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 3 この命の終焉はできるなら桜のように


(凄いわ・・・・・)

 我ながら大したものだと、がっくりと石畳に膝を突き、そこにぼたぼたと落ちて行く鮮血に感心する。

 昔の自分からは考えられない。
 何よりも誰よりも面倒な事が嫌いで、正義感なんて持っちゃいなかった。
 適当に誤魔化して、それなりに付き合って、目立たないように生きてきたのだ。

 その自分の劇的な変化に、素直に驚く。


(私って、以外と尽くすタイプなのかしらね・・・・・)

 新たな自分を新発見だ。開いた扉の向こうが、酷く自分にそぐわない気がしていたのに、なんだかすごく気分が良い。
 死ぬ前だからだろうか。
 脳からヤバいものが噴き出しているのだろう。

 それとも生きる為の情報を、必死に探しまわっているのだろうか。


 生きるための情報を必死に探しまわる。

(すっごく私らしくない・・・・・)


 これだけの事を考えられるのは、酷く時間がゆっくり流れているからだ。
 倒れ込む身体が石畳に激突するまで、奇妙なほど時間が有る。
 目蓋が酷く重くて、目を瞑ろうとする。徐々に色彩を失っていく深夜の街が反転し、それを背景に、自分の敬愛する上司の顔がドアップで映り込み、彼女は目を瞬いた。



 酷く遠いところで、名前を呼ばれる。


 アリス、と。



 必死な声に、アリス=リデルは微かにほほ笑んだ。


 なんということだ。
 こんな感情が自分の中に残っていたなんて。

(驚きだわ・・・・・)


 身体に衝撃が来る前に、誰かに抱きとめられるのを感じ、その瞬間、彼女は意識を手放した。












 アリスが撃たれてから、大分時間が経った。正確な時間は測れないから、大分、という表現しかないが、それでもかなりの時が流れた。
 ようやくベッドから起き上がれるようになり、ネグリジェ姿のまま、ぼうっと窓の外を見ていた彼女は、ノックの音に意識を戻した。
 返事を待たず、ドアが開き、自らお盆に乗った茶器を持ってきた上司が、微かに目を見張る。
「起きて大丈夫なのか?」
「私は貴方の頭が大丈夫なのか、心配だわ」
 呆れたように肩をすくめる上司に、アリスは掠れた声で応酬する。むくれたように頬を膨らませる彼女に、男は溜息を突いた。
「私の世間一般の通り名は『イカレ帽子屋』だ。その名の通り、私はイカレているよ、お譲さん」
「お嬢さん、って呼ばないで」

 不機嫌な顔でそっぽを向き、いつの間にか時間帯が代わり、昼から夕方に色味を変化させた庭を見詰める。

「自分の力量を判断できない者など、お嬢さん、で十分だ」
 ベッドサイドのテーブルに、ことん、と置かれた白磁のカップ。
 ふわりと香りの良い湯気が立ち、彼女は唇を噛んだ。

「・・・・・・・・・・力量って、なに?」
 男を見ないようにして言えば、微かにベッドが軋んだ。さらりとした、肌触りの良いなめらかな手袋の感触が、アリスの頬に触れ、指先が柔らかく肌を撫でて行く。
「確かに君は、私の部下だ。だが、非戦闘要員だと言わなかったかな?」

 すっと伸びた手が、アリスの脇腹に触れ、びくん、と彼女の身体が強張る。傷口に触れる男の手は、決して酷い事はしない。しないが、されるのではないか、という無意識の恐怖が、彼女の身体を強張らせた。

 緊張する身体。ふわっと、温めるように傷口に掌を押し当てて、男がそっと彼女を抱き寄せた。

「戦いには必要ない部下だ」
「そうね。私は多分、銃なんか持たされても撃てやしないから、大いに足手まといよね」
 でもね、と俯きがちにアリスは続ける。
「貴方の為に働きたいっていう気持ちは、誰とも変わらないわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・なら、無茶をするな」

