四文字熟語行政書士物語 VOL.02

喜怒哀楽

強いノックと同時に、株式会社判官贔屓ー社長富国強兵は入ってきた、「先生いったいどうなってるのよオ!」かなり強烈に怒りを顕わにしている。

 金吉が昨日の13時に訪問した際、アポイントを取った上で訪問したにもかかわらず先客のため、30分程待たされた。 応対した女子事務員(純情可憐)の態度も金吉にはカチンとくるものであった、声の出さない御茶だし、自分の席に着くと鏡を取り出し枝毛の手入れ、(うちのアシスタントの接客態度とずいぶん違うなァ)思いつつも何故か無性に腹立たしくなり、事務所に帰路に着いた、勿論女子事務員可憐の態度は相変わらず枝毛の手入れに夢中で此方を見ようともしない。

 判官贔屓の社長富国強兵は「行政書士なんか沢山居るゾ」と怒鳴っている。

「そういう事務所に依頼してください。」金吉は(まただ!)何時もこの類で失敗?している、一様の言い分を聞いた後、徐に口から出た言葉は相変わらず非難する感情的な言葉である。

 言葉を遮るようにアシスタントの模糊曖昧模糊)が明るい声で「何時もお世話になってます。コーヒーをどうぞ、一寸失礼します」金吉に電話のメモを渡し別室に行くと、続いて入ってきた金吉に向かい「先生!又依頼を断るんですか?」何時に無く厳しい口調である。

「じゃ、君が受任してくれ」模糊はこの事務所にきて6年になるベテランのアシスタントであり事務所での役職はアシスタントディレクターである。

 15分程経過して所長室に入ってきた模糊の声は弾んでいた顧客依頼調査書を差し出しながら受任の説明をしている、金吉が決済して社長の所に戻った時には、上機嫌顔の強兵がコーヒーを飲んでいた。

「先生のとこにはずいぶん優秀な補助者が居ますね〜ェ、私の所の事務員にも困っているんですよ」社長の本音がでた。

「有難う御座います、本当に助かってるんですヨ、また、当事務所では新入社員教育指導もやってますので是非どうですか?」

「そちらの方もよろしく頼む」喜怒哀楽の激しい()判官贔屓の社長 富国強兵もすっかり落ち着き、納得して事務所を後にした。

「どうも有難う御座いました!」事務所職員全員の起立であった。

 顧客が帰り一段落した為改めて朝のミーティングが始められた、今日の司会は曖昧模糊である「本日の予定は、()判官贔屓の本店移転業務と新入社員マニュアルの作成ですけど…・、千里チーフは今日の予定は何ですか?」

