強いて言うなら
人工甘味料の甘さ




 これは多分、普通の状況じゃない。

 どんなに鈍感で愛や恋に後ろ向きなアリスにもそれは良く判った。

 これは、多分、普通の、状況じゃないのだ。





 アリスが何でも望みを口にして、殺人的に可愛らしく甘える事が出来て、隙だらけだったなら。
 もうちょっと人生は違っていたかもしれない。

(いや・・・・・そういう女が果たして好みかどうか、ていう問題もあるのよね)

 もう少し甘えてくれても良いんじゃないのか、と呆れたように告げる屋敷の主に、アリスは「私は使用人として働かせて貰っているのだから、そんな風には出来ないわ」ときっぱりと答えていた。
 帽子屋屋敷の主、ブラッド=デュプレに連れられて、街に出ている時の事である。

 美味しい紅茶を淹れる喫茶店が有るんだが、行ってみないか?

 そう誘われたのは、エリオットや双子達とピクニックに出掛けた帰りの事だった。
 このままエリオットと双子は見回りに出ると言うし、ブラッドと二人で屋敷に帰るだけだったアリスは、それに「いいわね」と軽く笑んで答えたのだ。

 確かに紅茶は美味しかったし、出された茶菓子も素朴な外見なのに、よく紅茶に有った。
 夫婦で経営している喫茶店らしく、どちらも相当な紅茶好きらしい。
 何故そうと判ったのかと言えば、ブラッドが珍しく上機嫌でマスターと話をしていたからだ。奥さんと三人で紅茶談義に花を咲かせるマフィアのボスを、生温かい目で見守って、普段なら絶対しないであろう、「他人のブレンドした紅茶」を一缶どころか三つも四つも買って帰るブラッドに目を丸くして、帰りにお行儀悪くスコーンを歩きながら齧っても咎められず、未だに茶葉の話をする上司を、半ばアリスが先導して歩いていると、不意に可愛らしいアクセサリーが陳列されているショーウィンドーが目に入ったのだ。

 ブラッドは放っておいても一人で紅茶の国に旅立っているだろうし、アリスは少し歩を止めて綺麗な金縁の飾り窓の中を覗きこんだ。

 アリスは余りアクセサリーの類を好まない。いつ何時時間帯が変わって仕事になるか分からないので、極力装飾品を身につけるのは避けている。
 だが、可愛らしい、銀や金の宝石細工は見ているだけでもわくわくする。隣にある、金の留め金が可愛らしい、なのにどこか大人っぽい感じのバッグをじっと眺めていると、不意に「買ってやろうか?」と後ろから声を掛けられた。
 振り返れば、にやにやわらう上司が目に飛び込んでくる。

 さっきまで、紅茶の世界でうっとりしていたと言うのに、今はアリスをからかう様な、少しだけ意地の悪い瞳に彼女を映しこんでいる。

「結構よ」
「何故?」
 強請ればいくらでも買ってやるぞ?
 く、と喉の奥で楽しそうに笑い、ちらりとショーウィンドーに視線を落とす。
「なんなら、全部でも」
「冗談じゃないわ」
 即座に拒否し、アリスはくるりとショーウィンドーに背を向けた。
「貴方に何か買ってもらったら、対価が怖そうだもの」
 肩をすくめて歩きだすアリスに、「そんなことは・・・・・まあ、あるかもな」と男は可笑しそうにつぶやいた。
「だが、払えない物を要求することはない」
「要求されるくらいなら、自分で買うわ」
「・・・・・詰まらないな」
「堅実だと言ってくれないかしら」
 すたすたと歩き出すアリスの、隣に並んで歩きながら「堅実ねぇ」とブラッドは馬鹿にしたようになぞる。
「・・・・・何が言いたいのよ」
「別に?・・・・・君は真面目だな、アリス」
「不真面目なのは貴方一人で十分よ」
 そう言いながらも、アリスは彼が見かけによらず真面目な事も知っていた。誰よりも・・・・・多分、エリオットよりも責任感があって、きちんと仕事の事も屋敷の事も考えている。
 ただ、そうと見られるのが嫌な変な性分だと言うだけだ。

 だからアリスは敢えて突っ込まないし、いくらか嬉しそうにしている男にちょっとだけ「可愛いな」なんて恐ろしい感想を抱いた事を隠す。

「確かに真面目なのは美徳だし、褒められる事かもしれない。だがね、お嬢さん。君の為に何かしたいと言うのを無下に断られるのも傷つくぞ?」
「・・・・・対価有りな所ですでに私の為に何かしたい、ていうのとは違うと思うんですけど」
 思わず半眼でブラッドを見上げれば「それは君がそう言うからだろう」とアリスの翡翠の瞳を覗きこんでくる。

 ブラッドの、深く暗い、碧の瞳に、明るいアリスの翡翠が映りこむ。

「君の為になら、なんだってしようじゃないか」
「止めてよ?そういう性質の悪い冗談」
「どうして?」
「面白くないから」
 貴方、面白い事が好きなんでしょう?