 はっきりと言われて、アリスはますます俯く。ぎゅっとシーツを握りしめ、奥歯を噛みしめたまま、それでも唇を開いた。

「嫌」
「アリス」

 咎めるように声を荒げ、俯いたまま男の方を見ない女に、彼は舌打ちする。

「アリス」
 いくらか語気を強くし、命令だという雰囲気を滲ませる。

 マフィアのボス・・・・・帽子屋ファミリーなんていう、ふざけた名前の組織を統括する男から、直々に血を分け与えられ、決して裏切るなと、掟を与えられたアリスがのろのろと顔を上げた。

 苦虫をかみつぶしたような顔の男がそこに居た。

「何・・・・・」
「エリオットになら、後ろから撃たれても良い。それに、奴の時計は私が破壊する約束もしている。だがな、お嬢さん」
 お嬢さんじゃない、とアリスは力を込めて男を睨みあげる。だが、それよりもはるかに委縮するような眼差しで見下ろされて、背筋が凍る。
「君に後ろから撃たれるのは我慢ならないし、君を殺すことなど出来ない」

 きっぱりと言い切られて、アリスは目を見張った。

 それはどういう意味だ?

 何か言うより先に、男が動き、アリスを両腕の中に閉じ込める。傷をかばっているので、緩い抱擁だが、アリスの心臓がどきりと音を立てた。

「君は私の親しい友人だった。そこから、私の部下になり、常に傍に居るようになった」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「だが、君を傍に置くようにしたのは、あんなことをさせる為じゃない」

 再び、彼の手がアリスの脇腹に触れ、抱きしめられ、甘い薔薇の香りを一杯に吸い込む羽目になっているアリスは、くらくらする。
「あれほど・・・・・あれほど、一体に広がった赤に嫌悪したことも、恐怖したこともない。撃った人間を八つ裂きにしても足りないくらい憎んだ事もな」
 この手が他人の血に染まることはあっても、心は動かなかった。
 だが、君の血で全てが赤く染まるのは、堪らなく不快で・・・・・力一杯不安だった。

 吐きだすような男の台詞に、アリスは唇をかむ。

「でも・・・・・私はブラッドの・・・・・ボスの部下だから」
 組織の為に、貴方を最優先で守ろうとするのは当然でしょう?



 考えるより先に、身体が動いていて、心底驚いたのだ。


 誰かの為に、己の命を張れるほど、アリスは熱血漢ではなかった。
 冷静に状況を判断して、それなりに対処するタイプの人間だ。

 ブラッドなら、あんな距離からの銃弾に当たるわけもなかっただろう。
 彼は役持ちで、役持ちは時を操ることが出来る。

 普通に考えれば、銃弾くらい、どうとでも出来そうだった。

 でも、嫌だったのだ。

 ブラッドに向けられた銃口も、そこが火を噴く様も、それがブラッドに当たるかもしれない可能性も。


 だから、傍に居たアリスが、盾になった。
 ただそれだけ。
 それだけなのに、落ちて行く血と広がる痛みに、奇妙なほど満足したのだ。


 ああ、私でも誰かの為に命を投げ出せるだけの『心』が残っていたのだと。


 これで、何もかも清算できる。


 そう思ったのだ。


「君にかばわれて、私が喜ぶとでも思ったのか?」
 そんなアリスの思考を打ち砕くように、絶対零度の怒りが滲んだ声が耳を打つ。はっとする彼女を緩やかに放し、ブラッドは彼女の瞳を間近で覗き込んだ。
 綺麗な碧の瞳には、明確な怒りと、それからどうしようもない不安が揺れている。

 どくん、とまた、心臓が鳴る。

「君を傍に置いているのは、護らせる為じゃない。」
 持ちあがった手が、背中を撫でる。

 この距離は、違う。

 理性がそう告げるが、アリスは動けなかった。
 顎に、指が掛る。

「監視だよ、アリス。目の届く所に置いておかないと君は」
「裏切ったりしないわ」

 切羽詰まった声で言えば、「裏切りなど許さない」とブラッドの冷やかな声が、吐息に混じってアリスの唇を撫でた。

 近い。
 この距離はマズイ。

「だが・・・・・君は、私を背後から撃つこともせず、何もかも『残して』私を裏切ることが出来る」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「君の最大の裏切りは・・・・・」


