踏み台にしてきた夢広げて部屋にしきつめた







2





 冷たい雪の上。空には星。屋敷はひっそりと静まり返り、窓から黄色い光が漏れている。
 がらがらがら、と音を立てて、車寄せにやってきたのは、金の飾りがついた、黒塗りの立派な、四頭立ての馬車だった。




(道化の知り合いなんて居たかしら・・・・・)

 ぼうっと佇んで観た白昼夢に、随分と疲れているな、と自身の体調を判断したアリスは、額に手を当てる。
 眼帯を付け、不思議な帽子をかぶった道化は、にやにや笑ってアリスを観ていた。

 入りたいなら、いつでもどうぞ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 それはなんだか、随分と甘美な誘惑に思えた。
 そこに囚われれば、きっと己を律しなくても良い気になれる。入って、ぐるぐるぐるぐる思考の波を漂えば、それだけでいいのだと思えるほど。
 必死に、何かを振り払うように、強がって気を張る必要はないのだと、甘く誘われた気になった。

 でも、そんな久々の夢を打ち砕いたのは、現実に響いた馬車の音。

 一体どんな来客かと、ひっそり裏口から屋敷に戻ったアリスは、妹を探した。


 日も暮れて大分経つ。遠く時計塔が鳴らす鐘の音を聞きながら、アリスは来客にお茶を用意するメイドに、イーディスの所在を尋ねた。




「お父様の仕事仲間、みたいよ」
 疲れた声でイーディスは告げる。ただし、何かトラブルを抱えているようで、たまにああしてやってきて、色々と無理難題を押しつけるだけの話し合いをするらしい。

 その度に、父は疲れて行き、イーディスをじっと見つめるそうなのだ。

「どうせお金のことでしょう」
 吐き捨てる彼女に、アリスは唇を噛んだ。借金でもあるのだろうか。
「ま、家を出た姉さんには関係ない話よ」

 きっぱりと告げ、顔を上げるイーディスの横顔が強く、アリスは何も言えなかった。

 この家のこと、ロリーナのこと、その全部を、アリスは妹に丸投げした。
 全部、だ。
 本当は、次女であるアリスが、ロリーナの代わりとなって屋敷を護るはずなのに、放棄したのだ。

 自分にはその権利はない。

 それは、酷く都合のいい言葉だった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 責任。権利。

 それは、誰が決めたものだったろうか。




 のろのろと廊下を歩きながら、それでもアリスは引き寄せられるように父の書斎へと足を運んでいた。
 ひっそりと静かで冷たい廊下。その廊下に、再び落ちている薔薇の花を見つけて、アリスは眉を寄せた。

 お客人が持ってきたのだろうか。

 拾い上げた時、わずかに開いた戸の隙間から声が漏れた。


「我々は何も、無理なお願いをしているわけではありません」
「・・・・・・・・・・・・・・・しかし」
「ではほかに、あなたは何をどうするというのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


 言い渋る父が、何か条件を飲まされようとしているのだろうか。
 そっと立ち上がり、アリスは手に薔薇を持ってドアに近寄った。ダイナのように足音を忍ばせて。

 黄色い隙間に目を押しあてると、書斎の机の前にある、応接用のソファに腰を下ろした父が見えた。向かい誰か腰をおろしている。
 一人が立ち上がる気配がし、絨毯を踏みしめる音がする。

 物騒な雰囲気。
 タバコの香りがして、アリスは胸の動悸が激しくなるのを覚えた。

 危険を察知し、それを「無関心」という特技で回避してきたアリスには、それはたやすく判った。
 父が関わりを持っている人間は、口調こそ丁寧だが、れっきとした悪党だ。

「いい加減、折れてください。それでないと、これ以上の援助は無理ですよ」
 呆れたような物言い。
 そこに混じる微かに剣呑な、人を脅しつけるような低い響き。

 こくん、と喉を鳴らして、アリスはそおっとドアを押してみた。
 視界が少し開け、椅子に腰を下ろす男の金髪が見えた。

 きっちりとスーツを着て、居丈高に父を見下ろす視線。だが、どういうわけか、アリスにはその顔がはっきり判別出来なかった。

 誰、と言い表せない。

 疲れている。
 頭がうまく回らない。

 ごしごしと目をこすり、今度はアリスは父を観た。
 青ざめて俯く彼が見え、胸が痛く吐き気がする。

 乱暴な感情が胸に込み上げてくるが、それをかろうじて飲み下し、アリスは身を引こうとした。
 これ以上、深入りする必要はない。

 イーディスに言われたではないか。



 余所者には関係ないと。



 そうだ。アリスは余所者で、ここではないどこかで馬車馬のように働いている。
 何もかも振り切るように。
 誰にも許してもらえないから、せめて何かの役に立とうと、命を削って生きている。

