見えない弾丸と手にしない拳銃

 唐突に吹いた風に、枯れ葉が舞いあがる。
 帽子屋屋敷の広大な庭。その一角にある巨木の下で、穏やかな秋の昼の読書を楽しんでいたアリスは、顔を上げた。

 陽の光は心地よく、肌を包む空気は温い。だが、唐突に吹いた風は冷たく、彼女はぱらぱらと捲れあがる本のページを抑え首をすくめた。

 渦を巻いて、蒼い蒼い、遠い空に赤や黄色、橙色の木の葉が舞いあがり吸い込まれていく。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 さわさわと、木立ちの間をすり抜けていく風が、金色の近い彼女の髪を浚ってたなびかせ、煽られながら、アリスは目を細めた。



 暗い暗い監獄で、目の当たりにした光景に、それが重なる。

 ジョーカーに撃ち殺された姉。
 彼は笑いながら、監獄に囚われた大好きな姉に向けて、引き金を引いた。

 そうしたら、アリスはきっと今を楽しむことが出来ると。
 君を苦しめているものを、殺してみようかと、愉しそうに告げた、ジョーカーの口調を思い出す。

(あれは幻・・・・・?)
 夢?私が作り出した白昼夢?

 頬を撫でていく風が、足元の落ち葉を浚い、木陰から飛ばしていく。帽子屋屋敷の庭。垣根が向こうに見える。あそこを超えると、いつもお茶会が開かれている広々とした中央に出るはずだ。

 それが、やけに遠くに見えて、アリスは身震いした。

 いけない。これ以上迷えばきっと、私はジョーカーを呼んでしまう。
 監獄に、再び足を踏み入れてしまう。

 彼は、ドアと一緒で、目をそむけていたものを見てみろと促してくるのだ。見て見て、そして、踏み込んでみろとそそのかす。
 だから、怖い。

 空気は暖かく、太陽は眩しい。ぽかぽかした春の昼間。アリスはそれでも寒い気がして、ぬくもりを求めるように肩に手をやった。

「やれやれ、忙しいお嬢さんだ」
「え?」
 自分の肩を抱こうとした手に、違うぬくもりが重なり、アリスは顔を上げた。
(い、いつの間に?)
 考えに捉われていて、気付かなかった。この屋敷の主が、膝を折って自分の隣に居る。そっと、手をどけられ、代わりに羽織るように彼のジャケットを掛けられて、アリスはばつの悪そうな顔で男を見上げた。
 ちらりと笑った男が、そのまま彼女を抱き寄せる。
「君は本当に思い切りが悪いな・・・・・」
「・・・・・・・・・・しょうがないでしょ。そういう性格なんだから」
 何を、思い切るのか。

 言われるまでもない。

 舞い上がった木の葉に、あの時のことを重ね、助けられなかった姉に思いをはせる。
 振り切れない、捨てられない、どうしようもない存在。

(迷ってはいけないっていうのに・・・・・)
「まあ、いいさ。」
 俯いて、膝の上で手を握りしめる彼女に、男は気だるげに言うと、手を伸ばした。手袋を嵌めた指が、頬を撫で、顎を掴んで促す。
 顔を上げると、いくらか憮然とした表情の、マフィアのボスがアリスを見下ろしていた。
「ブラッド・・・・・」
「いくらでも迷えばいい」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 こつん、と額を合わせられて、アリスの頬が赤くなる。間近で見つめる男の、碧の瞳が愉しそうに細くなった。
 剣呑な光が宿る。それと同時に、魅せられてしまいそうな色がにじむ。
「君は、私のものだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 傲慢な物言いだが、今のアリスにはこれほど安心できるものはなかった。
 物騒な台詞なのに、どこか、ほっとする。
 思わず伸ばした手が、ブラッドの袖に触れ、アリスはそこをきつく握りしめた。
 目を伏せる。

「・・・・・そうね」
 私は、帽子屋さんの愛人ですものね。

 いくらか意地の悪い調子で、皮肉るように言うと、肩を抱いていた腕が腰と、膝の下のまわされる。そのままひょいっと持ち上げられて、彼の膝の上に座らされ、アリスは唇を噛んで男を見た。