 言い返され、ブラッドは呆れたように溜息を吐いた。

「これでも、口説いてるつもりなんだが?」
「私には口説き文句にならないわ」
 どこまでも素っ気ないアリスに、ブラッドは苦く笑うと「もう少し甘えてくれても良いんじゃないのか?」と呻くように告げる。
「私は使用人として働かせて貰っているのだから、そんな風には出来ないわ」
 きっぱりと告げるアリスに、ちらりとブラッドの眉が上がる。だが、彼女はそれに気付かずに「主人に奢られるメイド、なんて変よ」とあっさり付け加えた。
「私にしてみれば、君はメイドなんかじゃないよ」
 くるっと持っていたステッキを振り回し、ブラッドが低く告げる。思わず男を見上げ、アリスは見下ろす深い碧の瞳に目を瞬いた。険しく眉間にしわを寄せる。
「なら何だって言うの」
「・・・・・・・・・・・・・・・さあ、てね」

 ふいっとアリスから視線を逸らして歩きだすブラッドに、アリスはむっとする。彼の為になりたいと、最近のアリスは良く考えるようになっていた。
 帽子屋屋敷の使用人やメイド、構成員はみな、ブラッドを尊敬し、敬愛し、彼の為にと働いている。
 最初はトンデモナイ男だと思っていたアリスだが、身近に接して、そしてその期間が長くなればなるだけ、惹かれていっている。

 それが恋なのか愛なのか、尊敬なのか、イマイチ彼女には判断出来ていない。
 微かに漂う上司の不機嫌に、アリスははあっと溜息を吐いた。

 判っている部分もあるし、理解しているとそう思う。だが、ブラッドがアリスに見せない部分はもっともっと沢山あるから、彼の事が判らない事もある。

(エリオットなら判るのかしら・・・・・)
 能天気でなにも考えていないような、オレンジ色の物体(にんじん)大好きなウサギさんだが、組織の2なのだ。
 ブラッドの最も近い場所に居る。

 彼の敬愛のし方は度を越していて、いつだかドン引きした事もあるが、今ではそれも何となく羨ましいと思ってしまう自分は、多分末期だ。
 あんな風に、好意を口に出せたら、もっと簡単なのに。

「お嬢さんにとって、私は確かに上司だな」
 このまま不機嫌なまま屋敷に戻ると思われたブラッドが、不意に立ち止まり振り返る。視線を合わせ、アリスは「ええそうね」とやや警戒しながら答えた。
「では、私が命じたら一緒にここに入ってくれるのかな?」
「え?」
 ちょい、と指先で示されたのは、なんだか豪華な作りの白亜の建物。ところどころにある金色の装飾が日の光りを受けて輝いている。
 エントランスは広く、大きな両開きの扉にはステンドグラスが嵌っていた。
 見上げるほどの高さのそれは。
「・・・・・・・・・・・・・・・ホテル?」
「・・・・・・・・・・」
 腕を組んでにっこり笑うブラッドに、アリスは固まった。
 別にいかがわしい雰囲気のホテルではない。
 どちらかと言うと、絶対、高級な方のホテルだ。最上階のレストランなんか、きっと格好のデートスポットだろう。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どういう意味で、一緒に入ろうって言ってるのかしら?」
「さあ?それは御想像にお任せするよ。ただ、君は私の部下だと言うのだろう?」
 なら、命じれば、君はここに入るのかな?

 興味深そうに見下ろす瞳は、物騒な光と面白がるような色が混じり合っている。
 どうしよう。
 どうするのが正しい?

