その世界でしか
存在できない余所者






「・・・・・・・・・・・・・・・」
 起き上がり、絨毯の上に座りこんだままのアリスは呆けたような視線を天井に送っていた。
 色んな事が一度に起きすぎて混乱している。
「エリオット」
 それはこの場に居た全ての人間に当てはまるらしく、沈黙を破った主の声に、ようやく時間が動き始めた。
「あ、ブラッド・・・・・あの」
 慌てて彼に向き直ったウサギさんは、次の瞬間、彼のステッキで思いっきり腹部を殴打されて吹っ飛んだ。
「!?」

 唐突に響いたモノの崩れる派手な音。それに、アリスが我に返り、悲鳴を上げるより先に、彼女の小柄な体を覆っていたコートが取っ払われる。
「!?」
 別の意味でアリスが悲鳴を上げる、まさにその瞬間、ブラッドは己が着ていたジャケットを脱ぐとアリスの身体に掛けて上からぎゅうっと抱き締めた。
「っ」

 苦しい。

 きつくきつく抱きしめられて、アリスは目を白黒させた。

「・・・・・・・・・・・・・・・お前達」
 ブラッドの香りに、嫌でも包まれているアリスの身体に、男の絶対零度よりもまだ低い低音が響いた。
「もし・・・・・もし、お嬢さんの身体を一目でも見たと言うのなら・・・・・その目をえぐりだしてここに差し出せ」
 ひきいん、と彼の部屋の空気が凍りつく。抱きしめられたままのアリスも、血が冷えるのを感じた。
「ああ・・・・・脳に焼き付いているかもしれないなぁ・・・・・ではその頭蓋の中身、全てを今ここに差し出せ」
「ベルガモット!!!」

 思わず声を上げれば、アリスを閉じ込めたままの男は更に声を荒げた。

「ではこの腹立ちをどうしろと!?大体なんだこの、汚いコートはっ!!!!こんなもの、今すぐ焼却処分しろ!!!エリオットはこれから三百時間帯はにんじん禁止だ!!!」
「ひ、ひでぇよ、ブラッド!」
 それに、腹部強打からいくらか回復したエリオットがよろけながら立ち上がり、哀しそうな声で反論する。
「煩い」
 それを一括し、男は座った眼差しをエリオットに送った。

「お前はっ・・・・・あろうことは素肌のお嬢さんに、自分のコートを掛けたのだぞ!?これが・・・・・どういうことかお前は判ってるのか?」
 地を這う様な声で低く低く罵倒され、威圧感全開に睨まれる。ひいいっとエリオットが後ずさった。
 どす黒いオーラが見える。
「だ、だって・・・・・ああ、あのままアリスの真っ裸を他の連中に見せるわけには」
「当たり前だ!!!!!だが、お嬢さんの素肌に触れて良いのは私だけだっ!!無機物でも許しがたい!!!」
「んな、無茶苦茶な」
「大体アリス!!!君があんな無茶な事をするからだぞ!?」

 唖然と会話を聞いていたアリスは、自分に向いた矛先にぎょっとする。

「私だって君のその・・・・・綺麗な肌を全て見た事などないと言うのに・・・・・あろうことか・・・・・他の連中にまで・・・・・触らせようだなんて・・・・・っ」

 じわりじわりと男の身体から負のオーラが立ち上る。青ざめたエリオットが、大急ぎでコートを拾い「と、とと、とにかく全部終わったんなら、俺たちもほら、パーティーの準備とか色々あるからさ!」とブラッドの部屋から逃げ出しに掛った。

「その前にそのコートを処分して、灰を持ってこい!!!」
「えええええ!?」
「い い な っ!?」

 滅多に見れないブラッドの、底冷えしそうな怒りに黒服もメイドもエリオットもがくがくと首を振って背筋をただす。

「それから・・・・・さっき見たお嬢さんの肌は・・・・・全部忘れろ」
 もし、夢にでも見ようものなら・・・・・

 ひいいいい、と全員が息を吸い、大急ぎで部屋から出ていく。その様子を一通り見詰めていたアリスは、おもむろに抱きあげられて大いに慌てた。

「ちょ!?」
「なんであんな真似をしたんだ、アリス!」

 ぼふん、とブラッドのベッドに落とされて、彼の上着を羽織ったままだったアリスは、大急ぎでシーツを被ろうとする。だが、手首を抑えられ、圧し掛かられてはそれも叶わない。
 今度こそ、彼の前に全裸を曝す羽目になり、アリスの頬が真っ赤になった。