 背中にまわされた手が、後頭部に移り、はっとした時には逃げ場が無い。
 そのまま、アリスはブラッドからの口付けを受けた。

 びくんと、身体が震える。彼から血を与えられた時のように、かあっと頬に血が上る。
 触れるだけだった唇は、ためらうアリスのそれをこじ開けて、舌先が口内を侵していく。

「んっ」

 甘い声が漏れ、引き出された舌が合わさり、身体に熱が籠って行く。

「アリス」
「ふ・・・・・」

 唇を離そうとせず、ブラッドが低い声で告げた。

「君の最大の裏切りは、私を置いて行くことだ」
「っ」

 じわり、と目尻に涙が滲み、ぽふん、と身体が柔らかな枕に触れる。押し倒されたのだと気付いた時には、抵抗しようもないほど、男に圧し掛かられていた。

「ブラッド・・・・・」

 押さえつけられた手首に力を込めて、アリスは目元に口付けを落とすブラッドにかろうじて抗議した。だが微かに離れた男が、彼女の唇を塞ぎ、宥めるようなキスが繰り返される。

 ずくり、と身体の奥が熱く痛くなり、血が騒ぐ。

「んっ・・・・・あっ・・・・・」
 呼吸が出来ずに苦しい。それなのに、酸素を求めて息を吸えば、甘い声が漏れる。

「裏切り者には、制裁を・・・・・」
「じょ・・・・・冗談じゃないわ!私は裏切ってな」
「だが、君は勝手に私を置いて行こうとした」

 ならば、もう一度。
 その身体に刻む必要がある。

「わ・・・・・私は貴方の部下よ!?」
「そうだな」
「だったら、貴方を護るのは当然」
「この組織のルールは私だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 鼻先が触れそうな位置で、覗きこまれ、ブラッドの瞳に、鋭い銀色の光りが宿っているのが見える。肌が粟立つ、殺気のようなそれ。
「答えろ、アリス。君が従うのは誰だ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・貴方です、ボス」

 己の身体を駆け巡る何かが、ブラッドに向かって行く。
 この人だけが、自分の全てを握っている。

 生死さえも。

「君が死ぬ時は、私と一緒だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「君だけ死ぬことも、私だけ死ぬことも、許さない」

 誓え。


 細く、長く、しなやかな指が、アリスの唇をゆっくりと撫でた。

「死すら、二人を別つことはできないと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 それは、愛の告白?
 それとも、アリスにだけ適応されるマフィアのルール?


 それでも、アリスには拒否することは出来ないのだ。己の中を駆け巡る赤が、裏切ることは許さないと告げているから。


「出来るのなら、この命の終焉は、桜の花のようでありたいわ」
 潔く散りたい。
 ぽつりと零されたアリスの台詞に、微かに目を見張ったブラッドは小さく笑った。

「それは無理な相談だな」
「なんでよ」
 思わず眉間にしわを寄せて睨みあげれば、ブラッドは目を細めて、怖いくらいに優しく笑う。

「どんな手を尽くしてでも、君を死なせはしないからだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・イカレてる」
「元からだ」


 私は部下なのに。
 この人を護るために、この人の役に立ちたいが為に、マフィアとして組織に入ったのだ。
 余所者のお嬢さんでは、もうないのに。

 やっぱりブラッドの頭はおかしい。
 こんな単純な事がどうして判らないのだろうか。

「不服そうだな」
 くすくす笑いながら、何故かブラッドはアリスの首筋に口づけを繰り返している。ロクな抵抗も出来ないアリスは、なすすべなく、翻弄されていく。
「当たり前でしょ。それじゃあまるで・・・・・まるで、貴方が私に忠誠を誓っているみたいだわ」

 する、とネグリジェの裾から手が滑り込み、焦る。退かそうにも、手は押さえ込まれているし、顔を上げようにも肩口でブラッドが、唇と舌でアリスの肌を嬲っている。なにより、起き上がろうとすれば、必然的にようやく塞がった傷が痛むのだ。