 死に行く為に生きている。

 夢なんか見ない。
 どんな夢も、悪夢にしかならないから。

 現実こそが、悪夢。


「いい加減、決断してもらえませんかね?我々は、ただ、あなたのお嬢さまが頂ければそれでいいんです」

 聞き捨てならない台詞が聞こえて、アリスはぎくりと足をとめた。

「しかし・・・・・」
「父親らしいことはなにもしていないと、調査済みですよ」
 しらじらしく言われ、がたん、とソファを蹴立てて父が立ちあがるのが、ドアの向こうに感じられた。

 だが、否定の言葉は終ぞ、男の口から洩れなかった。

 じっと、イーディスを見詰める、父。

 アリスには正義感は無い。
 あるのは、どうしようもないほど弱い自分だけだ。

 弱い自分。

 弱い自分は、ここでこの会話を訊かないふりをして立ち去れば、またしても逃れられない輪に囚われることを恐れていた。
 これ以上、どうやって何を償えばいいと言うのか、と弱いアリスが絶叫する。


 働いて働いて働いて。
 帰ってきて食べて寝て働くだけ。
 必要最低限の物しか買わない。
 お洒落もしない。
 恋もしない。

 自分を律し、ただ求められるようにと振る舞う。


 その自分が、あとなにを犠牲にして懺悔すればいいのだろうか。

(犠牲?)

 その思考に吐き気がした。


 足元に、鎖が絡みつき、白昼夢に見た道化が嗤うのが判った。


 君はそこを見捨ててここに来ればいい。
 いくらでも、君の罪に罰を与えてあげるよ?
 欲しいんだろう?罰が。

 犠牲にしてるから許してほしい。
 すべてを捧げるか許してほしい。

 許されることなんかないのに、君は律儀だよね?そして、頑固者だ。
 だけど、もう犠牲に出来る物なんかないよね?

 だったらここに来ればいい。
 ここで、じっくりとたっぷりと考えて、悩んで、閉じこもればいい。
 それだけでいいんだ。

 ねえ、囚人さん。
 脱獄しようとしないから、俺は君が大好きだ。


 だから、ここにおいで。


 せせら笑う道化の声に、アリスは脚から力が抜けるのを感じた。
 鎖が、足から這い上がり、首に掛る。

 かちん、と鍵が掛るその間際、アリスは強く握った薔薇のとげに、掌が傷つくのを感じた。

「っ」

 いつだって、現実が一番強い。
 彼女を、どこかに引き戻す。
 現実の薔薇は、じっとアリスを見詰めていた。ひっかいて、血のにじんだ掌を見詰め、彼女は何も言わない父に腹を立てて、「ドア」を開けた。






「それは、イーディスを辱めるためにくれと、そういうことでしょうか」
「!?」
 唐突に割り込んだアリスの声に、立ち上がり、なのに俯いていた父がはっと振り返った。
 眦を決し、椅子に座る金髪の男を睨みつける。

 微かに、驚いたように男が目を見張った。それから、ゆっくりと笑みを広げる。

「いいえ、違います」
 きっぱりと告げる男の、にこにこ笑う顔に毒気を抜かれ、アリスは眉を寄せた。

 もしかして自分は、何かを勘違いしたのだろうか。

「でも、」
「アリス!」

 ぐい、と父の手が肩に掛り押し戻される。それを振り払おうとするアリスに、金髪の男はのんびりと口を開いた。

「我々はイーディスさんに興味はありません」
「でもっ」
「アリス!!」

 必死な父の声に、眉を寄せたアリスが視線を落とす。
 笑顔の金髪の男が、何かを言うより先に、ゆらりと、闇が動いた。

 身をすくませる、強い力。
 圧力。
 威圧感。

 凝り固まった闇が、ゆっくりゆっくり自分に向けた広がるのを、アリスは感じた。



「私が欲しいのは、君だよ?お嬢さん」


 雷に打たれたように、アリスはその場に凍りついた。






 窓辺に立つ男は、凍った庭を忌々しそうに眺めていた。それから振り返り、ゆっくりとシルクハットのつばを押し上げる。
 長さの不揃いな黒の前髪の下で、碧の瞳が物騒な光りを湛えている。
 凍りつくようなプレッシャー。