「な・・・・・なんでって・・・・・あ、なただって、そうさせようと」
「メイドに別室で服の中を探させるだけだったんだ!それをっ」

 思い出すとまた腹が立つ。

 まさかのアリスの行動に、一番肝を冷やしたのはブラッドだし、一番我慢を強いられたのもブラッドだった。
 あの場でマシンガンを乱射しなかったのを褒めてもらいたいくらいだ。

 碧の瞳が、アリスの翡翠を覗き込んでいる。
 そっと指先が、アリスの頬に触れて、びくんと彼女の身体が震えた。

「アリス・・・・・」
 甘い声が名前を呼び、彼女はじわりと胸の奥が熱くなるのを感じた。
「・・・・・・・・・・・・・・・酷いわ」

 ぽつりと漏れたのは、ブラッドを非難する台詞だった。言ってしまった瞬間、それは後から後から零れてくる。

「酷い・・・・・」
「・・・・・済まなかった」
 ぼろっとアリスの目尻から、大粒の涙が零れ、ブラッドは困ったように眉を寄せると彼女の目許に唇を寄せた。
「だが、こうするしか方法が無かったんだよ、アリス」
「そんなっ・・・・・」

 ひくっと嗚咽が漏れ、アリスは色んな感情が溢れて止まらなくなる。

 裏切られたとそう思った。
 何もかも失くしてしまうのだと。
 怖かった。
 辛かった。

 愛した人が、また別の人を愛するのかと、目の前が暗くなるほどの絶望を味わったのだ。

「君か向こうのアリス・・・・・そのどちらかがこの世界に一つしかない紅茶を持っているのは判っていた」
 だから攫ってきたのだと、ブラッドはアリスにキスをしながら話す。
「けれど・・・・・付き合ううちに気が変わったんだよ」

 紅茶だけ奪ったら殺してしまおう。

 そう思っていたのに。

「君が余りにも可愛らしくて・・・・・」
 そっとブラッドが手袋の先端を噛んで手からそれを引き抜く。見上げるアリスの髪を撫で、男は柔らかく口付けた。
 乾いた掌が、アリスの肌を弄る。
「気付いたら、君が欲しくて欲しくて堪らなくなっていた」

 だが、知れば知るほど、紅茶を持っているのがアリスだと確信して行った。
 理由は、オリジナル。

「このゲームに関われるのは、ホンモノのアリスだ」
 アリスが自分のポケットに、自分の世界から持ち込んだ紅茶が入っている事に気付き、それがこの世界で唯一しかない物だと判ってしまった時、先ほどの様に元の世界に連れて行かれてしまう。
 だがブラッドはアリスを失いたくなかったのだ。

「まって・・・・・じゃあ・・・・・」
 キスを繰り返す男の肩を押して拒み、アリスは青ざめた顔でブラッドを見上げる。
「そうだよ。君はもう、オリジナルのアリスじゃない」
 ゆっくりと告げられたそれに、アリスは震えた。だが、ブラッドはその彼女を抱きしめて「別に支障はないさ」と笑いながら言う。
「何がっ!」

 自分が自分じゃないなんて。
 向こうのアリスの妄想の産物になってしまったなんて。

 ショックを隠しきれないアリスに、ブラッドはゆっくりと、愛しさを込めて口付ける。

「君はこの世界から出られない。ただそれだけだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「この世界でだけ、君は実態を保てると言う意味さ」
 ふふ、と笑い、ブラッドはゆっくりとアリスの柔らかな膨らみに手を伸ばす。
「んっ」