「当然だ。私の血が君の中をめぐるように、君の余所者の血も・・・・・」
「っ」

 寝ているだけなので、下着を付けていない。掌が、左の胸を包み込み、く、と長い指が肌に沈む。かあっと頬を真っ赤にする彼女の耳元で、柔らかくブラッドが囁いた。

「この心臓から溢れる血も、私の中を巡っている」

 余所者の血。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから判る。・・・・・逃しはしないよ、アリス」
 裏切り者には制裁を。
「う、裏切って無いってさっきから」
「だが君は満足そうだった」
「あっ」

 触れる体温が熱くて熱くて、流される。愛しむような指先に勘違いする。

「どこにも行かせない」
「行か・・・・・ないわ・・・・・」
「ならば忠誠を示せ」
「ふっ・・・・・あっあ・・・・・」

 吹き込まれる言葉が、アリスから大事な物を奪って行く。代わりに身体にまとわりつくのは、甘すぎる鎖。
 囚われる。

「潔く散らせてなるものか」
「っ」
「君に、舌を噛む自由すら与えない。望ませない。消えることなど許さない」
 絶対に。


「ブラッド・・・・・」
「私は絶対だな?アリス?」
「は・・・・・」


 い。


「―――いい娘だ」

 全てをさらけ出し、差し出すように強要され、指先から血管の一つ一つまでブラッドに犯される。

 体温が・・・・・体液が混じり合い、身体の境界線が曖昧になっていく。
 ただ指を合わせ、血に親指が染まって溶けた時の比じゃない、抗う事も出来ない高揚感と焼き切れそうなほどの、アリスの識らない快楽。


 全身溶けて、アリス=リデルが保てず、落ちて行くのを感じて、咄嗟に彼女はブラッドの背中に、縋りつくように爪を立てた。







 ぼんやりと目を開けると、枕に広がる栗色の髪が目にとまった。辺りには闇が落ち、ぼうっと枕元が明るい。
 ふと横を見やれば、彼女の隣に座り込み、アリスの髪に指をからめて梳く男が、シャツを羽織ったまま書類に眼を通していた。

(・・・・・流石ね)
 思わず見惚れてしまう。
 そして、再度確認するのだ。
 私はこの男を敬愛しているのだと。

 それと同時に、狂おしいほど・・・・・

「っ」
 思い当たりそうな単語を、大急ぎで打ち消しぎゅっと目を瞑る。それなのにどこか艶っぽい眼差しを感じたのか、ブラッドがふと、アリスを見下ろした。
「ああ、目が覚めたか」
 そっと開けた瞼の先に、ブラッドを見つけて、アリスの心臓が跳ねた。
「・・・・・・・・・・トンデモナイお仕置きね」
 目尻が赤くなるのを誤魔化すように、アリスは枕に顔を埋める。う〜、と唸る彼女に小さく笑い、ブラッドが髪を掻きわけて、現れた耳朶に唇を寄せた。
「ああ・・・・・当然だ。言っただろう?安楽な死よりも苦痛な罰を与えてやると」
「・・・・・・・・・・・・・・・何度も言いますけど、裏切ったつもりはないわ」
「おや?まだそんな事を言うつもりか?」
 なら、とブラッドの手がうなじを掠めて、アリスは小さく悲鳴を上げた。
「冗談!冗談です、ボス!」
「私は冗談は好かない」
「何言ってるのよっ!」
「それに、これは苦痛な罰ではない」
 にやっと笑う男に、アリスは眩暈がした。

 どこがだ。

「あ・・・・・あ、あんな・・・・・事、よ、嫁入り前の娘に強要するなんて・・・・・頭が湧いてるとしか思えないわ」
「何故だ?大したことはしてないぞ?・・・・・ああ、初めての君には刺激が強すぎ」
「どんな女も苦痛よ、苦痛!絶対にっ!!!」

 悲鳴を上げて、聞きたくないブラッドの台詞を打ち切り、アリスは急いでシーツを引っ張り上げる。徐々にのしかかりながら、ブラッドはシーツの端を抑えた。

「なら、私の妻になればいい」
「はあ!?」
「私の奥さんなら、あんなことやこんなことをしても、文句はないだろう?」
 それに、君はすでに私のものだ。

 嗤う男に、アリスは言葉を呑む。「私の物」というのはもうすでに否定できない。そうなるつもりで、忠誠を誓ったのだ。

「私の物を、私がどうしようが構わないだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・言っておくけど、私は玩具じゃないわ」
「当然だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・そうなると・・・・・さっきのが、プロポーズに聞こえるんですけど・・・・・?」
 まさか。
 この、面倒事が大嫌いな男が、そんな事を考えるとは思えない。
 だが、少し意外そうに目を見張った男は、やおら小さく笑うとすっと目を細めて、愛しむように彼女の頬に指を滑らせた。
「ああ、そうなるかもしれないなぁ・・・・・だが、そんな事はどうでも良い」

 どうでもいい?

