あなたにあげる






 いつまでも身体を預けているわけにもいかない。

 ソファに座るブラッドの、膝の上に居たアリスは、ゆっくりと身体を離すと、止血をしただけの男の右腕に視線を落とした。
「アリス・・・・・」
「先に、手当て」

 ブラッドの指先が、アリスの目許を撫でる。まだ残っていた涙が一粒、ブラッドの指を濡らし、アリスはくすん、と鼻を鳴らすと淡く笑って見せた。
「労るのはその後」




 綺麗に巻かれた包帯を、ブラッドは興味深そうに見詰める。こんな大げさな怪我をしたのは、一体いつ以来だろうか。
 ぱたん、と救急箱の蓋を閉じるアリスを見やり、ブラッドは床に跪いている彼女の腕を取った。
「治療は終わったのに、どうしてそんな哀しそうな顔をしている?」
 引き上げられ、立たされたアリスは、ぐっと喉を鳴らして言葉に詰まった。

 ブラッドの怪我の手当てをしながら、再び酷い恐怖に襲われたのだ。
 彼は約束してくれたのに。
 でもやはり、「善処」では足りない。

「アリス?」

 柔らかな声が尋ね、下から顔を覗かれる。ふるっと首を振り、アリスはブラッドの首筋に抱きついた。


 もうしない。
 あんな風に、迷いたくない。
 迷って迷って・・・・・監獄に足を踏み入れて。
 助けに来てくれなければ、一体どうなっていたのだろうか。

 かたかたと震えるアリスの身体に気付き、ブラッドは溜息を付いた。

「何を怯えているんだ、アリス」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなに私は消えそうか?」
 普段の君よりも。

 あやすように背中を撫でられて、ひっく、と嗚咽が漏れる。唇を噛んで、アリスはぎゅっとブラッドの首に抱きついた。

 私はブラッドに何もしてあげられていない。
 何一つ、ブラッドに差し出せるものが無い。
 困らせて、迷惑をかけて、こんな怪我まで負わせて、そして、彼から安心する言葉を引き出そうとしている。

 そんなに自分は偉い人間じゃない。

「ブラッド・・・・・」
「うん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・命令して」
「?」

 怪訝そうに、ブラッドが眉を寄せる。微かに強張った男の気配に気づき、アリスはゆっくりと彼から離れた。
 こつん、とその額を、ブラッドの額に押し付ける。

「なんでもするから」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「貴方の為に・・・・・なんでもするから」
 だから。

 きゅっと目を閉じるアリスを見詰め、ブラッドは呆気に取られたような表情をした後、息を付くようにして笑った。
 呆れたようなそれに、びくん、とアリスの身体が震え、ぱっと顔を上げる。

「ブラッド・・・・・」
「何を言い出すのかと思ったら。・・・・・どういう事だ?お嬢さん?」
「だって・・・・・」

 貴方に酷い事をした。
 こんな風に、傷つけられていい人じゃないのに。
 ファミリーの皆に、きっとアリスは怒られる。
 ボスの一存だとしても・・・・・やりすぎだ。

 アリスは、彼の愛人かもしれないが、愛人の為に、マフィアのボスが傷つくなんて、有って良い事じゃない。

 ぐっと奥歯を噛みしめて、最高に情けない顔をするアリスを見詰め、ブラッドはふうっと息を吐く。

「怪我なんか、大した事ないぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「前に言った事が無かったか?私が君を裏切る様な事があったら・・・・・私の時計を壊しても良い」
「そんなの嫌っ!!!」

 酷く強張った声が、静寂を打ち破り、彼のジャケットを握りしめるアリスの手が白い。
 ぽろっと再び涙がこぼれ、ブラッドは困ったように笑った。

「泣かないでくれ・・・・・」
 懇願にも似た、ブラッドの声音に、アリスはふるふると首を振る。
「君に泣かれたら困るんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「アリス・・・・・」
 なら、命令するぞ?
 柔らかな声と、仕草で涙を拭われ、アリスはブラッドの首筋に頬を押し当てて目を閉じた。

「お願い、ブラッド・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「このままじゃ私・・・・・貴方が大好きなのに、傷つけるしか出来ない、馬鹿みたいな女にしかなれない・・・・・」
「可愛いじゃないか。女の我儘はそれくらいでなくては」
「茶化さないで!」

