写真は平成15年4月22日入佛開眼供養式開白法要の様子
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水屋は五重塔本尊奉安の記念堂宇
當院の水屋は平成十五年四月二十二日に行われた国指定重要文化財五重塔への御
本尊胎蔵界大日如来奉安の記念堂宇として建立された。この御本尊奉安は五重塔が
建立された寛文七年以来のことで、三百三十五年目にして二度目の慶事であった。
入佛開眼供養式はこの日(旧暦弘法大師正御影供)より数えて二十一日の間行われ
た。導師は日替わりにて衆内龍象の御出仕を頂き、開眼供養式は勤修された。この
供養式と同時に一般公開の御開帳も行われ、その間の参拝者は約三万人を数えた。
御本尊奉安当日である開白法要は光り輝く大日輪を太陽に頂く中粛々と勤修され
た。この日境内はまさに数千人の人で埋め尽くされ、立錐の余地も無いほどの盛況
ぶりであった。
二十一日間の供養式を終え、訪れた多くの参拝者により奉納された浄財について
は、蓄財するのではなく何か記念のものを残そうという事になった。色々な事柄が
考えられたが、最終的には水屋を建立する事となった。
五重塔御開帳の浄財を基金とし、更に檀徒・信者・一般の方々へ寄進を募った結
果大きなうねりとなって水屋建立の浄行が行われることとなった。そして、後世に
伝わるものをと五重塔御本尊制作から水屋建立に至るまで、たずさわる者が一丸と
なって全身全霊を捧げた上に漸く出来あがったものである。
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上写真は完成直後の水屋・平成16年12月18日撮影
下写真は敷石に陽刻された蓮華座
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水屋の形態と概略
水屋の形態は津軽産の総ヒバ入母屋造りの壮麗な姿を目指した和様建造物であ
る。台輪上の東西南北四方の中備に鬼を配し天井の梁を支えている。鬼が支える格
天井には逆梵字の光明真言が薬研彫にて彫刻されている。水甕は文久元年に制作さ
れた旧来のものをそのまま使用し、これまで水屋として使われ続けてきた意義と歴
史を大切にしている。水甕への水は特別誂えで蝋型鋳造された龍神より頂いてい
る。四本柱は接ぎ手無しの一尺ものを使用し、内側の敷石には水甕に向けて、寂静
なる覚りへの道標として蓮華座を陽刻している。水屋の一角には『輪廻塔』があ
り、輪廻転生からの解脱による後生の安楽を願う参拝の場ともなっている。
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上写真は最勝院蔵の十二天像の一、水天尊容絵図の一部
下写真は水屋龍神
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水と水天と龍
水天は水界の主として水をつかさどり、諸龍の王とされる。即ち龍神は水天の使
いであり象徴なのである。その為、この水屋の龍神が持つ金の玉には水天の御真言
『オン バロダヤ ソワカ』が陽刻されている。龍は八部衆(天、龍、夜叉、阿修
羅、迦楼羅、乾闥婆、緊那羅、摩ゴ羅伽)の一つとして仏法の守護を担っている。
更には、水が我々の生活の中で大変重要なものでもある為、水への畏怖と尊敬の念
と願いを込めて固有の龍神信仰として古来より強く崇められている。水天の使いで
ある龍神より清浄なる御水を頂戴し、神聖さを感じつつお参り頂き、そして願いが
かなうようにと特別に制作奉安されたのが當院の龍神『バロダ龍王』である。その
御姿はまさに天へ昇りつめ、天翔るその一瞬を捉えたものである。
水天と龍の関係や、水天の密教における存在は大凡以下の儀軌(経典)等に示され
ている。
梵語 varuna 『水天』あるいは『バロダ龍王』と訳される
西蔵語 chu-lha 『水天』あるいは『バロダ龍王』と訳される
青龍寺儀軌 『大海中の龍王なり』
覺禪鈔 『口伝にいわく、三千世界龍王の主、輪蓋龍王なり』、『三昧
耶形=龍索』
賢却十六尊記 『水天は羂索を執る』
大日経具縁品 『バロダ龍王は羂索をもって印となす』
金剛界現図曼陀羅 成身会五解脱輪外側西南隅や外金剛部二十天の内北方地下天の
最下端等に位置する
胎蔵界現図曼荼羅 外金剛部院の西門の北側に位置する
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上写真は蜜蝋による型で制作途中のもの
中写真は鱗の様子
下写真は鱗の拡大図、作者の指紋がくっきりと見える
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龍神の蝋型鋳造行程
龍神は、蝋型鋳造された実に精巧なものである。この蝋型鋳造の技法は歴史が古
く、制作者の意匠が細密に表現できる特徴がある為、今の世にもその技術が伝承さ
れているのである。原型そのままに制作された龍神の尊像は細密さを極め、特に鱗
