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 求める想いは砂糖より甘く
 これをやろう。

 そう言って差し出されたのは、目の前で楽しそうに笑う女王様が着るのにふさわしいナイトウエアだった。




「・・・・・・・・・・・・・・・。」
 クローゼットを開けて、アリスはぼんやりとそれを眺めていた。弟の恋人に贈り物をしても問題はないだろう、とにやにや笑いながら、春真っただ中の領土に住まうビバルディは、春そのものの桜色の、ふうわりとした柔らかいレースの夜着を贈ってくれたのだ。
 肌が見えそうで見えないラインぎりぎりの、薄手の生地で作られたナイトウエア。
 裾と肩ひもに施された赤いバラの刺繍が子供っぽさを打ち消している。

 胸元にも、薔薇の飾りが付いているが、これはビバルディ自身が作ったものだと言う事を、アリスは知らない。
 おそらく、これを着ている彼女を目の当たりにするであろう男も・・・・・。

 着ようかどうしようか。

 アリスはクローゼットを閉めるでもなくぼんやりとそれを眺めている。


 今、この帽子屋屋敷の主は外出していた。
 それなりに大きな仕事なのだろう。彼の忠実な部下、2のエリオットと物騒な門番のディーとダムも一緒に出かけている。
 一体彼らがどんな「仕事」をしているのか具体的には知らないが、血なまぐさい事であるのは容易に想像できる。

 誰一人として傷ついて欲しくない。
 それが、他の人間の命を奪う結果につながっていても。

 そういう職業の人たちと一緒に居るのだと決めたのだから、アリスは素直に自分に正直に、彼らの心配をする。


 偽善者は嫌いだ、とそう言った自分の恋人の姿が脳裏に浮かぶ。


(早く帰ってきて欲しい・・・・・)
 ぱたん、とクローゼットを閉じて、アリスは自分の部屋の真ん中に設えられた丸テーブルの前に座った。
 この世界での命とは軽すぎて重い。
 軽く消えてしまう出来事が多すぎて、それを大事に思うアリスには重すぎるのだ。

 こうやって、一人で待つのが一番堪える。

 ジョーカーの治める監獄でブラッドが自身に傷を負ったのは、最近だ。その時、アリスは得体のしれない恐怖というものが、この世界にも存在している事にようやく気付いたのだ。
 それと同時に、失いたくない、という祈りにも似た想いも。

(代えが利く、ってことはそれだけ容易に人がいなくなるってことなのよね・・・・・)
 代えが利かない、だから大切にする。
 代えが利く、ということは使い捨てても構わない。

 自愛しよう、と言ってくれたブラッドのこの台詞は、きっとこの世界では驚く程強い言葉なのだろう。

 使い捨てられても構わない・・・・・そう思っている存在たちの中で。

(それでも足りない・・・・・)
 ブラッドの『役』が何かは判らない。でも彼が死んで新しくブラッドの『役』を引き継いだ人間が現れても、きっとアリスにとっては全然別の存在にしかならないのだ。
 他の・・・・・この世界の住人が『帽子屋』と認めて納得しても、アリスだけは納得しない。

 余所者、である事が、これほど嬉しいことはない、と、彼女はテーブルの上に突っ伏して目を閉じた。


 でも、一番はそんな日が来ないことだ。
 来なければいい。
 そんな・・・・・誰かを失って、これは夢だと半狂乱になる日など、もう二度と・・・・・

(もう・・・・・二度と?)
 ふと、自分の考えに眉を寄せて、アリスは自分の心臓がどくり、と鳴るのを感じた。
 二度と。
 ということは・・・・・?