 きゅむ、と揉まれて彼女の身体が震える。やわやわと感触を楽しみ、徐々に主張を始める先端を指先で掠めるようにして撫でる。

「んぁ」
「もう一人のアリスが言っていただろう?」
 この世界だから実態を保つ事が出来たのだと。
「・・・・・・・・・・じゃあ」
「そうだよ?君は・・・・・もう二度と帰れない」

 そんな。

 震える声で抗議をしようとするも、それはブラッドの口付の前に吸い取られていく。
 せめて、と拒むように逃げる舌を捕まえて、吸い上げる。
 呻くように艶めいた声を上げる彼女の、その口内を蹂躙して深く深く口付ける。飲みきれなかった唾液が口の端から零れ、傷ついた個所を舌でつつけば、アリスの眉が寄った。

「・・・・・怖い思いをさせたね」
「・・・・・・・・・・っ」

 じわりと彼女の瞳に涙が滲む。

 怖かった。
 信じていた男性に、あんなふうな仕打ちを受けて、怖がらない女がいたらよっぽどだろう。

 唇を引き結び、力一杯睨みつけるアリスの頬を、ブラッドは宥めるように撫でた。

「私だって辛かった」
「楽しそうだったじゃない」
「ま、そういうプレイだと思えば話は別だがな」
「!!」

 いやいやするアリスが可愛くて仕方ない。酷い、馬鹿、最低と罵る彼女の髪を撫でて宥め、「悪かった」を繰り返す。
「悪いなんてものじゃないわ!本当に・・・・・私っ・・・・・」
「だが、君に真相を話すわけにはいかなかったんだ」
 そうしたら、君を永遠に失うリスクが高くなったからな。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「君を失いたくなかった。・・・・・どうしても」
 その眼差しはずるい。逸らす事も、逃れることも叶わない。
「んっ」
 そっと首筋に顔を埋めて、口付けを繰り返す。胸元で戯れていた手が、徐々に肌を滑り、アリスの脚の付け根を撫でた。

「あ」
「・・・・・怪我したのか?」
 ブラッドの掌が、そおっとアリスの膝を包み込み、痛みに一瞬顔を歪めたアリスが「あなた」としゃくりあげた。
「私をあんな場所に・・・・・」
「向こうのアリスを騙す為だ」
 図書室に囲っているなんて、ばらしたくなかったしな。
「かこっ」

 かあっと頬を染めるアリスに「そうだよ?」とブラッドは面白そうに目を細めた。

「あの時間は・・・・・本当に楽しかった・・・・・」
 ちう、と目許にキスをされ、膝から逸れた手が、アリスの太ももの裏を撫でる。やがて、手を引っ掛けて開かれ、一糸まとわぬアリスは、必然的に身体を開かされた。

「やっ」
 彼の指が、くちゅっと秘裂をなぞり、アリスが身悶える。かあっと下肢が熱くなる。
「まっ」
「待たない」
「っ」

 間髪いれずに言われた台詞に、アリスの頬が真っ赤になった。細く長い指が、アリスの身体の奥を弄り、花芽を擦る。

「んっ」
 甘いしびれに喉を逸らし、唇を噛んで耐えるアリスに、ブラッドは目を細めた。
「気持ち良い?」
「ベルガモット!」

 非難するようにその名を呼べば、男は少し目を見開くと口の端に笑みを敷いた。

「違うな、アリス」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「情事の最中に、違う名を呼ばれるのは面白くない」
 名前を呼んでごらん?