一枚一枚に作者の指紋がくっきりと浮かび上がっている等、その精巧さには驚かさ
れるばかりである。
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上写真は薬を粉砕する道具の薬研。薬研彫の名称はここからきている。
中写真は薬研彫りの正逆比較、第一文字目の『オン』字。
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梵字と薬研彫
梵字が彫られている格天井の板の厚さは一寸五分(約4.5p)。この板にVの字に
切り込むように刷毛書きの梵字が印象的に彫られている。この彫り方を薬研彫(や
げんぼり)という。薬研とは薬師が漢方の薬種を粉砕する為の道具のことで、舟形
で中が深くVの字にくぼんだ形をしている。薬研彫の名称はここから来ている。薬研
彫は鎌倉時代に盛行した技法であり、板碑や石碑に本尊の種字をこの技法で施すの
が一般的である。刷毛書きの梵字は真言宗僧侶の澄禪が有名である。刷毛を自由自
在に操る事による摩訶不思議な文字文様は見る者に強い印象を与え、真言の奥深さ
を際だたせるものがある。更にはその刷毛書きの梵字をわざわざ逆さの梵字にして
格天井へ彫り込んでいる。
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逆梵字と光明真言
梵字を直接見上げても、鏡に映したように反転した梵字なのでそのままでは読む
ことが出来ない。しかし、龍神よりお水を頂く時、水甕の水面には正規な姿を現し
た梵字が映り込み、読誦することが出来るよう工夫が凝らされているのである。龍
神の口より出でる水は激しく水面を乱す為、まずは蓮の葉に水を受け水甕に水を静
かに落とし込むことにより水面を乱さぬよう考慮されている。水面には梵字が龍神
に向かって右上より『オンアボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンド
マ ジンバラ ハラハリタヤ ウン』の順に現れている。これを光明真言と言う。
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光明真言と大日如来
光明真言は大日如来の徳が凝縮された有り難い御真言である。この御真言が天井
に配されているのは、水屋が五重塔本尊の胎蔵界大日如来奉安の記念堂宇として建
立された為である。この御真言を眼に焼き付け胸にいだきながら本堂の御本尊金剛
界大日如来のもとへと、心身共に清らかとなり参拝頂く為でもある。そして、この
光明真言の天井の梁を支えているのは四体の鬼達である。
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光明真言を支える鬼達『護法四善鬼』
鬼達は元々よこしまな鬼、つまり邪鬼であった。邪鬼は正しい教えや言葉に耳を
貸さず悪の道に浸りきり、世の中の人を悲しませ、怒らせ、邪悪な快楽の世界へ誘
う悪行を繰り返し、困らせ続けてきた。そこで、如来は忿怒の形相を示現し明王に
姿を変え、教令(如来の教え)に従わせることにより邪鬼達をも迷いの淵から救い
出そうと強く強く働きかけたのである。そして、その結果邪鬼達は改心し善鬼とし
て如来の教えを信奉してゆくこととなった。この四体の善鬼達は人の感情を現す
『喜怒哀楽』の表情を呈しつつ、仏法を護るべく天井の光明真言を今も渾身の力で
必死に支えているのである。この最勝院の鬼達を『護法四善鬼』(喜鬼、怒鬼、哀
鬼、楽鬼)と呼ぶ。
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【明王と邪鬼】
如来は菩薩の身をかりて私たちへ身近に教えを説いて下さるが、邪悪の者(邪
鬼)は優しい姿や言葉には耳を貸さず、悪の道に浸りきっている。正しい教えに従
わず悪行を続ける者に対し、悪の心を切り離し、善の方向へ引き寄せようと言う調
伏の心で忿怒の形相となり、如来は明王に変身し強く働きかけるのである。これは
如来の教令(教え)に従わせることで迷いの淵から何とか救い出そうとする慈悲の
心の現れである。
方角 如来 明王 対象
中央−大日如来 −不動明王 −龍神=水天=光明真言
東方−阿しゅく如来−降三世明王 −哀鬼
南方−寶生如来 −軍荼利明王 −楽鬼
西方−阿弥陀如来 −大威徳明王 −喜鬼
北方−不空成就如来−金剛夜叉明王−怒鬼
邪鬼は迷いの根元である三毒煩悩のことでむさぼり(貪)、いかり(瞋)、おろ
かしさ(癡)のことである。明王により煩悩を調伏(悪を打ち負かすこと=降伏)
され邪鬼から改心したこの四体の鬼達は、如来の教えを信奉し、それを支える護法
の善鬼、つまり護法四善鬼となった。
平成十六甲申年極月吉祥日
最勝院第三十八世 法印 公彰 識
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