「そうだよ、アリス」
 君は、私の愛人だ。
 くつくつと喉で笑うと、ブラッドは口の端を上げ、彼女の胸元に顔を埋めた。喉に、ブラッドの不揃いな漆黒の髪が触れて、くすぐったい。膝を支えていた手が、アリスのブラウスのボタンをはずし、湿った吐息が胸元を掠めた。触れた温度に、身を捩る。
「あ」

 痕が付く。

「だから・・・・・ふらふらと浮気をしないでくれ?」
 しかも、私の領域から。
 唇を這わせたまま、ちらと下から見上げられて、アリスは耳まで赤くなる。それを誤魔化すように、彼女は自分を絡め取る男から視線を外した。
「誰も浮気なんかしてないわ」
「そうだな・・・・・君の所為・・・・・とは言い切れない、か」
 ブラッドの頬が、胸元に触れる。心音を聞かれていると知り、アリスは深呼吸した。いい加減、この男の過剰な接触に慣れてもいい頃なのに、向き合う度、触れあう度、アリスの心臓はうるさいくらいに騒ぐのだ。
 何度か、最中に死ぬのではないかと思ったくらいに。
 今も、鼓動は早鐘のように鳴る。
「・・・・・・・・・・嬉しいものだ」
「え?」
「ここまでされて・・・・・それでも浚われるのだとしたら、もう、これは私の失態だろうな」
「・・・・・・・・・・」
「アリス。前にも言ったが、君は自分が迷子になるのは自分の所為だと思っている」

 そうだ。

 こんなに何度も、ブラッドに迎えに来てもらうようでは駄目だと、自分のどこかが思っている。
 彼に手を掛けさせたくない。今度は自分から、彼の元に戻れるようになりたいと。

「けれど・・・・・それは君だけの所為じゃない」
「どうして?」
 そっと離れた温度。温まった胸元が、外気に触れてひやりとする。微かに身震いする彼女を囲ったまま、ブラッドはアリスの綺麗な碧の瞳を覗きこんだ。
 春の海のような、温かな碧色。
「君を繋いでおけない、私の失態だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 そっと、彼の手が左の胸に置かれ、びくりとアリスの身体が震える。頬が熱い。微かに潤んだ彼女の瞳をまっすぐに見つめて、ブラッドは掠れた低音で続けた。

「君を惑わせるのは、色褪せ、消えてゆくものばかりだ。なのに、強情にも色鮮やかに存在する。まるで生きているかのように」

 ブラッドの台詞に、咄嗟にアリスは監獄のロリーナを思い出した。触れると温かい、柔らかな彼女の手。にこりと微笑む姿。今にもアリスを抱きしめて、放さないように見えた美しい幻。

(幻・・・・・?)
 そう、あれは幻だ。ジョーカーに撃たれ、色とりどりの木の葉に変貌した。

「勝てないと言うのは癪なものだ。苛立たしい」
 熱のこもった眼差しが、アリスを捉える。く、と胸に置かれた指が折れ、弾力を確かめるように動かされて、アリスは眉を寄せた。艶っぽく歪む彼女を見つめたまま、男は低く甘く続ける。

「勝てるはずなのに・・・・・銃はあっても、弾丸が見つからない」
「ん」
 軽い音を立てて唇を吸われ、まだ触れる事が可能な至近距離で、彼はにっと笑った。
「だから、私が悪いんだ、アリス」
 再び口付けられる。そのあと、何度も何度も請うように。口付けの合間に、彼の甘い声は続く。
「君が浮気をするのは面白くない。ふらつかれるのも、虫唾が走る。だが・・・・・」
 ちろと、舌先が、アリスの唇を舐め、震える彼女の後頭部に手を添えて、ブラッドは自分の身体を覆いかぶせた。
 圧し掛かる重み。
 上を向き、口を開いた彼女の口腔に舌を押し込んで、深く深く口付ける。逃げる舌を絡め取り、吸い上げて蹂躙する。
 ブラッドの肩に添えられた彼女の手が、きゅっと握りしめられた。