「もちろん」
 ごくん、と喉を鳴らしアリスは奥歯を噛んで笑顔を作った。

「お断りします」
「命令しようか?」
 たたみ掛けるブラッドに、アリスは更にきつく奥歯を噛んだ。
「命令なら、従うか?」
 意地悪く囁かれ、何を言ってもこの男を喜ばせるだけのような気がするアリスは、散々考えた。
 短い一瞬で、この男を言いくるめる良い台詞を。
「命じられれば従いますケド、絶対に軽蔑します」
「軽蔑されるのは慣れてるさ。そういう仕事だからな」
 ぐ、と手首を捕えられ、ブラッドは愉しそうにアリスを引っ張る。
「ちょっと!?」
「取って喰ったりはしないさ。まだ、ね」
「まだって!?」
「おやおや、今すぐが良いのかな、お嬢さん」
 まだ日は随分高いぞ?
 にやにや笑って見下ろされ、アリスは頬に熱が集まるのを感じる。目に見えて赤くなるアリスを引きずり、男はフロントへ直行すると「空いてるな?」と一言だけで確認を済ませてしまう。
「ちょっと!?」
「ああ、気にするな。まだ、何もしないから」
「さっきから、まだが随分多いんですけど!?」
「まだ、では不満か?君も大胆だなぁ、アリス。嬉しいぞ?待てないくらい望んでくれて」
「誰もそんなこと・・・・・って、ちょ」
 引きずるのにも飽いたのか、ブラッドはひょいっと彼女を抱き上げると、さっさとエレベーターを呼んでパネルを操作する。
 エレベーターは最上階の表示を通り過ぎて、止まった。普通の人間は絶対に入れない領域。
 最上階のレストランのさらに上。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 ぽかんと口を開けているアリスを抱き上げたまま、ブラッドは自分の領域なので、鍵など必要の無いままに豪華過ぎて眩暈がしそうなドアを押し開けてアリスを連れていく。
「これは命令なの!?」
 ベッドルームまで運ばれて、白いレースの天幕が引かれた寝台に、やや乱暴に落とされる。
「どうだと思う?」
 慌てて起き上がり、距離を取ろうと広いベッドの端まで逃げるアリスに、ふかふかのシーツに腰を下ろしたブラッドが見詰める。
 楽しそうな笑顔。
(絶対に人をからかって遊んでるんだわ・・・・・っ!)
 それでも自然と、置かれていた枕の一つを胸に抱いて、アリスは警戒するようにブラッドを睨みつけた。
「命令でも・・・・・抵抗はするわよ」
「では力づくで」
「この××××!」
 抱いていた枕を放り投げれば、受け取った男が笑いながらそれを元に戻す。彼の左のひざがベッドに上がる。
「ち、近寄らないでっ!」
 更に端まで逃げるアリスに、ブラッドは肩を震わせて笑った。
「慌ててるな」
「あ、慌てるに決まってるでしょう!?」
 転げ落ちるように、ベッドから降り、窓際まで後退すると、そのままじりじりと壁伝いに移動する。
 その様子を目だけで追いながら、ブラッドは上着とベスト、タイを外して適当に放り、靴も靴下も脱いでベッドの上に乗り上げる。
 そのまま寝っ転がる男に、アリスは脚を止めた。ベッドルームの出口は直ぐそこだ。
「エレベーターもドアも封鎖済みだ。出るのなら、私と一緒じゃないと無理だな」
 ひらひらと持ち上げた手を振るブラッドが、憎たらしい。それよりもなによりも、散々からかうだけからかって、飽きたと言わんばかりに放り出すその姿に腹が立った。
 酷い侮辱だ。
 反応だけ楽しむなんて、あんまりだ。アリスは玩具じゃないのに。
「そ、その気も無いのにからかうなんて、失礼だわ」
 寝っ転がって、そのまま昼寝を決め込む主に、思わず怒鳴れば、肘を付いて身体を起こしたブラッドが、「襲って欲しかったのか?」とにたりと笑ってアリスを見遣る。
 かっと頬に再び血が上り「違うわよ、ヘンタイ!」と声を荒げた。
「そ、そうじゃなくてっ!・・・・・そうじゃなくて・・・・・未婚の女をこんな所に連れ込んで、侮辱よ」
「・・・・・・・・・・・・・・・では、本気なら、靡くのかな、お嬢さん」
 ゆっくりと身体を起こし、ベッドに座りこむブラッドがひたとアリスを見詰めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そうだな・・・・・ゆっくり行こうかと思ったんだが、面倒だな」
 折角、こんな場所で二人きりなのだから、捕まえてしまうのも悪くない。
 ふむ、と一人納得し、ブラッドは手を差し伸べる。
「おいで」
「嫌!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 ふっと視線を逸らして哂う。嫌な哂い方。
 背を向けて、走って逃げなくては。
 ベッドルームから逃げ出し、広いリビングを突っ切ってドアにかじりつく。
 だが、そこはブラッドが言ったようにしっかりと封鎖されていてびくともしない。夢中で取っ手を動かしていると、不意に後ろから抱きこまれた。
「っ!?」
「口説いても、命令しても、私のものにならないと言うのなら、どうしたらいいんだ?」
「あ、諦めなさいよ」
「嫌だ」
 ストレートな否定に、アリスは眩暈がした。
 この男の事を判っているつもりだった。判っているつもりだったのに、最近忘れている事もあった。