「君は本当に詮索するのが好きなようだな」
 不意に降ってきた声に、はっとアリスが目を開けた。急いで顔を上げると、この屋敷の主が憮然とした表情で立っている。
「ブラッド!」
 慌てて立ち上がる。
 ステッキを弄んでいる恋人からは、硝煙の香りがし、上着のあちこちが朱で汚れている。

 駆け寄り、アリスはブラッドの上着を掴んだ。

「大丈夫なの?」
 過剰反応も良いところだと、頭のどこかで考えるが、確かめないと不安は消えない。
「どこも怪我などしていないよ、お嬢さん」
 戸惑ったような、苦笑を含んだ声で言われて、「どうかしら」とアリスは上着の下のシャツが血に濡れていないか、この間のように腕に怪我を負っていないかと、あちこちめくり上げる。

「大胆だな」
「貴方が正直者じゃないからでしょう」
「正直なマフィアなど、気味が悪い」

 するっと自分から上着を脱いで、ブラッドはアリスに手渡す。そのまま帽子を取って、タイを外せば普段、くつろいでいる時とどこも違わない彼が立っていて、アリスはほっと息を吐きだした。

「・・・・・・・・・・よかった」
「こう見えても、私はこの領土の主で権力者だ」
 そう簡単に傷などつかないよ。

 肩をすくめてソファに腰を下ろすブラッドから、アリスは視線を逸らす。

(そんな貴方が怪我をするなんて・・・・・)
 やっぱりジョーカーの監獄は恐ろしい場所なのだ。
 サーカスも、然り。

「また詮索か?」
 ひやりとする声が背後からかかり、アリスは受け取った上着や帽子をクローゼットに慌ててしまう。
 そうだ。
 今はもう・・・・・考えない事にしよう。

 あまりふらふらしては、ブラッドに要らない心配をさせてしまう。

 普段消えそうなのは君の方だ。

 悲しそうな・・・・・そう、強請るような咎めるような、そんな口調で言われたのを思い出し、じんわりと胸の奥が暖かくなりながら、アリスはクローゼットを閉じようとした手を止めた。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)

 ついさっきまで考えていた事を思い出して、アリスは一人赤面する。



 ブラッド自ら出向かなくてはならない。

 一体どんな仕事なのかは知らないが、どうやら揉めている組織との最終決戦の時が来たらしい。
 散々情報操作をして、ことごとく敵対組織の取引を潰した我らがボスは、連中が「これが最後」と組織生命を掛けた取引の情報すら操作して、自分たちとの取引にすり替えた。
 自分たちが最後の頼みと思っている相手がやってくると信じている所に、ブラッド達が現れて、絶望に染まった連中を一斉に叩き潰すのが目的らしい。

 帽子屋ファミリー、なんてふざけた名前を持っているにも関わらず、やることはえげつない。

 一番おいしい登場をしようとするブラッドも、大概悪人だ。

 愉しそうに出ていく姿からは、歪んだ優越と目を奪われそうな魅力以外、危険な香りはしなかったが、それでもアリスは気が気ではなかった。
 そんなくだらない愉悦の為に出ていって欲しくない。

 でも、アリスはそれを言えなかった。
 彼らが出かけると知ったのが、出発の直前だったというのもあるが、それが彼らだと知っても居るから。

 それでも。

「何考えているのよ、あの男は・・・・・」
 四階フロアの清掃担当だったアリスは、窓から見えた、門前で待機する部下たちの整然と並んだ姿を見て、大いに慌てた。
 これが最後になるかもしれない、なんてそんなこと思いたくもないが(そんなフラグは死んでも要らない)せめて自分には事前にいついつ、こういう事がある、と教えて欲しかったのだ。
(心配くらいさせてくれたっていいじゃない・・・・・!)
 裏切られたような、信じられていないというような、複雑で寂しい感情。

 唇を噛んで、アリスはモップを握りしめたまま慌ててブラッドを探しに行こうとした。
 その分、休憩時間を削って、と自分の脳裏で計算をしていると、不意に「どこに行くんだ?」と気だるげな声を掛けられた。