 甘く耳元で囁かれて、アリスの思考が真っ白に塗りつぶされていく。秘所を撫でる指先が、徐々に濡れて、ぐちゅぐちゅと音を立て始めた。

「あっあっ・・・・・ブ・・・・・ラッド」
 鼻に掛った、甘えるような声。そんな声で名を呼ばれて、勃たなかったら男じゃない。
「アリス」
 蕩けるように甘く応えて、彼の指が、ゆっくりゆっくり彼女の奥へと侵入して行く。
「はっ・・・・・ぁ・・・・・ぅ」
 びくん、と身体を強張らせる彼女の中は、熱く溶けている。ゆっくりゆっくりあちこちを撫で擦り、ブラッドは細かく震える彼女の頬や目蓋、唇にキスを落とし、「大丈夫だから、力を抜いて」と甘く甘く繰り返した。
「あっ・・・・・だって・・・・・ブラッド」
「痛い?」
「い・・・・・たくは・・・・・」
 ない、けど・・・・・

 こわい、とぽつりと零す彼女に笑いが止まらない。可愛すぎてどうにかなりそうだ。

「君をこれ以上傷つけるような真似はしないから、安心しなさい」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 思わず睨みつけるアリスに、ブラッドは吹き出した。かあっとアリスの頬が染まり、緊張から硬いアリスの身体を緩やかに溶かしていく。
 舌先が、胸の先端に触れ、濡れた音がする。

「あっ・・・・・やあ」
 びくん、と震える体。彼女の中心を探っていた指先が、敏感な部分を掠め、ぞくん、と彼女の肌が粟立った。

「ひゃあんっ」
 甲高い声で啼き、震える身体。
 濡れた音を立て、口から胸の尖りを離した男が、「ここか?」とくっと同じ場所を撫でた。

「きゃん」

 悲鳴のような声。ぞくっと腰がざわめく。同じ場所を責めたて、濡れた音が立つ。ゆっくりと指を増やせば、つきん、と痛みが走り、アリスの身体が強張った。

「やっ・・・・・い・・・・・」
「少し・・・・・我慢してくれ」

 抵抗は少ない。ぎゅっと締めつけるのを感じながら、徐々に徐々に馴らしていく。力の入っていた下肢から、やがて力が抜け、じゅくじゅくと愛液が零れてくる。

「はっ・・・・・あっあ・・・・・ああん」
 声に甘みが混じり、広げるように促した脚が、素直に開く。太腿に手を添えて持ち上げ、指で内部を擦りながら、男は花芽に舌を這わせた。

「やあっ・・・・・あああ・・・・・あんっ」

 腰が揺らめき、声が一層高くなる。シーツを握りしめて身悶えるアリスを、ブラッドは執拗に追い詰め、逸らした喉に、揺れる柔らかな膨らみに唇を這わせる。

「ああああっ」
 びくん、と脚を開いたまま、身体を強張らせるアリスに、ブラッドはふっと熱すぎる吐息を漏らして指先を抜いた。
 掌まで濡れたそれを咥えて、涙目で震えるアリスに口付ける。

「君の全部を貰って行くよ」
「っ・・・・・」
 ぞわ、と腰から脳天に向けて甘いしびれが走る。震える彼女の髪を梳き「君はここでしか生きられない」と憐れむように囁いた。
「ふ・・・・・」
「悪いな・・・・・アリス」
 だが、マフィアのボスに見染められたのだと、諦めてくれ。

 反論は許さない。
 唇は、ブラッドの熱すぎる唇と舌に封じられ、きつく抱きこまれる。
 開かされ、立たされた脚の奥。さらけ出した秘所の、濡れた入口に、熱く硬いものが触れて、彼女の背が浮いた。
「直ぐに気持ち良くなる」
 唇を堪能し、緩やかに身体を起こした男は、意地悪く笑い、彼女の頬を撫でた。
 ふるっと震える彼女の脚を抱え、ブラッドはゆっくりと己の腰を進めた。

「ひゃっ」
 息を止めようとするアリスに、「いいから、声を出しなさい」と緩やかに促して、そこここにキスをする。太腿を撫で、先端を咥えただけでも力の入るアリスを安心させようと花芽を弄る。

「痛くはしない。だから、声を上げて」
「でもっ・・・・・」
「可愛いよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・っ」
「可愛い」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「可愛すぎて、おかしくなりそうだ」

 君が抱きたくて抱きたくて、仕方なかったと、言っただろう?

