ははっきりと「刑に処せられたことがありますか?」「警察に捕まったことがありま
すか?」「禁錮以上の刑は有りますか?」等ズバリ聞いたほうがよい、自慢しているわけではない
のだろうが、詐欺、傷害、常習賭博、薬物、など意外と本当のことが聞ける。
 当然それにより対処の方法がかわる、また、もし取り下げにでもなれば・・・その辺も想定して
話すも、お金についてはあまり関心なさ気に聞いている。

通常であれば、(お金くれるなら、背中だって流しますよ!)結構強気の発言をする金吉だが、今
回はいろいろ言葉を選び、慎重に応対している。その証拠に、「報酬額は、書類作成のスピードと
アフターフォローの差が金額に出ます」など、聞かれてもいないことに、饒舌に答えていた。
一心同体の双子の兄が、今なお現役で
質実剛健組系、弱肉強食組、組長だそうである。そのためい
ろいろな方面から兄と間違われるし、付き合いも有るという、ここまできたら、運否天賦だ。

「昔の話なのに…・・、今現在はまったく少しも関わりが無くてもダメでしょうか?」訴えるよう
に問う
一心不乱に、決意を持った言い方で金吉は言った。

「確実なのは社長が役員から外れて、経営業務管理者を専務にしての申請が確実ですが…・・」
「……………・、………」今にも泣き出しそうな
一心不乱が言葉に詰まった
時、代表取締役
一心同体が口を挟んだ。
「大先生お願いします、取り下げになるようなことに成っても良いですから、一応申請していただ
けませんか。」二者択一を迫られた。

 金吉は、建設業法第7条三( 法人である場合において当該法人又はその役員若しくは政令で定
める使用人が、個人である場合においてはその者又は政令で定める使用人が、請負契約に関して不
正又は不誠実な行為をするおそれが明らかな者でないこと。)が頭の中にポッカリ浮かぶのを感じた。

「……、わかりました!但し、いやな思いをする事に為るかもしれませんよ」
18:30に事務所についた時には、事務所内が、臨戦態勢モードに入りピリピリしたなかで、順
風満帆が口を開いた。
「業務予定表に入れましたが、(株)
拈華微笑の建設業許可、新規申請は、いつ提出予定にしましょ
うか?」
「3日後の提出予定でどうだ?」
「もう一日、4日後の提出予定にさせていただきたいのですが、今日は7時から飲み会ですヨ。」仕
事に没頭していて、月一回の飲み会ミーティングを失念していた。

 一足早くに、場所を確保した
曖昧模糊は、スナック治外法権のVIPルームで、用意に余念がない

「時間通りだね!皆、騒ぐから、隔離されたとこ予約しました。」ところ狭しと騒ぎまくっていると
ころに、マスターの
昼夜兼行が平身低頭で
現れ「少しだけ、静かにしてください」なに!ムムムムム!場所を変え2件目は、カラオケルーム四面楚
歌、部屋に通されるや否や、一望千里はリクエストをし、マイクを握っている。

白川夜船天下泰平は、一次会の続きで喧喧囂囂と意見を戦わせている横で、銅吉順風満帆はデュ
エットの曲を愉しそうに選曲している。
大器晩成はリクエストを終え、虎視眈々とマイクを伺ってい
る。

一方、
曖昧模糊は沈思黙考することしばし、今日の反省なのか?なにか数枚のレポートをしきりに目
を通している。

金吉大先生は、そんな騒ぎをよそに、胸の大きいコンパニオンに
厚顔無恥にも何か話しかけ、ご満悦
の態。
多情多恨で嫉妬深いという彼氏の悩み事の相談を受け、「いっぱつ、内容証明郵便でも出すか
!それは分かれたほうがいいからナ〜、安くやってやるゾ」と業務に繋がるかどうかわからない話に大
言壮語している。

このメンバーで、こと業務にはチームワークの良さが売りとは?適材適所なのであろうか、甚だ疑問
の一こまである。

大義名分

昨晩のことがうそのように、飲み会の次の日は全員、朝が早い!8時40分、朝のミーティングを終え、
各自自分の業務に向かって勇往邁進する姿勢はすばらしい。

 果たして、書類は出来たが大先生自ら支庁のほうへ持参するも15日後程経過した日、電話が入った。
「不誠実の為、取下げお願い致します。その辺の連絡も御願いします。」
 えっ、予期していたとは言え絶句した金吉は落ち込みを隠せなかった、沈んでいるところに、
曖昧模
が入ってきた。