「覚えておけ、お嬢さん」
「・・・っ・・・・・ん・・・・・・・」
 はう、と息をつくアリスが見上げる男は、柔らかく優しい瞳をしていた。身体の芯が焼けてしまうような気がするほど、まっすぐに彼女を貫く。
「囚われるのも、迷われるのも、ふらつかれるのも、私は嫌だが・・・・・その度に、私が迎えに行こう」
「・・・・・ブラ・・・・・ッド」
 自分から洩れた声が、酷くかすれて弱々しくて、アリスは驚いた。だが、己を満たしていく甘い感情から逃れられない。
 瞳に、涙がせりあがってくる。

「離す気は毛頭ないし、獲られるのも好きじゃない。たかが残像に、負けるのも癪に障る。だからといって、私はただ、君を失って地団太を踏むのもごめんだ」

 見たいものを、見ればいい。
 囚われたいのなら、囚われればいい。
 それはアリス・・・・・君の自由だ。

「その代り、私も自由にさせてもらう」
 全力で、君を撃ち抜いて見せよう。
「・・・・・・・・・・どうやって?」

 彼の忠実な部下。あの監獄から脱獄したエリオット。オレンジの髪の彼を思い出し、そして、ジョーカーの台詞を思い出す。


 俺でも君を怖れそうになる。


(本当に怖いのは・・・・・ジョーカーなんかじゃなくて・・・・・)

 それでも、アリスは望んでしまう。
 思い切りが悪く、あちらの世界を捨ててここにとどまっていると言うのに、ふらつく自分。
 ドアに誘われ、ジョーカーに恐れを抱く自分。

 引き戻される感触。忘れている何か。監獄に囚われる罪。

 それを、打ち砕いてくれる一発の銃声を。

 撃たれたら、恐らくアリスはジョーカーに捉われないだろう。そして、自分の前に、赤いコートの男が立つのだろう。
 それでも構わない。
 ブラッドが、それを望むのなら。

「迷う、な」
「え?」
 ふっと、ブラッドは小さく微笑むと、アリスの頬に指を添えた。何度目になるか判らない口づけ。
「迷う・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ここに迷い込む・・・・・ハートの騎士ではないが・・・・・」
「?」
「しばらく・・・・・愉しむのも悪くない」
「??」

 目を瞬く彼女に、再びブラッドは深く口付けた。今度は離してくれそうにない、腕の強さを感じ、アリスは目を閉じた。
 背を預けている巨木に、押しつけられる形で、繰り返される口づけ。服の上から柔らかな胸を堪能していた手が、するりと彼女のエプロンのひもをはずし、服をくつろげる。
 ブラッドの上着の下で、あらわになっていく、アリスの輪郭。

「撃ってはくれないの?」
「ん?」
 手袋の指先を歯で噛み、するっと脱ぐブラッドの仕草に見惚れていると、女の自分が身を震わせるほどの色香に当てられる。思考がかすんでいく。
「・・・・・・・・・・私は気まぐれだからな」
 にっと人の悪い笑みを浮かべて、ブラッドはタイを緩めて外すとするりと枯れ葉の上に落とした。彼女の足の間に、身体を滑り込ませる。
「気が向いて・・・・・弾が見つかったら、な?」
 お嬢さんの場合、単細胞のうちのウサギや我儘な身内と違って難しそうだ。
「・・・・・判り辛い?」
 首筋に口付けるブラッドのシャツのボタンに、アリスは手を伸ばした。ざらついた、布の感触よりも、ブラッド自身のぬくもりが欲しい。着ているものを脱いでしまうには寒いから、ただ、体温を感じたい。
「判り易くはないな」
 後頭部に回されたままの手が、髪を掻きわけて、頭皮を撫でる。思い出したように、首筋を撫で、顎の下で遊んでいた唇が、徐々に肌を降りて行った。
 くつろげられた、ブラッドのシャツ。手を伸ばし、アリスは彼の胸元に触れる。手を伸べ、シャツの下から彼に抱きついた。
「首にしなさい」
 その位置で抱きつかれると、触り辛いから。
 耳元で吹きこまれ、アリスは首を振った。
「嫌」
「・・・・・・・・・・やれやれ、こまったお嬢さんだ」
 くすくすと笑いながら、ブラッドはアリスの脇から手を伸べると背中を支えて彼女を抱き込んだ。もう片方の手を、半身に伸ばして、震える彼女の足の付け根に指を埋める。
「んっ」
 湿った音が、風に揺れる木の葉の音に混じり、中央の花芽を掠める刺激に、アリスの喉から甘い声が漏れる。