 ふわりと微笑まれ、切なそうなブラッドの表情に、アリスの身体が震えた。涙がせり上がり、それと同じくらい切なくて愛しくなる。
 愛しくて愛しくて。

「私も・・・・・」
 しゃくりあげるアリスが、しっかりとブラッドの首に抱きつく。
「私・・・・・も・・・・・」

 おかしくなりそう。

 濡れた吐息に囁かれ、ブラッドは猛った自分自身をゆっくりゆっくり彼女の中心に向かって押し込めて行った。


「ひゃあっ・・・・・あっ・・・・・あぅ」

 押し広げられ、抵抗する。でも、受け入れたくて、力を抜こうと必死になる。声を上げて、と促され、耳を覆いたくなるほど甘い声で啼けば、ずくん、と身体の中心が甘く痺れて濡れてく。
 自身を濡らす蜜に、ふっと吐息をついて、ブラッドは全部を埋めると、浅く呼吸を繰り返すアリスの額に触れた。
 汗に濡れて張り付いた前髪を払ってやる。
「大丈夫か?」
「だい・・・・・じょ・・・・・ぶ」

 痛くはない。痛くはないが・・・・・圧迫されて苦しい。それでも熱さに身悶えそうになる。
 怖いと思う反面、もっとと強請りたくなる。
 上気し、火照った彼女の頬と目許をゆっくり撫でて、ブラッドは耳たぶを噛んだ。

「やぁ」
 中が蠢き、ブラッドを締め上げる。
 労りも、優しさも、愛しさも全部放り投げて、ただ腰を打ちつけて乱暴にしてしまおうかと、脳裏を一瞬、そんな考えが過るが、ブラッドはここまで我慢したのだから、と稀有すぎる判断を下した。

「・・・・・動くぞ?」
 そっと囁かれて、アリスは身体から力を抜こうとする。だが、それも緩やかに内部を擦りあげられて、徐々に快楽に蝕まれていく過程で忘れてしまう。
 きつく痛かった感触が、徐々に徐々に解けて甘くなっていく。突き上げられる度に、甘やかな疼きが全身を駆け抜けていく。声を殺すのも忘れ、羞恥も忘れ、ただひたすら夢中になってブラッドを追い求める。
「あっあっ・・・・・ああんんっぅ」
 ひくんひくんと収縮する中に合わせて、腰を打ちつけながら、感じて潤む彼女の表情に魅入られる。
「アリス」
「ひゃぅ」
 背中にしがみ付く彼女の手に力が籠り、誰かの痕に、アリスのひっかき傷が増える。ちりっと「悪い事」をしているような気がするが、それすらも、ブラッドを煽るだけで。
「アリス」
 ひたすらに可愛くて名前を呼べば、彼女は縋る様な眼差しで男を見上げて、ひっきりなしに啼くから。

(このまま・・・・・)

 彼女を穢してしまおう。

「!?」

 穿ち方を変えられて、アリスが息を呑む。ちかん、と脳裏に光が閃き彼女の喘ぎ声がオクターブ跳ね上がった。

「やあっ・・・・・あっあっあ・・・・・あああっ・・・・・んうぅう」
 ふる、っと首を振る彼女を更に追い詰めて追い上げていく。持ち上げられた脚から汗が滴り、つま先が足掻くように宙を掻く。揺さぶられ、意識が持たない。
 艶めき濡れた唇が、ブラッドを呼び、応えるように口付ける。

 逃れられないものが、身体の奥底から突き上げてきて、アリスは衝撃に震える身体を持てあまして、悲鳴のような声を上げた。

 がくがくと震えるアリスの身体。極度の緊張から弛緩する度、喘ぐ彼女を抱きしめて、ブラッドは堪え切れず吐き出したものに濡れて溶ける感触に目を閉じた。

 これほどまでに、欲して、己の内にとどめようと願った存在など知らない。

「アリス」
 混濁する意識の中で、快楽の波を漂っていた彼女は、涙にぬれた瞳を上げてブラッドを見た。
 その彼の顔が、余りに優しかったので。

 アリスはただ、意識を手放す間際に、精一杯の気持ちを込めて「好きなの」と洩らすことしか出来なかった。







20101109