「ブラッド!」
 通路の奥からゆっくりと、投げやりな足取りで歩いてくる恋人。
 走り出していた彼女は足を止めると、力いっぱい彼を睨んだ。
「どこにって・・・・・それは私の台詞よ」
「少し・・・・・愉しい用事があってね」
 くっく、と喉で笑いながら、男は近づいてくる。そのままアリスの目の前で立ち止まると手を伸ばした。
 心持ひんやりした指先が頬を撫でた。
「そういうお嬢さんは?」
「・・・・・・・・・・貴方を探しに行こうと思っていたの」
 ぎゅっと彼の上着を握りしめて、アリスは俯いた。
 悔しい。
 どうして自分だけがこんなに不安に感じて、離れがたく思っているのか悔しくて仕方ない。

 愉しいことって、それの為だけに、私を置いて出かけるのね。

 喉までせりあがった台詞を、アリスは飲み込んだ。
 それは散々ブラッドに言われた台詞だからだ。

 君は、楽しそうに出かけていくね、と。

 その度に、ブラッドも味わったのだろうか。
 二度と帰って来ないような、消えてしまうのではないだろうかと言う想い。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「心配か?」
 顔を、吐息が掛りそうな位置で覗きこまれ、アリスは目じりを赤くしたまま視線を逸らした。きゅっと引き結んだ唇に、ちゅっと音を立てて口付けられる。
「直ぐ戻ってくる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから、そんな顔をしないでくれ」
 出掛けたくなくなるだろう?

 また、軽いキスを落とされて、ようやくアリスはブラッドを見上げた。綺麗な碧の瞳が目の前にある。
 それが、柔らかく優しい光を宿していて、アリスは目が離せなくなった。

 このまま見つめていたら、おそらく自分はとんでもな醜態をさらすだろうと、予想できた。

 行かないで、と泣いてすがりつくような、醜態を。

「早く・・・・・帰ってきて」
 いくらか掠れた声で言うと、「もちろんだ」とブラッドは鷹揚に答えた。そのまま唇を耳元に移動させる。

「君は、自分の部屋で待っていてくれるな?」
 次の夜に。
 今は綺麗な夕焼け空だ。秋の日に相応しく、黄金色の光が、廊下の天井と床を繋ぐ、巨大な窓々からきらきらと差し込んでいる。見える範囲、全てが紅と金一色。
「寝ないで待ってる」
 精一杯、可愛らしく見えるように、そういうが、どうしても哀しそうな顔だったかもしれない。

「だから・・・・・そんな顔をしないでくれと言ってるだろう?」
 溜息交じりに告げて、ブラッドはアリスを力一杯抱きしめた。両の腕に囲われて、アリスは目を閉じる。

 こんな、ちょっとした仕事で出向くのに、こんなに哀しい気持ちになっていたら、おそらく、これから先彼と居るのは大変だろう。
 なんせブラッドはマフィアのボスなのだから。

 だから、こんな大仰な別れ方は大げさだ。
 ちょっと仕事に行くだけなのだから。
 何を不安になっているんだ、私は。

 そう言い聞かせて、アリスはブラッドを送り出し、なかなか帰って来ない彼にやきもきして、そしてクローゼットの前に立っていたのだ。




「何をしている?」
 ソファにもたれかかり、アリスが読みかけていた本をぱらぱらとめくっていたブラッドは、自分の女が一向にやって来ないのにいぶかしんで声を掛けた。
 彼女は手に自分の上着を持ったまま、ぼうっとクローゼットの奥を見つめている。
「何かあるのか?」
 本を置いて立ちあがろうとすると、慌てた彼女がブラッドの上着を押し込むとばん、とクローゼットを閉じた。
「・・・・・・・・・・」
「なんでもないの」
 早口に答える彼女の頬が赤い。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 なんでもないのなら、そんなおかしな態度はとらないはずだ。
 すうっと辺りの空気が冷たくなり、みるみるうちにアリスとブラッドの間に冷気が漂い出す。
「何か、あるのか?」
 口調は穏やかなのに、詰問するような鋭さがある。ひやり、と首筋にナイフを当てられたような危機感を覚えて、アリスは「何もないわ」と大急ぎで答えた。
「ただ・・・・・あの・・・・・」
 言い淀む。