 温い空気の中に、二つの体温がじわじわと交わっていく。

「あっ・・・・・んんっ」
 押し込まれた指先が、アリスの身体を拓いていき、ひっかいたり押し付けたり、掻きまわされて足に力が入る。
「見えないのが残念だが・・・・・随分と濡れているな?」
 笑い交じりに言われた台詞に、アリスは耳まで赤くなると、ブラッドの肩に歯を立てた。
「・・・・・・・・・・良い反応だ」
 く、と指を折られて、アリスの喉から嬌声が上がる。
「ブラッド・・・・・」
 はふ、と吐息が漏れ、身体を震わせる女に、男の背筋がぞくりとする。木を支柱にして、腕で彼女を支えている無理な体勢。それでも、構うものかと、ブラッドは口元に笑みを浮かべた。
「たまには・・・・・こういうのも悪くないな・・・・・」
「あ」
「部屋まで持ちそうにないし・・・・・な?」
 触れる、熱い感触。ぞくり、とアリスの背にも甘美な衝撃が走り、潤んだ眼差しで彼女は恋人を見上げた。

 恋人。
 愛人。

 なんでもいい。

 アリスが唯一、縋りたい人。

(気ままで我儘で・・・・・強引なのに繊細で・・・・・そして・・・・・)

 無慈悲で冷酷。

「あっ」
 ず、と己の身体に打ちこまれる楔の感触に、アリスの背中が震える。しなるそれを、ブラッドの腕が支えた。
 中心まで貫かれて、足の先まで震える。
「ああっ」
 吐息にも似た甘い声が漏れ、しがみつく彼女の手に力がこもった。余裕のない吐息がアリスの耳元を掠め、それに触発されて、全身で、男を捉えようとする彼女の仕草に、ブラッドの唇に笑みが広がった。
「そんなにするな」
 直ぐに終わってしまっては、面白くないだろう?
「貴方がっ・・・・・悪・・・・・あっあっ」
 緩やかに腰が動き、こみ上げてくる熱が、全身を侵していく。
「あっ・・・・・あんっ」
 落ちていくような感触を思い出し、ぎり、と彼の背中に爪を立ててしまう。と、微かに眉を寄せたブラッドが喉で哂った。
「ああ、すまない・・・・・こういう方がお好みだったかな?」
「っっ!?んんんっ」
 器用に腰を回されて、アリスがいやいやするように首を振った。
「ちがっ」
「じゃあ?」
「あああっ」

 頭を大木に付け、背中を男が支えている。逃げ場がない、自分で動けない状況で、アリスは与えられる快楽に溺れていく。

(こんな風にされて・・・・・)
 身体の隅から隅まで溶かされていく。
(縋りついて・・・・・)
 名前を呼ばれて、汗ばんだ額を、ブラッドの首筋に押し当てていたアリスがわずかに身じろぎした。
「ブラ」
 名前を呼ぶ吐息は、同じ熱に浮いた男の口付けに飲み込まれた。

 眩暈がする。

 身体全身を侵していく甘い衝撃。喉から洩れる、つややかな嬌声。

(それなのに、私はどうして迷うの・・・・・?)