 顔を上げ、笑う男に視線を合わせる。頬に涙の痕が残るアリスを、男はじっと見詰めた後、「困ったお嬢さんだ」と柔らかく微笑んだ。

「対価など払わせる気はないよ。君がそれを払ってしまったら、怪我をした意味がない」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 薄く開いた彼女の唇に、親指を当て、するっと撫でる。ブラッドがにっと笑って見せた。
「ブラッド=デュプレに血を流させた女は、君が初めてだ、お嬢さん」
 だから、君が対価を払えるとは到底思えない。
「何でもする、なんて軽々しく言ってはいけないと、教わらなかったかな?」
「・・・・・・・・・・それでも」
 舌先で、アリスはそっとブラッドの指先を舐めた。
 くっとブラッドの口の端が上がる。
「それでも・・・・・私は貴方の為に、何かしたい」
「労ってくれればいい」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 額に落ちた口付けに、アリスはぎゅっと己のスカートを握りしめた。

「判ったわ」




 なら、とアリスを押し倒そうとするブラッドを、彼女は逆に押しやる。
 何度も深呼吸をし、それでも震える手で、ブラッドのベルトに手を掛けた。微かに、彼が目を見張った。
「アリス」
「怪我してるのに、無理させられない」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・病人や・・・・・怪我人には優しいの」
 掠れた声は震えている。数度瞬きをした後、くすりとブラッドが笑った。
「そうなのか?」
「・・・・・そうよ」
 彼女の指先は白く冷え、震えている。手伝ってやろうかと思うが、見ているのも面白そうなので、ブラッドは素知らぬふりでアリスの行動を見守った。
 なんとか彼のベルトをはずし、ジッパーを下ろす。熱くなっている彼自身を取りだして、アリスは真っ赤になった。
 目許に涙が滲んでいる。
 最中に、何度か強要した事はあるが、前戯も受けていない彼女が、のぼせているだろうが、しらふに近い状況で、自主的に行為をしようとするなんて。
 羞恥心に震えるアリスの髪を、そっとブラッドが撫でた。
「止めるか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・止めない」

 止めれば、普通にアリスがブラッドに抱かれるだけだ。
 それでは本末転倒なのだ。

 アリスは、ブラッドに、何かがしたい。

(こんなことしか出来ないなんて・・・・・最低だけど・・・・・)
 何もできない、護られて当然のお嬢さんにはなりたくない。

 ただ、ブラッドを気持ちよくしてあげたい。

 そっと舌を出して、軽く握ったままだった彼の楔に、アリスは恐る恐る舌を這わせた。

「ん」
 丁寧に舐め上げて、しゃぶる。自身の唾液で濡れて、徐々にアリスの口元から卑猥な音が立ち始めた。
「んっ・・・・・ふ・・・・・あ」
 桜色の唇がキスを繰り返し、手で扱く。裏に舌を這わせて、かぷ、と先端を咥えこんでみた。

「っ」
 くびれに沿って舌を這わせると、ブラッドが反応するのが判った。熱く大きくなる感触。

(これ・・・・・私の中に入っちゃうんだよね・・・・・)
 目を瞑って深く咥えこみ、舌で撫でながらゆっくりと上下する。
「アリス・・・・・」
 熱い吐息交じりの声が、彼の足もとに蹲る彼女の髪を掠め、ふるっと彼女の身体が震えた。

 何かで、口の中は女性器に似ている、と書かれていたのを読んだ事が有る。
 温かく、湿っているそこは、自分の膣内と似ているのだろうか、といくらかぼんやりした頭でアリスは考えた。

 だったら・・・・・それなりに・・・・・気持ちよくなってもらえる筈。

 口元から楔を引き抜き、再び舌先で舐める。唾液と、それからブラッドから零れたものでぬるぬるするそれを、夢中で扱いていると、ふとブラッドの手がアリスの頬に触れた。

「お嬢さん」
「ふ・・・・・」
 飲みきれない唾液を零したままの顔で見上げるアリスに、ぞくん、と背筋に衝撃が走るが、やり過ごし、ブラッドは熱くて、痛いくらい弩張したそれから、彼女の顔を引き離した。
「もういい」
「んっ・・・・・でも」
「いいから」
 つ、とアリスの指が楔の表面を撫で、男は反射的に奥歯を食いしばった。