 この男は、自分が欲しいものは手段など選ばずに手に入れる男だと言う事を。

「私は君が欲しいんだよ、アリス。他でもない、君が」
「・・・・・・・・・・どういう意味で?」
 男のくだらない所有欲かしら?余所者で珍しいから、ていう。
 皮肉気に切り返せば、少し目を見張った男がゆっくりと唇を弧の形に引きあげる。
「違うな。・・・・・私はもっと君の事が知りたいんだよ?」
 彼の手が、ゆっくりと腰を撫で、徐々に服の上を上がって行く。やがて両手が柔らかな膨らみに達し、服の上から指の腹を埋めてくる。
「ちょ」
 そんな所を、そんな風に触られた事などない。甘く揉みしだかれ、アリスは力が抜けそうになるのを堪えて両手を持ち上げた。彼の手を抑えようとすれば、彼女の首筋に顔を埋めた男が、柔らかな首筋に歯を立てる。
「痛っ」
 びくん、と震えるアリスを抱き直し、暴れる彼女を掻き抱く。
 耳たぶに舌を這わせ、時々噛まれ、身体を震わせるアリスを、ブラッドは強引に抱き上げ、ベッドまで連れ戻した。
「あ」
 落とされたベッドから、起きようとするが、それより先にブラッドに圧し掛かられて、シーツに沈む。
 うなじと腰をホールドされ、喰らいつくような口付けた落ちてきた。
「んぅ!?」
 いきなり唇を開かされ、舌を吸い上げられる。身体をまさぐる手は、アリスの服のボタンを見つけ、引きちぎるようにして外された。
「ブラッドっ」
 塞がれていた口で、なんとか酸素を飲み込み、合間に非難を込めて名前を呼ぶが、エプロンの紐もドレスも肩から落ち、現れた丸く薄い肩に口付ける男には届かない。
「止めてっ!」
 両手はしっかりとシーツに縫い付けられ、ブラッドの身体は暴れる足の間に収まってしまっている。宙を掻くだけの両足がちらりと視界の端に映り、アリスは眩暈がした。
 なんという淫らな情景だろう。
「嫌だってばっ!ブラッド!!」
「何故?」
 コルセットのリボンを解き、力一杯下に引き降ろせば、ふる、と柔らかな双丘が空気に触れて現れる。腰まで下ろされたドレスを、なんとか引きあげたいアリスは、両手の戒めが解かれた瞬間、男の肩を掴んで押しやろうとした。
 だが、ブラッドの手が、無防備な白い胸に触れる方が早かった。

「あっ」
 服の上からではなく、今度は素肌を、掬う様にして揉まれる。
「ああっ・・・・・あんっ」
 ブラッドの指先と掌が、アリスの柔らかな肌の弾力を確かめるように動き、堪らず彼女は身をよじった。
 柔らかく形を変える乳房。その先端が徐々に赤く色づき立ち上がり、すっと目を細めたブラッドの舌先が、くるりとそこを舐めた。
「ひゃあんっ」
 甘く痺れるような痛みを堪え、身体を捩って逃れようとしていたアリスは、続いた刺激に堪らず声を上げる。浮いた背中に腕をまわし、抱きこんで拘束すると、ブラッドは片手で胸を弄び、もう片方の乳房に唇を寄せる。
「あっ・・・・・くぅ・・・・・んっんっ」
 与えられる、せり上がってくるような感触に、脚がシーツを蹴り、彼女の白い喉が反る。尖る乳首を指の間に挟んで転がし、ブラッドの口付けは肌を這った。
「あっあっ・・・・・やめっ・・・・・やめてぇ」
 背中や腰を撫でられ、胸を揉みしだかれる。舌先と唇に体温を上げられて、アリスは懇願するように首を振った。
「嫌なのか?」
「っ!?」
 くったりと力の抜けた両手が、握りしめるシーツを眺めてから、ブラッドは淡く色めき立つ翡翠の瞳を覗きこむ。
「なら、止めるか?」
 薄らと微笑むその様子に、アリスは羞恥に顔を赤く染めた。
「君だって、嫌いな男に強姦などされたくないだろう?」
 甘く、痛みの混じった愛撫がすっと止まり、肌を熱くするだけ熱くして、ブラッドの熱が引いて行く。身体を起こし、シーツに両手を付いて見下ろす男の眼は、完全に優位に立つ者の色を帯びている。
 言い知れない熱だけを覚え込まされた身体を、アリスは持てあます。じわり、と切なさがこみ上げ、何も言えない。

「口説いても、命令しても、犯しても、私のものにならないのなら、諦めるしかないか」
 身体を起こし、半裸に剥かれたアリスをそのままにして、ブラッドは首筋に手をやるとだるそうにアリスを見下ろす。
「私は振られてしまったからな。君はもう、屋敷に戻ればいい。私は・・・・・そうだな、誰か適当に喜んで身を差し出す女でも呼びつけるよ」
 ざわり、とアリスの身体が震え、心音が早くなる。

 ホカノオンナ?