 ぞっと肌が粟立ち、それと同時に、心臓が割れるように強く鳴り始めて、アリスは膝が震えるのを感じた。

 見開いた、翡翠の瞳が、たった一人、どんな人間よりも存在感の溢れる男に釘づけになった。

「アリスさえ手に入れば、我々はあなたと有効な関係を続けることを約束しようじゃないか」
 なにせ、君はアリスの父親なのだから。

 彼女を悲しませるようなことはしたくないからね。

 くすりと妖艶に嗤う男から、アリスは目が離せなかった。


 これは、何と言う名の悪夢だろうか。
 醒めて欲しくて、手に持っていた薔薇をきつく握りしめる。掌を、生温かい物が滑って落ち、アリスは震えた。

 先ほど、鎖を打ち砕いた現実の感触が、何も打ち砕かない。
 ここにあるのは、まぎれもなく現実だと、付きつけるだけだ。

「失礼」

 言い放ち、男はアリスをかばうように、でも力なく立つアリスの父を、呆気なく押しやった。崩れるように座りこむ父親を見詰め、唖然とするアリスの手を、男が取った。
 握りしめ、白く震える掌を、丁寧に優しく、開いて行く。

 ぱさり、と薔薇が床に落ち、血に濡れた掌に、男が唇を寄せた。

 湿った舌が、傷口を舐める。
 びくん、とアリスの肩が震え、じわりと涙が滲んだ。

 血に濡れた掌に、唇を押しあてて、強く吸った男が緩やかに顔を上げた。

「迎えに来たよ?」
 お嬢さん。


 言葉の出ないアリスの唇を、その男が奪った。




「長かったな」
「そうね」
「待ちくたびれたか?」
「忘れるくらいには」
「忘れると、君は宣言していたな」
「言ったことはやり遂げる主義なの」
 男の方を見ないで、アリスは力任せに石畳を歩く。馬車を先に行かせ、戻らない旨を告げた男は、アリスが知る彼とは違い、一切奇抜な格好をしていなかった。

 黒いコートにシルクハット。紳士然とした優雅な足取り。物騒な筈のステッキさえ、普通の物に見えて、アリスは眩暈がした。

 現実に溶け込んでいるから、現実だとしか思えない。
 そして、コチラに溶け込む努力をしたと告げる男に、更に眩暈がした。

「アリス」
 ずんずんと、力一杯街の通りを歩いていたアリスは、近寄った男に、手を取られる。
 手袋を外した男の手に、己の手が包まれる。

 体温が、溶ける。

 そのままコートのポケットに押し込まれて、アリスは驚いた顔を上げた。

 帽子の下で、信じられないくらい柔らかく微笑んだ彼に、胸がはずんだ。
 息が上がる。
 繋いだ手が、強張ったのが伝わったのだろうか、男はぎゅっと強くアリスの手を握り返してきた。

「これは・・・・・夢?」

 呆然と告げるアリスに、繋いでいない方の手を突きだした男が、開いて見せた。

 ぽん、と音がして薔薇が一輪現れる。

「ならば、賭けをしよう、お嬢さん」
 その薔薇を、アリスの耳元に挿しながら、男は身を屈めると彼女の耳朶に甘く囁いた。
「明日の朝、私が君のベッドに居なかったら・・・・・それは夢だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「良いな?」
「・・・・・・・・・・ブラッド・・・・・」

 頬に朱がさし、耳まで赤くなる彼女を引きつれて、男―――ブラッド=デュプレは彼女の小さな居住へと再び歩きだした。



 その世界は、アリスの現実。
 小さな机と大きな本棚。ただ身を横たえて眠るだけの簡素なベッド。
 綺麗な物も、可愛いものも、趣味の物もない部屋。

 簡潔に、己のありようだけを追求した部屋。

 面白みもないその部屋に、足を踏み入れたブラッドは溜息を吐いた。

「監獄の方がまだ面白みがあるぞ?」
 転がる玩具。甘いお菓子。膝を抱える囚人。

 甘く、暗く、腐敗していく己の思考。捕えるにはもっとも適しているそこと、アリスの現実はかみ合わない。
 アリスは、甘いものを求めているわけではないのだ。

「・・・・・・・・・・決着って、ジョーカーと?」
 別れる間際に言われた台詞に、アリスはブラッドを振り返る。座る物が無いので、彼はベッドに腰掛けて、コートを脱いでいる。
「さあ、どうかな」
 くすりと笑う男に、アリスは「こういう奴だった」と苦く思いだした。
 紅茶の缶を取り出し、そう言えば、飲めればいいのだと、随分安っぽい茶葉しか買っていなかった自分に気付いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ここで、紅茶狂いの男に、これを出して良いものか。

 手にしたまま悩んでいると、不意に後ろから抱きすくめられた。

 狭いキッチンは、この男と二人で立つと一杯になる。

「ちょ」
「君の香りがする」
「・・・・・全然別の人間の香りがしたら、それは私じゃないじゃないのよ」
「ああ、だから言った」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「君は変わらないな、アリス」