 アリスのたどたどしい舌使いは堪らない。
 慣れていないから仕方ないのかもしれない。
 下手・・・・・と言うのならそうなのかもしれない。

 だが、言い知れない快楽があり、このままでは気が狂うとブラッドは内心歯噛した。

 こんな口淫、他の女がしたなら、即座に撃ち殺している。
 なのに、アリスがするだけで、変わる。
 とにかく決定打がなく、焦らすだけ焦らされる。むずがゆいような、アリスの頭を押さえて、無茶苦茶に腰を使ってやろうかと、そんな欲望ばかりが膨らむのに、涙目で一生懸命なアリスが、それを打ち砕くのだ。
 彼女を犯したいのに犯せない。下肢に熱は溜まる一方。

 これでは気が狂うと言うものだ。

(生殺し・・・・・とはよく言ったものだ)
 すり、とアリスの頬に指を走らせれば、泣きそうな彼女の顔にぶつかった。
「・・・・・気持ちよく・・・・・ない?」
 掠れたアリスの言葉に、ブラッドは眩暈がする。
「そうじゃないよ、アリス」

 そうじゃない。
 一から仕込んでも良いと、気長な事も考えるくらいに気持ち良い。

 だが、毎回これでは、ブラッドの理性が持たない。

「そうじゃないが・・・・・君が欲しい」
 肩を掴んで、アリスを押し倒そうとすると、彼女は「待って!」と声を上げた。
「だから、貴方、怪我・・・・・してるでしょ」

 私がするの。

 上目遣いで言われて、腰から脳天に掛けて、背中に衝撃が走る。歯を食いしばって耐え、硬く立ちあがる楔に、アリスが再び手を伸ばした。

「アリス?」
「私が・・・・・」

 緊張の所為か、呼吸が荒い。
 多分、大丈夫。
 アリスは、ブラッドのを咥えて、ブラッドが反応する度に、自分の身体にそれが入れられて掻きまわされているような錯覚に陥った。口を犯されて、身体を犯されているような。
(だから・・・・・濡れてる・・・・・わよね?)
 身体から蜜が溢れているのは判った。
 きっと痛くない。
 大丈夫大丈夫。

 そろっと膝を付いて立ち上がり、座るブラッドの身体を跨ぐ。腰を挟むようにして身体を落とし、手で支えた楔の先端を、酷くゆっくりと溶けかかっている花芯に押し当てた。

「んっ」
「っ」

 くちゅ、と濡れた音がして、アリスは何度も深呼吸をし、息を止めないようにする。

「アリス・・・・無理は・・・・・」
 震える彼女は堪らなく可愛い。押し込んで滅茶苦茶にしていくらいに。だが、濡れて太ももに愛液が零れているとはいえ、前戯もなしに挿入たことなどなかった筈だ。
 それも、自分から。
「大丈夫・・・・・」
 くぷぷ、と蜜が押し出されて溢れる音がし、アリスは喉から甘い声を上げながら、徐々に腰を落とした。

「あっ・・・・・あっあ・・・・・あんっぅ」
「っ・・・・・く」

 きつい。

 腰を推し進めて「挿入る」のではなく「包まれる」ような感じ。
 濡れて温かな感触が徐々にブラッドのそれを浸し、彼女が喘ぎ、呼吸を繰り返すたびに絡みついてくる。

「ふあ・・・・・あっ・・・・・あ」

 自分でそれを受け入れることに、微かな恐怖を感じ、アリスは酷くゆっくりとブラッドを受け入れていった。

(これもっ・・・・・生殺しだろっ)
 ブラッド自身、我慢できない。さらに、涙目で震えるアリスが、自分から挿入るのが酷く怖く、中途半端な位置で腰を止めるのに眩暈がした。
「あっあっ・・・・・あ」
「お嬢さんっ・・・・・これ・・・・・はっ」

 どこまで進めて良いか判らない。
 緩やかに抽送を開始するアリスに、ブラッドはくらくらするのと同時に、不意に笑いがこみ上げてくるのを感じた。

 ああもう全く・・・・・どこまで可愛いお嬢さんなんだ。

 精一杯腰を使って、動くアリスがどうしようもなく愛おしい。
 どこをどうするのか、教えてやろうかとも思うが、たどたどしい抽送と、一生懸命で困惑しているアリスを楽しむのも悪くないと思い直し、ブラッドはふっと目許を緩ませると、目を閉じて一心不乱に腰を振る彼女を眺めた。

