甘い甘い罠





(けど、確かにそうかもしれないわね・・・・・)
 長い長い螺旋階段を、下に下に降りて行く。ぐるぐるぐるぐる、回りながらアリスは、アプリコットとしてもアリスとしても中途半端な自分が、ベルガモットのお陰で成立しているような気がして、苦い思いを噛みしめた。
 今更自分がアリスだと名乗れない。
 アリスはすでにこの屋敷に居て、彼女は周りから愛されつつある。ここに戻る途中、彼女は沢山の使用人さんやメイドさんに囲まれて輝くような笑顔を振りまいていた。

 もうすでに、この屋敷の「お嬢さま」としての地位を確立していた。

 彼女が強請れば「世界に一つしかない茶葉」とやらはその手に転がり込んできそうな雰囲気だった。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
 アリスだって大事にされていないわけではない。訳ではないが・・・・・

「日蔭者って感じね」

 辿りついた先のドアを開いて、アリスはぽつりと漏らした。居場所が無い。もし、アプリコットのように例えどんな事があろうとも己の意志を貫ける力が有れば。
 アリスはブラッド=デュプレに直談判しに行けるだろうか。

 彼女の名を騙り、そこまでして貴方に会いたかったのだと。

 そういう嘘を付ければ。

「・・・・・・・・・・私には無理な話ね」
「何がかな?」
「!?」

 溜息を吐いて、部屋の奥、定番のソファに向かって歩いている最中、後ろから声を掛けられて、アリスは仰天して後ろを振り返った。

「ベルガモット!」
 思わず身を引くアリスに、面白がるように男の目が光る。いけない、と思った時には抱きすくめられていた。
「余り、溜息を零すな。心配になるだろう?」
 何が不安なのか、問い詰めたくなる。

 そっと耳元で囁かれて、アリスの身体がぞくりと震えた。
「べ、別に不安なんか・・・・・」
「そうか?」
 そっと放され、碧の瞳に覗きこまれる。目尻をこすられて、アリスは微かな痛みに顔をしかめた。
「泣いてないわ」
「泣きそうだ」
 同時に出た台詞に、アリスは唇を噛み、ベルガモットは微笑むと「今は、な」と付け加えた。

 そのまま腰を抱かれていざなわれ、ソファに腰を下ろす。腕の温かみに胸がぎゅっと痛くなって、アリスは「今は、泣いていない」と看破した彼の前で、泣きそうになるのを我慢する。
「・・・・・お茶でも飲むか」

 ひとりごとなのか、アリスに尋ねたのか。のろのろと顔をあげると、いつの間にかローテーブルの上には馴染みの茶器が並んでいる。

「今日は君が好きそうな茶葉を用意したんだ」
 フレーバーティーはそんなに好きじゃないんだが、これは君にあうんじゃないのかな?
 綺麗な手つきでお茶を淹れるベルガモット。その手先を見詰めながら、アリスは三度溜息を零した。
「・・・・・・・・・・泣いても良いぞ?」
「え?」
「溜めこんで、発散されないものというのは身体に悪い。そんな小さな身体に、何をそんなに溜めこむ必要がある」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 ことん、とティーポッドを置いて、ベルガモットの碧がアリスを捕えた。
「私には言えない事か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 どう反応していいのか分からず、アリスはぎゅっとスカートの上で手を握りしめた。彼から視線を逸らして俯いていると、「当てて見せようか?」とベルガモットが身を乗り出した。
 さりげなく、ソファの背もたれに彼の腕が回る。じわりじわりと囲いを狭められているのに気付かず、アリスはちらりと彼を見た。
「アリス」
「!?」
 どきん、と心臓が跳ねて、アリスは頬が熱くなるのを感じた。
「アリスの事で、君は悩んでいるんじゃないのかな?」
 続く台詞に、アリスは早駆する心臓をなんとかなだめようとした。
(び・・・・・びっくりした・・・・・)
 耳が熱い。これでは首まで赤くなってる筈だ。
 そんなアリスの予期せぬ反応に、ベルガモットが驚いて目を見張った。
「どうした?」
「い、いえ・・・・・」
 なんとか誤魔化そうと笑みを浮かべ、アリスは顔に集まった熱を逃がそうと必死になる。
(わ・・・・・私ったら・・・・・)

 ベルガモットに名前を呼ばれただけで、こんな反応なんて可笑しすぎる。

 慌てて淹れてくれたお茶を飲み、甘い香りに落ちつこうとする。
(そんなにあの夜の事がショックだったのかしら・・・・・)
 貧相な胸元を見られたのだと思うと、ちくりとその胸が痛んだ。いけないいけない、集中しなくちゃ。
 私はアプリコットなんだから、と己に言い聞かせて深呼吸を繰り返すアリスを、たっぷり見詰めた後、ベルガモットは面白そうに目を細めた。瞳の奥にきらりと光るものが有る。
「帽子屋が連れてきた女・・・・・彼女は今日庭に出ていただろう?」
「え、ええ」
「随分と、使用人連中にもてはやされていたな」
「そうね」