 彼の呟いた単語が脳裏を侵し、じわりじわりと舌先に苦いものがこみ上げていく。


 これは多分、普通の状況じゃない。

 どんなに鈍感で愛や恋に後ろ向きなアリスにもそれは良く判った。

 これは、多分、普通の、状況じゃないのだ。

 普通に愛を告白されて、こんな事になっているわけじゃない。
 アリスはただ、翻弄されて、嬲られているだけだ。
 ブラッドの言うとおりだ。このまま服を持って、逃げるようにここから出ていけばいい。

 なのに、アリスはベッドに投げ出されたまま動けないで居る。


 熱っぽく見詰めるブラッドの瞳に、映っていたのはほかでもない自分。
 あられもない姿で乱し、追い求めて口付けを繰り返す目の前の男が、「おいで」と呼んだのは自分。

「・・・・・・・・・・・・・・・ねえ」
 気付けば、アリスは横たわったままブラッドに声を掛けていた。
「なにかな?」
 いくらか冷めた声が応じる。
「貴方は・・・・・・・・・・私が好きなの?」
 戸惑いを含んだ、掠れるほど小さな声。
「口説き落としたいくらいには」
 ひっそりとブラッドが答える。
「・・・・・・・・・・・・・・・それは私が余所者だから?」
 アリスの声が震えている。ちょっと目を見張り、それからブラッドは可笑しそうに声を殺して笑った。
 その雰囲気に気付いたのか、アリスが少し身体を起こして、ベッドの上に座りこむ男を見た。
「君は本当に根暗だな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は君が気に入っている。部下としてでもなく、余所者としてでもなく、滞在しているお客さんとしてでもなく、だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「君の」
 その全てを奪い尽くしたい、哀れな男だよ?

 伸びてきた指先が、ゆっくりとアリスの肌を撫でていく。乳房の丸みを確かめ、先端の乳首を押しつぶし、ゆっくりと薄い腹を通って、脚の付け根を撫でる。そのまま内腿に滑って行く掌に、アリスはこくん、と喉を鳴らした。
 腰にまとわりついているドレス。その先端が、するりするりと持ち上がって行く。やがてすっかり裾から脚を露わにし、柔らかな内側を、彼の手が滑って行った。

「んっ」
 顔をそむけるアリスの頬に、口付けを贈り、ブラッドは緩慢な動作でアリスの太腿を撫でていく。
「君はいつまでたっても慣れてくれないな」
「・・・・・何・・・・・に」
「私に、だよ」
 ついばむ様な口付けが、やがて深くなり、舌を吸われ、口腔を嬲られ、飲み込めなかった唾液が、アリスの口の端から零れ落ちる。くらり、と視界が回り、アリスの唇から甘やかな声が漏れた。
「んあ」
 ブラッドの乾いた掌が、あちこちを撫でていく。アリスの身体の形を確かめるように、肌の質感を味わう様に。ややふくらみが足りない胸も、彼の手の中で、愛しそうに捏ねまわされ、細い脚は徐々に開かされていく。
「あっ」
 ぐ、と力を込めて膝を押しやられ、ベッドの上に身体を広げられたアリスは、かあっと頬を染めてブラッドを見上げた。
 あり得ない勢いで心臓が駆けている。
「・・・・・・・・・・欲しいな」
 低い声が、熱を宿したアリスの肌に降り注ぐ。
「欲しくてたまらない・・・・・なあ、アリス」
 震えて身を捩るアリスの、柔らかな秘所を、下着の上から撫でる。
 誰も触れた事の無い個所。
 自分でも怖くて、ろくに触れた事の無い場所。
 長いブラッドの指が、行き来する度に、溢れ、漏れ出る甘い声を押し殺そうと、必死に己の指を咥えるアリスにブラッドは意地悪く囁いた。
「これからすることは、君を犯す事になるのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「同意が欲しいな、アリス」
 くつりと笑い、ブラッドの指先が、下着の上から探し出した花芽を、引っ掻く。そのままぐりぐりと苛められ、「ああんっ」と彼女の唇から嬌声が漏れた。
「はっ・・・・・あっあっ」
「アリス」
 震える白い胸の先端を咥え、舌で愛撫する。じわりじわりと身体を侵していく甘い疼きに、アリスは夢中で首を振った。
「やっ・・・・・ブラッドっ」
「この期に及んで拒否か?」
 止めるのか?

 静かに笑う男を、アリスは力一杯睨みつけるが、与えられる刺激と、腰から忍びあがって行く甘い疼きの所為で、効果はない。ただ可愛らしく、そして男の欲情を煽るだけのそれ。震え、制御できない快楽に、抗えないと知り、アリスは「違う」と消え入りそうなほど小さな声で答えた。

「何が違うんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・止めて」
「止めるのか?」
「・・・・・・・・・・止めて・・・・・欲しくない」