「失礼します、どうされましたか?それならイレギラーかもしれませんが、支庁の方に直接聞いて、当
事務所から連絡するより支庁から連絡して頂いたほうがいいと思いますが」
 ウーン、なかなか鋭いアドバイスである。
 結果、すんなり支庁の方から連絡してくれることになり、ワンステップクリアー。

 重苦しい雰囲気の中で
金吉は事の次第を報告すると、以外にも一心同体一心不乱は、サバサバした
様相である。
「いや、いや、有難う御座います、昔のツケが来てしまったのですね、唯今後のことを考えますとはっ
きりさせたかったので、私達夫婦もどうなのかナ〜と云うものから開放されました、本当に有難う御座
います。」

ここからが、本来の建設業許可申請の業務に入った。まず代表取締役の
一心同体が取締役・代表取締役
を辞任し専任技術者になり、取締役経験者を募集し、
一心不乱は代表取締役に就任した。しかし取締役
経験者の募集は難航し、思った人物が現れない。

「大先生、困りましたょ。」新しくこの件の担当になった
曖昧模糊が所長室に入ってきた。
拈華微笑の件か?適当な人材が見つからないのかい?」
「なかなか募集してもパットしません、親戚筋、友人、知人関係にも声を掛けているみたいなんですが
これといって・・・、社内の人材で申請できないかも検討しているのですが・・・・」

「そういえば、部長が2,3年前まで自営してたの何年間だった?」
「あっ、・・・・・・・・出掛けて来ます。」勢いよく飛びだしていった。
すぐさま、会社に訪問した
曖昧模糊一心同体に部長との面談の了解を取り
、応接に呼び出してもらった。
「部長は個人事業主を何年されていました?」
「あそこを辞めてからだから、・・3年ぐらいですか。」(あ〜。3年か、最
低五年なんだけれどな〜)
曖昧模糊はさらに詳しく聞いた。
「すいません、刑事みたいですけど、その前、その前は?」
「その前は、7ヶ月程務めてましたが、その前4年間くらい、自営していました。」ん?、ん?、話の内
容をまとめると次のようになる。

 ・16年4月〜       (株)
拈華微笑   入社営業部長現在に至る
 ・13年7月〜16年 3月 
一喜一憂工務店 自営
 ・13年1月〜13年 6月 (有)
誇大妄想   勤務 部長職
 ・09年4月〜12年12月 
一喜一憂    自営

 との事である。人の記憶の曖昧さが出ているものの、自営期間はトータル33ヶ月プラス45ヶ月の78ヶ
月になる。いける!気持ちの奥底から湧き出る高揚を抑えつつ
曖昧模糊は続けた。

「それでは部長さん、自営されていたときの申告書、納税証明書、納付書など保管されていますでしょ
うか?」
「それは、探してみないと・・」

 見つけ次第連絡をもらうことにし、(株)
拈華微笑を後にした。
 事務所に戻った、
曖昧模糊はすぐさま所長室で報告打ち合わせに入った。
「以上のとおりですが、もし、申告書、納付書が無ければ、建設国保の証明願いで、やりたいのですが
、よろしいですか?」(う〜ん、なかなか詳しくポイントを把握してきたな〜)

「よし、それでいこう!書類の作成、添付書類の取得、確認事項、それぞれ指示してくれ。俺はこの後
、法務局に寄れるので履歴事項全部証明は取得してく
るよ。」

 その後(株)
拈華微笑の経営管理、一切を器用貧乏法令オフィスが請負、何か事あるごとに事務所に顔
を出し色々相談していくも信頼関係が生まれたからであろう。

「大先生!、オフィスのアシスタント全員、言葉と行動が一致しているし、嘘が無いので安心して任せ
られますネ」帰り掛け何時も必ず言い残して帰る。

 全員起立「有難う御座いました」


 拈華微笑(ねんげみしょう)
   無言のうちに心が互いに通じ合い、気持ちをくんでもらえること。
 一心同体(いっしんどうたい)   一心不乱(いっしんふらん)
 二者択一(にしゃたくいつ)    一喜一憂
 誇大妄想(こだいもうそう)    質実剛健(しつじつごうけん)
 弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)運否天賦(うんぷてんぷ)
 終始一貫(しゅうしいっかん)   自問自答(じもんじとう)
 治外法権(ちがいほうけん)    昼夜兼行(ちゅうやけんこう)
 平身低頭(へいしんていとう)   四面楚歌(しめんそか)
 喧々諤々(けんけんがくがく)   虎視眈々(こしたんたん)
 唯我独尊(ゆいがどくそん)    厚顔無恥(こうがんむち)
 大言壮語(たいげんそうご)    勇往邁進(ゆうおうまいしん)