 するっと、彼の鼻先が首筋を掠め、唇が押しあてられる。
 ざわっと肌が粟立つのを感じ、アリスは目を閉じた。

「変わったわ」
 震える声で言われて、ブラッドはふむ、と目を細めた。

「髪が・・・・・短いな」
「切ったからね」
「長いほうが良かったが・・・・・これはこれで悪くない」
 くるくると弄ばれて、己の胸の下辺りを拘束する腕に、そっと手を乗せる。火に掛けた薬缶がしゅんしゅんと音を立て始めた。
「紅茶、要らないの?」
「紅茶より、君が欲しい」

 さらっと言われた台詞に、俯いていたアリスはくすっと笑った。

「マフィアのボスともあろう人が・・・・・紅茶よりも女?」
「マフィアのボスらしいだろう?」
 そう言えばそうか。

 腕の中で、細く長い吐息を吐き、ゆっくりと身体を反転させる。普通の仕立ての服に、胸元にハンカチーフ。タイ。銀色のボタンを眺めてから、アリスは情けなく笑った。

「こんな恰好・・・・・貴方らしくないわ」
 よく似合っているけれど。

「お気に召さないかな?」
 笑い、ブラッドはアリスの頬に両手を添えた。そのまま顔を寄せる。

「君も・・・・・酷い格好だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 簡素なシャツに、黒のスカート。

「どこの家庭教師だ?」
「お気に召さない?」
「最悪だ」

 笑いながら、男はアリスに口付けた。
 ただ重ねるだけの、軽いキス。ぎゅっと、ブラッドのシャツを縋るように握りしめれば、応えるように口付けが深くなる。
 首の後ろと腰を抱かれて、振り回される。ベッドに倒れる前に、男は薄く笑うと手探りでそこから毛布を引っ張り上げた。
 そのまま、ふわりと床に落とすと、そこにアリスを横たえる。

「ちょっと・・・・・」
「こんな、面白みもない部屋で、面白みもないベッドでするのは、非常に面白くない」
「・・・・・・・・・・・・・・・悪かったわね」
 手を付いて身を起こそうとするアリスに、枕とクッションを放って、ブラッドはにやりと笑った。
「それに、他の男を連れ込んだかもしれないベッドなど、願い下げだ」
「なっ」

 瞬時に顔を赤くするアリスは、「そんなわけないでしょう!?」と悲鳴交じりに怒鳴った。

「それはどうかな?」
 タイを緩めて、ゆっくりと腰を落とす。隣に座り、圧し掛かるブラッドを、アリスは頬を染めて、ぼうっと見上げた。
「無いわ・・・・・ここは私の現実で、ここの私は・・・・・良識的よ?」
「良識的な女は、自分の部屋に男を連れ込まない?」
「・・・・・・・・・・未婚の女性で、そんな真似をする人はいないわ」
「では、これは非現実的?」
 夢か?と重ねて言われて、アリスは覆いかぶさるブラッド越しに、見なれた自室の天井を見る。

 正面の窓の外では冷たい雪が降り積もり、アリスの机には持ち帰った企画の書類の入ったバッグが置かれている。
 小さな鉄製のストーブは赤々と燃え、先ほどの薬缶から柔らかな湯気が上がっている。

 冷たい木の床。アリスの香りがする毛布と枕。クッション。

 キッチンと、申し訳程度に付けられた小さな食卓机と椅子。

 生命を維持するためだけに用意された家具と、生命を維持するためだけに戻ってくるアリス。


 その中で、甘くアリスを見下ろす瞳と、声の持ち主だけが異様な光りを放っていた。


「もし貴方が・・・・・礼服なんだか乗馬服なんだかわからない衣装に、トランプマークをあしらった、値札付きの馬鹿馬鹿しい帽子をかぶっていたら・・・・・夢だと思ったわ」
 柔らかく、唇を重ねられて、アリスは泣きそうになった。

 肌を、愛されていく。

 その手も、熱も、重みも、唇も声も吐息も。

 全部が夢だったら、アリスには悪夢にしかならなかった。


 だが、現実のベッドを、なんだか訳のわからない理由で拒否されて、背中が痛いアリスに床で無茶を強いて、好き勝手に・・・・・でも、優しく抱く男は、まぎれもなく現実だから、それはアリスを打ちのめす「夢」にはならない。

 アリスは安堵する。

 これは現実。
 もどろうとしたコチラ側。
 小瓶に満ちる罪悪感が、呼びもどそうとするコチラ側。

 その、もっとも現実の象徴である、アリスの作った「家」に、彼が居る。

 アリスを抱きしめる。

「アリス・・・・・」
 小さく震えて、泣きそうな彼女が、堪らなく愛しい。

 名前を呼ばれて、身体の奥から温かな物を零し、切なくて堪らない彼女を、ブラッドは宥めるように、強く求めて、己で繋ぎとめた。

 そこから先、二人はだた夢中で抱き合い、静寂に、甘い声と吐息だけが沈んで消えて行った。