 小さく小さく囁かれた台詞は、どこまでも甘く、溶けそうなくらいで。
 ブラッドは彼女をきつく抱きしめると、首の裏に痛くて熱い口付けを贈った。

「んっ」
 鈍い痛みが走り、肌に赤い痕が残る。気にせず、男は舌を擦り合わせるように口付けると、下着の縁に指を掛けて、引きずり下ろした。

「あっ」
 外気に、濡れた秘所が露わにされ、冷たさにひくりと震える。大きく脚を開かされ、赤く色づき、濡れるそこにアリスは顔をそむけた。ブラッドの指先が柔らかさを確かめるようにゆっくりと、あちこちを擦り上げていく。
「あっあ・・・・・やあっ・・・・・あんぅ」
 生温かい舌が、溢れる蜜を吸い上げ、濡れた音を立て、柔らかくぬかるんでいく。触れる吐息にぞくりと感じ、ぴくん、と震える身体を制御したくて、アリスの手がぎゅっとシーツを握りしめた。
「あ・・・・・ブラッド・・・・・あんっ」
 膨らんだ花芽を吸い上げ、舌先で突く。ひっきりなしに喘ぐ彼女を追いたてながら、硬く閉ざされている彼女の内部へと、ゆっくりと指を押しいれた。
「あああっ」
 今まで、感じた事の無い感触が、ぞくぞくと背筋を駆けあり、濡れた身体を犯していく。力の入る太腿にキスをし、掌で花芽を刺激しながら、ブラッドは温かく濡れて、狭い膣内をゆっくりと擦り上げた。
「あっあっ・・・・・んっ」
 羞恥と知らない感触に、アリスの喉から声が漏れる。苦しそうな喘ぎ声は、やがて、ブラッドが探り当てた箇所で甘やかに変わった。
「ひゃあんっ」
 脚が宙を掻き、腰が蠢く。ブラッドの指先を追い求めるように、無意識に腰を使うアリス。目を細め、誰も知らない彼女を曝すアリスに、徐々にブラッドの吐息も熱くなっていく。
「ここが、感じるか?」
「あんっ・・・・・んっ・・・・・ふっ」
 ブラッドの指が触れるたびに、身体のそこかしこが熱くなっていく。じわりじわりと身体の内側から焼きつくすような熱に犯され、彼女の腰がしなった。
 奥から温かい蜜が零れ落ち、濡れたような喘ぎ声しか漏れてこない。
 夢中になって、彼から与えられる熱をむさぼっていると、不意に指が増やされて、ぐちゃん、と卑猥な水音が立った。
「あああああっ」
「これだけで、そこまで感じてくれるとは」
 まだ挿入てもいないのに、と嬲るように彼女の耳元で告げるブラッドの声は、それでも隠しきれない熱を秘めていた。
「気持ち良いか?」
 がくがくと首を振るアリスの、尖った胸に吸いつき、更に嬌声を上げさせながら、ブラッドは親指で花芽を弄った。突き立てている指が柔らかな壁に挟まれ、善がる彼女の、声がオクターブ跳ね上がる。
 溜められた熱が、身体の奥、弄られた膣内から這い上がり、アリスの頭を真っ白に染め上げる。
「ひゃあああっ・・・・・あんっぅ・・・・・ああんっ」
 瞑った瞼の裏がちかちかする。
 ブラッドの愛撫で達し、尾を引く余韻にふるふると身体が震えるアリス。じわりと浮かんだ彼女の涙に、耐えきれないような息を吐くと、ブラッドはまだ呼吸の荒い彼女の脚を持ち上げた。
「あん」
 ぬるっと引き出された指先に、アリスはじわりと痛みを感じる。それから、何とも言えない疲労も。
 だが、それよりなにより、抜かれ、狭いそこが、熱く、隙間なく埋められる感触を知ってしまった為に、空虚を訴えるほうが切実で、アリスは己に圧し掛かるブラッドをうっとりと見上げた。
「ブラッド・・・・・」
「・・・・・・・・・・そんなもの欲しそうな顔をするな」
「でも・・・・・私・・・・・っ」
 は、と短い吐息を繰り返すアリスに、緩やかに口付けて、ブラッドはその頬を両手でくるむと額に額を押しつけた。
「余り煽るな。加減が出来なくなるだろう」
 低い声音には色濃く欲が滲んでいる。彼の掌が熱い。
 求めてくれているのだろうかと、肌に刻まれる熱量から推測し、アリスはふるっと首を振った。
「しなくて・・・・・いい・・・・・から」
「・・・・・痛くても知らないぞ?」
 ひそっと囁かれる意地悪な言葉。微かに恐怖が滲む翡翠の瞳に、ブラッドは「君が悪い」と眉を上げて笑った。
「欲望のままに腰を打ちつけてなど見ろ。君は壊れてしまうよ」
「・・・・・・・・・・でもっ」
 我慢、しないで。
「激しいのがお好みか?」
 吹き出すブラッドに、思考の半分が溶けてしまっているアリスは、酩酊したような顔で「違うわ」と答えた。
「きもちよく・・・・・したい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「貴方に・・・・・きもちよく・・・・・」
「アリス」
 目許に朱を穿いた状況で、そんな事を言われるとは。ぞくりと腰から忍びあがる欲望を、どうにか制御して、ブラッドはついばむ様なキスを繰り返した。
「んっ」
「こんな時は、『優しくして』と、甘える場面だよ?」
 本当に君は、甘えベタだな。
 思わず苦笑するブラッドに、「あ」と甘い声を上げながら「でも」とアリスは言葉を繋ぐ。
「私はっ・・・・・貴方の・・・・・」
「部下だから、などと言ってみろ。私は君の身体に、徹底的に自分が何なのかを叩き込まなくてはならなくなる」
 低く、だが計り知れない熱量を秘めた声音が、耳を犯し、アリスは「ひゃん」と首をすくめて啼く。
「さあ、アリス・・・・・どうして欲しい?」
 脚を広げられ、その中心の濡れて熱くてどうしようもない場所に、ゆっくりとブラッドのものが押しつけられる。
 張りつめて、熱く、硬く立ち上がるそれに、アリスの身体が震えた。

