両手が塞がっていては何もできないではないか、とそう告げて
ちゅう、と濡れた音を立てて唇が離れる。
「アリス」
耳元でひそやかに囁かれた声に、言い知れない、甘い疼きが溢れた。
「あんっ」
太ももに置かれていただけの手が、イタズラを開始し、脚の奥へと滑って行く。布の上から愛撫され、ふるっとアリスの身体が震えた。
「やっ」
ひっかくように花芽を指先でこすられて、アリスの脚がシーツを蹴った。
「はっ・・・・・あっ・・・・・ん」
もどかしい感触。直に触れられるより、キツくなくて、身体が甘やかに震えるのが判った。
ブラッドを求めて、身体が疼き始める。
「あ」
「君は・・・・・本当に可愛いな、アリス」
「か、わいく・・・・・なんか・・・・・」
「啼かせて楽しいと思えるのは君だけだ」
くちゅ、と濡れた音がして、ブラッドの指が布を押しのけて温かな入口に押し込まれた。
「っ!」
びくり、とアリスの腰が震え、彼女の手が、シーツを握りしめた。
「あっ・・・・・あっあっ・・・・・んぅ」
一本、二本、と指を増やされて、引っ掻かれるたびに、どろりと身体の奥から濡れて行く。溢れる蜜が、更に水音を大きくして、剥ぎ取られた下着の下から現れた部分が、触られて、じわりじわりと熱を持つのに、アリスは真っ赤になった。
ぐちゃぐちゃと音がするのが、耐えられない。
「やあ」
引きつる様な、涙声に、ブラッドの嗜虐心が煽られる。頑なに、己を見せようとしないアリスから、女を引きずり出すのは堪らなく楽しい。
だが、それを言えば、ブラッドの厄介な女は死んでも甘い声など出すものかと口を閉ざすのを知っているので、にやにや笑いながら、彼女を追い詰め始めるのだ。
蠢く指先で、あちこちを擦られ、花芯を弄ばれる。舌先が肌を滑り、指先を濡らす入口から溢れる愛液を、舐め取って行く。
「あっ・・・・・あふっ」
がくがくと膝が震えるのが判り、求めるように蠢く腰に、アリスはそっと目を開けた。
ちらりとこちらを見上げる瞳とぶつかり、きゅっと胸が痛くなった。
それに、身体は連動するから、にたりと男が笑うのが判った。
「こんなに締め付けて・・・・・そんなに良いか?」
「っ」
これだから嫌だ。
どんな行為よりも、この身体を繋げる行為は、アリスの隠したい気持ちを暴いて行く。
真っ赤になって首を振っても、どろどろと身体の中心から溢れる蜜が、シーツに染みを作れば否定は出来ない。
気持ちは付いて行っていないと、主張した所で、ブラッドの中に、自分の姿を見つけただけで・・・・・見下ろす瞳の中に自分が居るということが嬉しくて、弾んだ心臓が結果、彼を締めるのだから、意味をなさない。
くちゅくちゅと濡れた、絡みつくような音を立てていた指が引き抜かれ、アリスは力の抜けた足を持ち上げられるのを感じた。
「指だけでは・・・・・君も楽しくないだろう?」
私も、楽しくない。
翡翠の瞳を覗き込む碧の奥に、ゆらゆらと揺れている狂おしい光り。
ぞくん、と背筋が震えアリスは圧し掛かる男の肩に手を置いた。
「まっ」
「待たない」
指とも舌とも違う感触。熱くて固いものが、柔らかく濡れて、どうしようもない空間を、ゆっくりと埋めて行った。
「っ・・・・・あっあああっ・・・・・あんっ」
足の先まで震えるのが判った。シーツを握りしめた手が、アリスを快楽から遠ざけようとするためなのか、それとも落とす為なのか、身体を浮き上がらせた。
だが、アリスの腰を抱え込む男がそれを許さない。
「奥まで・・・・・」
「んんんっ」
「全部っ」
自身を全て、アリスの中に沈めて、ブラッドは息を吐く。
「あっ・・・・・あっ」
自分の中で脈打つ感触に、アリスも震え、それがまた、ブラッドを煽るから、ぐるぐる回って止まらない。
堕ちて行くだけの螺旋が、続いて行く。
ぱたりとシーツに手の落ちたアリスが、ちらっとブラッドを見上げる瞳が、堪らない。
長い夜を愉しもうかと、焦らすように腰を動かすが、アリスの可愛さに持たない気もする。
このまま、めちゃくちゃにしたいし、じわじわと嬲って愉しみたい気もする。
緩やかに挿送を始めると、柔らかな彼女の唇から甘すぎる声が漏れてきた。
「さあ、アリス?どうして欲しい?」
このまま緩くしてほしい?それとも奥まで突いて欲しい?
笑いながら告げられて、アリスは真っ赤になったまま、ぎゅっと目を閉じた。
「好きに・・・・・」
「そうか?なら、初めは性急に煽って、二回目は」
「何を言い出すのよ!?」
「しばらく会ってなかったんだから、いいだろう?」
くすりと笑って、ブラッドは尚も反論を繰り返そうとする唇を塞いだ。絡まる舌に、頭の芯がぼうっと痺れて行き何も考えられなくなる。
それでも、手を伸ばし、アリスはブラッドの頬に触れると、唾液の溢れる唇でそっと尋ねた。
「私じゃつまらないわよ?」
穿たれながら、こくん、と喉を鳴らして言う。
「君はよく知ってるだろ?アリス」
それに、ブラッドはにたりと笑った。
「詰まらないことはしない主義だってね?」
言葉通り、性急に突き動かされて、アリスの喉から「ひゃあんっ」と高く声が漏れた。
「あっあっあっ・・・・・ああああん」
抜き挿しされる度に、温かな蜜が零れてブラッドを濡らしていく。ぐちゅぐちゅと卑猥な音がし、アリスは声を我慢しようとすればするほど、ブラッドに強く穿たれる。
「あっあ・・・・・やあっ・・・・・ブラッドっ・・・・・だ・・・・・めえっ」
膣内を擦られ、切なさと満たされる感触とで胸の中が苦しくなる。身体のぶつかる音に、頬を染めていると、不意に男はアリスの脚を更に持ち上げて、腰を落とした。
「っ!?」
より深く穿たれて、身動きが取れない。
与えられる快楽に、溺れるだけになり、アリスは必死にブラッドの肩に手を伸ばした。無理な体勢なのに、身体が震えるのはどうしてなのか。
甘く溶けて行くのはなぜなのか。
ぎりぎりまで引き抜かれて、「嫌だ」と切なく思い、深く突きいれられて「良い」と身を捩るような快感に溺れて行く。
翻弄されて、涙の滲んだ彼女に、ブラッドは口付ける。
「あああああっ・・・・・ふ・・・・・うんっっ」
「アリス」
甘くて熱い吐息に名前を呼ばれれば、それだけで、ブラッドを締めあげる。
「駄目っ・・・・・ブラッド・・・・・もう」
もたない。
「いいぞ、アリス・・・・・このまま」
このままイってしまえ。
アリスを翻弄する腰の動きが早くなり、下腹部から望む物がこみ上げてくる。
全部を持って行く、快楽の波。
アリスの意識を飛ばす、あり得ないくらい強い感触。
「駄目っ・・・・・あっ・・・・・ブラ・・・・・ッドっ・・・・・ああああ」
びくん、と彼女の身体が強張り、腰の辺りが震える。呑みこもうとする彼女の内部に、ブラッドの意識もまた、持って行かれ、二人はそのまま螺旋の奥へと落ちて行った。