(どう・・・・・なんだ・・・・・ろ・・・・・)
 アリスは一生懸命すぎて、己の快楽が判らない。恐怖が根底に混じっているから、理性を手放せない。加えて、ブラッドを喜ばせたい想いが強すぎて、自分の事はどうでもよかった。

「ブラッド・・・・・」
 はふ、と息を吐き、アリスはそっと男を見下ろした。
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 余裕で自分を見上げている男に、何となく落胆する。
 彼女の表情の、微妙な反応を見てとり、ブラッドは愛しくて仕方なくなった。

 ああ、可愛い。どうしてこんなに、可愛いんだろう、君は。


 このまま頑張るアリスを見ているのも悪くないが、この状態はきつかった。ちかりちかりと脳裏で、制御できない熱が溜まっていく。
 こうじゃなくて。
 そうじゃなくて。
 もっとこうしろ、と本能がブラッドを突き動かそうとする。

 その、シグナル。

 下から突き上げて善がらせるのも悪くないが、可愛い彼女の必死の努力が、ブラッドは愛しかった。

 それだけで、気持ちが良い。

「もういいよ、アリス」
 もっと、こう、かな?と動きを変えようとした矢先に、二度目の台詞を言われて、アリスはじわり、と胸が痛むのを感じた。

 やっぱり、私じゃ駄目なんだ。

 ぎゅっと寄る、アリスの眉間に気付き、ブラッドは吹き出すとゆっくりと身体を倒した。
 彼女を、押し倒すように。

「んあっ」
 普段と変わらない態勢で押さえ込まれ、アリスは潤んだ眼差しを彼に向ける。低く笑っていた男が、その彼女の首筋に顔を埋めた。
「ありがとう、アリス。十分だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・でも・・・・・」

 彼が快楽の絶頂に立った気配はない。
 ふ、とアリスの呼気が乱れ、ブラッドの髪にさしこんだ彼女の指先が、くしゃりとそれを掻きむしる。

「だって・・・・・私」
「十分、堪能させてもらったよ?」
「でもっ」

 ふえ、と泣きそうな吐息が漏れ、ブラッドは彼女の耳元に甘く囁くと、ゆっくりと身体を起こし、唇にふわりと軽いキスを落とした。

「本当だ」
「・・・・・嘘」

 ブラッドみたいな人が、今ので気持ち良かったとは思えない。余裕だったし。
 そんな風に考えて、アリスの目に涙が溜まっていく。零れる前に「泣くな」と笑いながらブラッドが告げた。

「だって・・・・・私・・・・・こんなことでも・・・・・貴方の事っ」
 喜ばせられないんなら・・・・・私っ・・・・・私っ
「十分堪能したと言っただろ?」
「嘘」
「私はしたい事しかしたくない」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 きっぱりと言われて、アリスがそろっと目を開ける。優しく笑ったブラッドが、その頬に舌を這わせた。

「確かに、技術的な事を言えば、まあ巧いとは言えないな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「他の女が、こんなのを奉仕だと言ったら、撃ち殺している」
 ぎゅ、とブラッドの首に回したアリスの腕に力が籠る。微かに震えた彼女の身体と膣内を感じて、ブラッドは幸せそうに吐息を漏らした。
「なのに・・・・・何故だろうな?君がすると・・・・・」
「え?」
「・・・・・・・・・・愛ある行為の意味を知ったよ」
 やはり、奥が深いな、こういう営みは。

 くっくっく、と喉の奥で笑うブラッドに、アリスは首を傾げた。
 気持ち良くなかった、と言う話ではなかったのだろうか?

「ブラッド?」
「気持ち良かったよ、アリス。・・・・・時計が、震えるくらい」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 かあ、とアリスの頬が熱くなり、飲み込んでいるブラッドを締上げる。ずくん、と身体の奥が疼く。
「だが、君は違った」
「え?」
 ちゅ、ちゅ、と軽いキスを顔中に降らせ、ブラッドはアリスの瞳を覗き込んだ。
「君は私の為に一生懸命だったが・・・・・君は気持ちが良かったか?」
 そっと尋ねられて、アリスは赤い顔のまま俯く。

 そうだ。

 アリスは、気持ち良かっただろうか。

「君が、気持ち良いように動いてくれればいいんだよ」
「あ」

 ぐ、と足を持ち上げられて、アリスが目を見張る。ぐちゅ、と音がして結合部が濡れる。
「私も、私が気持ちよくなりたくて・・・・・君を抱いてるんだから、な?」
 ああもちろん、君にも悦んで欲しい。
「アリス・・・・・」
「・・・・・・・・・・んっ」