「はい、私は顧客()極悪非道の雇用保険加入手続きです」

「それは、今日中にお願いします、満帆チーフは()孤立無援の建設業許可申請ですよね、白川マネージャーはどのような予定ですか?」

「はい、私は各社の会計の予定でしたが、先にお手伝いできますよゥ」ベテランの白川夜船マネ−ジャーは模糊の腹心である。

「それじゃ、本店移転は白川マネージャーに任せますね。皆さん今日も宜しくお願い致しま〜す」「宜しくお願い致します」ミーティングが終了した。

 事務所内が慌ただしくなった時、金吉はつくづく・仕事さえ入ればこなせるのだな・と思った。

 概ね全ての案件に対しては曖昧模糊の記憶力、学習能力は群を抜いている。

「ディレクター!、新入社員マニュアルですけど……。」夜船の問いに、

「アッ、以前やった()欣喜雀躍の資料を参考に進めてください」

「はい、()欣喜雀躍 を参考にして進めますが、その前に本店移転の類似照合調査は?どういたしましょう?」

「ウ〜ン、今大先生が法務局に居ますから、大先生に頼もうか?」

「エ〜〜、私から云えないですゥ〜、ディレクターから電話して下さいョ。」

 模糊はすぐに電話を取り大先生に連絡し、千里チーフを呼んだ。

極悪非道の処理はどうですか?何か有れば手伝うよ。」

極悪非道 に2人入って一人は監査役なのですが社会保険加入できますか?」

「それは出来ませんよ、商法276条にうたってるから」なんとも的確な指示を与え曖昧模糊は業務を遂行していく。

 石狩支庁へ「建設業業種追加申請」を提出しに出かけていた大器晩成から電話が入った。

「すいません。証紙(北海道収入証紙)5万円分で良いところ7万円分の証紙を貼ってしまいました。契印も押したし…、窓口でもめている最中です…」

 その場で、剥がして貰うよう指示したが、埒が明かないようだ、「もう使用してしまった証紙は絶対に、使用できませんので。」の一点張りのようである。

 結果、「建設業許可申請手数料還付願」用紙を渡された大器晩成君、途方に暮れてしまった。

「それなら、金額的には無駄にならないけど、顧客の印鑑と口座番号が必要になるので顧客宅に回って下さい、今日中に処理してね、大先生には私から謝っておきますから大丈夫だよ」模糊の声が事務所の中で踊っていた。

 チョット変わったことをしてしまった晩成だが、内心は(へー、こんな用紙有るんだ、皆知らないだろうな〜)とみような感心と安心を胸に行動を起こせた。

 何か困ったこと、変わったことを経験すると、そこで又一つ知識が増えていくものみたいで、このような事でもなければ手数料還付願用紙など知るすべもなかった。(また一つ新しいことを覚えた、ラッキー)

 いかにも若者らしい前向きな考えで、事務所のチャリンコ1号を漕ぎながら、みんなに自慢している自分を想像していた晩成だ(もっともそんな失敗は自分だけか?)。

 この用紙は、平成13年4月以前には、何かの事情で申請を取り下げるときにも使われていた。

 たまたま事務所に戻った金吉は、(すいません、本当にすいません)と電話に頭を下げている満帆を目撃した。ちかくに居た千里に「どうした?」小声で聞くと、株式会社 欣喜雀躍の社長さんから怒りまくりの電話が入っていた。

 今日、建設業の許可が有効期限切れの日でどうするんだ!と言う事である。

 その書類は確か2ヶ月前には提出していたはずであるのだが…、電話を終えた満帆を呼ぶと「すいません。」か細い声で満帆が所長室に入って来た。

「株式会社 欣喜雀躍気宇壮大社長の処に、元請け会社より、本当に手続きしているのか?と再三連絡が入り、更新になった許可証のコピーを提出できないなら、せめて今現在の許可証をファックスして欲しいと言われたのだが許可証も紛失して、ほとほと困り果て電話を取ったのだが、元請けの怒りが増幅して電話を掛けてきたため非常に声のトーンが高かった。」とのこと。

「それでどうしたの?」どうしたら良いとの考えもなく聞く金吉に。

「それで、直ぐに曖昧模糊が「建設業許可証明願」を石狩支庁に取りに行き、そのまま
欣喜雀躍に届けるそうです。」興奮して話す満帆だが、金吉は、素早い処理業務の模糊に驚いていた。と同時にチームワークの良い処理の仕方に感嘆していた。

 次の日の朝のミーティングで事細かに各人の報告を聞く金吉欣喜雀躍していた。

 2日後に更新の書類が顧客の処に送付されたのだが。これは3ヶ月前に提出した書類であった。

  判官贔屓(ほうがんびいき)       不遇の人や弱い者に同情し、味方すること。

  富国強兵(ふこくきょうへい)     国の財力を豊かにし、兵力を増強すること。

  純情可憐(じゅんじょうかれん)     極悪非道(ごくあくひどう) 

  孤立無援(こりつむえん)        喜怒哀楽(きどあいらく) 

  欣喜雀躍(きんきじゃくやく)    小踊りして喜ぶ事。非常に喜ぶ事。

  気宇壮大(きうそうだい)        心意気、心構えが非常に大きいさま。