 言えるわけがない。

 ふと、思い立ったこと。

 ビバルディから、「男はこういうのを着ていると喜ぶものだよ?」とにまにま笑いながら贈られた夜着。
 今アリスが着ている、普段のドレスよりも丈が短く、薄くて着ていないのでは?と思わせるようなそれを、着て待っていたらブラッドは喜んでくれるかしら?という甘くてどうしようもない考えなど。

 言えるわけがない。
 絶対に言えない。

 ていうか、帰ってきちゃったから、もうそんな風に着替えることもないし。

「ただ、なんだ?」
 だが、そんなアリスの葛藤などお構いなしに、どんどんブラッドの機嫌が低下していく。
「私以外に贈られたものでも、そこにあるのか?」
「え?どうしてわか」
 ったの、という言葉を慌てて飲み込む。だが、こぼれた言葉は、ブラッドの残り少なかった『寛容』を粉々に粉砕するには十分すぎた。
「ほう・・・・・」

 すっと目を細め、ブラッドが立ちあがる。ゆらり、と辺りの空気が湾曲したような気がした。ただ単に、アリスが眩暈を感じただけかも知れないが、圧倒的な存在感と威圧感を前に、崩れ落ちそうになる。

 恋人で、居なくなって欲しくなくて、一番大事な人だけど。

(まだまだこういう部分にはなれないのよね・・・・・)
 慣れたら終わりだと、余所者の部分が思っていたりもする。

「私以外から、贈り物を受け取るなと言わなかったかな?アリス」
 お嬢さん、ではなくアリス。
 びく、と彼女の身体が震え、「えーっと・・・・・」と口ごもる。

 思い出すのは、赤い赤いりんご飴。

(ビバルディからもらった・・・・・なんて言ったら・・・・・)
 何が起こるのか想像したくない。

 たまに、力任せに抱かれる事もあるが、概ねブラッドは優しい。本気で嫌がることはしないし、嫌がることも、まあそれなりに強要されるが、許してくれる事が多い。
 だが、どこかで物足りないと思われているのではないだろうか、と考えることもあった。

 多分・・・・・よくわからないけど・・・・・自分じゃ満足できないんじゃないだろうかと思う事が。

 色ごとに関して、自分のレベルが底辺に近い事を知っているだけに、アリスは今回、頑張って、ビバルディにそれとなく相談してみたのだ。
 その結果に貰った夜着。
(着てれば良かったかしら・・・・・)

「アリス」
 ぼうっと違う事を考えていた所為で、ブラッドの機嫌をどん底まで低下させた事に、アリスはようやく気付いた。
 底冷えしそうな、オーロラ色の瞳が自分を見下している。
「あ・・・・・」
「そこをどきなさい」
「え・・・・・あ、でもあの・・・・・」
「いいから」
 有無を言わせない口調。逆らえる筈もなく、アリスはつっと横によけた。





「アリス」
「なあに?」
「こういうものは・・・・・・・・・・まあ、確かに君が着ていたら嬉しいが・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 自分が贈ったドレス(どれもまだ一度もアリスは着ていない)以外にあった、一着のナイトウエア。それが誰から贈られたものなのか、吐かせたブラッドは肩を落とす彼女を膝の上に抱いて、言い淀む。

「嬉しいが・・・・・」
「やっぱり、似合わない、わよね」
「!?」

 着て欲しい、と素直に思う。着ているところを見て見たい。着ている姿を穢してみたい。
 男として当然の欲望を前に、それに歯止めを掛けるのは、それを贈った相手が『傲慢な身内』であるという事実だった。