 自分でしたのとは違う、ブラッドからの抽送に、眩暈がした。

「あっあっあっ」
 可愛らしい声が、上がる。ぎゅうっと抱きつくアリスに小さく笑い、ブラッドは彼女が悦ぶ場所を的確に攻め立てていく。
 先ほどまでの行為で、高まっていた分、激しくなる。
「んあっ・・・・・ああっ・・・・・うっ・・・・・ふっ」
 ぐちゃぐちゃ、と濡れた音が響き、荒く、甘い吐息が溢れていく。
「あっあ・・・・・もう・・・・・ブラッド・・・・・きもちい・・・・・」
「ああっ・・・・・私もだっ」

 ぱたりぱたりと、濡れた体液が零れ、額の汗が流れおちる。そっと目を開けて、揺さぶられ、身体の奥から狂おしい熱がこみ上げてくるのを感じながら、アリスはブラッドを見上げた。

 余裕のない彼が笑う。

「アリス」
 熱っぽい吐息を、混ぜるように口付けられた。

 眩暈がするほど、気持ち良い。
 絡まる舌と、翻弄される熱に堕ちていく。
「ブラッドっ・・・・・ブラッド・・・・・ォ」
 ひっく、と喉の奥が引きつれて、ぎゅうっと抱きつくアリスの手に力が籠った。
 締め付ける中に、男は歯を食いしばった。
「アリスっ・・・・・」
「駄目ぇっ・・・・・だめ・・・・・や・・・・・」
 あっあっあ・・・・・んっう

 足でブラッドの腰を抱え込んでいたアリスの中で、我慢できないほどの快楽が溢れていく。

「あっあは・・・・・あんっ・・・・・いっ・・・・・」
 ンっ・・・・・ああああっ―――――っっ


 がくがく、と震える彼女の身体を抱きしめて、ブラッドも引きつる最奥を突き上げながら、焦らしに焦らされた欲望を、一気に解き放った。






「結局・・・・・」
 じわ、と包帯に血が滲んでいるのを眺めて、アリスはしょんぼりと肩を落とした。
「大した怪我じゃない」
 左腕に彼女を抱いたまま、ブラッドが苦笑した。そのままくしゃりと彼女の頭を撫でる。
「でも・・・・・」
「気にするな。それに、言っただろう?対価は必要ない」
 これは、私がやりたくてやった結果だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「君が気に病む事じゃない」

 柔らかなキスが落ちてきて、アリスは泣きそうに顔をゆがめる。

「でもっ」
「アリス」
 口付で、彼女の言葉を塞ぎ、ブラッドは緩く彼女を抱きしめた。
「では、命令してくれと言うのなら、命令しよう」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 そっと彼女の耳元に唇を寄せた。
「必ず迎えに行く。だから、逃げられないのだと覚悟しなさい」

 甘い甘い、その命令に、アリスは目を見張りそっとブラッドを見上げた。

 碧の瞳に、欲望と狂気、それから愛しさが籠っている。ぞくり、とアリスの肌が快楽と恐怖に震えた。

「逃がさない」
「・・・・・・・・・・・・・・・ええ」
 逃がさないで。


 しがみ付く彼女を抱きしめたまま、ブラッドは忍び寄るジョーカーの影に薄く笑った。


 彼女だから、あんな拙い行為にも感じる事が出来た。
 十分に、幸せだった。
 そんな存在は、いない。
 アリス以外に考えられない。

「愛してるよ」

 まどろみに落ちていく彼女に、それが届いたかどうかは判らない。
 判らないが、彼女の為にならば、この無意味な命も無駄にはしないようにしようと、ブラッドはそっとアリスに誓って見せた。



 アリスはブラッドのもの。
 そして、ブラッドの時計と時間はアリスだけのもの。


「愛してる」

 答えない余所者の女に、次はその台詞を強請ろうかと、珍しく帽子屋はまっとうに考えて笑うのだった。


























 アリスさんのご奉仕ネタでした・・・・・

 お前、中途半端だよ!という突っ込みは無しで・・・・・(すいません orz)
 エロは難しい・・・・・(痛感)

 ジョーカーの例のイベントネタです>< あそこのイベント良いですよね!泣きだしそうなアリスと、優しすぎるボスがっ・・・・・!!!

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