 知ってるのか、とアリスは感心したようにベルガモットを見上げた。彼はただ、ここに籠っているだけではないのだろう。

「彼女の所為で、君の立場が危うくなっている・・・・・違うか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 色んな意味で、当たっている。当たっているだけに、アリスは目を伏せて己の握りしめた拳を見詰めた。
「どうやら彼女は、これから帽子屋に色んなものを貢がせる気らしいぞ?」
 楽しそうに言われて、アリスはなんだか居たたまれない気持ちになった。
「貢がせるって・・・・・?」
 恐る恐る尋ねると、ベルガモットは愉快そうに肩をゆすって笑っていた。
「ドレスから宝石から調度品から・・・・・ありとあらゆるものを買ってもらうんだそうだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 頭痛がする。
 思わず頭を抱えたくなる衝動を堪えて、アリスは「凄いわね」とだけ答えておいた。

(本当に・・・・・それ、私の理想の女性?)
 こうだったらいい、ああだったらいい・・・・・そんな願望は確かにあったし、そういう女性になってみたいと思う事もあった。だが、実際に自分の理想像だと豪語する存在に、そんな事をされると一気に居たたまれない気分になるのだ。
 ベルガモットも呆れているのかと思いきや、顔を上げたアリスが見たのは、楽しそうに笑う男で、彼女は拍子抜けした。

「男の人って、そういう女性が好きなの?」
「何の意志表示もされないよりは、な」
 くすり、と小さく笑い、ベルガモットは紅茶のカップを持ち上げる。口を付けながら、流し目に見られて、アリスはまた、心臓が跳ねあがるのを感じた。
「我儘な女性が良い?」
「可愛いじゃないか。何でも買ってと強請るなんて。それで男の愛情を図ってるんだろう?」
 そんな可愛い事をされると何でも買ってやりたくなる。
「ふーん・・・・・」
「・・・・・不満そうだな?」
 きしっと音を立ててソファが軋む。ローテーブルの己のカップを見詰めていたアリスははっと顔を上げた。
 自分を覗き込む、ベルガモットの顔が有る。
「・・・・・今日の紅茶は、甘くないかな?」
「・・・・・そうね、甘い香りがするわ」
「何の香りだと思う?」
 内緒話をするように囁かれる。彼の吐息が甘い。こくん、と喉を鳴らすアリスは、吐息が触れるほど間近にあるベルガモットから目を逸らす事が出来ない。
「・・・・・・・・・・ピーチティーか、何かかしら?」
「正確にはアプリコットだ」
「っ」

 唇が塞がれ、甘い香りがなだれ込んでくる。さりげなくカップをテーブルに戻し、ベルガモットが緩やかにアリスを抱きしめる。
 とさ、と軽い音を立てて、アリスはソファに押し倒された。
 抵抗しなくては、と思うが、唇を塞がれ、甘く柔らかく口付けを繰り返され力が入らない。
 かろうじて彼の胸元に置かれた手に力を込めれば、それは拒絶には頼りなく、むしろ縋る様な仕草に見えた。
「君はそうやって、ブラッド=デュプレに強請ったんじゃないのか?」
 ちゅっと濡れた音を立てて唇を離し、ベルガモットが笑う。かあっと頬を染めて、アリスは視線を逸らした。

 ベルガモットはどこまで知っているのだろう。

 アプリコットが、何を望んでブラッド=デュプレに抱かれたのか。どんな我儘を、彼に言ったのか。

(2のエリオットが調べてようやく知ったんだから、知らない・・・・・のよね?)
 でもエリオットは武闘派だ。そういうボスの情事について詳しいわけじゃない気がする。
 いや、公私ともに親しいから2なのだろうか。

(どうしよう・・・・・)

 アプリコットとしてこの屋敷に居続けるのなら、生前の彼女を演出しなくてはならない。だが、アリスにはアリスのような真似は出来ない。ましてや、それを帽子屋にしかけるなんて無謀だ。
 アプリコットにはなれない。
 でも、だからといってその立場を捨てるわけにもいかない。

「・・・・・・・・・・君が強請ってくれるのなら、何だって奪い取って与えると言うのに」
「え?」
 掠れた声が耳元でして、混乱していたアリスは熱い頬のままベルガモットを見上げた。
 彼は、愛しいものを見詰めるような眼差しでアリスを見ている。碧の瞳には自分だけが映っている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 奇妙な優越感が浮かび上がり、アリスは心臓の鼓動に震えた。