 貫かれる痛さと、それ以上にこみ上げる何かに期待して。

「このまま突き立てて、滅茶苦茶に犯されたいのか?」
「や・・・・・」
 首を振り、アリスはゆっくりと手を伸ばすとブラッドの首筋にしがみ付いた。
「ねが・・・・・優しく・・・・・」
「ん?」
 口付けが落ちてくる。ふっと吐息を洩らし、アリスは己の身体をブラッドに擦り寄せた。
「優しく・・・・・して」



 くちゅ、と濡れた音がする。硬くて熱いものが触れ、アリスの身体が震えた。
「あ・・・・・はっ・・・・・あ」
「入れるぞ?」
 十分に濡れて、溢れる蜜がシーツに染みを作っていても、アリスの中は指を二本咥えこんだだけで一杯になる。
 初めてで慣れていないであろう、彼女の秘所に、ブラッドはゆっくりと己のものを推し進めた。

「んっ・・・・・あっああああっ・・・・・いっ」
 ふるっと首をふり、きん、と張り詰めるような痛さに思わず身体がずり上がる。その腰を掴んで、ブラッドは「力を抜け」と甘やかに囁いた。
「で・・・・・もっ・・・・・無理っ・・・・・ああっ」
 びくん、と震える花芽に指を添え、柔らかく刺激しながら、彼女の汗の浮いた額や頬、唇に丁寧にキスをしていく。
「大丈夫だ。痛くしないから・・・・・身体から力を抜け」
 飲み込もうとする吐息を、ゆっくり吐き出し、与えられる口付けに夢中になる。あちこちを撫でる手が、アリスの身体を溶かし、声が、彼女の緊張する意識を柔らかく壊していく。
「んっ・・・・・ふあっ」
 入口辺りが一番きつく、中は切なさを埋めるようにブラッドをいざなう。溢れ零れる蜜を絡めるようにしながら、ブラッドはゆっくりゆっくり己の楔を沈めて行った。
「ああああっ」
 ずる、と身体の中心を擦る感触と、裂かれる痛みに身をよじる。だが、それよりも繋がって得る、熱量に体中が、書き替えられるようなそんな感触に震えるのだ。
「あっ・・・・・ブラッドっ・・・・・あああっ」
 繋がっている部分から、溶けていく。彼の身体に流れ出していく。きゅん、と胸の奥が痛み、アリスは堪らず、押し広げられていた脚を、ブラッドの腰に絡めた。
「抱いて・・・・・」
 甘やかな声が誘い、縋るようにアリスが身を寄せる。広い背中に爪を立てる。ざわりと蠢き締め付ける内部の、滑った温かさにブラッドは奥歯を噛んだ。
 気を抜けば持って行かれる。
「アリス・・・・・」
 しがみ付く彼女に、ふっと吐息を吐いて笑い、男は緩やかに抽送を始めた。
「ふっ・・・・・く・・・・・ぅん」
 ぐちゅんぐちゅんと、濡れた音が響き、ブラッドにしがみ付くアリスの指先が白く力が籠る。
「可愛いよ」
 必死に声を殺そうとするアリスに、囁き、「少し、我慢してくれ」と動きを大きくする。
「あっあっあっあ」
 押し込まれた指先が、探り当てた、彼女の一番敏感な部分が、今度は熱く滾った楔で突かれる。
「あああっ・・・・・あっ・・・・・んぅ・・・・・あ」
 ひっきりなしに零れる嬌声と、逃れたいのに逃れられない彼女が、嫌がるように首を振った。
「やあっ・・・・・だめっ・・・・・そこっ」
 痛みを凌駕する、甘やかなしびれ。蜜が溢れていき抽送は激しくなる。じゅぷじゅぷとどんどん厭らしい音を立てて揺さぶられ、アリスの脳裏が赤く赤く染まって行く。
「だっ・・・・・あっあ・・・・・変にっ」
 なっちゃう、と掠れた声を上げ、懇願するアリスに、ブラッドは口付けた。手が胸元に忍び込み、愛撫を繰り返す。
「ああっ・・・・・駄目っ・・・・・いやあっ」
「いいよ、アリス・・・・・気持ちいい」
あっ・・・・・ブラッド・・・・・わたし・・・・・もっ」
 濡れた秘所が、溶けていく。奥へ奥へといざなう様な蠢きに、ブラッドが更に大きく腰を打ちつけ、アリスの背が撓る。
「ああっ・・・・・ああんっ・・・・・ひゃぅ・・・・・あ」
 もう、アリスの喉からは嬌声しか零れない。無茶苦茶にしがみ付き、あられもない声を上げる彼女が、彼の動きに合わせて快楽を求めていく。
「アリス・・・・・」
 己の手で乱れて、痛いのを凌駕して縋る彼女を追い詰めながら、ブラッドは堪らなく愛しそうに彼女の名を呼んだ。
「あっあっあ・・・・・ブラッド・・・・・」
 蕩けた眼差しに、ブラッドは妖しく笑う。
「いきたいか?」
 甘やかなしびれは、出口を求めてぐるぐると身体を彷徨う。追い上げられる感触に、がくがくと首を振る彼女に、ブラッドは優しいキスを贈った。
「君の中で・・・・・」
 果てても構わないか?