 にやにや笑う姉の姿が容易に想像できる。

 そういう意味で渋っていると言うのに、アリスは点で見当違いな方向でしょんぼりしているのだ。

「似合わないなどと、一言も言っていない」
 強い口調でいえば、「でも・・・・・」と彼女は更に口ごもる。
「・・・・・私じゃ、貴方の愛人なんて柄じゃないんじゃない?」
 見上げる瞳はまっすぐで。まっすぐすぎて、ブラッドは眩暈がした。

 このお嬢さんは・・・・・

 本当に、判らなくなる。

「アリス」
 溜息をついて、ブラッドは彼女の肩口に顔を埋めた。彼女の身体が震える。それに気を良くして、男は細くて綺麗な首筋に唇を押しあてた。
「あ・・・・・」
 可愛らしい声が、口から洩れる。全部奪ってしまいたくなるのをこらえて、ブラッドは持ち上げた手で柔らかく彼女の背中を撫でた。
「君は判っていないよ、お嬢さん。私がどれだけ君を・・・・・」
 言葉を切って、男はアリスの瞳を覗きこむ。
「大事にしているのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 揺れる大きな彼女の瞳。綺麗なグリーンのそれを見つめたまま、ブラッドは苦笑した。
「私が物足りないと思って、こんなものを用意してくれたのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 視線が泳ぐ。耳まで赤くなるアリスに嬉しそうに笑うと、「違うわよ」と憮然としたアリスの声がした。
「なんだ」
 違うのか。

 それは残念、と尚楽しそうに笑われて、アリスは唇を噛んだ。

 違わない。
 ブラッドが・・・・・少しでも自分の事を思ってくれれば。

「だって・・・・・悔しいじゃない」
「ん?」
 顔を上げたアリスは、挑みかかるように、なのに頬を染めてブラッドを睨んだ。
「いっつも余裕で・・・・・私ばっかり馬鹿みたいに・・・・・縋って・・・・・」

 たまには余裕を失くさせてやりたかった。

 ドアを開けた先。
 監獄ではなく、帽子屋屋敷に囚われたアリスが、ブラッドの為だけに、着飾って存在する。

 それを見て、この気だるげな男は焦ってくれるのだろうか。

「君は・・・・・とんでもない誤解をしているな」
「え?」
 少し、顔を赤くした男が、視線をそらし、苦々しげに告げた。
「余裕があると思うのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 あれでないとか言わないで欲しい。



「君を逃がしたくなくて、あれやこれや手を尽くしているのだが・・・・・そうか、余裕があるように見えるのか」
 ふむ、と考え込む男に、何となく雲行きの怪しいものを感じて、アリスは距離を取ろうとする。
 だが、背中に添えられた腕が、許してくれない。
「余裕のない私が、お望みかな、お嬢さん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「なら・・・・・」
 覆いかぶさる男の胸に手をついて、アリスは「違うの!」と慌てて叫ぶ。
「私が欲しいのは、ブラッドの余裕を無くさせる私で・・・・・」
 ぴたりと動きが止まり、アリスは更に地雷を踏んだと気付いた。

 音もなく、それは爆発する。

「ナルホド・・・・・君が私の余裕を失くさせたい、と?」
「・・・・・・・・・・」
「判った。では今日は君のお望み通り、君がリードを」
「だから、違うってばっ!!!!」



 監獄で、焦って助けに来てくれた。自愛しようと、言ってくれた。何度でも、助けに来ようと。
 それだけで、十分なのに。


(私って欲張り・・・・・)

「ではどうしろと?」

 ベッドに二人で倒れ込んで、困惑したように、でも楽しそうに自分を見下ろす男を前にして、アリスは小さく笑った。

「まずは・・・・・それがわかるくらいに、経験値を上げたいわ」
 腕を伸べる彼女の一言に、ブラッドは目を見開き、それから意地の悪い笑みを浮かべた。
「その相手は、もちろん、私だけだな」
「もちろんよ」


 今度は自分で買ってみようかな。


 ブラッドだけが見る物、なんだから。


 目を閉じて、アリスは甘くて幸せそうな吐息をついた。














 ジョーカー設定初書き☆

(2009/11/18)

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