 彼の眼には自分しか映っていない。他の誰も、そこには存在していない。

 たった一人、アリスだけを見詰めるベルガモット。

 それが今までに感じた事の無いほど甘美で、そして暖かくて、アリスは己の視界がぼやけるのを感じた。
 止める間もなく涙がこぼれる。ぎょっとしたように眼を見張るベルガモットに、アリスはいけないことをしたのかと硬直した。

「あ・・・・・」
 ごめんなさい、と慌てて呟き、ベルガモットのシャツを握っていた手を離してごしごしと目許を擦る。恥ずかしくて、アリスは身体を横にしようとした。
 その瞬間、ベルガモットに覆いかぶさるようにして抱きしめられて、アリスの体温が急上昇した。
 ぎゅうっときつく抱かれる。
「ベルガモット・・・・・」
 喉に引っ掛かる様な、掠れた声で名前を呼べば、「何故泣くんだ?」と低い声が耳朶を打った。
「それは・・・・・」
 なんでだろう。
 彼が自分だけを見ているのだと思ったら、堪らなく切なくなったのだ。そう言おうとして、ますます腕に力を込められる。
「あぅ」
 苦しくて、吐息を洩らせば、彼の唇が首筋を這った。
「あんっ」
 びくん、と身体が震える。背骨の一つ一つを確かめるように、ベルガモットの指先が辿って行き、アリスは彼の腕の中で震え続ける。
「君は本当にアプリコットなのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・っ」
 しゅる、と衣擦れの音がして、アリスの首筋にあったリボンが解かれる。先端を咥えて顔を上げたベルガモットが、じっと真っ直ぐにアリスを見下ろしていた。
「答えろ」
 君は、本当にブラッド=デュプレの妾なのか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 この人は知ってる?
 アプリコットがどんな女性なのか。どんなふうに扱われたのか。そして、どんな痴態を演じさせられて、辱められたのか。
 知ってるの?

 ぎゅっと唇を噛みしめるアリスを見下ろした後、ベルガモットは溜息を吐いた。

「はいともいいえとも答えないんだな」
「っ」

 ぎくり、とアリスの身体が強張った。そうだ。ここに居るのなら、嘘でもアプリコットだと認めなくてはならなかったのではないか?
 彼女がアプリコットではないと言う事になれば、ベルガモットは上司に言わなくてはならない。
 ここは組織の本拠地で、素性の不確かなものを置いてはおけない。

 いきなり青ざめるアリスに、ベルガモットは眼を細めると「名無しのお嬢さん」とからかう様にアリスを呼んだ。

「もう少し、君は頭が良いのかと思ったよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
 彼の手が、アリスの髪をゆっくりと梳く。抱きしめたまま、彼女の耳を甘噛する。
「ふっ」
「ここは、何が何でもアプリコットだと言うべきだった」
 くすくすと笑われて、アリスは徐々に身体を侵していく熱と、恐怖を感じた。

 私は何か間違えた?

「何が何でも、自分はアプリコットで、帽子屋の女だから、こんな風な距離はいけないのだと、言うべきだった」
「・・・・・・・・・・っぁ」
 するっとベルガモットの右手が太ももを撫でる。徐々に彼女のスカートが捲りあげられていく。
「でなければ・・・・・そうだな、君は無防備すぎるんだよ」
「やっ」
 温かく、乾いた掌が、アリスの膝を撫でた。くすぐったいような甘い感触がぞくりと肌を粟立たせる。
「駄目だろ?アプリコット。こんな距離を許してしまっては」
 私みたいな悪い男に、嫁にいけない身体にされてしまうぞ?
「やあんっ」

 か細い悲鳴が上がり、ベルガモットの手が、アリスの膝裏を撫で持ち上げる。膝を立てられ、そこから徐々に内腿へと手が滑って行く。脚を開かされる。

「やっ・・・・・駄目っ」
 両手で彼の右手を止めようとするがそれは、彼の左手で阻止されてしまった。
 腕を使って、アリスの両手は頭の上に縫いとめられる。リボンが解かれ、胸元が緩む。覗く鎖骨には、五時間帯ほど前に付けられた、彼の痕が残っていた。重ねるように、そこに唇を寄せられて、アリスは眩暈がした。
 不埒な手は、アリスの脚の奥に伸び、ショーツの上から、柔らかな丘を撫でている。
「ふっ・・・・・んあっ・・・・・や」
 もとより圧し掛かられて、拘束されているのだから逃れる術がない。秘裂を人差し指がゆっくりと撫でて行き、アリスの内腿が震えた。
「やああっ」
 心臓が煩い。身体が熱い。羞恥で可笑しくなりそうだ。