 彼の声は、アリスのを狂わせる。「中で」と甘やかに答えるアリスに、ブラッドは限界を感じた。

 一際強く穿たれ、アリスは善がり身悶える。こみ上げてくる熱い塊を、飲み込むことなくせり上げ押し上げていく。
 目蓋の裏に血が集まり、赤くなる。
 じんわりと痺れるような感触が背筋を伝って上り詰め、それを追いかけるように強烈な快楽が身体を蝕み駆けあがる。
「あっあっ・・・・・ああああっ―――っ」
 悲鳴のように、甲高い声がアリスの喉から漏れ、ほとばしる体液を身体の奥に感じた瞬間、真っ白な中に放り出され、アリスは自分の意識が深く深く落ちていくのに身を任せるしか出来なかった。








 自己嫌悪に陥る暇も無い。
 バスタブに、乱された身体を沈めて、吐息を吐き、ゆっくり温まってそこから抜け出せば、にっこり笑ったブラッドが沢山の衣装を片手にこちらを見ていた。
 バスタオル一枚巻いて、立っているのも億劫なアリスは、目を瞬いた。
「何・・・・・それ」
「私からの贈り物だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 さ、どれが良い?
 濡れた身体にタオルを巻いただけの彼女をいきなり抱き上げて、ブラッドはソファに座る。彼女の肌には赤い華が散っていて、とてもじゃないが、ブラッドの用意したドレスを着れそうもない。
「・・・・・・・・・・胸元が開いてるのは嫌」
 自分のキスマークを見詰めて告げるアリスに、同じように彼女の肌に視線を落とした男が「そうか?」と眉を寄せた。
「見せるために付けたのだから、構わないだろう」
「なんてことするのよ、あんたはっ」
 思わず眉を吊り上げて睨めば、ふっとブラッドが小さく笑う。
「これくらいしないと、君は周りから隠してしまいそうだからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・何を」
 いぶかしむ様に告げれば、ちゅっと柔らかなキスが頬に落ちてくる。
「私のものだと言う事を、だよ」

 いつから貴方のものになったのよ、と言い返そうとするが、ついばむ様なキスが頬だけでは飽き足らず、あちらこちらに落とされるのに口をつぐむ。

 ブラッドのもの。
 この男のもの。

 誰が?
 自分が?

「んっ」
 キスが熱を帯び、そのままソファに押し倒される。バスタオル一枚の彼女は、身を守るすべがない。
 瞳に熱っぽい色が宿る頃、口付けを止めて、ブラッドは彼女をじっと覗きこんだ。
「君は真面目で堅実、なんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 柔らかく、ブラッドの指がアリスの肌を撫でていく。
「そんな君から強請られたんだ。十分に大切にしなくては」
「強請ってないわ」
 掠れた声で反論するが、抱きしめる腕が心地よくて、力が無い。
「なら、強請ればいい」
 君は私の部下でも、珍しい余所者でも、お客さんでもない。
「私に強請れるのは・・・・・君の特権だぞ?」
 可愛い、私の恋人。

 囁かれた台詞の甘さに、くらくらする。
 アリスには備わっていない、天然の甘さなのか。

 そう言えば、ブラッドは微かに目を見開いて、それなら君の甘さは何なのかな、と意地悪く笑う。

「そうね・・・・・私は元は甘くないのに」
 貴方のせいで甘くなったのだから。

 強いて言うなら人工甘味料だわ、とアリスは口付けの合間に思うのだった。



















 ブラアリでエロを書きたくなったから書いただけっていう、なんとも・・・・・な話 orz

 やまなしおちないしみなし(爆)です!



 そして、何となく帽子屋エンドからの派生で、雰囲気はジョーカーな感じでお願いします。

(2010/12/13)