「ちょ」
 聞き捨てならなくて、声を荒げる彼女にキスをして、ブラッドは不敵に笑った。
「君はすでに、私を裏切れない身体だ。」
「っ!!!」
「私が望めば、君は答えなくてはならない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 真っ赤になるアリスに、ブラッドは「どんな指輪よりも、紙切れよりも、誓いよりも、有効なのが血の掟だ」と酷く楽しそうにのたまった。


「同じように誓ってる女性の構成員だっているでしょう?」
 焦ってそう言えば、「私は君に望んでいる」と熱っぽく返された。
「私は貴方の部下なのよ!?ブラッド=デュプレ!!」
「そうだな。だが、別に構わないだろ。部下と結婚しても」
「結っ!?・・・・・無いわ、無い無い!あり得ないっ!!!」
「私はな、アリス」

 無理やり彼女に口付けて、熱っぽく舌を絡めて大人しくさせ、ブラッドはゆっくりと彼女に囁いた。

「目の前で撃たれた君が、満足そうなのが我慢できなかったんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あんな真似は許さない。潔くなど散らせない」

 君が満足そうに笑うのは、私の為だけだ。


 苦しそうに眉を寄せるブラッドに、アリスは目を瞬く。
 この人を護れて、満足したのに、どうしてブラッドはそれを否定するのだろうか。

「貴方の為なのに・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 見下ろされる瞳に、不安になる。かちん、と何かが動く音がした気がして、アリスの身体が強張った。

 かちん。かちん。かちん。

 何かが、回る。
 リピートではなく、スパイラル。
 遅くても確実に、ゆっくりと。同じ場所を回るつもりが、少しずつ遠ざかる。

 私は何に、満足した?
 清算?セイサンって・・・・・何を?

「やはり君には、私の奥さんになってもらわなければならないようだ」
「え?」

 はっと我に返ったアリスは、にやりと悪人よろしく笑う男に抱きすくめられる。

「もっともっと・・・・・鎖がいるな」
「・・・・・・・・・・」
「ああ、心配するな。物理的な鎖ではないよ?もっともっと・・・・・そうだな、私なしではいられない身体にしてしまうのなんか、楽しそうじゃないか?」

 吹き込まれる台詞に眩暈が止まらない。

 物理的な鎖の方がまだましだ。

「だ、だからブラッドっ!わ、私はっ!」
「部下でもなんでも構いはしない。私の為に働きたいと言ったな、アリス」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「なら、その身を差し出せ」


 絶対おかしい。


 その台詞は、甘すぎる口付の前に飲み込まれていく。



 敬愛していたのに。
 この人の為に働きたいと望んだのに。

 ああでも、この人に求められて、どうしてこんなに嬉しいのか。


(私も相当イカレてるわ・・・・・)


 酷く柔らかく抱かれて、落ちて行くアリスは、螺旋階段をどこまで降りたのか、思い出すことが出来なくなるのだった。
































 マフィアEND後です(笑)

 部下になりたいって、忠誠を誓った余所者さんを、マフィアよろしく手玉にとる帽子屋さんなイメージで(笑)

 忠誠を示せの辺りは、某漫画の今月号(2010年4月発売号)の光る竜の化身の女の子と狂った双子の弟(笑)の超超すれ違いシーンからいんすぱいあです(笑)

 ていうか、マフィアENDだと、アリスに拒否権がない事に気付いて突っ走りました(笑)

 お仕事上の関係だから、恋人にはならないよ〜っていうスタンスなのかもしれないんですが、うちはこれで!(爆)

 すいません、ゲロ甘推奨です・・・・・

(2010/05/03)

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