「なあ」
 彼女の胸元を締め付ける下着を、歯で外そうとしていた男がふと顔を上げた。眼を閉じる彼女の、涙の滲んだ目尻に口付ける。
 生温かい感触に、びくん、と震えるアリスに、ベルガモットは優しく囁いた。
「これから私は、君の全てを奪おうかと思っているんだが・・・・・どうせなら、本当の名前で呼ばれたくないか?」
 うっすらと目を開けると、楽しそうに笑うベルガモットが見えた。
「いくらでも優しく呼んでやるぞ?」
 君がアプリコットじゃないのは、もう判った。
「な・・・・・んで」
 不安から、そう言えば、「抱けば判る」とベルガモットは笑みを浮かべて答えた。
「君は誰にも奪われていない・・・・・誰の侵入も許してないだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「アプリコットはブラッド=デュプレの愛人だ」
 彼が、自分の女を生娘のまま置いておくはずがない。
「わ・・・・・からないじゃない・・・・・」
 ひっく、と喉を鳴らしながら、この期に及んでもアリスは虚勢を張る。
「それに・・・・・わ、たし・・・・・処女じゃ・・・・・」
「ない?・・・・・本当に?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 抱けば判る。

 縫いとめられている両手を握り締めて、アリスは唇を噛んだ。
 どうしたらいいんだろう。
 アプリコットじゃない、私はアリスですとそう告げた時、ベルガモットはどうするのだろう。

 アリスを帽子屋のボスに突き出すのだろうか。それとも、蹂躙した後、あっさりと撃ち殺してしまうのだろうか。

(なんで私・・・・・)
 男性経験が無いんだろう。

 ぼろっと大粒の涙がこぼれ、アリスは堪え切れない。こんな風にして抱かれたいわけじゃない。でも、こんな風にされて嫌な気がしない。

 奪って欲しいけど、でも違う。
 何が違うのか判らない。
 でも違うのだ。

 こんなの違う。

 我慢できず、泣きだすアリスを、少し驚いたように見詰めていたベルガモットはふっと柔らかく微笑んだ。そのまま、彼女の涙に黙って唇を寄せる。

「嫌・・・・・」
 しゃくりあげ、掠れた声がようやく漏れた。
 打算も計算も無い、純粋な想い。

「やぁ・・・・・」

 子供のように首を振り、涙声で言われて、ベルガモットは彼女をさいなんでいた両手を解くと、乱れた服のままの彼女を優しく抱き締めて横になる。彼のシャツに、アリスの涙がいくつもいくつも吸い込まれていく。
 あやすようにその髪を撫でながら、ベルガモットは眼を閉じた。

「なあ、アプリコット。せめて君の名前を教えてくれないか」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫だよ?誰にも言わない。・・・・・帽子屋のボスにも言わない。エリオットにもだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「君がどうしてここに紛れ込んだのかも、聞かない。だから、私に話してくれないか?」
 そっと拘束が緩み、アリスの涙に濡れた視界に、優しく笑う男が映る。

「なあ・・・・・君は誰だ?」
 濡れた頬を両手で挟まれて、アリスは目蓋を落とした。しゃくりあげ、噛みしめていた唇を開く。

「私は・・・・・」
 私の名前は・・・・・

 囁かれた名前に、驚いたのも一瞬で。ベルガモットはそれを押し隠すと、そっと彼女の唇を塞いだ。

 何もかもうやむやにしてしまえと口付けを続ける。
 抱きしめて、あやし続ける。やがて、腕の中で重みが増して、泣きぬれた少女を閉じ込めると、ベルガモットはゆっくりと身体を起こした。

 ソファの上でくったりと倒れ込み、寝息を立てる女をしばらく眺める。

「・・・・・アリス・・・・・ね」
 呟き、何かを考えるように宙を睨み、男はふっと唇を歪めた。

 帽子屋屋敷に二人のアリス。

「なあ、アリス。君は少し私に気を許し過ぎだ」
 微かな声で、ベルガモットは呟くと、そっと彼女を見下ろし手を伸ばした。顔に掛る髪を払い、艶やかに笑う。

「そんなことまで言ってしまって、取り返しがつかなくなるとは思わなかったのか?」
 君は意地でも、自分はアプリコットだと、言うべきだったように私は思うぞ?

 くすくすと笑いながら、ベルガモットはアリスの額に口付ける。

「ましてやアリスだと正直に名乗るなんて・・・・・君は馬鹿なのかな?」
 ああでも、泣きながら拒絶する姿は最高に可愛かった。

 君は私を狂わせる。
 最高の暇つぶしで、最高のおもちゃだよ。

 彼女の形の良い唇に指を押し当てて、ベルガモットはにたりと笑う。

 欲するものはなんでも手に入れなくてはならない。
 それがこの少女の運命をことごとく狂わせるのだとしても。

「君を犯すのはまた後だ」
 くすりと笑って甘く柔らかに、トンデモナイ事を囁いて、ベルガモットは彼女を抱き上げ、部屋へと歩いて行った。







20101101