「集中してくれないか、アリス」
「っ!?」

 ぐ、と一際強く貫かれて、アリスの解け出した意識が、ブラッドに引き寄せられる。
 何度も何度も、請うように、与えられる快楽。

「あんまり私を刺激しないでくれ」
 悲鳴のような声。折れるほど強く女を抱きしめて、ブラッドは締め付けるアリスを堪能し、哂う。
「じゃないと」

 どうにかしてしまいそうだ。

「あっっ・・・・・んんっ―――」
 震える声が、秋の空に溶けていく。

 そうね。

 白く凝って、霞む意識。その中で、ブラッドから与えられる口付けに応えながら、アリスはしっかりと男に身を寄せた。

(貴方は悪人だもの・・・・・)

 勝手気まま。気分屋。なのに努力家で、それを見せようとしない。悪い振りをするのを好み、実際冷徹で酷薄。
 だるそうにしてるのに、繊細で、懐が大きくて。

 どこまでも、アリスを甘やかす、甘美で卑怯で傲慢な人。

「アリス」
「・・・・・・・・・・ブラッド」

 この人となら、私はきっと。



 許されるような気になれるのではないだろうかと、抱きとめる腕の中で、彼女は目を閉じた。







「ねえ?」
「なんだ」
 まだ頬が熱い。そのまま屋敷の、ブラッドの部屋に戻って読みかけだった本を所在なさげにめくっていたアリスは、隣に腰を下ろす男を見ないまま、そっと尋ねた。
「どうして・・・・・」
 あんなに面倒な場所まで助けに来たの?

(・・・・・・・・・・って、訊くことじゃないか)

 くらくらする。ブラッドの上着を着て事に及んだせいだろうか。いつも以上に恋しい人の体温が身近に欲しく思われる。
 隣に座っているだけじゃ物足りない、寒さを感じる。

 足を組んで、本を読んでいたブラッドが、そっと身を寄せるアリスに眉を上げた。
「アリス?」
「うん?」
 そのまま言葉を切って黙り込み、ただブラッドに寄り添うアリスに、男は怪訝な顔をした。潤んだ瞳。熱に浮いた碧のそれに、先ほどしたばかりなのに、身体に熱が溜まるのを感じる。
 それと同時に。
「寒いわ・・・・・」
 ほう、と艶めいた溜息をこぼして、身を寄せてくるアリスに、ブラッドは数度瞬きをすると、がばりと彼女に覆いかぶさった。
「あっ」

 ふわふわした感覚に、酔っ払っているのだろうかと、アリスは目を閉じた。そのまま口づけられるのだろうか、とぼうっと考えていると、こつん、と額が触れた。

「?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 うっすら目を開ける彼女の目元は赤く、瞳は潤んでいる。指先まで熱い女を、ブラッドは問答無用で抱き上げた。

「・・・・・・・・・・・・・・・悪かった」
「え?」
 じんわりと、背中に嫌な汗を掻きながら、ブラッドは掠れた声で唐突に謝罪する。アリスがきょとんとするが、些か反応が鈍い。
 ベッドに降ろされ、手を伸べる彼女の両腕を毛布と上掛けの中に押し込み、ブラッドははーっと深い溜息をついた。
「ちょっと待っていなさい。医者を呼んでくるから」
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
「いくら小春日和とはいえ、やはり秋に外で及ぶのは考えものだったか・・・・・」
「??」
「まあ・・・・・一度は何でもなかったからと油断していたな・・・・・楽しいことは楽しかったが・・・・・」
 くすりと笑い、ブラッドはそっとベッドに腰を下ろすと、ふわりと柔らかな口づけを落とした。
「看病は引き受けた」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 おとなしく寝ていなさい。

 ぽんぽん、と上掛けの上から彼女の身体を叩き、ブラッドは立ち上がると医者を呼びに行く。

(寒い・・・・・)
 ぼうっとした頭のまま、アリスは身じろぎする。
(寒いわ・・・・・)
 上掛けと毛布を頭からかぶると、ふわりとブラッドの香りがして、温かな空気が己を包み込む。それでも、寒さが緩和しない気がして、アリスは拗ねたように目を閉じた。

「早く・・・・・戻ってきて・・・・・」




 その言葉通り、さっさと戻ってきたブラッドを、それからアリスは3時間帯近く離さなかった。

 そして、風邪をひいたアリスは、すっかり治ったあと、風邪の理由を問われやしないかと、しばらく平穏な毎日とはかけ離れた思いをするのだった。

















 18指定にするまでもない温さでスイマセン><
 会話が微妙に電波なのも・・・・・(平謝り)