ケース4 昭吾君
実際の運動機能訓練の結果を報告するわけですが、専門用語が登場します。一部を「☆」で簡単に説明いたします。
☆ 応用歩行:後ろ歩き(バック)、横歩き(蟹歩き)、スキップ、ジャンプなどを指します。
◎ 我が子の発達経過
2005年02月のある日に、妊娠23週5日の突然の原因不明の出血によって、私たち長男昭吾は、帝王切開の734gで産まれてきました。NICUに5ヶ月半入っていました。
生後10日目に、それまで何もなかったのに無気肺がわかり、NICUを退院するまで時々、肺洗浄を受けていました。人工呼吸器は2ヶ月程つけていました。
保育器には、4ヶ月ほど入っていました。
5ヶ月ほどで退院し、この時に難聴とわかりました。難聴への治療手だてはなく、様子を見守るだけでした。
気管支炎で入院したときなどには、呼吸器リハビリを受けました。それ以外では、自宅で痰を出すマッサージをしたくらいです。
運動機能の発達も遅れていましたが、首がすわったのは8ヶ月頃で、寝返りは12ヶ月ころでした。
1歳3ヶ月から市の児童福祉センターでボイタ法の指導を受けました。
肘這いを始めたのが1歳6ヶ月で、机などにつかまらせると1歳11ヶ月で立っていました。自分で床に座るようになったのは、2歳6ヶ月より少し前で、座れるようになると間もなく四つ這いを行うようになりました。
私と母(昭吾の祖母)が、昭吾の片手をそれぞれ持つことによって、昭吾が歩いていたので、いずれ昭吾は独歩すると思いこんでいました。しかし昭吾が独歩する様子はなく月日が過ぎていきました。そんなある日、1年年上のお友だちが、知らなかった訓練によって松葉杖歩行が可能となりそれを見ることができたのです。年上のお友だちの運動機能の変化に誘惑されて、昭吾も変わるのかも知れないとの期待で、お友だちが受けていたLS-CC松葉杖訓練法に期待をかけてみようと思ったのです。
∞ 訓練指導に当たる者から見た昭吾君の変化
お母さんに右手をつながれ、お祖母さんに左手をつながれて、いかにも一人で歩いているように現れた昭吾君を見て、がっかりするという感じよりも、憐れというのか悲しい思いをしました。
5歳3ヶ月の昭吾君の身体の硬さを診るために、全身の関節の動きを診て、その後に動きがどうなのかを診ました。
床に座ることも可能で、四つ這いもうまく、机につかまり立ち上がりそのまま机につかまって伝い歩きができるのです。しかし、一人で床から立ち上がることはできず、立位姿勢では後ろに重心があり、立ってはいられないのです。両手を前からつないで介助すると、つかまった手に引かれるようにして歩くのです。手が離れたとすれば、後ろに倒れることは間違いなさそうなのです。まるで水上スキーのようなのです。
足関節の動きに抵抗があるが、正しい使い方がなされなかったためと考えられました。
訓練の内容として、全身のストレッチ、床からの立ち上がり、松葉杖歩行練習としました。
初めての訓練で、松葉杖歩行で最初は進度1でしたが、徐々に進度2となることがありました。
・ 訓練を開始して2ヶ月後:松葉杖歩行で、たすき紐の一部を持ってあげれば、松葉杖を操作して一人で歩くようになりました。松葉進度4。
歩行器を貸し出し、歩行器歩行も併用して練習することとする。
・ 訓練を開始して2ヶ月2週間後:一人で床から立ち上がり、数歩独歩を行う。
階段昇降を訓練内容に加える。
・ 訓練を開始して6ヶ月後:部屋の中で床から立ち上がり、ゆっくりと数メートルの独歩を行う。広い場所に出ると独歩のスピードをコントロールできないようで、歩行距離も伸びない。
・ 訓練を開始して9ヶ月後:独歩の能力が上がっていて、数十メートル歩くことができるようになる。
・ 訓練を開始して11ヶ月後:聴覚障害特別支援学校に入学。
・ 訓練を開始して1年1ヶ月後:独歩、階段昇降の能力が上がっている。
・ 訓練を開始して1年6ヶ月後:トイレのサインができるようになったとのこと。
降りの階段がうまくできない。
・ 訓練を開始して1年8ヶ月後:昇りの階段はとてもうまくなっているが、降りるのはうまくいかない。
応用歩行を訓練内容に加える。
・ 訓練を開始して2年後:歩行能力が上がり体幹が安定するに従い、手話で自分のいいたいことが少しずつ伝えられるようになる。
椅子にも長時間座っていられるようになり、文字や絵が書けるようになる。
歩きが安定するに従い、関心は色々なことに広がる。
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・ 訓練を開始して2年2ヶ月後:独歩は屋内外共に自由となっている。
階段の昇りは、手すりがあれば自由に行う。降りはうまくいかない。
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・ 訓練を開始して3年後:ハビリテーションの一環となると考えて、レゴ作成と水泳を始める。
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・ 訓練を開始して4年3ヶ月後:独歩、階段昇降、後ろ歩きのそれぞれは、とてもうまくなったので訓練内容から除く。
・ 訓練を開始して5年後:伝えたいことが、色々な方法で表現できるようになったためなのか、泣いたりすることが減った。
毎日の予定を文字や絵で書いてあげれば、予測を立てて動けるようになる。
◎ 昭吾君のその後
♪ 保護者の感想
訓練を始めて4年頃から、建造物に興味を持ち、城巡りも楽しむようになりました。
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急な石階段は手すりがないと昇れませんが、坂道はお城のためなら、どんなに遠くても頑張って歩きます。
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訓練を始めて3年ころから、身体の緊張を取れたらと始めた水泳も、みるみるうちに上達し、背泳ぎで25m泳げるようになりました。自分の中で、努力したら上手くなれることがわかったのか、練習も嫌がらず頑張れるようになりました。今(訓練を始めて5年)、全国大会を目標に頑張っています。
レゴ作成は、どんどん興味を引き、今では自由に表現したい物が作れるようになりました。
この子にこんな可能性があったんだ!と驚くことばかりです。
自分で動けない頃は、全て親が先回りしてサポートをしてしまっていましたが、そのことで気持ちの面でも、自分の意思を伝えられなかったり、抑えたりしていたように思います。
身体が安定してからは、自分でできるための工夫を考えたサポートをと親の私も考えるようになってきました。これからは、社会で強く生きて行けるようなサポートを考えています。
成長した我が子と共に、街角や古城を巡り、このような喜びが訪れるとは、市の福祉センターに通っているときには思いもしませんでした。訓練の方法によって、運動機能が向上し、知的にも変化することを、障害をもつ全ての子どもの保護者に伝えてあげたい!
♪ 指導者の感想
昭吾君がお母さんとお祖母さんに手を引かれて歩く様子を見て、ハビリテーションに携わる医師や理学療法士が、何故に疑問を持たないのか私は疑問に感じます。
昭吾君だけでなく、このような歩行を行い続けていて8歳を過ぎた子どもに会ったこともあります。その子どもは、手を繋いで歩くことができても、独歩には至りませんでした。立位バランスや歩行バランスの誤学習をしてしまった子どもに、それを訂正して新たなバランス感覚を理解させるためには、6歳未満でなければならないのかも知れないと感じています。
多くの子どもがこのような誤学習によって、歩行の機会を奪われていることはとても残念なことで悲しいです。
製作 LS-CC松葉杖訓練法 湯澤廣美